貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
「……よし、これで50個目だ」
手から出した水弾ウォーターボールが用意されていた桶に落ちると、俺は近くに置いてあった紙に『正』を書き入れた。
魔力総量が生まれた時にすでに決まってるって?
誰だよそんな馬鹿な事言い出した奴。
とんだ大嘘つき野郎だな。
魔力総量は使えば使うほど増える。
これが俺の一年間魔術を使って出た結論だ。
一日ごとに出せるウォーターボールの数が増えるってわけではないが、この一年で結構な数を一日に出せるようになっている。
まあ、それでもまだまだ俺が求めてる様なものはできないが……
とりあえず魔力総量は確実に上がっている。
そして、この一年の間で俺には魔術師の先生が何人か来た。
恐らく、俺が将来魔術師になりたいとディエゴに言った後に、彼がその事をピレモン辺りに言ってくれたんだろう。
「どこまで俺を惚れさせてくれるんだ、ディエゴの兄貴」
やはり身近に頼れる存在がいるというのは安心する。
ディエゴとピレモンの粋な計らいにより、俺は魔術師の先生達から魔術本にはなかった魔法を教えて貰ったりする事ができた。
授業は独学よりも断然ためになったし、なにより魔術をしやすいように外に出る事を許可された。
もちろん外と行っても、出れるのは敷地内だけ。
だが今の小さい俺には、十分満足できる広さだ。
外に出ることができた俺は水の他に、炎、土、風の魔術の初級をクリアした。
ぶっちゃけ全部簡単だった。
炎だけは少し怖くて、怯えて情けない声を出してしまい、先生には笑われてしまったが……
まあ、そんなこんなで楽しく過ごしていた時、さらなる幸せの報告がきた。
「あうぅぅあ」
母さんが抱き上げている小さな子供。
「ほらヘルス、あなたの弟よ」
「お、俺の弟……ですか?」
そう、俺にとうとう弟ができたのだ。
名前はルーク。
男の俺がみても将来イケメンになるって言う確証が持てるくらいイケメンな顔つきをした子だ。
しかしイケメンな顔つきとはいえ、まだまだ赤ん坊だ。
見ているだけで口元がつい緩んでしまう。
そういえば、この世界での俺の顔はどんな感じなんだろうか?
前世で恋沙汰とは無縁だった俺にとっては、ちょっとぐらいならイケメンでもいいんじゃないかっていう期待をしてしまう。
「おおルーク!私だ。父だぞ〜」
俺の横で変顔をするピレモンを見ると、何故かその期待が裏切られそうな気がしてならない。
母さんの顔はかなり整っているが、そこらへんの遺伝は……運か。
願うならば、母の遺伝を強く継いでいますように……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さらに一年。
時の流れとは恐ろしい、俺はもう五歳になってしまった。
「これで、500……!!」
水弾を出すのと同時に倒れ、いつもの無気力感が身体を襲う。
「やった……!今日もできた」
それでもなんとか体を起こし、俺は大量に書き記された『正』の文字を追加する。
魔力総量もそこそこになってきた。
最初は2個程度しか出せなかったウォーターボールは、気づけば毎日500発ほど撃てるようになっていた。
だけども、途中からうなぎのぼりだった魔力総量も、こっからはそう伸びなさそうな気がする。
そう感じてしまうほどに、最近は500発ほどから記録があまり伸びなくなっているのだ。
しかしまあ、良いだろう。
この5年で魔力総量も、魔力に対する知識も多くなった。
そろそろ頃合いだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2日後。
魔力が完全に回復したのを確認できた俺は、昼食を終えた後すぐ庭へ飛び出した。
庭につくなり、ウォーターボールを近くの木に当ててみる。
ポン
いつも通り手から飛び出した水の玉が木へと当たり、周りの生い茂る草に染み込んでいった。
「……ふう、よし!」
魔力の制限もできてる。
これなら大丈夫だろう。
さて、俺はこれから前代未聞の挑戦をするつもりだ。
それはズバリ、ワンピースに存在する悪魔の実の能力を再現する事だ。
ワンピースを読んだ事がある人なら誰しもが一度は考える。
俺もその例に漏れない。
だが俺は先程は言っていた通り、これ以上魔力総量がそこまで伸びない事に悩んでいた。
確かに、全て凍らせるヒエヒエの実、炎の圧倒的な火力で敵を焼き尽くすメラメラの実など、工夫すればこの世界でも使える能力はたくさんある。
でもそれらは、俺の魔力総量が足りないという理由で全て没になった。
これは多分、どう足掻いても解決できない事だ。
魔法の威力を上げたり、魔力の消費を抑えてくれる『杖』という特殊な棒を持てば多少はマシになるかもしれないが、杖を持つという事は、片手を一つ無くすのと同じ事。
元々魔術師は近距離で戦う事を想定していないのだから当たり前っちゃ当たり前のだが、俺はロマンを求めたい。
近距離でも遠距離でも戦える万能型がいいのだ。
そこで悩みに悩んだ末、俺は一つの能力系統を思い出した。
それはワンピースの中では比較的珍しい能力。
動物ゾオン系の能力だ。
これなら体の形を変えるだけで、それ以上の魔力の消費はないし、燃費としては最高だと思う。
さらに動物系の特性で、近接戦の戦闘力も著しく上がる。
そのための特訓は必要だろうけど……
迫撃において"動物系"こそ最強の種。
どっかのサイコパス野郎も言っていたが、本当にその通りだと思う。
とりあえず動物系にするのは確定として、次はなんの動物にするかを決めよう。
龍、虎、不死鳥、どれも魅力的な能力だが、実用性がなければ意味がない。
まず龍はダメだ、あまりにデカすぎる。
この世界には赤龍とかいうガチの化け物もいるらしいし、討伐対象にでもされたらたまったものではない。
虎は小さいけど、近接戦特化すぎる。
強いっちゃ強いが、俺の求める万能型ではない。
最後に不死鳥、これは実用性もあるし遠距離と近接戦もまあまあだろう。
なんと言っても不死鳥最大の魅力は空を飛べる。
これが一番いいと思った所だ。
龍は論外として、空を自由に飛べるなんて全人類の夢だろう。
でもここで問題が一つ。
俺自身の体力が問題だ。
ワンピース世界だと当たり前のように空を飛んでたが、ここはリアル、現実だ。
俺に空を羽ばたける程の力があるとは思えない。
ならどうするか、答えは案外早く見つかった。
俺の死ぬちょっと前あたりの記憶。
その悪魔の実の能力は、夢を主体とした能力だった。
寝ている相手の怖い生き物を出したり、相手が寝ている間に想像したものをだせる。
個人的な解釈になってしまうが、俺が記憶だとそいつは空も飛んでたし、そんな能力でだいたい合ってるだろう。
その能力の名前は
幻獣種 リュウリュウの実
モデル 麒麟
正直、俺の中でかっこよさも一番だし実用性もあると思う。
他にも便利な能力の奴はあるかもしれないが、それはまあ後から考えればいい。
即断即決。
早速俺は変身するために、新魔術形態の理論……と言うには聞こえばいいが、実際はただ脳内で麒麟の姿を思い浮かべる事をしてみた。
どっかの異世界マンガが言うには、魔法ってのはイメージの世界。
できないと思った事はできないし、できると思った事はできてしまう。
俺はできる!
脳内で自分を騙すのって、いざやってみると難しい。
ああだめだ。
集中しろ集中。
イメージだ。
俺の体を想像しろ。
最近俺は自分の姿を鏡でよく見ている。
イケメンってほどではないが、前世よりはマシな顔。
いかんいかん、また余計な事を考えていた。
次だ次。
次は麒麟をイメージする。
空を歩き、相手の夢を具現化する、まさに神獣。
「はぁッ!」
両手を前に向け、目をガン開きにしながら、俺は5歳とは思えないぐらい声を張り上げた。
だが威勢だけで才能は開花しない。
特に何か起こるわけでもなく、俺にできたのは周りの注目を集める事だけだった。
「ヘルス様……どうかされましたか?」
「………なんでもないです」
苦笑いの表情を浮かべて話しかけてくるメイドさん。
俺の顔面は熟したリンゴのように赤くなってしまう。
恥ずかしい……
これがディエゴやピレモンにも見つからなかった事が、せめてもの救いだな。
初日は散々だった。
でも俺は、絶対に諦めない。
そこから、俺の途方もない特訓が始まった。
食事、入浴、睡眠以外の活動時間のほぼ全てを魔術の研究に費やしていく。
ある日には一日中図書室に籠り。
別の日には庭で限界まで魔法を使ってみたり。
父や兄、召使の人たちにやめろと言われても、俺は続けた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数ヶ月が過ぎたある日。
「んん……?」
その日は目が覚めると、俺の体に何か違和感を感じた。
全身が熱い。
熱かと思ったが、身体の熱さ以外に異常はなく、体調の方も良好だ。
ちょっと怖いが、まあいいか。
俺は深く考える事はせず、いつものように朝食をとった後庭へと向かった。
朝から日差しの強い日だった。
体の熱さも相まって、その日差しを少々鬱陶しく思いつつも、俺は庭の真ん中へ立つ。
そしていつものように両手を伸ばし、目を閉じ、頭の中で能力をイメージしようとした。
その瞬間だった。
ドク……ドク
俺の体の中に存在する魔力が、循環する血液のよう流れていくのを感じる。
手から足へ、足から手へと順に、そしてその流れは段々と速くなっていく。
今なら、いけるんじゃないか?
この不思議な感覚の今なら、何故かやれる気がする。
いつも繰り返してきたように手を伸ばし、目を閉じた。
麒麟……麒麟……キリン。
細長い首、見ただけで息を呑むような美しい姿。
毎日が失敗続き、何度座席したいと思ったか……
でも諦めない。
こんな夢見たいな世界に生まれたんだ。
「絶対に……諦めるもんか!」
その瞬間、体が焼けるような痛みに襲われる。
熱い熱い熱い熱い。
痛みの中で目を開けると、俺の身体中から煙が出始めている。
怖い……熱い……
ボン!!
凄まじい衝撃音が聞こえると同時に、俺の意識は限界を迎えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あれは、生き物なのか?」
「ああ、新種の魔物……で間違いなさそうだ」
「騎士団を呼んでこい!今すぐにだ。この化け物が目覚める前に」
んん……?
騒がしいな。
俺が薄く目を開けると、そこには近所に住んでいる人々いた。
彼らは俺を睨むように視線を向けながら、何やらヒソヒソと会話をしている。
なんだ?
俺の恥ずかしい場面を見て馬鹿にしているのか?
家族だけの秘密のはずが、まさか近隣に住む方々にまで見られるなんて、恥ずかしい。
早く家の中に入りたい。
違和感。
俺が倒れた体を起こそうと手を地面に置いた時、それを感じた。
なんだこの手?
いや、これは……蹄?
地面に置いたはずの俺の手が、馬のような蹄になっている。
気のせい、だよな。
そうだ、きっと魔力切れの症状で幻覚でも見てるんだ。
そんな症状聞いた事ないが、魔力についてはまだまだ未知な部分が多い。
そう自分に言い聞かせて、蹄……に見えている手を支えにして、俺は起き上がる。
しかしまた問題が起こった。
高い……?
五歳児の俺が、周りにいる大人の男達を見下ろしている。
「ぎゃあぁぁぁ!」
「化け物が目覚めたぞ!」
「おい、騎士団はまだか!?」
大人達は、俺を見るなり顔を真っ青にして腰を抜かした。
なんて失礼な輩だ。
こんなピチピチ五歳児の俺を化け物呼ばわりとは……
………ん?
おかしいな。
これが幻覚のはずならば、こいつらがここまでビビることなんてない。
つまり、この状況は現実……?
そんな可能性を考えた俺は、恐る恐る自分の体を見てみる。
本来見えないはずの首が、見えた。
それもかなり長い、3メートルはあるんじゃないか?
なんだこれ、どういう事だ?
自分の姿の理解が追いつかない中で、ある言葉が出てきた。
キリン。
この俺の姿、それはキリンにひどく似ていた。
いや、それ以外に思い浮かばない。
ヘルス・ノトス・グレイラット
俺は五歳にして新魔法……変身魔法の開発に成功した。
たがそのスタートは、あまりにも絶望的な状況から始まってしまった。