貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
「ヘルス、ヘルスなの!?」
「サテラ!一回落ち着け!」
サテラはパウロが抱き抱えているが、離したら今にもヘルスの所に向かってしまいそうだ。
「なんで離してくれないの!あれは絶対ヘルスなのよ!?」
「俺達もそう思ってる、だが今この状況であいつに近づくべきじゃない!」
ヘルスはゆっくりとヒュドラの方へ歩き始めた。
甲高い鳴き声を上げながら三本の首がヘルスに向かってくる。
ヘルスが手に持っている鞘に入った刀の柄を掴む。
次の瞬間、向かって来たヒュドラの首が斬られた。
何が起きた?
まだヘルスは柄を掴んだだけだ。
それにヒュドラの斬られた部位もおかしい。
斬られた箇所が凍結している。
「ルディ、今の、見えたか?」
パウロが驚愕の顔でヘルスの方を見ている。
「いえ……全く…」
「あの速さ、ありゃギレーヌよりも……あいつは一体…」
パウロはブツブツと独り言を始めた。
ヘルスは斬った首を足で踏み潰している、それも不気味な笑みを浮かべながら。
ヒュドラの首は再生していない、首を見るに、どうやら首の根本から凍らされている様だ。
そして、ヘルスがゆっくりと鞘から刀を抜いた。
刀は黒紅色に染まっており、より禍々しさを感じる。
鳴き声を上げるヒュドラに構わず、ヘルスは不気味な笑みを浮かべながら、首を一本一本斬っていく。
「ヘルス、本当に……ヘルスなのよね?」
いつの間にかパウロから離れたサテラが、震える声で呟いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ギャアァァァァァス!
ヒュドラの最後の首が斬り落とされる。
ヒュドラはそのまま横に倒れ、死んだ。
「や…やったん…ですか?」
ヒュドラはもう再生しない、ピクリとも動かない。
「そうだ、やったんだ!あのヒュドラを、討伐したんだ!」
ギースがそう叫ぶ。
「先輩!パウロ!何ボケっとしてんだよ!あのヘルスが、ヒュドラを倒してくれたんだぜ!」
ギースのその声に、喜んでいる感じは一ミリもない。
「そ…そうですね、ヘルスにお礼を言わないといけませんね、ねえ父さん」
「………あぁ」
俺とパウロはゆっくりとヘルスに向かって歩く。
ヘルスはまだヒュドラの方を見ている。
その時、奥の結晶に亀裂が入り、割れた。
その中から出てくる一人の女性。
ゼニスだ。
「ゼニス!」
先程まで考え込んでいたパウロはそう叫ぶとゼニスの方へ走り始めた。
しかしゼニスの場所へ一番先に到着したのは、ヘルスだった。
なぜヘルスがゼニスの元に?
ヘルスはゼニスの前に行くと、前足の一本をゼニスの真上に上げた。
まさか、踏み潰す気か!?
「父さん!」
俺が言い終わる前に、パウロはヘルスの方へ向かい跳んだ。
「ヘルス!何してんだてめぇ!」
「ダメ!!」
後ろからサテラの叫び声が聞こえたが、もう遅い。
パウロはヘルスの肩から剣を振り斬った。
「んぬ!?」
意識外からの攻撃にヘルスは対応できず、そのまま体制を崩し、地面に倒れた。
パウロはゼニスを抱え、俺の後ろに後退した。
「ゼニス!無事か!?」
「父さん、いくらなんでもやりすぎです!」
「あいつはゼニスを殺そうとしていた。これくらい当然だろ!」
パウロの目は本気だ、まじで殺す気で斬ったのだろう。
倒れたヘルスの見る。
ヘルスは真っ二つ、にはなっていないが、かなりの重症だ。すぐに手当しなければ。
「とりあえず治療を……」
俺がヘルスに近づこうとした時、ヘルスは何事もなかったかの様に立ち上がった。
「………」
パキパキパキ
パウロに斬られた部位が再生していく。
「ヘルス!……大丈夫なん……ですか?」
パウロは目を大きく見開き、その場に立ち止まっている。
「おい…嘘だろ………」
しかし、ヘルスは治癒魔術を使えなかった筈だ。
一体、どうなってるんだ?
「虫ケラ共が……」
ヘルスは低く唸る様な声でそういいながら、柄を掴んだ。
……来る!
「ヘルス!やめて!」
その時、俺達の前にサテラが出て来た。
「サテラ!危険です、離れて!」
「ヘルス!私のせいで、こんな姿になっちゃったんでしょ!」
「………」
サテラは涙目になりながら続ける。
「ごめんなさい……あなたは私に歩み寄ろうとしてくれたのに……私がそれを拒絶して……沢山迷惑もかけて…」
ヘルスは静かに俺達を見下ろしていた。
「もうこんな事やめて…もうみんなを傷つけないで……私の事は…どれだけ傷つけたって構わないから……」
「サテラ、お前……」
サテラのこんな表情、初めて見た。最近悩んでいるような感じがしていたが、まさか、ヘルスの事でだったのか……
「……くだらん」
ヘルスの冷たい声が響く。
「え……」
「虫ケラの命乞いなど、心底どうでもいい」
ヘルスはそう言って鞘から刀を取り出した。
サテラの横から刀が迫ってくる。
「ッ!サテラ、危ねぇ!」
「パウロ!離れなさい!」
サテラを庇おうとするパウロの横から、目が覚めたエリナリーゼが入って来た。
ダメだ!受け切れるはずがない!
あのヒュドラの首を容易く斬るんだぞ?
真っ二つにされるだけだ!
「みんな!!」
ヘルスが振るった刀が、エリナリーゼの盾に触れる瞬間。
ヘルスの動きが止まった。
「ヘルス……?」
数秒の間、誰も動かない。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
いきなりヘルスが叫び声を上げ、その場で暴れ出した。
暴れる体からは黒いモヤが出ている。
ドスン!ドスン!
俺の目と鼻の先にヘルスの足が来た。
「危ねぇな!ルディ、ゼニスを連れて逃げろ!」
パウロはエリナリーゼとサテラを担ぎ、後ろに走る。
俺はゼニスを担ごうとするが、左手がないせいで上手く背中に乗せれない。
まずい、
このままでは、踏まれる!
すると、俺の横からタルハンドとロキシーが来た。
「ルーデウス!ゼニスはワシに任せろ!」
「ルディ!逃げますよ」
タルハンドがゼニスを担ぎ、ロキシーの肩を借りる形で、俺達もパウロの後を追う。
ボン!!
数十歩走ったところで、後ろの方で凄まじい爆発が起こった。
後ろを振り向くと、爆発の衝撃波で地面の破片がこちらに向かい飛んでくる。
その瞬間、俺の視界の左側が真っ暗になった。
「ッは!ロキシー師匠!!」
俺はとっさにロキシーの体を覆い隠した。
「ルディ!?」
ぐちゃ
背中から鈍い音がすると同時に、猛烈な痛みが走る。
「ぐ………!」
「ルディ!何を、離してください!」
ロキシーは必死に俺の体から出ようとするが、俺は右手で彼女を必死に抱きしめる。
しばらくして、何も来なくなったのを確認すると、俺はゆっくりと右手の力を抜く、ロキシーは服が多少破けているが、傷はない、良かった。神はどうやら無事な様だ。
「ルディ!あなた、目が!」
ロキシーは青ざめた顔でこちらを見てくる。
見えない、俺の視界の左側は、ずっと真っ黒のままだ。
俺は自然に左目を触る。
ない、
俺の左目には、ポッカリと穴が空いている。
だが、痛みは感じない、それ以上に背中の痛みが激しいのだ。
俺はその場にうつ伏せに倒れる。
「ルディ!すぐに治癒魔術を!」
「ッ!……お願いします」
「先輩!無事か!?」
ギースが助っ人に来てくれた様だ。
「ギース……ヘルスは……どうなりました?」
「ヘルスは爆発に巻き込まれて………嘘だろ…」
ギースの額から大量の汗が流れ始める。
ギースの見ている方向に目を向ける。
煙が散り、ヘルスの姿が現れる。
ちゃんと人間の姿をしたヘルスだ。
「はぁ……はぁ……」
ヘルスは膝をつき、苦しそうにしている。
「俺は……一体何を……」
〜〜〜ヘルス視点〜〜〜
目が覚めた時、俺はなんとも言えない高揚感で満たされていた。
俺はこの世界で最も強く、最も偉い存在。
そんな感じの思考になっていたんだ。
実際、手に入れた力は本物だった。
傷すらつけられなかったヒュドラの首を、容易く斬り落とせるし、魔力総量も、底が見えない程ある感じもした。
楽しい 面白い
ヒュドラを殺しても、まだ足りない。
もっと自分の力を見てみたい、試してみたい。
そこに現れたゼニス、俺にはゼニスが虫に見えた。殺した所でなんの罪悪感も湧かない、ただの害虫に。
虫を踏もうとした時、パウロが邪魔をする。
また害虫が現れた。
害虫は俺の体を斬った。
痛みが走ったが、すぐに俺の体は再生を始めた。
体が十分に再生し、俺は起き上がる。
そこにはさらに増えた害虫達が、
そして一人の虫が、俺に何か話し始めた。そいつは俺に謝ったかと思うと、命乞いを始めた。
仲間は傷つけるな。
無理に決まってるだろ、害虫を生かす意味なんてない。
そう思って刀を振り、3匹まとめて斬ろうとした時、俺の頭に記憶が流れて来た。
命乞いをして来た虫と冒険をする日々が。
笑い合って、時々言い合いになって、それでもどこか楽しかった冒険の日々。
違う、虫じゃない、彼女はサテラだ。
俺はやっと正気に戻り始める。
『大人しく意識を寄越せ!!』
その瞬間、俺の頭に直接声がした。
こいつは、さっきの……俺か?
やめろ…これ以上みんなを傷つけんな……
頭がカチ割れるほど痛い。
『んぬ……!貴様……!』
俺は意識が消えそうなのを必死に抑える。
『愚か者!後悔するぞ!!』
捨てゼリフとも言えるその言葉と共に、やっと俺は解放された。
気づけば俺は人型に戻っている。
自分の手を見る。
片手だけではない、左手もある。
だが今はそんな事どうでもいい。
「俺は……一体何を……」
俺は前を見た。
そこにあったのは、俺を恐怖の目で見つめているみんなの姿があった。
「ヘルス……あなたは……」
ルーデウスの体はボロボロだ。
左手と左目がない、まさか……俺がやったのか?
俺は……俺は……
俺は突然、糸が切れたかのようにその場に倒れた。
どうやら、体はもう既に限界らしい。
皆んなが俺を見つめているのを感じながら、俺はゆっくりと目を閉じた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺が目を覚ました時、俺はタルハンドに運ばれていた。
「んあ……タルハンド……?」
「!?……ッおお!ヘルス!目が……覚めたようじゃの…」
何かみんなで話し合っていたようだが、俺が起きた事が分かるとみんな黙ってしまった。
まあ、当たり前だよな…
俺、皆んなを殺そうとしたんだ。もう信頼はゼロになっている。
……辛いな
「ありがとうタルハンド、もう自分で歩ける」
「そ…そうか、ならそうじゃの、自分で歩いてもらうかの」
そうして俺は自分の足で歩き始める。
しばらくすると、外に出た。
眩しい。
迷宮はずっと暗かったが、外はどうやら昼らしい。
「じゃあお前ら、直ぐに町に帰るぞ……」
パウロの言葉に、静かにみんなが頷く。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
町に着くまでの間、俺達は何一つ会話をしなかった。俺の横には、もうサテラはいない。今はエリナリーゼの横で下を向きながら歩いている。
町に着いた頃には、夕方になっていた。
町の奴らは既に夜の店の準備をしている。
拠点に着くと、リーリャ達が出迎えてくれた。
ゼニスを女性陣に預けると、俺たち男性陣は解散となった。
解散と言っても、俺以外の奴らは飲み屋に行くらしい。
ルーデウスから誘われたが、俺はそんな気分ではないので、遠慮しておいた。
俺は久々に部屋に戻る。
部屋には誰もいない。今の俺には最高だ。
薄暗い部屋の中で、俺はゆっくりとベットに腰掛ける
これからどうするべきか、ひたすらに考えるが、どれも俺にはやる気がおきない。
今の俺は全てを失った気分だ。
サウロスやデリックが死んだ時と似ている。
あの時の方が、よっぽど辛かったが、
みんなからは、きっと見放されてしまったな……
分かっていた事だし、覚悟はしていたが、いざ受け止めると、想像以上に苦しい。
……クソ
涙が出てくる。
良かった、誰もいなくて。
コンコン
その時、部屋の扉を叩く音がした。
「ヘルス……いる?」
サテラか……
俺は涙を服で拭い、
いつも通りのスマイルの練習をする。
「ああ、いるぞ」
俺が反応すると、ゆっくりと扉が開く。
そこには、黒のワンピースを着たサテラがいた。
手遅れかもしれないんですけど一応
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戦闘描写たくさん
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話し合い、イチャイチャたくさん