貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
そこからは大騒ぎだった。
魔術の特訓をしていたはずの子供が消え、それと同時に見た事もない珍獣が貴族の敷地内に現れたのだ。
俺は焦りまくる父と、恐怖で立ちすくむディエゴ、泣きまくるルークとその他騒ぎを聞きつけてきた護衛や貴族に事情を説明をしたが、
「魔族がピレモン卿のご子息を襲った!」
「あれはまず魔族なのか?!」
「人語を話し我々も食らうつもりだ!」
と聞く耳を持ってくれない。
俺はその場で、最近習得した中級魔法を連発し、魔力枯渇を自発的に起こした。これなら、もしかしたら戻るかもしれない。
全身から力が抜けるような感覚と同時に、異様に伸びていた首や、毛で覆われていた手が、元の姿に戻っていく。
「あ……あれは、ヘルス……なのか?」
倒れている俺に、父がゆっくりと近づいてくる。
「ち、父上……」
限界を迎えた俺は、その場で意識を失ってしまった。
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目が覚めると自分の部屋にいた。
夢だったのか?
いや、そうであって欲しい。
俺はむくりと起き上がり、周りを見てみる。
そこにはピレモンと兄がいた。どちらも険しい表情をしている。どうやら夢である希望は無くなったらしい。くそ、最悪だな。
「はあ………ヘルス、今日のアレを説明してみろ」
しばらく見つめ合っていたピレモンがため息を交えながら言ってきた
「あれは、ちょっとした実験で、」
「実験?よくわからない化け物を出す実験か?」
「違います兄上、あれは僕です。あぁ、何と言えばいいのか、まずは僕の……」
「ヘルス!」
ピレモンの声が部屋に響く。
「アレがお前かお前じゃないかは大した問題ではない。私が心配なのはお前のその後だ」
さっきの大声を出したのが嘘かの様に今度は諭す様に話す。
「今日の事で、お前は他の貴族たちや護衛から奇異な目で見られるだろう。それだけならまだいい、しかし、もしお前を化け物だと言い貶めようとする者が現れたらどうする?いくら私でも、そこまでは守りきれないんだぞ」
「………」
「お前もそろそろ6歳だ。6歳になれば、お前はアスラ王立学校へ行き、その時にもしお前がよくわからない化け物として扱われたら……私は……」
父はそれ以上言わなくなった。ただ座りながら、自分の拳を力強く握りしめている。
そんなピレモンの姿をみて、前世の記憶を思い出す。
父に夢を馬鹿にされて、自分のやりたい事を無駄だと言った父。
『俺の最大の失敗は、お前だ』
それが前世の父に言われた、最後の言葉だ。
俺は父が嫌いだった。
頭ごなしに否定をしてくる父が、自分の結果以上のことを望む父が……
いつからだろう、俺は父と一切話をしなくなった。
だけど、この世界に来て父との関係は良好だった。俺が算術をできた時、新しい魔術を習得した時、父は自分事の様に喜んでくれた。
でも、俺は多分、無意識に父のことを諦めていた。
父は俺を見てるんじゃない、俺の結果を見てるんだって。でもそれを認めたくはなかった
だから多分、変身する魔法をしようとしたのも、俺は無意識に父に認めらようとしていたからだろう。
認められなければ、俺はまた……見放される……
でも違った。この人は俺の知っている父ではない。
周りから俺がどう思われてしまうのか、真剣に、本気で悩んでくれていた。
この人の事はこの5年間でよくわかったつもりだった。
卑屈で小心者、権力を持っている者について回って、おこぼれを貰うような人。
そしていつも、何かに怯えている。
そんな父に、みんなが同じことを言っていた。
「もし当主がパウロだったら」
パウロっていう人は、父の兄、俺にとっての叔父さんに当たるのか?
恐らく、その人のほうが当主に向いているんだろう。俺も姿は見た事ないが、噂だけ聞いても、その人の方が向いてるってのは分かった。
でもこの人は、俺の父親だ。
俺を守ろうとしてる、立派な父だ。
気づけば俺は、涙で溢れていた。
「父上、すいません。俺……また迷惑をかけてしまいました……」
しっかり言えたかわからない。だけど、父はそれだけで理解してくれた。
「分かってくれたのなら、それでいい」
そう言いながら、父は俺を抱きしめた。
抱きしめられた俺は多分、前世を含めた今までの中で一番安心した。
そして決意した、この人だけは裏切らない、この人だけは幸せになってほしいと
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その後、俺は父と、完全に外野にいた兄に事情を話した。
魔力総量を補う為、変身する魔法を使ったとことを。
それでこの変身魔法は禁止されると思ったが……
「変身魔法?そんなもの聞いた事がないぞ」
「僕が独学で編み出したものですから」
「なに!?独学!?」
まあ驚かれるとは思っていたが、そこまで驚くか?
父はしばらく考える様なポーズをとっていた。
「分かったヘルス、やはりお前には魔法の才能がある。今後とも、その変身魔法というのを禁止にはしない。しかしそれを使っていいのはこの屋敷の中だけだ、そういう約束にしよう」
元々禁止されると思っていた俺にとってはこの上ない提案だった
「はい!ありがとうございます」
「そしてさっき言っていたアスラ王立学校についてだが、ディエゴ、お前が教えてやれ」
「はい、父上」
そうしていくつか話をした後、父は部屋を退出していった。
「ヘルス」
「はい、兄上」
「さっきはお前の事、化け物って言って悪かったな」
「いえいえ、もし僕が兄上の立場なら、同じ事言ってたかもしれませんし」
「そうか、そうかもな」
ディエゴは口角を上げてそう言った。
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あの騒動からしばらく経ち、ルークが俺を兄と認識し始めてた頃。
俺はアスラ王立学校に入学した。
ディエゴが言うにはアスラ王立学校は表向き実力主義の学校であるそうだが、その実態は身分の低い者が身分の高い者を抜かす事を禁忌とする何とも難しい所らしい。
まあこう言うところで、アスラ貴族の子供達は、生き残る術を身につけていくのだろう。
そんなこんなで入ったアスラ王立学校だが、俺はここで不登校になってしまった。
正確に言うと不登校ではないのだが、授業に参加するのは気が向いたら……みたいな感じだ。
前世で常に皆勤賞を取っていた俺がなぜ半不登校になってしまったのか。
それは生徒の気味の悪さにある。
最初の入学式のとき、生意気な同い年くらいの子が俺に喧嘩を売ってきた。もちろん返り討ちにしてやったが……
「父上に言いつけてやる」
なんてお決まりな事言い出したが次の日。
俺がピレモンの息子ってのを聞いて遜る姿を見て、ここが相当ヤバい場所ってのに気づいてしまったんだ。
そんな今の現状を俺はそこまで悲観していない
別に算術とかはできるし、政治に関して俺は元々興味がないっていう理由もあるが、本当は変身魔法や体作りを優先したかったからだ。
父も最初は小言を言ったりしていたが、今は俺がやりたい事を黙って見てくれている。俺もその期待に応えるためにこの世界についてたくさん学んでおこう。
この世界では魔術ともう一つ、剣術ってのがあるらしい。
剣術には三種類あって、それぞれ
北神流 水神流 剣神流
階級もあるがそれは魔術と同じらしい。
魔術師は普通近接戦は行わないので、使う事はないが、もし距離を詰められた時のために水神流を使う人もいるらしい。
剣……魔術ほどではないが、これもまた男心をくすぐるワードだ。
手始めに護衛の仕事をしている人に頼んで稽古をつけてもらうことにした。
その人は剣神流上級、水神流初級、北神流中級の猛者だ。
もちろん勝てないのは百も承知だが、今の俺の実力も知っておきたい。
もしかしたら俺には剣術の才能もあるのかも?
「何をぼさっとしているのですか?かかってらっしゃい」
「あ、はい!では……行きます!」
急かされた俺は、木刀を握りしめ護衛に向かって走っていった。
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「今日はここまでにしましょう、また治って万全になったら声をかけてください」
「ふぁい」
あまりにも無力だった。俺は剣術の才能がないことを今日物理的にも精神的にも痛感してしまった。
剣術は相手とゼロ距離で戦う。
相手が出してきた技にどう素早く対応出来るかどうかが求められる。俺はそれが苦手だ、相手の気持ちを理解するのは難しい。
やるせなさに俺は地面を殴った、
痛い
せめて変身すれば、
そして俺は気づいた、なぜ変身しなかったんだ。
俺は近接戦も出来る様に変身魔法を使ったんじゃないのか?
変身魔法を使えば、少なからず身体能力は上がるだろう。そうすれば少しは抵抗できるかもしれない。
麒麟違いで変な姿になってしまったが、キリンも相当強いはずだ。
ここで諦めちゃいけない、向いてないなら向いてないなりに努力しなくちゃいけないんだ。俺はもう前世の様な失敗はしたくない。
俺は、生まれ変わったんだから……
手遅れかもしれないんですけど一応
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戦闘描写たくさん
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話し合い、イチャイチャたくさん