貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
「・・・お願い・・・ソフィア・・あなただけでも」
「お母様!お父様!」
母はそう言って動かなくなってしまう。
私は泣きながら母の体を揺さぶる。しかし反応はない、
横には父の死体がある。
「女の方は殺してねぇだろうな?」
「ヘイ、気失わせただけです」
その前で、数人の男達が平然と会話をしていた。
「このガキはどうします?」
「あ?いつも通りに決まってんだろ?奴隷市場に出す、それだけだ。手ぇ出すなよ?」
「分かってますよ・・・ちくしょう」
一人の男が私の腕を掴む。
痛い!離して!
私の必死の抵抗も、男にとってはゼロに等しい。私は引きずられていく。
誰か、助けて!
私の視界は、真っ暗に染まる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・テラ!サテラ!?大丈夫か!?ッグヘェ」
私が飛び起きると、手にすごい痛みが走った。
横を見ると、顔から鼻血を出している麒麟がいた。
多分起き上がる時に、私の手が顔面に直撃してしまったのだろう。
「ご、ごめんなさい麒麟・・」
「だ、大丈夫だこれくらい、それよりお前は、大丈夫なのか?」
麒麟は鼻を抑えながら私を見つめる。
私はそんな麒麟の体に抱き付く。
「・・お願い、私を捨てないで・・」
思わず口に出てしまう。
「おいおい!いきなりどうしたんだよ?」
麒麟の顔は見えないが、声からして困惑しているのだろう。
「絶対役に立つから!いっぱい頑張るから!!だから・・捨てないで」
私は泣きながら必死に訴える。
もう、戻りたくない。
もう、これ以上失いたくない。
「・・ふふ、そういう事か、なら大丈夫だ!」
麒麟はそう言うと、私を持ち上げてきた。
麒麟の顔はニコニコしている。
「俺はお前を絶対捨てたりなんかしないし、見限ったりなんかしない」
「・・本当?」
「ああ、だって俺達には、ニカがついてるんだ!」
「ニカ?」
私は初めて聞く単語に混乱してしまう。
ニカ?誰?ミリス様の事?
「ああ、ニカっていうのはな、苦しい時、悲しい時に現れて、俺達を笑わせてくれる、解放の戦士だ!」
「解放の・・・戦士?」
麒麟の説明に、私は更に混乱してしまう。
「そうだぞ、ニカはいつでも人を笑わせる!こうやってな」
そう言って麒麟はスキップの様なダンスを始めた。
「どんどっとっと、どんどっとっと」
「・・ふふ、何それ」
麒麟のいつも以上に笑顔な顔と、陽気なステップに、不思議と私も笑ってしまう。
「ほら、サテラもやってみろよ」
「・・こう?」
「そうだ、うめぇじゃねぇか。どんどっとっと、どんどっとっと」
私達はお互いに笑い合いながら踊った。
いつの間にか、捨てられるなんて考えは頭から抜け落ちていた。
「お前ら!今真夜中だぞ!?イカれてんのか!?」
その後、宿屋の店主に締め上げられた麒麟を見て、私はまた大笑いをしてしまった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
昔の事を思い返しながら、私は迷宮を進んでいた。
迷宮に関してはエリナリーゼとパウロが殆ど攻略してくれているので、私はその暇な時間に、よくそんな思い出に浸っていた。
思い返すのは、麒麟と過ごした冒険の日々。
思えば、あの頃が一番楽しかったのかもしれない。
麒麟が私に話そうとしたのを拒絶した時からずっと、そんな事をばかりしている。
あの時なんで拒絶したのか、自分でもよく分からない。混乱していたのかもしれない。
でもあれからずっと、麒麟は私の近くに来ることはなくなった。
・・・謝りたい。
もう一度話し合って、また麒麟と仲良く生活を送りたい。
しかし、こんな経験初めてで、どうすればいいのかなんて分からない。
ずっと考えて、やっと出て来た言葉は
「帰ったら・・私とも話してね」
それでだけだ。
でもそれだけで、麒麟は理解してくれた。
やっぱり彼はすごい
ヒュドラとの決戦も、私はただずっと回復をするだけだった。
ロキシーは私と同じ回復役に徹しながらも、隙を伺い、ヒュドラに一泡吹かす事が出来たのだ。
麒麟はずっとルーデウス達と前線で戦っていた。
それも傷一つなく、
私も役に立ちたい!
そんな私の甘い考えが、彼を傷つける事になるとも知らずに、
麒麟、ヘルスがヒュドラの首を斬ろうとして失敗した。
私のせいだ。
私が元々のヘルスの役目を奪って、彼に無茶な仕事を押し付けてしまったのだ。
パウロが切り離したヒュドラの首に、炎をぶつける事には成功したが、私は迫るもう一本の首に気が付かなかった。
ヒュドラは静かに私を睨んでいた。
あ、死ぬ
ヒュドラは大きく口を開け、私に向かって突っ込んできた。
思い返したのは、家族と過ごした時間でもなく、麒麟との冒険の日々。
・・・嫌だ・・死にたくない。
まだ、約束も残ってるのに・・仲直りすらできてないのに・・
「サテラァァァァァ!」
次の瞬間、右から凄まじい力で私は突き飛ばされた。
私は転がりながら地面に倒れる。
・・・痛い、でも生きてる。
きっと、ヘルスが助けてくれたのだ。
私も向かわなければ・・
ゆっくりと体制を立て直そうとすると、ヘルスがいた。
それも、私のすぐ目の前に。
ヘルスには、下半身がなかった。
「え?」
理解できない・・なんで、ヘルスがこんな事になってるの?
ヘルスは私を見て、笑った。
「良かった・・無事で・・」
そう言ってヘルスは静かに目を閉じた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
私の足は折れているだろう、うまく歩く事が出来ない。私は足を引きずりながらヘルスの元に行き、泣き叫んだ。
私の事を大切にしてくれた。愛してくれた人が、また一人失ってしまう。
必死に治癒魔術をかける。聖級治癒魔術なら、千切れた体を治す事ができる。
しかし、失われた下半身は治らない。くっつける事は出来ても、再生する事は出来ないのだ。
そんな事を分かっていながら、私は必死に治癒魔術をかけ続ける。
「サテラ!麒麟!逃げますわよ」
後ろからエリナリーゼの声がするが、そんなのは今関係ない、治さなければ。
無情にも、私はヘルスから引き離された。
私はエリナリーゼに、ヘルスはタラハンドに担がれ、ヒュドラから逃げる。
「エリナリーゼ!離して!まだヘルスの治癒が・・・」
エリナリーゼに運ばれながら私は必死に叫ぶ。
その瞬間、向かって来たヒュドラが地面に衝突し、私達は体制を崩してその場に倒れる。
エリナリーゼは遠くの方で気絶している。
タルハンドも足を負傷し、動けそうもない。
私は這いずりながらヘルスの方へ行き、ヘルスを膝の上に乗せた。
「ヘルス・・私もそっちへ行きたい」
もう私に、生きる理由はない。
だったら、大好きな人と、最後を過ごしたい。
私はヘルスの顔に近づいて、唇をつけた。
その時、私とヘルスの周りから、黒い稲妻の様なものが出てきた。
〜〜〜ヘルス視点〜〜〜
目が覚めると、そこは真っ黒な空間。
俺の真上には小さな電球があり、俺の周りを照らしている。
俺、死んだのか・・
以前死にかけた時は・・確かアリエルの護衛の時だったか?
しかし今回はヒトガミがいない、つまり今度こそ、確実な死って事なのだろうか?
・・・はあ
ため息が出た。
正直、やり残した事は沢山ある。
サテラとした約束の数々
ヒュドラ討伐
冒険だって、まだ全然できてない。
でも、悔いがあるかあるかと聞かれたら、そうでもない。
俺はもう前世でいたよりも、長生きしたんだ。
それだけでも万々歳だ。
・・・もう、終わりでいいんじゃないか?
「再び与えられた命を諦めるとは、愚かな」
その時、暗闇から声がした。しかし、何故か俺は驚かなかった。
・・・誰だ?
声の主は何も言わない。
そして、真っ暗な場所から、ゆっくりと声の主が現れた。
そいつは、俺だった。
前世の俺だ。
でも俺は何故か、死装束を着ている。
それよりも、なんで俺が二人もここに居るんだ?
「・・・本当に何も覚えていないらしいな」
・・・?なんの事だ?
「あれだけ記憶を呼び起こしてやったというのに」
記憶?まてまて、なんの事だよ、勝手に話を進めんな。
「お前は、前世の事を何も覚えていないな」
は?覚えてるに決まってんだろ?俺は、、俺、、あれ?
俺の元の名前は、思い出せない。
他の事は思い出せる。漫画の事や、俺が過ごして来た日本の情報とか、言語だってまだ全然発音できる。
でも、俺に関する事だけ、抜け落ちている。
「なるほど」
前世の俺は何かを理解し、納得した様だ。
一人で納得してもらっても困るんだが?
「・・・お前は、まだ生きたいか?」
いきなりだな、、、まあそうだな、俺はまだ生きてみたい。別に死んでも悔いはないがな。
「・・・なら俺を受け入れろ」
・・・受け入れる?どういう事だ?
「俺は今、お前の魂の外側にいる状態だ。それを内側に入れろって事だ」
魂?なんだ?詳しい事は分からないが、お前を内側に入れれば、どうなるんだ?
「一つを代償として、お前は生き返り、強力な力を手に入れる」
代償ってのはなんなんだ?
「それは、言えない」
なんだよそれ、あまりにリスキーじゃねぇかよ。
「早くしろ、お前が考えている間にも、現実の時間は過ぎていくぞ」
そうなのか、、
・・・でも・・できればもう一度、みんなに、会いたいな・・
分かった。お前を受け入れる、、
前世の俺は、その言葉にニヤリと笑い、再び闇の中へ消えていった。
それと同時に、俺の意識も、どんどんと暗闇に消えていった。
〜〜〜ルーデウス視点〜〜〜
「ルディ!体を治したばかりです、無茶はしないでください!」
ロキシーが心配をしてくれるが、俺はそれに構う時間はない。
「師匠!今はそんな事を言っている場合ではありません」
「ルディ!?無事か!?」
「父さん!」
パウロも気絶から目が覚めた様だ。
「おい・・ヒュドラが元に戻って・・ッは!みんな!」
タルハンドとエリナリーゼは遠くに飛ばされたおかげで、ヒュドラの追撃を避ける事が出来たが、問題はサテラとヘルスだ。
ヒュドラがヘルス達に向かって突進する。
『ヘルス!サテラ!』
だめだ!間に合わない!
死んでしまう!
その瞬間、二人の近くに凄まじい黒い稲妻が走った。
そして、二人を中心に、魔法陣が出て来た。
「なんだあれは!?」
魔法陣には、五芒星が描かれていて、不気味な感じがする。
その時、サテラがこちら側に飛んできた。
「サテラ!?」
それをパウロが受け止める。
「みんな!ヘルスが!」
「分かってます!助けに行きたいんですが・・あれは・・!?」
いつの間にか、五芒星の中にいたヘルスがいない。
その代わり、五芒星の中から、黒い影が出て来た。
周りには煙が舞っていて、よく姿が見えない。
馬の様な姿をしているが、上半身は、人間?
そして何より、デカい、マナタイトヒュドラと同じくらいのサイズぐらいだろうか?
あれは・・・ヘルスなのか?
ヘルスの変身した状態と、よく似ているが、大きさが桁違いだ。
そして、煙が消える。
「嘘だろ・・・」
「あれが・・・」
「ヘルス!!」
その姿は、下半身は変わらない馬の形、だが肉はなく、骨だけだ。
上半身には、いつも通りのヘルスがいた。
しかし手には剣、いや、刀に近い物を持っている。
「あれが・・・ヘルス・・なんですか?」
真っ白だった羽衣の様なものは、紫色に変わり、どこか禍々しさを感じる。
ヘルスは、ゆっくりと俺達の方を見る。
俺とパウロは身構えてしまう。
しかしヘルスはそのままマナタイトヒュドラの方へ向き直った。
「・・・とりあえず、仲間って事だよな・・」
パウロが静かに呟く。
「そうですよね、きっと」
俺はそんな変わり果てたヘルスを呆然と眺める事しか出来なかった。
手遅れかもしれないんですけど一応
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戦闘描写たくさん
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話し合い、イチャイチャたくさん