貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
52話 マイホーム
ロキシーがルーデウス邸に来てから数ヶ月が経過。
その数ヶ月間、俺は動きっぱなしの生活を送っていた。
まずは学校に戻って挨拶回りだ。特別生の他に、アリエルやルーク達にも報告をして回った。
まあ大体みんなの反応は、「随分と見た目が変わりましたね」とかだったが、それでも俺達の帰還を喜んでくれていた。友達はいるのはやっぱり安心する。
アリエルからはまた抱きしめられそうになったが、俺はもう既婚者だ。
その抱擁を軽く避け、結婚の報告もしておいた。
「……そうですか、それはおめでたい事ですね!」
最初の悲し気な顔が気になったが、一応納得してくれた様子でホッとする。
そして次に起きたのはシルフィの出産だ。
俺とサテラはしばらくの間ルーデウス邸に通っていたから、出産の場に立ち会う事ができた。しかし夫以外の男は、出産の瞬間を見せる事はできないので、シルフィが必死に踏ん張る声を聞きながら、俺とパウロは部屋の外で待っていた。
「俺に…とうとう孫ができるのか……ズピ」
「あー、そうだな、でもまずはお前、泣き止めよ……」
「仕方ねぇだろ!止まらねぇんだよ」
俺の横で泣きじゃくるパウロの対応に困る。こいつは本当に涙腺が緩いな……
俺も人の事言えねぇが。
しばらく待っていると、部屋から産声が聞こえてくるのと同時に、サテラが疲れ切った様子で出て来た。
「はあ……無事に産まれたよ」
「ッ!ルディ!!」
その言葉と共にパウロが部屋に入って行く。
サテラが俺の胸に倒れ込んだ。
「本当、緊張で死ぬかと思った」
「フフ、お疲れさん」
サテラを労いながら、俺も部屋に入る。
ルーデウスの初めての子供は、女の子だった。
ルーデウスによく似た髪に、シルフィと同じオレンジの目、そしてエルフ特有の長い耳、実に可愛らしい子だ。
「麒麟も持ってみてください」
「あ、ああ」
ルーデウスから赤ん坊を渡される。白い布で覆われた赤ん坊。
「随分と、軽いな…」
「そりゃあ赤ん坊ですからね」
赤ん坊は俺の腕の中でスヤスヤと眠っていた。どちらかと言うと、顔はシルフィに似ている。
「ルディ!シルフィ!おばえら…ほんどうに、頑張っだな…」
パウロに赤ん坊を渡そうと思ったが、とても持てそうな状態じゃないな。
「旦那様、落ち着いてください」
「だってよ………ズピ」
しばらくルーデウス邸には、パウロの泣き叫ぶ声が響いていた。
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本当、色々大変だったな。
そんな出来事を思い出しながら、俺はゆっくりとベットから起き上がる。
忙しい数ヶ月が過ぎ、今日から俺は三年生だ。感覚では一年前に入学した感じなんだが、時の流れは本当に早いな。
目を擦りながら俺は制服に着替え、階段を降りる。
階段を降りると、途端にパンの焼けたいい匂いがして来た。
俺は匂いに釣られ、キッチンへ向かう。そこにはエプロンをかけたショートヘアの女性が一人。
「あ、麒麟、おはよう」
「ああ、おはようサテラ」
そう、サテラだ。
「もうそろそろ準備できるから、座って待ってて」
「助かるよ」
俺は言われるがまま、近くの椅子に座る。しばらくすると、テーブルの上に豪華な朝食が並べられる。
『いただきます』
俺は見るからに美味しそうなパンを手に取り、一口かじる。外はカリカリで中はモチっとしている。
とても美味しい。
「……サテラの焼くパンは本当にうまいな」
「そう?フフ、ありがと」
サテラはそう言ってニコニコしている。
「毎日家事をやって、朝食も準備してくれるなんて、ほんと頭が上がらねぇよ」
「私は全然気にしてないよ、むしろこの家を買ってくれた事に感謝したいぐらいだよ」
そう、この数ヶ月の間に、俺は一軒家を購入した。
最近忙しかったのは、これが一番の原因だ。
俺が一軒家を購入した理由、それはクリフの発言からだ。
ルーデウスがシルフィと新婚ホヤホヤの頃、食堂でクリフがルーデウスに言っていた。
「相手側がいいところのお嬢さんで家を持っているってんならともかく、どっちも家無しだったら、男が用意するのが甲斐性ってもんだろ」
その言葉を思い出し、俺は急遽、家の購入に至ったのだ。
これでも俺はS級冒険者、金の心配ならいらない。
しかしルーデウス邸の様にあまりにデカすぎる家はソワソワするし、サテラもあまり好きそうな感じでもない。悩んだ末、俺はどこにでもありそうな一軒家を購入した。
二階建ての新築、そして何より、風呂がついている。この世界の風呂は貴重だ。なんでも普通は桶などで軽く済ましてしまうから、元々使う人があまりいないってのが原因らしい。
でも俺は日本人、風呂には入りたいのだ。しかしそれだけが理由ではない。ここは学校からも近いし、近くには沢山の店があるので生活面でも便利だ。サテラのお気に召すかは別として、暮らしやすさで言ったらこの物件が一番よかった。
家を購入して一週間後、一通り家具も揃えた俺は学校終わりにサテラを新居に連れて行った。
「これが…私達の暮らす、家?」
「そうだ。サテラはあんまり大きい家が好きじゃないかと思ってな。ありふれた感じの家になっちまったが、結構便利なん……」
話しながら横を向くと、サテラは手で口を覆いながら、涙を流していた。
「お気に召さなかったか?」
「ううん、違うの、ただ……嬉しくて」
まずい、人が集まって来た。
俺は啜り泣き始めたサテラを抱えて家の中に入る。
家に入り、サテラをリビングにあるソファに座らせた。
「大丈夫か?」
「私ね……ずっと夢見てたの」
「……ん?」
「大好きな人と、ずっと一緒に暮らせる事をずっと夢見てたの。でも、奴隷になってから、そんな事もう叶わないんだって思ってて……」
「……そうか」
「まさか本当に叶うなんて、嬉しくて……」
俺はサテラの頭をただ撫で続ける。
「……なあサテラ、改めて言わしてくれ」
「……ん?何?」
サテラは涙でクシャクシャになっている顔でこちらを見つめている。
「サテラ、お前を愛してる。結婚してくれ」
俺にしては随分と臭い事を言ってしまった。
「はい……喜んで」
そう言ってサテラは俺をソファに押し倒す。
……この状況、前と同じじゃね?
「あの……サテラ、このソファ新品なんだ。出来ればあんまり汚したく……」
「……麒麟が悪いから」
次の日、俺は新品のソファを買い直すハメになった。
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朝食を食べ終えたら、俺達は一緒に学校へ向かう。
学校の門をくぐると、見知らぬ顔の奴らが大量に集まっていた。こいつらが今年の新入生か、今年は去年よりも獣族が多い印象だ。
俺達がその間を潜り抜けようとすると、主に獣族の新入生が俺の前にどんどん群がってくる。
「あ、あの!あなたが麒麟さん、ですか?」
その中でメガネをかけた犬?の様な耳をしている獣族が話しかけて来た。
「そうだが、なんの様だ?」
「やっぱり本物だ!迫力がパネェ!」
「立派な角、憧れるわぁ」
「あの!もし良かったらこれ受け取ってください!」
ちょっと鬱陶しいが、尊敬されてる感じがして悪くはない。
しかし、次々に現れる獣族の波に押され、元いた位置に戻されてしまった。このままでは学校の中に入る事すらできないぞ……
「うるさいの、ファックなの」
奥の方から聞こえたその声に、周りが一瞬にして静まる。
声の主、あいつは、プルセナか!
「あ、す、すいません!プルセナさん!」
一番ガタイのいい犬っぽい男がプルセナに謝りながら近づく。
「私の言ったこと、聞こえなかったの?」
「ヒィ!」
プルセナが睨むと男は後ろに尻餅をつき倒れた。
「ボスが通れなくて困ってるの。さっさと道をあけてあげるの」
『は、はい!』
プルセナの一声で、獣族達は左右に広がり、俺の前には広い道ができる。
「さあボス、サテラ!これで通れるの!」
「あ、ああ。ありがとなプルセナ」
「ボスのNo.2として当然の事をしただけなの」
No.2て、俺はこいつを舎弟にした覚えはないんだが、でも、なんでこいつは他の獣族にこんなに威張れるんだ?
やはり族長の娘ってのが大きいのだろうか?
「しかし、あんまり新入生を怖がらせるなよ。こっちまで評判が悪くなる」
「別に怖がらせてる訳じゃないの、勝手にビビってるだけなの」
「プルセナ……!」
こいつ、俺がベガリット大陸に行ってる間に、ブイブイ言わしてたんだろうか?この感じだと、絶対にしていたな。
これは後でお仕置きが必要な様だ……
「…ッヒィ!分かったの、これからはあんまり威張ったりしないの!」
「麒麟、プルセナは私達を助けてくれたんだよ、そんな怒ったりしちゃダメでしょう?」
横にいたサテラが少し不満げな表情をしている。
「まあ確かにな、すまんなプルセナ。俺も少し調子に乗ってたよ」
「だ、大丈夫なの。そんな事よりも、リニア達が中で待ってるの!」
「ああ、じゃあそろそろ行こうか」
「うん」
俺達は左右に広がる新入生に軽く礼をいいながら教室へ向かう。
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教室に入ると、既にルーデウスとリニア以外は全員揃っていた。
「おお!麒麟殿にサテラ殿!おはようございます」
「あら、今日は随分とお早いですのね」
「おはよう麒麟、サテラ」
……こいつらに挨拶されると、なんかこう、懐かしい感じがするな。
「ああ、おはようみんな」
「あれ?リニアがまだ居ないの」
「リニアなら先程、師匠を呼びに教室を出て行きました」
なるほど、ルーデウスも今日学校に来ているのか。出産でバタバタしていたが、一応落ち着いた、と言う事なのだろうか?
「そんな事より君達、結婚したんだって?」
エリナリーゼとイチャイチャしていたクリフが唐突に聞いて来た。
「そうだが、誰から聞いたんだ……って、エリナリーゼ、お前か…」
「そうですわよ。あなた達の結婚を皆んなに祝ってもらう為ですわ」
「別に祝って貰わなくてもいいんだが……」
「あ、麒麟にサテラ、おはようございます」
扉からルーデウスとリニアが出て来た。
「おお、ルーデウス!子供の方は、もう大丈夫なのか?」
「はい、リーリャさんや父さんに任せてあります」
なるほど、確かにあの二人がいるなら、子供の心配は要らなそうだな。
「師匠!おはようございます!」
「ルーデウス!遅かったじゃないか!」
「お、おい!あちしには挨拶なしニャ!?」
一気に賑やかになる教室。
こんな光景も懐かしいな。
ベガリット大陸で失った物は大きい、もう一人の俺についても、未だ謎だ。
でもとりあえずは、またいつもの日常に戻れたんだ。
この幸せを、ずっと続けていこう。
手遅れかもしれないんですけど一応
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戦闘描写たくさん
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話し合い、イチャイチャたくさん