貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
「ッゲホ……」
木に倒れているのは、かつて俺に剣術を教えた師。
彼は肩から腹までを斬り裂かれ、血反吐を吐きながらも、持っている剣を離さない。
第二王子ハルファウスは、師匠のそばで気絶している。
「終わりです……師匠……」
俺は持っている刀を上げ、師匠に向かい振った。
しかし、その刀は、師匠の首に当たる寸前で止まる。
誰かに妨害された訳ではない、自分の意思で止めたのだ。早く殺さなければ、師匠がより長く苦しむ事になるのは分かっている。
殺すのだって、これが初めてじゃない。さっきだって、名前も覚えていない奴らを斬り殺した。
だけど……なぜか振り斬れない……
「ふふ、戸惑って……いるんですか?」
そんな俺を、師匠は枯れた声で、薄い笑みを浮かべながら問いかけた。
「やっぱり……優しいお方だ……」
「師匠……なぜ……」
「護衛やってれば……こういう事もあるもんです。運がなかった……それだけですよ……ッゲホ」
師匠は自分の持っている剣を見つめ、どこか安堵した表情をしている。
「いや、運が良かった……というべきですかね。まさか私の一番弟子に殺されるなんてね………」
「………」
「最後に……ヘルス様……」
師匠がゆっくりと、剣から俺の方を見た。
「どうか……お幸せに……」
その言葉を言い終えると、師匠は最後まで離さなかった剣を落とした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
やったのか………
俺は、師を殺したのだ。
「……っう」
オエェェェ
俺は吐いた。中に入っていたもの、全てを吐いた。吐くものがなくなっても、吐き続けた。
「はぁ……はぁ……」
吐くのをやめて、もう一度師匠を見る。
まるで眠っているかの様な、安心した顔がそこにはあった。
視界がボヤけると、倒れていた筈の師匠が、アリエルに変わっていた。次はルーク、サテラ、ルーデウス。入れ替わっていく人物達の顔は皆、悔しそうだ。
やめろ……やめろ……
『ヘルス殿、任務は終えましたかな?』
気が狂いかけた時、頭の中からダリウスの声が聞こえて来た。
「ああ、終わったぞ。約束通り、王子以外は……殺した」
俺は誰もいない筈の森に向かって呟いた。
『素晴らしいです。流石は氷王、手際がよろしいですね。では、王都へ戻って来てください』
その言葉を最後に、再び森は静寂に包まれる。
帰らなければ……
俺は気絶しているハルファウスを担ぎ、ゆっくりと歩み始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
王都アルスへ辿り着く頃には、既に日が昇り始めており、町中には、ぼちぼちと人が出て来た。
王都の入り口で待っていた連中に、第二王子を渡すと、俺は町へと入っていった。
「あ!ヘルス様だ!」
「ヘルス様、お帰りなさい」
「ああ、みんなおはよう」
中へ入れば、町の皆んなが俺に駆け寄り、元気挨拶してくれる。俺はそんな町人に囲まれながら、歩き続ける。
その後、貴族が暮らす地区に入ると、誰も俺には声を掛けて来なくなった。
先程まで笑顔で話し合っていた貴族達は、俺が近づくと話すのをやめ、壁の方を向き、汗をダラダラと垂らす。見習い騎士団の集団に近づくと、左右に広がって道を開け、俺に無言で頭を下げる。
ダリウスが待っている部屋に着く頃には、既に日は昇り切っていた。
コンコン
「俺だ」
「おお、どうぞお入りください」
俺が扉を開けると、まだ10歳にも満たないであろう少女が、ダリウスにキスをされている。
俺はそれを無視し、ダリウスの正面にある椅子にゆっくりと腰掛ける。
「ヘルス殿、ご苦労様でした。今回の任務で第二王子は幽閉され、実質的に王位継承争いから失脚したも同然です」
「ああ」
ダリウスはご機嫌そうに少女の尻を撫で、不気味な笑みを浮かべている。
「これで残すは、アリエル様一人となりましたな」
「………」
「おや、あまり嬉しくなさそうですね?これが終われば、サテラ様は助かり、晴れてあなたは自由の身になれるのですよ?」
俺は何も言わず、ただダリウスを睨みつける。
「ッヒィ!」
ドン
ダリウスは情けない声を上げ、少女を突き飛ばした。
「す、すいません。少々調子に乗りすぎていましたな。アリエル様は殺さず生け捕りにする、そうでしたね?」
「ああ」
「分かりました……ではもう行ってもよろしいですよ」
そう言われ、俺は部屋を後にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺は王都にあるノトス家に戻り、一つの部屋へと向かった。
その部屋の入り口には、黒い鎧を着ている3人の男がいる。
「ヘルス様、お帰りになられましたか」
「やっと帰って来た、もう一生ここから動けないのかと思ったよ」
「ナクル兄ちゃん、そう言う事言っちゃいけないよ」
北神三剣士の二人だ。
最近知ったが、ナクルとガドは、二人で一人の剣士判定らしい。つまり後一人、ここにはいない北神の猛者がいるのだ。
まあ今はそんな事、どうでもいい。
「サテラは、無事だろうな?」
「はい、特に変わった様子はありませんし、従者以外は入れておりません」
ウィ・ターが答えると、残りの二人も頷く。
「そうか、ご苦労だった。もう戻っていいぞ」
『は!』
しばらくして、3人が廊下から消えるのを確認すると、俺は部屋の中へと入っていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
中に入ると、サテラはいた。
一人が寝るのには大きすぎるベットの上で、小さな呼吸音を立てながら、静かに眠っていた。
「サテラ、ただいま」
俺は今できる最大限の笑顔をして、ベットの横にある椅子に座る。
「今日はさ、師匠を殺しちゃったんだ………」
当然、サテラからの反応はない。
けど俺は、話すのをやめない。
「師匠、最後なんて言ったと思う?『どうかお幸せに』だってさ」
「………」
「馬鹿だよな、人殺しに、幸せになれだなんて……」
自分の拳からは、血が垂れている。しかしその血はすぐに消え、手は再生する。
「こんな化け物に成り下がった俺に、幸せを………」
そこまで言うと、俺はサテラの手を握った。
暖かい、まだ彼女は生きていると実感できる。
ふと、嫌な考えが浮かんだ。
アモール病を治した時、彼女は喜んでくれるのだろうか?
彼女を助ける為、沢山の人を殺した。その事実を彼女自身が知った時、耐えられるのだろうか?他人の幸せを、心から喜ぶ彼女に。
しかし、そんな事を考えても、もう後戻りは出来ない。彼女を助ける、そこにどれだけの犠牲が出たとしても……
『随分と憔悴している様だな』
頭の中から、誰かが話しかけて来た。
このテレパシー能力を現在使用できるのは、ダリウスとグラーヴェルだけだが、今回はどちら共違う。となると……
……お前か
『お前には既に力を与えてやった筈だ。何を悩んでいるんだ?』
もう一人の俺。
こいつは、俺がグラーヴェル側についてから、俺によく話しかけてくる様になった。ヒトガミが言っていた黒い塊、恐らくその正体はこいつなのだろう。
今はお前と話す程……良い気分じゃねぇ……消えろ
『……いつからそんな口を聞ける様になったんだ?お前に
もう一人の俺は、愉快そうに話す。
『それにしても、実に愚かだな。今のお前は、自身が嫌悪し、忌み嫌っていたアリエルと同類だぞ?』
……なんだと?俺があいつと同じだと?
『王になる為、己の仲間を犠牲にするアリエル、そしてサテラを助ける為、かつての師すら犠牲にするお前、そんなお前達は、全くと言っていい程、同類だ』
………
『何故アリエルを生け捕りにする?殺せば確実にサテラを助けれるぞ?』
……黙れ。
『貴族に異常なまでの嫌悪感を示していたが、ではお前の家族は良いのか?サウロスやパウロだって同じ貴族の筈だ。そいつらは嫌じゃないのか?』
……黙ってくれ。
『もう十分分かってるだろ?お前は結局、中途半端なんだ。何をするにしても、芯がないんだ。芯のない人間に、本当に生きてる意味なんてあるのか?』
「黙れ!!」
頭を抱え、そう叫ぶ。
部屋には、俺とサテラの二人だけ。
頭に直接響いていた声が、やっと消えた。
「おいヘルス!大丈夫か!?」
もの凄い勢いで部屋に入って来たのは、ピレモン、父だった。
「父上、突然騒いでしまって申し訳ありません、ただの寝言ですよ」
「そんな筈はないだろう?部屋の中から、会話の様な声が聞こえていたぞ?」
戸締りはしっかりとしていた筈だが、丸聞こえだったらしい。
「何があったか、話してみろ、それだけで楽になる事もある………」
「お気遣い感謝します。しかし本当になんでもないですから、安心してください。父上にはいつも通り、サテラを頼みます」
俺は父の肩を叩き、部屋を後にする。
『ヘルス殿、お疲れだとは思いますが、新たな任務ができました。私の部屋に再度来ていただけますかな?』
丁度その時、ダリウスからのテレパシーが届いた。
「分かった、すぐに向かう」
俺は最悪な気分のまま、ダリウスの部屋へ向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ダリウスの部屋へ入ると、先程の少女は居なくなっており、代わりにウィ・ターがダリウスの横にいた。
「今回は、随分と急だな」
「ええ、何せ人神様からのお告げでしてね」
あいつからか、どうせ碌な事じゃないんだろうな。
「それで、内容は?」
「はい、ヘルス殿にはこれから、ウィ・ターと共に剣の聖地へと出向いてもらい、「『水神』レイダ・リィア」と、北神三剣士の最後の一人「『孔雀剣』オーベール」を剣客としてこちらに招いて欲しいのです」
「……そりゃあまた随分と大物を」
水神と北帝か……
ウィ・ターやナクル達から、オーベールの情報は知っていた。
割となんでもありの北神流の中でも奇抜な存在。壁に擬態し、闇に紛れて奇襲を仕掛ける。剣士というよりは、忍者に近いのだろうか?
そして水神レイダ・リィア、彼女については、噂でしか聞いた事がない。しかし噂だけでも、その力の強大さは十分伝わった。
水神流の五つある奥義、その中でも最も習得が困難と言わる二つの奥義を組み合わせた彼女の『剥奪剣界』は、範囲内の動くもの全てを切り伏せる。それが人であろうが、魔術であろうが関係ない、皆等しく、斬られる。
そんな奴らをこちら側の戦力として迎え入れれば、絶対に負ける事はないと言って良いだろう。
「内容は分かった。しかしなぜウィ・ターを連れて行く?」
「一応私からの手紙は持って行ってもらいますが、ヘルス殿一人で行かれた場合、信用されん可能性がありますからな」
なるほど、確かに北神三剣士のウィ・ターを連れていけば、水神は分からんが、北帝オーベールには信用されやすくなるだろう。割と考えられてるな。
「そして、この任務を終えれば、あなたに頼む任務は最後の一つになります」
「……そうなのか?」
「ええ、あなたには十分すぎる程、こちらの陣営が有利になる様貢献してもらいました。この二つの任務さえ完了してくれれば、サテラ様を治療すると、約束しましょう」
ダリウスはにんまりと笑顔になりながら俺に告げた。
そうか……やっと……終わるのか……
サテラを治療する、その言葉を聞いただけでも、俺の今までの努力が報われた気がする。
残す任務は二つ、必ず成し遂げなければ……
手遅れかもしれないんですけど一応
-
戦闘描写たくさん
-
話し合い、イチャイチャたくさん