貴殿転生 元の知識で本気出す   作:MENOUENOTANKOBU

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58話 すれ違い

 

俺は北神三剣士との戦闘の後、ダリウスによりある屋敷へと案内された。途中、サテラは治療のため、メイド達に連れて行かれたが俺は別室で待機と言われてしまった。

 

そこで一夜を過ごして待っていると、ダリウスがある人物を連れてやってきた。

 

「あ、あなたは……」

 

「おや、どうやら私の事は覚えていてくれている様だな。結構」

 

グラーヴェル・ザフィン・アスラ

 

アスラ王国の第一王子で、アリエルの異母兄。最後に会った時とは違い、口髭を蓄えていて、以前よりも男前になっている。

 

なんでこいつがここに?

 

「ヘルス殿が帰還されたと報告したところ、グラーヴェル殿下が是非お会いしたいとの事でしてね。もちろんよろしいですな?」

 

「そういう事でしたら構いません。しかし……」

 

グラーヴェルが何を考えているかは分からんが、どうせろくでもない事だろう。しかし、今俺が知りたい事は一つ。

 

サテラの安否だ。

 

「サテラはどうなりました?」

 

「ああ、彼女の事でしたら、医務室で寝かせておりますよ。治療はまだしておりませんが」

 

「そんな……まだ治療を始めてないのですか?十分時間はあった筈です。なんでまだ……」

 

「慎めヘルス、貴殿はノトスを出奔した身、本来ならここで話をする事すら許されないのだぞ?」

 

「………すいません、少々取り乱してしまって……」

 

「まあまあグラーヴェル殿下、彼も相当焦っているのでしょう。しかし安心なされヘルス殿、彼女の病気は私の魔力付与品で進行を止めておりますので」

 

「……そうなのですか」

 

ならそれをもっと早く言ってくれよ……

 

しかしそうか、サテラは一応無事なのか。まだ完全な治療ではないが、ダリウスはアモール病を治す為のスクロールを持っている。なんとかしてそれを使わしてもらわなければ。

 

そんな感じで始まった俺達のお茶会、正直いいスタートとは言えない。

 

俺は用意された椅子に座ると、続いてダリウスとグラーヴェルがメイドに渡された紅茶を飲みながらゆっくりと椅子に座る。

 

「では今一度確認したいのですが、ヘルス殿はあのサテラという方を助ける為に、ここに来たという事でよろしいですな?」

 

ダリウスが飲み終えた紅茶をそっとテーブルに置く。

 

「はい、そしてサテラの病気を治す為に、ダリウス様が持っておられるスクロールを貸していただきたいのです」

 

「ほう……」

 

ダリウスの顔がまたニヤケ始めた。

 

俺は立ち上がり、ダリウス達に向けて頭を下げる。

 

「サテラは俺の大切な家族なんです、もちろん、頼める立場ではない事は分かっています。でも俺は、サテラをどうしても助けたいんです。その為なら、俺はなんでもやります」

 

俺は歯を食いしばる。

 

……悔しい、サウロスの仇が目の前に居るのに、俺は今そいつに頭を下げている。屈している。

 

情け無い……

 

「ムフフ。なるほど、覚悟はあるようですな」

 

グラーヴェルはダリウスに目配せをし、ダリウスは愉快そうな笑みを浮かべる。

 

「では分かりました。ヘルス殿がそこまで仰るのであれば、私も彼女の治療に協力致しましょう」

 

「本当ですか!?」

 

「ええ、ですがもちろん幾つか条件があります。それさえ呑んでくれれば……」

 

突然、廊下の方が騒がしくなり、ダリウスは喋るのを辞めた。

 

「父上!もう少し落ち着いてください!」

 

「ヘルス!本当にヘルスがいるのか!?」

 

ああ……懐かしい声だ。

 

声がどんどんと近づいていき、部屋の前まで来ると、扉がもの凄い勢いで開けられた。

 

「ああ……ヘルス……ヘルスなのか……」

 

「父上……兄上……」

 

部屋に入ってきたのは、父ピレモンと、兄であるディエゴ。

 

二人の様子はすっかり変わっていた。

 

ディエゴは以前よりも漢、と言う感じがでていて、全体的にがっしりした体格になっている。

 

しかし父の姿は……酷いものだった。

 

元々顔色は良くなかったが、見違える程に顔が痩せこけていて、目にはクマが見えている。髪や服はしっかりと整えられているが、それでもどこか不衛生な感じがする。

 

父は俺にゆっくりと近づいてきて、震えた手で俺の頬を触る。

 

冷たい手だ。

 

「ああ……夢ではないのか……?」

 

「現実ですよ、父上」

 

俺が微笑みかけると、父は俺を抱きしめてきた。

 

「すまかったなぁ……ヘルス……」

 

「………」

 

「お前に無茶をさせて、お前の事を考えず、一方的に傷つけた………私はクズだ……」

 

父は鼻を啜りながら、さらに強く俺を抱きしめる。

 

「父上はお前が出奔してから、寝る間も惜しんで捜索をしていたんだ」

 

「そうなんですか……」

 

そう語るディエゴの目も少し潤んでいる。

 

俺は幸せもんだな……こんなにいい人達に大切にされてたんだ……

 

父さんには申し訳ない事をしたな。いなくなる前に、せめて一言ぐらいは言うべきだった。

 

「父上、ご迷惑をお掛けしましたね……」

 

「いいんだ……ヘルス……グス」

 

俺はしばらく啜り泣く父と抱きしめ合っていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

父が落ち着くと、俺は父に状況を説明した。

 

今まで冒険者の麒麟として、ラノア王国の魔法学校にいた事、そこでアリエルやルーデウス、パウロ達と過ごしていた事など全て。

 

「ヘルス、お前……結婚したのか……?」

 

「ええ、俺はその人を救う為にここに戻ってきたんですよ」

 

俺がそう言うと、父は感慨深そうに下を向いた。

 

こういうとこは、パウロよりも強いな。

 

「やはりアリエル……生きていたか………」

 

グラーヴェルは一人、苦虫を噛み潰した様な顔している。

 

「まあ少々ハプニングはありましたが、ピレモン卿が来るとは丁度良い。ヘルス殿、条件の話をしてもよろしいですかな?」

 

蚊帳の外にいたダリウスが話し出す。

 

「ええ、お願いします」

 

丁度良いとはなんだ?父に関連する話なのか?

 

「ではまず一つ目は、ヘルス殿、あなたがグラーヴェル殿下の守護術師になる事です」

 

「……分かりました」

 

まあ、それはある程度想定はしていた。俺は今、サテラを人質に取られている状態だ。つまりこいつらを裏切れないのだ。

 

そして自慢ではないが、俺は北神三剣士に対し善戦していた。そんな戦力をこいつらが見逃すはずが無い。

 

「そして二つ目」

 

ダリウスはそう言うと、ピレモンを指差す。

 

「ピレモン卿、あなたがノトス家当主の座をヘルス殿に譲る事です」

 

『!?』

 

なんだと?俺をノトス家の当主に?

 

「ダリウス様、それはあまりに……」

 

「言ったはずですよ。条件を呑まなければサテラ様は助けないと」

 

「………」

 

クソ、不覚だった。

 

こいつら、ノトスを自分達の傀儡にしようとしてるんだ。

 

逆らえない俺が当主になる事で、こいつらは間接的にノトスを操ることができる。そうすれば自分の手を汚さなくとも、全て俺達に責任を押し付けることが出来る。

 

しかし、そんな事を父が許す筈が……

 

「分かりました。当主の座はヘルスに譲りましょう」

 

「父上!?」

 

父は覚悟を決めたような顔で、ダリウスの条件を呑んだ。

 

「父上……何故……」

 

「ヘルス、これは私達に出来るお前への最大限の贖罪だ。ディエゴ、お前もそれでいいな?」

 

「……私は……構いません……」

 

父さん……やっぱりあんたは……

 

……ダメだ、まだ全部の条件を満たしてない。感謝するのはその後だ。

 

「分かりました。では最後三つ目です。まあこれは条件と言えるかは分かりませんが」

 

ダリウスがそう言うと、グラーヴェルが少しニヤけた。

 

「サテラ様を完全に治療するのは、グラーヴェル殿下が王になられてからです」

 

その言葉に、下を向いていた俺は顔を上げる。

 

こいつが王になった後だと?

 

それはつまり……

 

「ダリウス、もう遠回しに言う必要もないだろう?」

 

「フフ……それもそうですな。ではヘルス殿、率直に言わせていただきますね」

 

……待て、言わないでくれ。

 

自分の心臓が、異常な速さで鼓動しているのが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

「アリエル様を、始末してください」

 

 

 

 

 

〜〜〜ルーデウス視点〜〜〜

 

 

『すまないが、やはり王都へ向かう事にした。絶対に戻ってくるから、ナナホシを頼む』

 

ヘルスの部屋に置いてあった手紙にはそう書かれていた。

 

 

 

「すまない……完全に俺の責任だ……」

 

パウロが深々と頭を下げる。

 

「やめてください父さん、あなただけのせいではないでしょう?」

 

「そうですわよ、麒麟をちゃんと説得できなかったわたくし達にも責任はありますわ」

 

俺とエリナリーゼがフォローするが、パウロはバツが悪そうにして椅子に座っている。

 

「麒麟が、王都に……」

 

アリエルは思い悩んでいる様な声で呟く。

 

「アリエル様、分かっているとは思いますが……」

 

「ええ、心得ていますよルーク。今の私では王都へ戻る事が出来ない。ですが……」

 

アリエルはそこまで言うと、口を閉ざしてしまう。

 

きっと不安で仕方がないんだろう。

 

恐らく、いや絶対にアリエルは麒麟……ヘルスが好きだ。流石の鈍感な俺でも、露骨にヘルスに近づこうとするアリエルの姿を見れば気付く。ヘルスは結婚してしまったが、それでもまだ諦めきれていなかったんだろう。

 

そんな想いを寄せている人が、悪意が渦巻く危険な場所に行ってしまったのだ。俺だって不安になる。

 

「……なあルディ、そろそろアリエルにも、麒麟の正体を言ってやった方がいいんじゃないか?」

 

横に座っていたパウロが耳打ちしてきた。

 

「それはヘルスが言わなきゃいけないじゃないですか」

 

「だけどよ、今のアリエルの姿、見てるこっちが辛くなってくるぜ?」

 

「……まあ確かに、そうですね」

 

正直言って、今のアリエルは、ただ起こりえるかもしれない最悪の事態に怯える一人の女性だ。元々あった人を惹きつけるようなカリスマ姿は消え失せてしまっている。

 

そこまで憔悴しきっている彼女に、麒麟の正体を明かしたらどうなるのだろうか?

 

安堵するのか?それとも更なる不安を煽るだけになるのか?

 

 

……ダメだ、ここで明かすにはリスクがデカすぎる。

 

「もうちょっとだけ、様子を見ましょう」

 

「そ、そうか?お前がそこまで言うなら、無理にとは言わないがよ……」

 

「フフ、お二人方は一体なんのお話をされているのですか?」

 

アリエルが苦笑しながら俺たちの方を向いている。彼女なりに頑張った笑顔なのだろう。

 

「ああ、いや……これはその……なあ……ルディ?」

 

パウロは突然の問いにあたふたしていて頼りになりそうにない。

 

「麒麟なら大丈夫だろうって話をしていたんですよ」

 

「なるほど……どうしてそう思うのか教えてもらってもよろしいですか?」

 

アリエルは一瞬疑いの目を向けてきたが、すぐにいつもの柔軟な笑顔に戻る。

 

「特に理由はありませんよ。ただの勘です」

 

「勘……ですか?」

 

「ええ、それに手紙には、絶対に戻ると書いてあるでしょう?彼が今まで約束を破った事、一度でもありました?」

 

そこまで言うと、アリエルはハッとした表情をする。

 

「……そうでしたね、彼は約束を守る男でしたね」

 

だんだん顔は笑顔へと変わる。それは今までの苦しい笑顔ではない。

 

少し安心した、穏やかな笑顔だ。

 

 

咄嗟に思いついた事を言ってしまったが、あながち間違いではないだろう。

 

 

 

 

ヘルスなら大丈夫だ。そう確信できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

手遅れかもしれないんですけど一応

  • 戦闘描写たくさん
  • 話し合い、イチャイチャたくさん
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