貴殿転生 元の知識で本気出す   作:MENOUENOTANKOBU

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62話 買ってきた猫

 

 

 

「はあ」

 

俺の吐いたため息が白くなり、やがて空へ消える。

 

もう日は昇りきっている筈なのに、空は薄暗く、パラパラと雪が降って来ている。

 

ダリウスからの命を受け、剣の聖地へと向かい始めてから一ヶ月程が経った。

 

通常なら、王都アルスから剣の聖地までは、赤竜の上顎を通れば一ヶ月もかからずに到着する事ができる。

 

しかし何故俺達は、一ヶ月経ってもそこへ辿り着く事が出来なかったのか?

 

それは今俺の横で、ニコニコと歩いている女のせいだ。

 

「うう、やっぱり寒いニャ。ボス、早く王都へ行こうニャ」

 

女は、この中央大陸北部には合わない服装をしながら、フラフラと森を歩いている。

 

「ヘルス様、やはりこの雌猫、ここで斬り殺しましょうかね?」

 

「ウィ・ター、気持ちは分かるが、我慢しろ……」

 

いつもは冷静でクールなウィ・ターをここまでキレさせるこいつの正体は……

 

かつてラノア魔法大学では、俺の先輩に当たる人物。そして何より、あの大森林ドルディアの里の戦士長の娘。

 

リニア・デドルディア

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

彼女と会ったのは、俺達が王都を出発してから、二週間程経ってからだ。

 

剣の聖地へ行くにあたり、俺達は極寒の北部を耐えれる服が必要だった為、ある町に寄っていた。

 

昔ルーデウス達と北部を冒険していた事があったが、ここの寒さは舐めているとすぐに命取りになる。ぶっちゃけ魔物よりも、寒さの方が危険だ。

 

俺は良いとして、ウィ・ターの鎧ではすぐに凍え死んでしまうだろう。

 

「すいません、わざわざ町にまで寄ってもらうなんて……」

 

「いい、旅の道中で死なれても困るからな。それよりも、さっさと服を買ってこい」

 

「は!」

 

そう告げると、ガタガタと震えるウィ・ターは鎧を脱ぎ、薄着のまま近くの服屋へと入って行った。

 

 

あの様子だと、服を決めるのには少々時間がかかりそうだ。

 

その間、俺は近くの店でも散策するとしよう。

 

そう思って馬車から降り、数歩進んだ所で、そいつは現れた。

 

 

 

「ニャー!許してくださいニャ!」

 

「逃がさねぇぞ!この雌猫!」

 

奥の方から猛ダッシュでこちらに向かってくるのは、かつての先輩リニア。その後ろから彼女を捕まえようと追いかけるのは、屈強な男達だ。

 

「お、お前はリニ………ぐぇ!」

 

「フニャ!?」

 

リニアは俺が見えていなかったのか、そのまま俺と顔面衝突した。

 

リニアに馬乗りにされた瞬間、強烈な匂いが俺の鼻を襲う。

 

臭!?

 

「臭い!離れてくれ!」

 

「ニャなんだと!?初対面にそんな事……あ……」

 

俺の上に乗っていたリニアが、ゆっくりと宙に浮く。

 

いや、男に持ち上げられたのか。

 

「臭ぇな!?だがやっと捕まえたぞ、この雌猫が!」

 

「ニャアァァァ!」  

 

『さっさと金を返せ!!』

 

俺はゆっくりと起き上がり、男達に詰め寄られるリニアを見る。

 

着ている服はボロボロで、この北部には似合わない服装。特徴的な大きすぎる胸や、筋肉質な太ももとかは変わっていないが、顔は少しやつれている。

 

そんなに親密ではなかったとは言え、知り合いがこんな惨めな姿になっているのを見ると、胸が痛いな。

 

「ちょっといいか?」

 

「あ?」

 

俺は詰め寄る男達の間に入る。

 

「こいつは一体何をしたんだ?」

 

「お前には関係ねぇだろ、引っ込んでろ」

 

男達は厄介者を見る様に、俺を睨みつけてきた。

 

 

 

懐かしいな……こんな風に見られるのは、冒険者以来だ。

 

「なんだ、こいつ、気持ち悪い野郎だな」

 

いかん、ついニヤけてしまっていたか……

 

「誰だが分かりませんが助けてくださいニャ!」

 

リニアが担がれたまま、俺の手を握って来た。

 

俺が誰だか、覚えていないのか?

 

ああそうか、俺はもう麒麟じゃないんだったな。なら今の俺の姿を見ても、こいつが気づく訳ないか。

 

「なんだ?あんちゃんがこいつの借金、肩代わりすんのか?」

 

「借金?」

 

「ああ、この雌猫は俺達から、金貨20枚の借金をしてんのさ、それでこいつがそれを払えねぇってトンズラしようってんで、ここまで追いかけて来たって訳さ」

 

金貨20枚だと?

 

この世界の金貨一枚は、確か日本円だと10万円ぐらい。つまりこいつがした借金は……200万円……

 

すげぇな

 

そんな額をトンズラしようなんて、相変わらずの頭の悪さだな。

 

「それでどうすんだ?お前が払わねぇってんなら、もう行くぜ?」

 

「……払わなかったとして、こいつはどうなるんだ?」

 

「そうだな、金が払えねぇんなら体で償ってもらうさ、奴隷商にでも売れば多少の金にはなるだろ」

 

「そ、それだけは勘弁してくださいニャ!」

 

 

そうか、奴隷か……

 

当たり前っちゃ当たり前だけど、こいつに奴隷としての価値なんてあるのか?

 

一応学校は主席で卒業してたし、魔術も攻撃魔術だけなら上級、おまけにドルディアの里の戦士長の娘。

 

あれ?良く考えたらこいつ、えげつねぇ経歴じゃないか?

 

ルーデウスやシルフィがいたせいでだいぶインフレしてたが、そう言えばリニアも十分化け物だったな。

 

まあそんな化け物が、今はこんな惨めな姿になってる訳だが……

 

 

 

俺はしばらく考えた後、男達に向かって手を伸ばした。

 

「金貨20枚だったな?」

 

「お?おお!」

 

ボトボト

 

俺の手から、パラパラと金貨が落ちてくる。

 

「ほら、金貨20枚だ」

 

「すげぇ!どうやったんだ!?魔術か!?」

 

「11、18、丁度20枚だ……」

 

男達は信じられないという表情で、地面に転がる金貨を拾い集め眺めている。

 

「金は払ったんだし、もうこいつは貰っていいよな?」

 

「あ、ああ」

 

「フニャ!?」

 

俺はいつの間にか地面に転がっていたリニアを掴み、その場を離れた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「本当に助かりましたニャ!」

 

夜中、町で一番安い宿の中でリニアの声が響く。

 

「ああ、だがこれに懲りたら、もう借金はしない事だな」

 

「へへ、肝に銘じて起きますニャア」

 

リニアはそう言いながら、頭をポリポリと掻いている。

 

こいつ、本当に反省してんのか?

 

 

 

あの後、近くの酒場で飯を食わせながら、リニアの卒業後の事について聞いてみた。

 

リニアは学校を卒業した後、リニアは宣言通り商人として生きて行く事にしたらしく、彼女なり試行錯誤して暮らしていたそうだ。

 

しかしまだまだ社会を知らない素人が、商人をやって成功をする筈もなく、生活はどんどん苦しくなっていった。そこで詐欺師に騙され、一気に借金漬けの状態になってしまい、今回の様な事件が起きてしまったらしい。

 

リニアに商人としての才能がない事は分かっていた。しかしまさかこんな事態になる程とは……警告とかアドバイスぐらいはしておくべきだったな。

 

 

「あ、あの、ボス?」

 

「ヘルスでいい、その呼び方はやめろ」

 

「わ、分かりましたニャ、じゃあヘルス様、一つ質問してもいいですかニャ?」

 

「様もいらないんだが……まあいい、なんだ?」

 

「ニャんであちしを助けてくれたんですかニャ?」

 

そう言われて、俺は黙ってしまう。

 

リニアは俺の正体を知らない。そんな見ず知らずの人間が、金貨20枚という大金を払って、自分を助けてくれたんだ、不思議に思うのは当然か。

 

「何か気に触る様なこと言いましたニャ?」

 

リニアは少し震えながら、黙り続ける俺を見ている。

 

「……その前に、俺からの質問に答えてくれねぇか?」

 

「……?分かりましたニャ」

 

 

「リニア、お前はこれからどうするつもりなんだ?」

 

その問いに、リニアは頬を撫でながら上を向く。

 

「あちしですか?そうですニャね、もう商人としては生きられニャいし……残念だけど、ドルディアの里にでも戻りますかニャ」

 

「そうか……」

 

行く当てはあるらしいが、聞いてみるだけ聞いてみるか……

 

俺はリニアの前に立ち、手を伸ばした。

 

「ならよ、俺のメイドとして、アスラ王国の王都へ来ないか?」

 

「………ニャえ?」

 

 

リニアは抜けた声をだしながら、何言ってんだって顔で俺を見つめてくる。

 

 

「あの、あちし掃除とか家事とか、そういうのは全くできニャいんですが……」

 

「構わねぇさ、それにお前がもし働いてくれんなら、寝る場所も飯も用意するし、給料も出してやる」

 

「本当ですニャ!?そう言う事なら、是非働きたいんですが……」

 

 

 

「どうしたんだ?何か不満でもあるのか?」

 

「やっぱりおかしいニャ。初めて会ったばかりニャのに、あちしを助けてくれて、それに働く場所まで用意してくれるなんて……」

 

あぁ、やっぱりそうなるよな……まあ仕方ない、俺だってリニアと同じ立場だったら、そんな高待遇な話、まずは疑いの目をかけるだろう。

 

 

こいつに信じてもらうには、やっぱりこれしかないのか……

 

「……何もおかしくねぇよ、あんたも一応先輩だし、俺の友達だ。だからこそ、あんたに頼みてぇんだ」

 

「それはどう言う意味ニャ………ッ!?」

 

俺は顔だけを人獣型の姿に変え、リニアに頭を下げる。

 

「ボス!?」

 

「リニア……頼む、俺と一緒に、王都へ来てくれ……」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

俺がリニアに頭を下げてまでメイドになってくれと懇願するのには、当然訳がある。

 

サテラ達の護衛だ。

 

俺はダリウスから汚れ仕事をやらさせる事が多い。

 

そういった仕事をすれば、必然的に相手から恨みを買う。俺に被害がでるならまだしも、父や兄、サテラにまで手がかかる可能性もある。

 

もちろんサテラを実質的に人質にとっているダリウスも、それを防ぐ為に、ナクル達を護衛として貸してはくれているが、あまり信用は出来ない。

 

だからこちらにも、信頼できる仲間が欲しかったのだ。

 

そんな時に現れたのが、リニア。

 

彼女ならある程度の信頼はあるし、戦闘能力も申し分ない。まさに今俺に必要な人材だ。

 

 

「ニャるほど……あのサテラが病気に……」

 

俺はリニアに全てを話した。

 

ナナホシと同じタイミングで、サテラが病気にかかってしまい、結果としてナナホシを見捨て、王都へ助けを求めに行ったこと。

 

サテラを治す為、沢山の貴族を殺し、尊敬していた師匠すらも手にかけた事など、本当に全てを話した。

 

言わない方がいい話もあったが、後で知られて、失望されるのも嫌だから、包み隠さず話した。

 

そんな半分俺の懺悔の様な話を、リニアは呆れる事もなく、茶化したりもせず、静かに聞いてくれた。

 

 

 

「………どうだ、今の俺の姿、滑稽だろ?」

 

「そんな事ニャいニャ」

 

俺が薄く笑いながら言うと、リニアは首を横に張った。

 

「え?」

 

「ボスは大切な人を敵に回してまで、サテラを助けようとした。それは凄い事ニャ。あちしやリニアでも、そんな事絶対できないニャ」

 

「………」

 

「あちしはあんまり頭が良くないから、ボスの辛さはよく分からニャないけど、サテラを助けるって決めたなら、それを曲げずに、成し遂げるべきニャ」

 

「……そうだったな」

 

確かに俺は、今まで中途半端だった。そのせいで、俺は師匠を苦しめた。

 

戸惑ったって、もう後戻りなんてできる筈ない。

 

後悔なく生きるなんて不可能だ。何かを選択するって事は、何かを切り捨てなければならない。

 

そしてリニアの言う通り、俺はサテラを選んだ……選択したんだ。

 

選択したなら、後は後悔を最小限に抑えて、その道を進むだけだ。いつまでもウジウジしてられないんだ。

 

それを……リニアは気づかせてくれた。

 

 

「あちしはもうボスに買われた身同然、元々断るつもりなんてニャかったが、そう言う事なら、喜んでボスについてくニャ」

 

「リニア……ありがとう……」

 

俺の中にあった足枷の様な物が、外れた気がする。

 

俺はリニアという人物を、少々みくびっていた様だ。

 

こいつは傲慢で、自分の力を過信して、痛い目に合う馬鹿な奴だ。

 

でも、俺とは違って、自分の信念を持っている。

 

凄い奴だ。リニアさんって呼ぶのも、本気でありだと思っている。

 

 

 

 

 

その時、部屋のドアが開き、外からウィ・ターが出て来た。

 

ウィ・ターは鎧ではなく、全身真っ黒のコーデ姿だ。鎧に似せているんだろうか?少なくとも、服のセンスは無さそうだな。

 

「ヘルス様、少々宜しいですか?」

 

「ああ、なんだ?」

 

「そちらのリニアという方に会いたいと、大勢の人が宿に集まって来ましたが……」

 

「なんだと?」

 

リニアの方を見た。リニアは汗を垂らしながら、目を泳がせている。

 

「『金を回収しに来た』と仰る方が殆どですが」

 

 

……まじかよ。リニア、他からも借りてたのか?

 

そして、階段をズカズカと荒々しく歩く音が聞こえる。

 

「あの野郎!雌猫を助ける為に、偽の金貨を渡しやがった!」

 

「形、重さまで同じだったからって油断した、早く見つけてとっ捕まえるぞ!」

 

そしてどうやら、俺の能力も消えてしまった様子だ。

 

「どうしますか?あの程度返り討ちにできますが」

 

「やめておこう、これ以上面倒事は増やしたくない」

 

「ではどうされますか?」

 

「はあ、決まってるだろ?」

 

「ニャ?」

 

俺は再びリニアを担ぎ、壁に向むかって拳をぶつける。

 

ドォォォン

 

人一人分が余裕で入れるぐらいの穴ができた。

 

穴から顔を出すと、外は吹雪で荒れており、三階なのにも関わらず、地面すら見えない。

 

「覚悟決めろよ、リニア」

 

「ニャ?」

 

次の瞬間、俺は先の見えない吹雪に突っ込んだ。

 

「ニャーー!!」

 

スボ

 

幸い、雪は思ったよりも積もっていて、クッションの用になっていた。

 

別に普通に降りたとしても、大丈夫だったが。

 

ウィ・ターも俺に続き飛んできた様だ。

 

「居たぞ!あいつだ!」

 

宿から、また屈強な男達が出て来た。

 

「ウィ・ター、着いてこいよ?」

 

「承知しております」

 

 

 

俺達は、逃げる様に走り、荒れ狂う吹雪の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手遅れかもしれないんですけど一応

  • 戦闘描写たくさん
  • 話し合い、イチャイチャたくさん
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