貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
サテラと約束をした日から半年ほど経ち、俺たちはウィルシル領のはずれにある町に来ていた。
当初は、そんな町に行く予定はなかったのだが、森で助けた冒険者に話しを聞き、急遽この村に行く事にしたのだ。
なんでもターミネートボアが大量のアサルトドッグを引き連れて、町を攻め落とそうようとしていたらしい。
町といってもほぼ村と変わらない。
手薄なところに、大量の魔物が攻めようとしているんだ。被害は大きいだろう。だから助けに来た。
そうして無事事態を解決して、今は町でサテラが怪我人を治療している。
この半年でかなり名を上げ、俺たちはついにA級冒険者にまでなった。
A級ともなると、異名……二つ名もついてくる。
例えばサテラ、あいつは行く先々で人を治療していた。
そんなあいつについた二つ名が、奇跡のサテラ。
正直羨ましい。
最近は名前を聞くだけで人々は驚き、彼女に尊敬の眼差しを向けている。
本人は嫌がっている素振りを見せているが、満更でもなさそうだ。
勿論、俺にも二つ名はついた。
当時は期待していた。
どんな名前だろう?
どんなかっこいい異名がついてるんだ?
そうやって少々浮かれながら聞いてみた。
怪力の麒麟
その二つ名を聞いた時、俺は結構ショックだった。
もちろん怪力でもいい、確かに俺はよく重たいものとか持ってたしな。
怪力がついてしまうのも分かる。
でも、もうちょっと他にあったんじゃないかって思ってしまう。
サテラはそれもかっこいいと言っていたが、俺はあいつが異名を聞いた時、陰で笑っていたのを知っている。
「怪力の麒麟さん、さっきは助けてくれてありがとうございました」
俺が町の外を見ていると、先程助けた少年が俺の前に現れた。
「いいや、むしろお前が居てくれて助かった。お前が居なかったら、お前の父親は助からなかったかもしれない」
「そうよ、あなたが居なかったらきっとお父さんは助からなかったでしょうね。だからあなたは、お父さんにたくさん褒められてきなさい」
横に現れたサテラがそう言うと、少年は頷き、父の所へ戻って行った。
「サテラ、治療はもう終わったのか?」
「ええ、大体はね。もう自分達でなんとかなるって。あとこれ、貰ったお金」
サテラからずっしりと重みのある袋を手渡される。
「こりゃ随分と多いな、いくらだ?」
「分かんないけど、複数の冒険者が貰うはずだった報酬をもらえる事になったんだから、結構入ってるんでしょう」
中身を確認すると、銅貨に紛れて銀貨や、金貨もチラホラ見える。
これで数ヶ月は持つな。
「あ……いましたいました!」
銅貨を数えていると、村長と思わしき人物が現れた。
「奇跡のサテラ様、怪力の麒麟様、今回は私たちの町を守ってくださり、本当にありがとうございました。何かしたいことがありましたら、何なりと申しつけてください」
「そりゃ助かる。なら、ここに一泊させて貰えるか?」
俺が聞くと、村長は満面の笑みで頷いてくれた。
「お安い御用ですよ、早速部屋を準備します」
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その後、俺たちは飯を食って部屋に入り、いつも通り作戦会議を始めた。
「よし、明日からは赤竜の下顎に向おうと思っている。何か問題はあるか?」
「ないわ」
サテラは杖の手入れをしながら、首を横に振った。
「分かった。なら明日の早朝に町を出るぞ。そうすれば、一日ぐらいで赤竜の下顎からでれるだろう」
サテラの背丈ほどある杖、その杖はB級に上がった時に、俺がお祝いとしてあげたものだ。
なんでも、治癒魔術の効力が格段に上がるものらしい。
まあ、サテラの素の回復魔法が高すぎて、あまり効力を実感できないが……
「あああとそれと、間違っても赤竜と戦おうなんて考えるんじゃないぞ?」
「そんな事をわかってるわよ、あんなのと戦ったところで、意味ないでしょうしね」
良かった。
サテラがエリスのように血気盛んだったら、俺の命がいくらあっても足りないからな。
「分かってるならいい、じゃあもう明日に備えて、寝るか」
「ええ、おやすみなさい」
「おやすみ」
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次の日、俺たちは人々に見送られながら町を後にした。
森に入ると、最初こそ頻繁に魔物が現れたが、赤竜山脈を登り始めた時には全く出てこなくなった。
代わりに出てきたのは、俺のトラウマでもあるあの赤竜。
それも今度は仲間連れて結構な数がいる。
魔物が出てこなくなったという事は、もう既に赤竜の縄張りに入っているという事だろう。
あいつらに見つかりたくは……ないな。
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赤竜の目を掻い潜り、山を登っている最中、俺は出会ってしまった。
サテラと雑談をしていると、突然、サテラの動きがピタリと止まった。
「……サテラ?どうかしたか?」
「……!」
サテラの体からは大量の汗が出ており、瞳孔が開いている。
俺はそのまま、サテラが向いている方向をみた。
奥から、2人組が歩いて来ていた。
1人は白髪の男、白いコートを纏っていて、顔はとても厳つい。
そしてもう1人は女、サテラより少し年上だろうか?
黒髪で長い髪、仮面を被っている。
なんだ、こいつらにビビってんのか?
あの怖い冒険者共に臆する事なくものを言う、あのサテラが?
「……ん?」
白髪の男が止まり、睨むように俺達を見ていた。
「お前、ソフィア・アルフェンスだな?」
白髪の男が突然聞いてきた。
ソフィア……なんだって?
誰だそいつ?
サテラは体を震わせ、酷く掠れた声で言った。
「なんで……知ってるの?私の……名前」
サテラの名前?
俺ですら知らなかったサテラの本名を、あいつは知ってるのか?
だとしたら、知人か?
いやいや、仮に知人がいたとして、なんでこんな所にいるんだよ?
「そこのお前は、分からないな。名乗れ」
男の目は、いつの間にか俺へと向いていた。
「俺は怪力の麒麟だ」
「違う、お前の本当の名前を言ってみろ」
男に促され、俺は一瞬躊躇した。
言いたくない。
なんで見ず知らずの男に、俺の正体を言わなきゃいけないんだ。
……だが、言わなかったら何をされるか分かったもんじゃない、本意ではないが、ここは素直に答えておこう。
「あー、俺の本当の名前は、ヘルス・ノトス・グレイラットだ」
ノトス、その言葉にオルステッドの顔が険しくなる。
「ヘルスだと?ノトス家にそんな者はいないはずだが」
「半年前に出奔したからな、知らないのも無理はないだろ」
男は何か考える様に俺を見ていた。
「まあいい、ところでお前、ヒトガミという単語に聞き覚えはあるか?」
「ッ!?」
ヒトガミ?
こいつ、ヒトガミを知ってるのか?
こいつも、俺と同じように夢に出てきたりするんだろうか?
でもこいつの聞き方、なんか嫌なやつの事を聞く時に似ている。
知ってると答えて、変な揉め事を起こすのはごめんだ。
ここは嘘を付こう、多分バレないだろ。
「ヒトガミ?なんだそいつは、お前の知り合いか?」
俺はサテラに問いかけるが、当然知らないと首を振る。
「そうか、確かに奴でも2人連続で出すことはないか……邪魔したな」
そう言うと、男と女は山を降りて行った。
他にもヒトガミを知る奴に会ったのか?
「……はあ」
男が見えなくなりしばらくすると、サテラは俺の肩に手をおいて、膝から崩れ落ちた。
「死ぬかと思った」
「サテラ、お前変だぞ、知り合いか?」
「変なのはあなたよ、なんであんなのと平然と話してるのよ」
「あんなのって、あいつは確かに顔は怖かったが、別にそんな怖がるほどじゃないだろ」
サテラを担いで立たせ、再び歩き始める。
「いえ、まあ顔もそうなんだけど、顔じゃなくて、なんて言えばいいのかしら、オーラみたいなのがすごいのよ」
オーラ?
そんなの俺は微塵も感じなかったが……まあいい。
とりあえず何事もなく済んだんだ、それでいいだろ。
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雪道を歩いていると、あの男が言っていた言葉を理解した。
同時に、あの男に対し、とてつもない怒りが湧き出し始める。
「ルーデウス!!エリス!!」
吹き荒れる雪に埋もれる地面。
そこにいたのは、倒れているスキンヘッドの男と、少し体が大きくなったが、変わっていないエリスとルーデウスの姿があった。
2人ともボロボロ、きっとあいつに襲われたんだ。
「ルーデウス!エリス!」
ルーデウスとエリスはこちらに気づくと、ボロボロの体をなんとか震わしながら戦闘態勢に入っている。
「貴方は誰ですか……ッ!?その服、サウロス様の!」
「なんでお爺様の服をあんたが着てるのよ!」
どうやら、俺のこの人獣型の姿は忘れられているらしい。
結構ショックだが仕方ないだろう。こんなに時間が立ってしまっているんだ、無理はない。
「そうだな、覚えてなくても無理はないよ」
俺は人型の姿にもどる。
この姿も、久しぶりだな。
『ヘルス!?』
「すまない、見つけるのに時間を掛けてしまった」
俺は2人の元へ行き、抱きしめようとしたが、エリスは抱きしめれなかった。
思い出した。この姿の俺は左腕がないんだ。
「ヘルス、なんですかその腕は……どうしたんですか?」
「これは、色々あってだな。とりあえず、無事で居てくれて、本当によかった……!」
フィットア領の災害から、2、3年ほど経つだろうか?
それはとてつもなく、俺にとっては十分すぎる時間だった。
でもこうして、また2人に会える事ができたんだ。
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しばらくすると、エリスとルーデウスは2人とも気を失ってしまった。
多分、2人も限界だったんだろう。
俺は人獣型にもどった。
「サテラ、そこの男を起こせるか?」
「え?あ、うん分かった」
しばらく俺を見つめていたサテラに声をかけ、男を起こしてもらおうとした。
バシッ!
その瞬間、男は突然目を覚まし、俺に向かって一直線に走ってきた。
男は俺に向かい槍を立て、放つ。
「あぶ……ねぇッ!!」
迫り来る槍をギリギリで避け、距離をとった。
「おい!いきなり攻撃かよ」
「お前は何者だ!」
男は再び俺に構えている
「俺は麒麟!ルーデウスとエリスの親友だ!お前達が道端で倒れていたから、助けてようとしてただけだ」
とりあえず本当のこと言う、嘘はついていない。
「……嘘ではないのか?」
「嘘じゃない、生憎、それを証明する事はできないが」
男はしばらく俺を見つめた後、俺に向けていた槍を戻した。
「そうか、どうやら本当らしいな」
男が地面に足をつき、頭を下げる。
「すまない、気が動転していた」
「いや、いいんだ。逆に、お前がこの2人をどれだけ大切にしてるかが分かったよ」
いきなり襲われたのはビビったが、なんだ、案外いい奴そうじゃないか。
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なんとか和解したその後、ルーデウスとエリスを担いで元の場所に戻り、小屋の中で2人を寝かせた。
サテラがさっきからやたらと俺を見てくるが、まあそれは置いておくとしよう。
「あんた、名前はなんて言うんだ?」
焚き火を囲いながら、対面に座る男に聞いてみた。
「俺はルイジェルド・スペルディア」
「ルイジェルドか……分かった。まずはルイジェルド、ルーデウスとエリスを守ってくれてありがとう」
俺はルイジェルドに頭を下げた。
当然だろう、親友を守ってくれた恩人だ。
「気にするな、俺は戦士として当たり前の事をしただけだ。それに、助けられたのはむしろ俺の方だからな」
ルイジェルドの顔は、どこか嬉しそうだ。
「そりゃあまあ、随分と仲がいいな、2人とはいつ出会ったんだ?」
「初めて会った時は魔大陸にいた時だな。突然空から降ってきて、そこから共に行動を始めた」
「魔大陸!?」
サテラが声をあげた。
「サテラ、静かにしろ、起きちまうだろ」
「ああごめん、でも魔大陸って大陸で一番過酷な土地でしょ?良く今まで生きて来られたわね」
サテラは関心したようにルーデウス達を見る。
「俺もそう思う、ルイジェルド、どうやってそんなところで生き延びていたんだ?」
これに関しては俺も気になる。
魔大陸はこの世界で最も過酷な土地だ。
大人1人がついてるとはいえ、子供2人が旅をできるほど生優しいところではない。
「特に方法はない、町へ行き、任務をこなし報酬をもらう。そして金が集まればまた次の町へ、と言う感じだな」
「それは……すごいな。ルーデウスとエリスは文句を言わなかったのか?」
「元々ルーデウスが提案した方法だ、エリスは知らないが、楽しそうな顔をしていたな」
この世界で一番過酷な土地、魔大陸。
そんな場所に飛ばされて、無事手足が欠損することも無く、なんなら笑顔で帰ってきたルーデウスとエリス、やはり化け物だな。
「ルイジェルドさんに……ヘルス、おはようございます」
気づけば、エリスの横で眠っていたルーデウスが目を覚ましている。
「ルーデウス、おはよう」
そうして、俺たちは焚き火の周りを4人で囲い、話の続きを始めた。