貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
アスラ王国のミルボッツ領
そこはノトス家の領地であり、酒の名産地として有名な地域である。
「門を守れ!一匹たりとも中に入れるな!」
ミルボッツ領の中でも最も大きな都市に、その声は響いた。
都市の城壁を囲むのは、大量の魔物達。E級程の魔物から、B級にすらなるかもしれない魔物、とにかく種類は様々。
「ここはアスラ王国だよな?何故こんなに大量の魔物が?」
「知るかよ!おい、聖級の魔術師はいないのか!?」
兵士達は城壁の上で混乱に陥っていた。城壁を囲んでもなお余るほどの魔物の軍勢、それを見た瞬間から、兵士達の戦意は既に消えてしまっていた。
「……ダメだ、こんなの……無理だ……」
一人の兵士が後ずさると、他の兵士にもその感情は伝播されていく。
『ガァァァァ!!』
魔物達が一斉に声を上げると、都市に向かい全力で走り始める。
「ッく、弓兵!撃て………」
ゴロゴロ……
その瞬間、雲一つなかった筈のミルボッツ領は、突如として真っ黒な雷雲に覆われた。
突然の天候の変化に、その場にいる全員が空を見上げる。
「な、なんだ……あれは」
「見ろ!あそこ!竜巻が……」
一人の兵士が指を差す。その方向には、巨大な竜巻が渦巻いていた。
ドォォォォン!!
凄まじい衝撃音と共に、巨大な竜巻が一瞬にして消える。
それと同時に、馬のいななきの様な鳴き声が、都市全体に響く。
兵士達は困惑の表情を浮かべながら、周囲を確認しだす。
魔物の数は減っていない。もしかしたら少しは竜巻に巻き込まれ、少なくなっているのかもしれないが、それでも危機的状況を打破するほどの数にはなっていない。
パカラッパカラ
「おい!あれ……」
「馬……いや……人か……?」
「どちらにしても、大きすぎる……20mはあるぞ……」
竜巻が発生した方向から都市に何かが突進してくる。
下半身は馬、上半身は貴族の服を着た、茶髪の……男。
男は、魔物の群れの中に入ると、姿を消した。
その近くにいた魔物は全員凍りついている。
パカラッパカラ
そこから、まるで弧を描く様に、次々と魔物達が凍らされていく。魔物達は悲鳴の様な鳴き声を上げながら、迫り来る恐怖から逃れようとするが、それは無駄な抵抗だった。
数分後には、都市を囲んでいた魔物達は、全て氷の人形の様になっていた。
「助かった……のか?」
「あれは一体なんだった……ッヒィ!」
いつの間にか、男は城壁の目の前にいた。それも宙に浮きながら。
「魔物は……これだけか?」
男は、腰を抜かす兵士達を無視し、全員に問いかける様に話す。その背筋が凍る様な低い声は、怯える兵士達の不安を更に掻き立てる。
「は……はい!これで……終わりです!本当に、ありがとうございました!」
兵士長らしき人物が、怯える兵士達を掻き分け、男の前に出る。
「………」
男は兵士長の返答には答えず、後ろを向く。
後ろを向いた瞬間、男の上半身が真っ黒な液体になる。
ドロドロとした塊が、再び上半身を形作っていく。
しかし今度は人間の上半身ではない。2本の角が生えていて、まるで龍の様な姿になっていた。
謎の生物がいななきを上げると、その場から消え、奥の方の森へ走り去ってしまった。
腰を抜かした兵士達が、仲間達にゆっくりと担がれ始める。
「兵長、あれは一体……」
「ああ?お前ら、あの方を知らないのか?」
兵士長の戸惑いの声に、兵士達は互いに顔を見合わせる。
「はぁ、お前らよく聞けよ!あの方は、ノトス家の新たなる当主であり、アスラ王国第一王子、グラーヴェル様の守護術師」
「『氷王』ヘルス・ノトス・グレイラット様だ!」
〜〜〜ルーデウス視点〜〜〜
ヘルスが王都へ行ってから二週間程が経っただろうか?
俺達はナナホシを救う為、魔大陸に向かった。
メンバーは俺、ザノバ、クリフ、エリナリーゼ、そしてパウロだ。
魔大陸に行ったのは、ドライン病を治す方法を知っていそうなキシリカを探す為だ。
幸いにもキシリカはすぐに見つかり、ドライン病を治すには、ソーカス草というものを見つけなければならないという事も分かった。
しかしそこでアトーフェという魔王に出会ってしまい、半ば強引に部下にされそうになってしまった。そのおかげでソーカス草は手に入れたが、俺達は死にかけ、後一歩で負けるという所で、ペルギウスの助太刀が入り、なんとかギリギリで生還する事ができた。
そして今は、ソーカス草を煎じたお茶を飲み、容態が良くなったナナホシと、部屋で話し合いをしている。
「……そう、麒麟は……王都に行っちゃったのね」
「そうだけど、随分と悲しそうだな」
ナナホシは悲しそうに下を向く。
「もしかしてナナホシ、お前……麒麟が好きなのか?」
「そんなんじゃないわよ……ただ、ちょっとね……」
まあ確かに、ナナホシは麒麟が恋愛的に好きそうな感じではない、ていうか、元の世界に戻りたい理由の一つに、恋人に会いたいってのがあるんだ。麒麟を好きになる事なんて多分ないだろう。
でも、なんかナナホシにとって、麒麟は特別な存在の様に感じる。
それは同じ異世界人である俺と、似た様な……いや、それよりももっと信頼している様な感じだ。
ここで問い詰める事も出来るが、彼女は病み上がり、いきなりそんな質問攻めされたら治るものも治らない。今は安静にさせるべきだろう。
「そうか、じゃあ俺はそろそろ行くよ。また何かあったら呼んでくれ」
「あ……ちょっと……いえ、なんでもないわ」
「……?分かった」
ナナホシが何かを言いかけたが、そのまま黙ってしまう。
こいつ、さっきから恩返しがしたいとか言ってたし、その事で何か言いたい事でもあったんだろうか?『私を3人目の嫁にして』とか言われたらどうしよう。俺は別に構わないが……シルフィ達が許してくれるかどうか……
そんな事を冗談混じりに考えながら、部屋のドアノブに触れようとした瞬間。
扉が勝手に開いた。
開いた扉の外から、一人の人物が入ってくる。
パウロだ。
「父さん?一体どうしたんですか?」
「ル……ルディ……」
パウロは気まずそうにしながら、ゆっくりと俺に頭を下げた。
「すまんルディ!俺……ゲロっちまった!」
「……はい?」
ゲロった?何を?俺は別にパウロに隠し事なんてした覚えはないんだが……
もしや、
そんな事を考えていると、さらに二人の人物が部屋へ入ってくる。
「ア、アリエル様に、ルーク先輩……」
「ルーデウス様、体調の方に不調はありませんか?」
「え、ええ……おかげさまで」
アリエルはいつもの眩しい笑顔で話しかけてくるが、今日は何故かその笑顔の裏に、不満の様なものが隠れている気がする。
アリエルとルークが来たって事はつまり……パウロがゲロった内容は……
「でしたら、パウロ様とご一緒に庭園の方へ来ていただけませんか?ヘルス……麒麟の事について、話したい事があります」
あぁ……まじかよ……最悪だ……
〜〜〜アリエル視点〜〜〜
ペルギウス様の謁見から、どのくらいの時間が経ったのでしょうか。
ナナホシ様のドライン病についても、回復の傾向にあると聞き、一先ずは安心となりました。
残る問題は、サテラと麒麟。
しかし既に二人とも王都へ行ってしまい、こちらからは手出しができない状況です。
ですから今、私ができる最善の行動は、ペルギウス様に協力を仰ぎ、王位継承の戦いにいち早く戻る事。
私が王都に戻り、力をつければ、アモール病の治療に協力できるかもしれない。
ですがペルギウス様は、あまり協力的ではありません。
毎日の様にお茶会と称して話し合いの場を設け、なんとかして協力をしてもらおうと、あれこれ言ってみましたが。どれもペルギウス様を満足させられるものではありませんでした。
しかし悪い事ばかりではありません。
ペルギウス様からは、真の王たる者はなんなのか、それを答える事ができれば、私に協力をしてやると。そう言ってくれたのです。
そして、ヘルスの事について、分かった事があるのです。
パウロは、ヘルスについて、何かを知っている。
しっかりとした根拠はありませんが、先日パウロにヘルスについて聞いてみた所、何も知らないと言い張っていましたが、明らかに動揺している様子でした。
パウロはヘルスに関する重要な事を隠している、そう確信しました。パウロが知っていると言う事は、ルーデウス様もきっと何か知っているのでしょう。
そして今日、私はその事を問い詰める為、ペルギウス様とのお茶会に、パウロを誘いました。
最初は渋っていたパウロでしたが、私がどうしてもと頭を下げ、なんとか来てもらう事に成功しました。
「遅れてすまないな、少し道に迷ったもんで……」
ペルギウス様とお話をしていると、パウロが来ました。
「私は別に構いませんよ。むしろ私の我儘に付き合ってもらい申し訳ございません」
「そうならいいんだが」
そう言いながら、ペルギウス様の横になんの躊躇いもなく座るパウロ様、彼の大胆さにはいつも驚かされます。
ペルギウス様も、少々驚いているご様子です。
「それで、俺を今日ここに呼んだ理由はなんなんだ?まさかペルギウス様から貰った問題を、一緒に解いてくれってか?」
「いえ、それは私が一人で探さなければならない事です。誰の手も借りるつもりはありません。私が今日あなた様を呼んだのは、ヘルスの事について聞く為です」
私がそう言うと、パウロは一瞬体を震わせました。やはり、彼はヘルスの何か知っている。それもかなり重要な事を。
「なんだよ、またそれか?前にも言ったが、俺は何も知らねぇぞ?」
そう言って先日と同じく、シラを切ろうとしてきますが、今日は絶対に逃しません。
「ええ、ですから今日は、私がパウロ様にお話したいと思ってるんですよ」
「どういう事だ?」
「私とルークが、何故そんなにヘルスを探そうとしているのか、気になりませんか?」
「……まあ、気になるには、気になるがよ……」
パウロは、そう言ってシルヴァリル様から渡された紅茶を飲み干しました。
「でもよ、それで俺がヘルスについて教える事にはならねぇぜ?」
「やはり、あなたはヘルスについて、何か知っているのですね」
「あ………」
ようやく口を滑らせましたね。やはり私達の推測は当たっていましたか。
パウロ様はしばらく上を向いた後、ため息と共に私の方を見る。
「……はあ、全く、王女様には叶わねぇなぁ」
「フフ、それ程でもありませんよ」
「そうか?けどよ、さっきも言ったが、俺はヘルスの事については話さねぇよ」
「まあ待ってください。まずは私の話を聞きませんか?ヘルスについて話すかどうかは、それを聞いた後に決めればいいではありませんか」
内心では、今すぐにでもパウロに問い詰めたいです。しかし、ここで焦っては、全てを台無しにしてまうかもしれません。
落ち着きなさい、アリエル・アネモイ・アスラ、もう少しです。
「……話す気はねぇが、まあいい、聞こうじゃねぇかよ。あんたらとヘルスの関係についてよ」
パウロが承諾してくれました。あと少しです。
「ご厚意に感謝します。ペルギウス様もご一緒によろしいのですか?」
ずっと静観していたペルギウス様は、静かに頷きました。
「うむ、我もそのヘルスとやらに興味が湧いた。貴様らがそこまで執着する程の存在にな」
「分かりました。ではまずは、ヘルスとの出会いから話しましょうか……」
私は、昂る感情を必死に抑え、ゆっくりと語り始めました。
前半後半に分けます。
手遅れかもしれないんですけど一応
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戦闘描写たくさん
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話し合い、イチャイチャたくさん