貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
変身魔法で戦ってみて分かったことがある。
まず変身には三段階ある。
人型 獣型 人獣型だ
人型はいつもの自分の姿で、能力はない。
獣型は大体4mくらいの前世にもいるやつと同じだ。
力も強いし足も速い。
そして最後の形態、人獣型だ。
この人獣型には姿が二種類ある
まず一種類目
大きさは2mぐらいのサイズで、足はそこまで長くないし胴体から上が人の体になる。
ケンタウロスを想像してもらえれば、その姿がすぐ分かるだろう。
これを獣人型としよう
次に二種類目
これは俺が初めて変身魔法を使った時、騒ぎになった姿だ。
さっきの獣人型とは逆で首が1メートルくらい伸びてキリンの顔になる。
そしてその下は人型と同じだが、手と足は蹄になり、体も少し大きくなる。
だが手と足は別に普通の人の様になることも可能だ。
これを人獣型とする
戦闘をする際は人獣型が最適だ。
まず身体能力の向上を維持したまま戦える。
首が長いのが欠点だが剣も持てるし比較的動きやすいし、また長い首も相手に突進する槍として機能することもできる。
護衛の人にはまだ勝てるわけではないが、たまに一撃を喰らわされる程にはなってきている。
まあほぼ不意打ちに近いが……
護衛の人は最近忙しくなってきたらしく、俺は一人で鍛錬する時間が増えた。
そして俺はこの時間に、もう一度自分を見つめ直してみることにした。
自分に剣術の才能がない事は理解している。
だから、俺は別の事を磨く事にした。
もちろん魔術の技術も日々研鑽しているが、使える魔法も魔力総量を考えると限られてくる。
そこで俺が目をつけたのは自分の体、格闘技だ。
俺は身体能力が上がる能力で、わざわざ剣を使う必要がないことに気づいてしまった。
いやそれを口実に剣術から逃げたって言うべきか?
とにもかくにも、俺は剣術以外の近接戦の方法を見つけた。
しかし、それは新たな問題でもある。
拳と剣、それは比べるまでもない差があった。
剣の方が速くリーチも長い。
それでも俺は拳を選んだ。
俺は人を殺すとかはできないし、まずそんなことしたくない。
だから相手を無力化できる格闘技の方が向いているのだ。
そういうわけで俺は8歳になるまでの一年半、ひたすらに体を鍛え続けた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドン!ドン!
まだ夜が明ける前に外に出て、家の外にある大きな岩に拳をぶつける。
人獣型にはならない、人型でやるのだ
これは俺がワンピースで読んだ軍艦バッグというのを元にしている。
もちろん最初は音もしないし、手からは血が流れ、骨が折れたりもした。
「いってぇぇぇ!」
「ヘルス様!どうなされました!?」
メイドさん達にはまた情けない姿を再び見せることになってしまった。
だけど、辞める気にはならなかった。
諦めてしまったら俺は前世と同じになってしまう、そんなの嫌だ、絶対に。
そしてこれはその時期に気づいた事だが、俺は治癒魔術だけは使う事ができないらしい。
魔力が足りないというわけではない。魔術師が言うには、俺は傷を治すイメージができていないという。
しかし、それはかえって好都合だった。
この岩を殴ってできた傷を治癒魔術で治してしまったら、それは何の意味もない行動になる。
自然治癒で骨や筋肉を鍛えるからこそ意味がある。
だから俺は治癒をかけてもらう事もしなかった。
そのせいで俺は周りから、色々とおかしな子供だとドン引きされたけど……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
いつもと変わらない朝。
俺は朝食を終えた後、家の外へと出ていく。
目的の場所につけば、いつもと変わらない岩。
「はあ……」
息を整え、目の前の岩を睨みつける。
包帯で巻かれた右手。
その手からは、血が滲み出ていた。
「……?」
岩に向け拳を放とうと構えた時、また違和感があった。
こう……全身に流れる魔力が、右手に集中していくような。
変身魔法の時とは逆の感じだ。
無意識に俺は目を閉じ、その魔力の流れを読んでみる。
まだ……まだだ。
まだ魔力が完全に溜まっていない……
まだ……
まだ……
……今だ!
目を開き、目の前にそびえ立つ岩に向かい、全力で拳をぶつける。
ドン!!
拳が直撃した箇所から、徐々にヒビが入りはじめ、岩は巨大な爆発音を立てて粉々に吹き飛んだ。
同時にその衝撃で俺も吹き飛び、近くの壁にぶつかる。
「……イッテェ」
頭からいったせいか、クラクラする。
頭に手を添えながら、俺は岩が置いてあった場所を見てみた。
やはり。
先程まであった岩は消えており、代わりに周りには岩の破片と思われるものが幾つも散らばっていた。
……やった。
成功したんだ。
軍艦バックもどきを初めて数ヶ月、俺は8歳で岩を割ることに成功したんだ。
素直に嬉しいが、同時にワクワクもした。
あの魔力が一箇所に集まる初めての感覚。
そしてそれと共に溢れ出した驚異的な力。
まだまだ、この世界には俺の知らないもので溢れているんだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
岩を割れてから少し経って、俺はピレモンに重要な話があると言われ、彼の書斎を訪れた。
「父様!ヘルスです!失礼します!」
「ああ……入ってこい」
ドアを叩きながら大声で呼ぶと、ピレモンは落ち着いた声で反応した。
ピレモンに促され、俺は彼の前にあるソファに座る。
「ヘルス、お前も、もう8歳になるな」
「はい」
「不調はないか?お前はただえさえ周り変わった遊びをするからな」
なんだ?変な遊びだと?
こっちは真面目にやってるのに、全く。
「はい、お陰様で元気いっぱいです」
「……そうか、ならいいんだが」
ピレモンはそう言うと、自身の近くに置いてあった紅茶を静かに飲む。
ふむ、なるほど。
ピレモンは緊張したり、何か無茶な事をお願いしてくる時は、こうやって紅茶を飲むことがある。
単に喉が渇いているだけかもしれないが、先程の意味のない近況報告を聞いてくる辺り、何か頼み事でもあるんだろう。
「今日はお前に頼みたいことがあって呼んだのだ」
案の定、ピレモンは紅茶を飲み終えると、やや早口で俺に頼み事をしてきた。
それにしても父からの頼み事か、珍しいな。
俺も余程のことでないのならば応えたい。
「今、アルスでは王位継承の戦いが始まっているのは知っているな?」
「もちろん存じております」
王位継承戦
俺が今いるこのアルス王国では、アスラ王の座に着くためアスラ王の子供達がその戦いをしているという。
確か王の子供は四人。
第一王子グラーヴェル
第二王子ハルファウス
あとは王女が二人……いたっけか?
ともかく、今一番勢力を持っているのは第一王子という事は分かっている。
ピレモンの事だ。
恐らくは第一王子の護衛とかなんかをやってくれとか言われるんだろう。
まあそれくらいなら、苦でもないからやってもいいんだが。
なんなら俺の働き先が見つかるんだ、好都合と捉えてもいい。
しかし、父が次に言った内容は、俺の想像を少し超えたものだった。
「そうか、では、お前にアスラ王の子供である一人の王女、第二王女アリエル様の守護術師をしてもらいたいのだ」
「え?第二王女……ですか?」
驚いた。
父が、名前すら覚えていなかった王女の守護術師になって欲しいというのだから。
そして俺が第二王女の守護術師になるという事は、ノトス家が第二王女派として活動する事を決めたという決断をしたと同じだ。
父がそういう決断力に弱いことを知っていた。
そんな父が、まさかこんな大博打にでるとは……
「……分かりました父上。僕は守護術師になります」
「助かる……やはり頼りになるなヘルス。ありがとう」
「いえ、問題ありません」
もちろん、その事に対して何か不満があるわけではないし、断るつもりもなかったが、一つだけ、気になる事がある。
「しかし父上」
「なんだ?」
「なぜ第二王女なのですか?」
なぜ第二王女?
このアスラ王国に男尊女卑があるわけではないが、多分あの四人の王子王女の中で1番立場的に弱いのは、第二王女だ。
一番最初に生まれた長男でもなければ、長女でもない。
その第二王女をノトス家という一つの上級貴族が後ろ盾になろうというのだ。
疑問に思うのは必然。
「お前は知らないだろうが、アリエル王女はまだ4歳だと言うのに、その美声と容姿からか国民の人気は高い。今はまだ弱いだろうがいずれ強大な勢力となるはずだ」
ピレモンもそう聞かれる事を予想していたのか、台本でも用意してあったかのように流暢に話し始めた。
それにしてもなるほど、将来性を期待したのか。
確かに、4歳にして国民からの人気を得ているのはすごい。
まさに天賦の才だ。
5歳の時に化け物として恐れられていた俺とは真逆だな……
国が成り立つのに一番必要なのは国民だ、貴族の人気をとりまくればいいって訳でない。
そう言った事を常に考えなければいけないとは、やはり貴族ってのは難しい。
父の願いを承諾し、話し合いが終わろうとしたその時、俺の頭に、ある考えが浮かんだ。
今なら、俺のわがままも通るんじゃないか?
俺は今まで父におねだりをした事はあったが、そのどれもが小さなもので、どれもお願いとは言い難いものだった。
無理にお願いをすれば、父に迷惑がかかると考えたからだ。
だけど今回、俺は父の大きな願いを一つ聞いた。
その今なら、このわがままも通るんじゃないか?
この千載一遇のチャンス、逃す訳にはいかない!
「父上、では僕からも一つ我儘をいいですか?」
「ん?珍しいなヘルス、頼み事か?」
「そうなのですが、これは嫌なら断ってもらっても構わないです」
俺が一応前置きをすると、父は優しい笑みを浮かべながら手を横にふる。
「いやいや、お前には大きな頼みを聞いてもらったのだ。最大限可能な限りはしてやるぞ」
「ありがとうございます。ではそのお願いなのですが、僕をファットア領のロアの町に行かせてもらえないでしょうか?」
その瞬間、父の笑顔が消え、部屋全体に緊張が走った。
「……何故だ?」
笑顔から一変、父の顔は段々と険しいものになっいく。
「僕の稽古に付き合ってくれていた護衛の方は、最近忙しくなってきたらしく、会う機会も少なくなってきました。新しく剣術を扱える人を集めてもらってもよかったのですが、どうせ習うなら、一番強い人に教えて貰いたいと考えたんです」
「………」
「そして今、フィットア領にはあの剣王であるギレーヌ・デドルディアが雇われていると聞き及んでいます。僕はそのギレーヌに稽古をつけて貰いたいのです」
父は黙ったまま上を向き、何かを考えている。
多分、断る理由を探しているのだろう。
当然だ。
フィットア領。
それは四つあるグレイラットのボレアス家が統治する場所だ。
そしてそこには、サウロス・ボレアス・グレイラットという人物がいる。
父は当主になり初めの頃、何度もそのサウロスから嫌がらせを受けたと言うのだ。
そんな嫌がらせをした張本人のところに頭をさげろとお願いしているのだ。
俺だって嫌だし、会いたくもない。
「確かに……それは難しい願いだな」
「そう……ですよね。ごめんなさい、今の話はなかったことに……」
俺がそう言いかけた時、ピレモンは何か決心したように立ち上がり、俺の方をみる。
「ならば、こうしよう。お前がアリエル王女を10歳になるまでしっかりと守護術師として守り抜く事ができていたのなら、その願いを聞いてやろう」
「本当ですか!?」
「あぁ、その代わり、しっかりと仕事をするのだぞ?」
「はい!」
よかった。
条件付きらしいが、なんとかわがままは通った。
アリエルは今4歳、つまりあと6年間アリエルを守る事ができれば俺はあの剣王ギレーヌの所に行けるのだ。
「ではヘルス。明日、早速アリエル王女に会いにいくぞ」
「はい!父上」