貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
「サテラ、なんでここに?」
自分の声がひどく震えているのが分かる。
「なんでって、ここは私の部屋でもあるでしょ」
「それは分かってるんだが、ゼニスはどうしたんだ?」
「リーリャさんとエリナリーゼが後は任せろって言ってくれて……それで暇だったから部屋に……」
「そうか……ならいいんだが…」
サテラは部屋に入り、鍵を閉め、俺の横に座ってくる。
そこから、お互い何も言わずに時間だけが過ぎていく。
「……ごめんなさい」
俺が話そうとした時、サテラが先に口を開いた。
「私、あなたの気持ちを無駄にして……迷惑もかけちゃって…それであなたはあんな風に……」
「やめてくれ、あれはお前のせいじゃない、お前に本当の事を言えなかった…俺の責任だ…」
「………」
サテラの顔を見ようとしたが、恐怖で、横を見ることすら出来ない。
「本当にすまなかった。信じるって約束したのに、俺はそんなことすらしてやる事が出来なかった」
サテラは今まで、ずっと頑張っていた。
小言を言う事はあるが、俺の我儘にもいつも最後まで付き合ってくれたし、俺が朝寝ている間にも、食料の買い出しや依頼の確認など、俺が困らない様に色々動いてくれていた。
全部俺の為に。
それなのに俺は、何も返す事ができない。
俺は、彼女の横に居ていい存在じゃなかったんだ。
下を向き、俺は顔を歪めて拳を強く握る。
情けねぇなぁ……
我慢するはずだったのに、涙が……
「もういいの……」
俺の手に、そっとサテラの手が添えられた。俺よりも一回り小さく、傷一つない華奢な手だ。
「もういいって……どういう……」
「私の事、心配してくれてたのよね」
俺は勇気を出して、サテラの顔を見る。
サテラは泣いていた。しかしそれは悲しみの涙ではない。その表情はどこか安堵した顔をして微笑んでいた。
「あなたが私の事を大切にしてくれているのが分かったの、もうそれで、私は満足よ」
「でも俺はまだ……本当の事を話せてない」
「誰にだって、話せない事の一つや二つあるわよ。それを無理に話させようとした私にも非があるわ」
「………」
そんな事はない、と言えるほど、俺は強くない。
「ずっと私、頑張ってたのよ。あなたに認めてもらえる為に」
「……ああ、知ってるよ」
「あなたが寝てる時に、買い出しに行ったり、依頼の確認をしたりしたわ」
「……知ってる」
「らしくない話し方で、あなたに心配されないよう、強がってた」
「……そうなのか?」
「うん、ほんとは凄い怖かった。冒険者の人達も、魔物も、逃げ出したいくらい怖かった…」
サテラは顔を赤くして、俺の腕を強く抱きしめる。
「……本当に、今まで、よく頑張ったな」
「うん、だからね、あなたにお願いがあるの」
「…なんだ」
「私を、あなたの妻にしてください」
サテラは俺をベットに押し倒した。
サテラが俺の上に乗り、顔を近づける。
今度は拒絶しない。
「なあ、サテラ」
「……なに?」
「本当に、俺で良いのか?」
サテラが俺の唇を奪う。
それは数秒、一瞬の時間だったが、ずっとしていた様な感じがした。
名残惜しそうに唇が離れる。
「あなた"が"いいんです」
「でも、俺はそんな経験ないし、きっと下手だぞ」
「大丈夫、好きな人と繋がれるだけで、私は幸せです」
俺の耳に、サテラが囁く。
「後、これはエリスから教えてもらったんだけど」
「私、ヘルスの子猫が欲しいニャン」
「……フフ、なんだよそれ…」
「あれ?これで男は一発って言ってたんだけど…」
俺はサテラの髪を撫でる。いつ撫でてもサラサラだな、でも今日は一段と滑らかな気がする。
「そんな事しなくても、俺はもうサテラに堕ちてるさ」
サテラは顔を真っ赤にして、俺の胸に顔をうずめた。
夜はまだまだ長い。
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朝、外の騒音で目が覚める。
横を見ると、同じベットの上にサテラ、いや、妻の寝顔があった。
久々に寝顔を見たな、可愛い顔だ。
サテラを起こさない様、ゆっくりと起き上がる。全身が痛い、筋肉痛か?
昨日、俺は初めて大人の階段を登った。
23歳、前世の分も足すと30歳は軽く超える。
俺はそんな歳でやっと大人への階段を一歩進んだ。ちょっと遅すぎる。いや前世だったらこの歳ぐらいが普通ぐらいか?
ルーデウスにやっと追いついた感じがする。
全身の痛みとは裏腹に、俺の濁った心は晴れていた。
全てはサテラのおかげだ。本当、感謝してもしきれねぇ。
「んん、ヘルス?」
サテラが目を擦りながら起き上がる。
「おはよう、サテラ」
「うん、おはよ……ッは!?」
サテラは自分の来ていたワンピースがない事に気づき、真っ赤になりながら布団で体を隠す。本当に可愛い奴だ。
「昨日の事があったのに、これは恥ずかしいのか?」
「……それは、そうだけど」
「俺の妻は恥ずかしがり屋さんだな」
その言葉でサテラはムスッとした表情をして、布団にくるまってしまった。
しばらくの間、そんな感じでイチャイチャした後、俺達は着替えを終え、扉を開ける。
『あ』
部屋を出た瞬間、ルーデウスとロキシーが二人で部屋から出てきた。
ルーデウスとロキシーは別室だった筈だ。そんなロキシーの髪は少々乱れており、服は薄い物を一枚。
なるほど、ルーデウスも同じか…
「ルーデウス、おはよう」
「ヘルスにサテラ、おはようございます」
「ルーデウス、あなた……」
サテラは少し困惑している。当然だろう、妻子持ちの男が、女と共に部屋から出てきたんだ。
「ルディ、申し訳ありませんが、私はエリナリーゼさんと話があるので、リーリャさんの所には一人で行ってくれますか?」
「分かりました」
サテラが困惑している間に、ロキシーはエリナリーゼの部屋に行ってしまった。
そんなサテラの肩に手を乗せる。
「サテラ、この事については、俺が後で説明する。だから今は、ルーデウスには何も言うな…」
「……はい」
予定が狂ったが、これは俺とパウロが望んでいた事だ。ロキシーと一夜を過ごしたと言う事は、ルーデウスもその気があるのだろう。なら後はそれを俺達が後押しするだけだ。
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その後、俺達もゼニスとリーリャがいる部屋に向かった。
部屋に入ると、ボーと外を見つめるゼニスと、それをただ静かに見ているパウロとリーリャの姿。
二人とも元気がなさそうだ。
「父さんとリーリャさん、それに…母さん」
「おぉ、ルディ、それにサテラと……ヘルスか…」
パウロは俺を不安な顔で見てくる。
「パウロ…その……あの時は、すまなかった。俺のせいで、みんなに迷惑を……」
「別にお前のせいだなんて思ってねぇよ、大体、お前がいなけりゃあヒュドラを倒す事も、ゼニスを助ける事すら出来なかったんだ。むしろ感謝してるぜ。みんなもそう思ってる筈だ」
「どうだろうな……」
「皆さん、ヘルス様の元気がないと心配しておりましたよ」
パウロな横にいるリーリャが薄く笑いながら言った。
「ああ、お前が死んだような顔してたからな、みんな気が気じゃなかったぜ。でもお前の今な顔を見ると、解決できたようだな」
そう言ってパウロはサテラの方を見る。
どうやら、パウロには全てお見通しらしい。流石下半身と剣術に全振りした男、よく分かってらっしゃる
でもそのおかげで、俺の心は更に軽くなった気がする。
そうか、みんな俺に見放した訳じゃないのか……良かった。
そしてその後、俺達はゼニスの状態について詳しく聞かされた。
ゼニスは生きてはいるが、魔力結晶に閉じ込められた事で、廃人の様になってしまったらしい。
完全な廃人ではなく、赤ちゃんの様な言葉は発せれるし、動けもする。
しかし、治療法はない。
恐らくは一生、ゼニスはこの状態だと言う。
その話が終わると、パウロの強く握る拳からは血が垂れていた。相当ショックなのだろう。
俺はゼニスと面識などなかったが、一生をこの状態と聞くと、何か胸にくるものがある。
ルーデウスの母親、俺も一度話してみたかったな。
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しばらくして、俺達はベガリット大陸を去る事を決めた。
去るにしてはかなり早いが、シャリーアには出産を控えたシルフィがいる。これくらいスピーディーにいかなくては間に合わないかもしれない。
しかし今回は行きとは違い、少々遠回りになる。ゼニスとリーリャの為だ。こんな砂漠にも盗賊がいると言うのだから恐ろしい。
途中、転移魔法陣を使う事になるので、ルーデウスが念入りに他言しない様口止めをしていた。ギースあたりが心配だが、まあなんとかなるだろう。
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迂回ルートを使ったからか、俺達の旅はスムーズに進んだ。
ギースが購入したアルマジロみたいな魔物が相当優秀で助かった。魔物との戦闘に関しても、全く危険はなかった。
元S級パーティーメンバーと、現S級パーティーメンバーが揃ってるんだ。当然っちゃ当然か。
一番の問題はルーデウスだ。
今回、一番傷を負ったのはルーデウスだ。左腕を失い、更に俺のせいで左目も失った。ルーデウスは気にするなと言ってくれたが、そんな言葉で俺の罪悪感は消えない。
ルーデウスが体制を崩して倒れるたび、俺の心が痛む。
サテラが支えてくれなければとっくに俺は崩壊していただろう。
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砂漠の旅も終わりに近づいていた日の夜。
俺はサテラとパウロ、エリナリーゼの四人で焚き火の周りで座っていた。
見張りの為でもあるが、この四人で話したい事があったのだ。
「さて、今日俺達四人が見張りになったのは、お前達に話したい事があるからなんだ」
パウロが話を始めた。
「話って、ルーデウスの事でしょう?」
サテラが少し怪訝そうにパウロを見る。
「ああそうだ、みんな知ってると思うが、ルディはラパンでロキシーと一夜を共に過ごした」
「その事に関しては、わたくしもロキシーから聞きましたわ。自分は酷い事をしたと後悔していましたわよ」
パウロはゆっくりと頷く。
「ロキシーはルディが好きだ、それは間違いねぇ。だけどロキシーはルディに妻がいる事を知り、身を引こうとしてる」
「一夜を過ごしたのにか?」
「ああ、あの夜の事も、ルディを癒す為の行為に過ぎないんだろう」
「……なるほど」
「俺としては、家族の為にずっと頑張ってくれたロキシーに、幸せになって欲しいと思ってる。それが例え大切な人を傷つけるかもしれなくてもな」
「つまり、ロキシーをルーデウスの妻に迎え入れたいって事?」
「そうだ、俺はロキシーをルーデウスの嫁として迎え入れたいと思ってる」
即答するパウロに、サテラは下を向き、難しいそうな顔をしている。
「そこでだ、ルディを支えてきてくれたお前達に聞きたい。本当にそれで、ルディ達は幸せになれると思うか?」
パウロの問いかけに、俺達三人は黙ってしまう。
各々がそれぞれ考えを見つけている。
「わたくしは、それでも良いと思いますわ」
エリナリーゼが口を開く。
「いえ、絶対にそっちの方がいいですわ」
「なんでだ?」
俺が聞くと、エリナリーゼはロキシーのいるテントに目を向ける。
「彼女、本当はもっとルーデウスに甘えたい筈ですわ、それを必死に抑えて身を引こうとしてるんです。そんな姿、友達としては見るに耐えませんわ」
確かに、それもそうだ。ロキシーを初めてみた時、彼女の視線はルーデウスしか見えていなかったはずだ。それぐらい本気でルーデウスが好きなのだ。
ずっと好きだった人がすでに既婚者で、儚く散る恋。
可哀想ではある。
「それに、恐らくですが……」
エリナリーゼが話を続ける。
「彼女、妊娠していますわ…」
その言葉に、全員の動きが止まる。
『はあ!?』
真夜中の砂漠に、三人の大声が響いた。