貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
「失敗ね………」
ナナホシが転移魔法の実験に失敗した。
いや、それは今まで何度もあったので当たり前の事ではあるんだが、今回は違う、
ナナホシの2年間の集大成とも言える実験だったのだ。
異世界の物品を召喚、恐らくは元いた世界の物を出す物だったのだろう。
そんなナナホシの全てといってもいい実験はあっけなく失敗に終わり、室内にはどんよりとした雰囲気が流れている。
「まあなんだ、今日は調子が悪かったのかもな?」
「そうですね……すいません、俺の魔力の問題かもしれません」
慰めの様な言葉をかける俺とルーデウス、しかしナナホシは椅子に座り、静かに破れた魔法陣を見つめているだけだ。
「……ご苦労様、今日はもう、帰っていいわ」
そういって机に向き直るナナホシ、
まあ、これは相当ショックだろうな、実験が始まる前まですごいウキウキしてたのに、この有様だ。
今は一人にした方が良いだろう、ナナホシには多分、そっちの方が良いのかもしれない。
しばらくすると、俺はルーデウスと共に部屋を出た。
「ナナホシ、一人で大丈夫ですかね?」
「俺はよくあいつを知らないが、こういう時は、一人の方が楽だろう」
もっとも、あいつに大切な存在がいるのならば、そいつと過ごしてもらった方がずっと良いんだが、その方は遠い別の世界にいらっしゃるらしいからな。
まあ比較的仲の良さそうなサテラを今度連れて来ても良いかもな。あいつならメンタルケアも得意そうだしな。
「じゃあ俺は生徒会の方に……」
「うわぁァァァァァァ!!」
そう言いかけた時、ナナホシの部屋から叫び声が聞こえて来た。
「なんだ!?」
「とりあえず行きましょう!」
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部屋を開けると、部屋の中で暴れ回っているナナホシがいる。
これはまずいな、一人にするという判断は間違いだったか、
ルーデウスは真っ先にナナホシの方へ向かい、抑えようとしている。
俺はナナホシに睡眠魔法、麒麟の能力を使いナナホシを眠らせた。
ナナホシはしばらく暴れていたが、俺が能力を使うとルーデウスの方へ倒れた。
「ナナホシ……」
「すまない、ナナホシを一人にするという俺の判断が間違いだった」
「いえ、麒麟は何も悪くありません、、とりあえず医務室へ行きましょう」
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ナナホシを運ぶ途中でザノバとジュリに会い、医務室で話し合った結果、しばらくはルーデウス邸で様子を見るという事になった。
サテラも駆けつけ、治癒魔術をかけておいてくれた。治るかは分からんが。
その後サテラと別れ、俺達はルーデウス邸にナナホシを運んだ。
「シルフィにも治癒魔術をかけてもらって、今は眠っています」
疲れ切ったルーデウスがそう言う。
「そうか……」
「何にせよ助かりました。ザノバ、麒麟」
「いえ、師匠にはいつもお世話になっておりますからな」
「ああ、俺達は大丈夫だ。それよりお前は自分の体を心配していろ」
俺は今はルーデウスの方が心配だ。
ルーデウスの今の目、その目はエリスに捨てられ、生きる希望を失っていたあの時に似ている。
多分ナナホシを見て、当時を思い出してしまったんだろう。
「麒麟殿の言う通りです。師匠の今の顔は、サイレント殿と同じ様な顔になっておりますぞ」
ザノバもそれは気づいていた様だ。
「心配してくれてありがとうございます。けど俺は大丈夫です」
「だといいんだが、あまり無茶するなよ?」
「しませんよ」
苦笑するルーデウス、本当にしなきゃといいんだが。
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俺は学校を休む事にした。
ナナホシの看病をする為だ。
その間ルーデウスとザノバには転移魔法陣の方を研究してもらう。
俺がナナホシの看病をするのには、他に理由がある。
俺も元は高校生だ。ルーデウスは分からないが、話の内容的に、大人である可能性が高い。だったら今、ナナホシの気持ちを一番理解できるのは俺しかいない。
「おはようナナホシ、今日は雲一つねぇ良い天気だぞ。窓を開けてみようか?」
「………やめて、今は外なんか、見たくない」
「あう、」
そんな自信を持ってナナホシの看病をやると言ったが、しょっぱなからこれだ。
ナナホシはベットの上で俯いている。
「そうか、じゃあ朝飯はいらないか?俺の飯は食った事ないだろ?」
「………」
返答はない、まあなくても作らせてもらうんだが。
俺は能力でパンとベーコンが入った皿を出す。
「ほら、結構な出来だろ?これでも俺は冒険者でいろいろ……」
「あなた、さっきからなんなの?」
俺の言葉を、ナナホシの言葉が掻き消した。
「学校で会った時、私を殺そうとして、そしたら次は私の実験の盗み見をし始めて、あなたは何がしたいの?」
ナナホシの視線は下を向いたままだ。
「俺はただ、お前の心配を」
「私の心配?あなたにそんなことできる訳ないでしょ」
「それは……話を聞かなきゃ分からねぇ」
「分かる訳ない!!」
突然ナナホシが顔を上げ、俺の両肩を掴んできた。
「あなたなんかに……!分かる訳ないじゃない!ただ普通に生きてただけなのに!突然意味の分からない世界に飛ばされた!文化も言語も常識さえも違う世界によ!?それでも私は頑張って!元の世界に戻る為、色んなことを試した、実験した。でも、結局は全部無駄だった」
ナナホシの目からは涙が流れ続けている。
「私は元の世界でまだやりたい事が沢山あった!好きな人だっていた!でも、もう一生会う事は叶わない。元の世界に戻る事すらできない。もう……うんざりなのよ!!」
「………」
『もう、なんでよ。会いたいよ、お母さん……お父さん……』
ナナホシは日本語でそう言いながら、俺の胸に頭をつけた。
俺は別に、元の世界に戻りたいとかは思わない。むしろ今の現状に満足している。
でもナナホシは、違う。
彼女には帰りを待つ人がいて、会いたい人がいる。充実した生活だったんだろう。気持ちはよくわかる。
俺は、ナナホシの頭を優しく撫でる。
「ナナホシ……お前の気持ちは、よく分かるよ」
「……分かる訳ないじゃない、こんな世界で生きるあなたなんかに、」
「分かるさ」
ならもういいだろう。ここで言ってしまっても、仲間になってやっても。
『俺だって、家族は大好きさ』
『え・・』
ナナホシは顔を上げて俺を見つめる。
俺は人獣型をやめ、人型の姿になった。
『お前は一人なんかじゃねぇ、ルーデウスと俺がいる。だからさ、諦めるなんて事、もうするなよ』
そう言って俺はまたナナホシの頭を撫でる。
『あ……あなたも、そう、なの?』
『ん?』
『あなたも、日本人なの?』
その問いに俺は笑顔で返す。
『ああ、俺はお前と同じ、高校生の日本人だよ』
ナナホシは俺の顔をしばらく見つめていた。
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『まじかお前、ワンピース知らないのか、、?』
『その、何?ワン……なんちゃらって?』
『はあ?じゃあお前、○○は知ってんか?』
俺達はこんな話を朝から夕方までずっとしている。
そして分かった事が一つ。
ナナホシと俺では住む日本、いや、世界が違うと言う事だ。
表現が難しいな、まあパラレルワールドみたいなものか、
例えばナナホシはワンピースを知らない。それはナナホシが漫画をあまり知らないからではなく、それがナナホシの世界には存在しないからだ。
ならばルーデウスはどうなるんだ?
あいつもまた違う世界の地球なのか?
『それでも、良かったわ、まだ他に……転生者がいたのね』
ナナホシの顔色は先程よりも良くなっている。
『ああ、だからさっきも言ったが、自暴自棄になったりすんの、もうやめろよ?今度は止められねぇかも知れないからな』
『努力はするわ。でも、あなたが元の世界の人だったとしても、私はもう、元の世界には……』
『諦めんなよ、その為に今、ルーデウス達が頑張ってんだから』
『……そうなの?』
『そうだ、ルーデウス達が、お前が残した魔法陣をどうにか出来ないか試してくれてるんだよ』
『そう、だったのね』
ナナホシは下を向き、申し訳なさそうな顔をしている。
『その、さっきは本当、ごめんなさい。あなたは慰めようとしてくれたのに、私はそれを……』
『いいんだよ、それよりも俺が転生者だってこと、絶対に誰にも言うなよ?』
『ええ、分かってるわ』
俺が転生者だと言う情報は、ナナホシだけの秘密にしてもらう。ルーデウスにはバレてもいいが、話はあまりややこしくしたくない。
しばらくすると、シルフィとルーデウスが帰って来た。
俺はナナホシの事をルーデウス達に任して、学校の寮に戻って行った。
あの調子なら、もうナナホシは大丈夫だろう。
後は、ルーデウス達が解決策を見つけるだけだ。
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「今日は、ありがとうございました」
『イエーイ!!』
顔を赤ながらそう言うナナホシに、歓声を送る俺達、
ナナホシの実験は無事成功できた。
俺には詳しい事はよく分からなかったが、クリフの頭の良さのお陰で、どうにか成功に導く事ができた。
丸一日を費やしてしまったが、まあ楽しかったしOKだ。
そして今は成功のお祝いとして宴を行っている。
メンバーは魔法陣制作を手伝った奴らと、何故かリニアとプルセナ、バーディガーディも参加している。人数は多い方が良いので構わないが、
「お酒って、意外と美味しいのね」
サテラは俺の横でちょびちょびとお酒を飲んでいる
「フハハハハ!貴様も分かって来たではないか!次はそんな飲み方ではなく、もっと豪快にいくが良い!」
バーディガーディが楽しそうに酒をガバガバと飲んでいる。
俺は酒は苦手なので、水で我慢している。
あのジュリも酒を飲んでいる。
おいおい、未成年飲酒は良くないぞ。ドワーフだから関係ないのかもしれんが……
宴での一番面白かったのは、ルーデウスとシルフィだろう。
シルフィは酒が入ると、ルーデウスに甘え始めた。
「ねぇ、ルディ、頭撫でて」
「はいはい、よしよし」
「耳、食べても良いよ」
「頂きます」
「あはは、くすぐったい」
そんな新婚の二人を見て、
俺達は遅くまで馬鹿騒ぎをしていた。