貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

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63話 トラウマの元凶

そうして、リニアを助けた事で、馬車や荷物を殆ど置いて来た俺達は、今はこうやって仕方なく薄暗い洞窟の中を徒歩で歩いている。

 

「ボス?まだかニャー?」

 

「……お前、数分前にも同じ事言ってたよな」

 

「そうニャっけ?昔の事はあんまり覚えてニャいニャ、ニャッハッハッハ」

 

「……はあ」

 

こんな感じのコントを、今日の朝から昼まで続けている。

 

でも不思議と、めんどくさいとか、そういうのは感じない。リニアが来てから、明らかにウィ・ターの口数は多くなったし、ちょっとした笑顔も多くなった気がする。

 

旅の雰囲気が、全体的に良くなったのだ。

 

これから旅をする時は、やはりこういう馬鹿一人を連れていった方がいいのかもしれないな。

 

 

他愛もない話をしていると、洞窟の出口が見えて来た。

 

 

「凄いな……」

 

「やっとですね」

 

洞窟を出た先に広がる光景は、息を飲むものだった。

 

 

断崖絶壁の下に広がるのは、雪に覆われた町。

 

木造で建てられた家々は、まるで日本の古い町並みを彷彿とさせる。

 

小さい家から、道場らしき大きな屋敷まで様々だ。

 

間違いない、ここがそうなのだろう。

 

「ここが、剣の聖地………」

 

道中、色々と問題が起きたりしたが、ついに到着したのだ。

 

剣術の才能を持つ者たちで溢れる……ここ、剣の聖地に

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

その後、迂回をしてしっかりとしたルートで町へ到着すると、村人らしき人達が見えて来た。

 

ほとんどの人達は、道着らしき物を着ていて、みんないい感じに汗を垂らしている。今が昼過ぎぐらいだから、昼飯を食いに行く所なのだろうか?

 

「ここが剣の聖地ニャのか?なんかみんな堅苦しそうニャ」

 

リニアが俺の後ろに隠れ、町の様子を伺いながら呟く。

 

「皆剣士の才能を持った強者ばかりですからね、そう感じるのは当然でしょう」

 

「正直、こんなに広い町だとは思ってなかったな、こりゃあ北神と水神を見つけるのには、少々骨が折れそうだな……」

 

俺がそこまで言うと、ウィ・ターの顔が少しニヤけた。

 

「そこはご安心を、北帝と水神の居場所ならば、心当たりがあります」

 

「本当か?」

 

「ええ、恐らくですが、彼らはあそこの屋敷に居られるかと……」

 

ウィ・ターが指差す方向を見ると、町の一番奥の方に、大きな道場が見えた。

 

周りを見回せば、他にも沢山の道場があったが、あそこだけは他とは違う、異質なオーラみたいなのを感じる……

 

「あ、あそこはやめておこうニャ……なんか嫌な感じがするニャ」

 

リニアも俺と同じく、異質な気配を察知した様だ。流石は獣族、野生の勘というやつか。

 

「俺も行きたくはねぇが、あそこに水神達がいる可能性がある以上、行ってみるしかないだろ」

 

「うぅ、仕方ないニャ……」

 

「では、早速向かいましょうか」

 

リニアは乗り気では無さそうだが、ウィ・ターは少々機嫌が良さそうだ。北帝に会えるのが嬉しいのだろうか?

 

トボトボと歩くリニアを尻目に、俺は道場に向かって進んでいった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「思っていたよりも、デカいな……」

 

目の前の大きな門を前にして、俺は道場のデカさを再認識させられた。

 

この道場の外観を、一言で例えるならば「和」

 

昔、歴史の教科書でみた日本の屋敷にそっくりだ。

 

「間違いなく、ここが剣神流の本道場ですね」

 

「本道場……他の道場とは違うのか?」

 

「はい。ここは本来剣神流の聖級以上の者達しか入れない場所です。それゆえに、中にいる者達は相当の実力者、他の道場にいる者達とは比べ物にならないでしょうな」

 

「……それ、俺達入っちゃっていいのか?」

 

偏見が悪い事なのは分かっているが、剣神流を極めた人達は大体、気性が荒い。俺の知っている剣神流の猛者、エリスとギレーヌがそうだ。

 

そんな頭のネジが三本くらい外れてそうな奴らがいる場所に、突然乱入したら、最悪乱戦になりかねない。それこそ、俺が避けたい面倒ごとが増える。

 

「恐らく大丈夫でしょう」

 

心配する俺とは違い、ウィ・ターは余裕ある表情をしている。

 

「私とヘルス様は同じ北王級、リニアは私達の付き添いという事にすれば、誰も文句など言わないでしょう」

 

ああ、そういえば俺、北王だったな。

 

別に称号とか今は求めてないから、気にした事はなかったが、ここでその称号が役に立つ時がくるとは……

 

「そういう事なら……いいのか?」

 

「ええ、しかしいきなり闇討ちされても困りますので、私が先導します」

 

なんだよ、お前もそこはビビってたのかよ……

 

 

 

そうして、ウィ・ターを先頭に、俺達はゆっくりと大道場に続く門をくぐり、中へと入っていった。

 

リニアは先程から、一言も喋らずに、俺の後ろに隠れながらキョロキョロと周囲を確認している。

 

 

俺達の過度な警戒とは裏腹に、歩いている最中、闇討ちをされる事も、なんなら人と会う事もなく、大道場の目の前へと到着してしまった。

 

「なんだよ、何にも起きねぇのか」

 

「そうですね、周囲に人も見当たりませんし、中に集まっているのでしょうか」

 

「ニャんだよもう、心配して損したニャ」

 

リニアは周囲に警戒すべきものがないと判断すると、いつもの様にアホらしさを全開にし始めた。

 

「しかし、凄い音だな」

 

外は物音一つしないのに、道場の中からは、まるで戦争でもしてんじゃないかってぐらいの騒音がする。

 

木刀同士がぶつかり合う音か?いや、まず木刀ってこんな鈍い音をしてたっけ?

 

「どりゃあぁぁぁ!!」

 

「まだ……甘いです!!」

 

今度は人の声が聞こえて来た。声ってよりかは、叫び声に近いが……女の声ってのは分かる。

 

しかしこの声……どこかで聞いた事あるような……

 

 

しばらく立ち止まって考えたが、声の主は思い出せない。

 

まあここで突っ立ってても仕方ない、まずは中に入って挨拶でもしなくては……

 

「よし、中に入るか」

 

「ええ、そうしましょう」

 

「あ、あちし、どうなっても知らニャいからな」

 

そうしてゆっくりと階段を上がり、入り口らしき襖に手をかけた時、嫌な予感がした。

 

何かは分からない、しかし、ここに立って入れば、後悔する。そんな感じがする。

 

俺は無意識に、襖の横に移動した。俺に反応したのか、ウィ・ターも俺の横に並ぶ。

 

襖の正面に立っているのはリニアだけ、リニアは横に並ぶ俺達を見て、首を傾げる。

 

「ん?ボス達は何をして……」

 

その瞬間、本来横にスライドする筈の襖が、前へと飛び出してきた。いや、吹き飛んで来たってのが正しいのか?

 

襖はそのまま正面に立つリニアに、勢い良く衝突する。

 

「ニャハアァ!!」

 

リニアと襖はそのまま吹き飛び、地面に積もっている雪に落ちた。

 

危なかった……自分の直感を信じて正解だったな。

 

それよりも、リニアは無事だろうか?

 

そう思った俺は、襖とリニアが落ちた場所を見下ろす。

 

 

 

そこで、リニアを潰した襖の上に倒れている、もう一人の人物がいる事に気づいた。

 

そいつはボロボロの道着を着ていて、顔は髪に隠れていて見えないが、体格的に見て、恐らくは女性だろう。片手には木刀を持っている。

 

長い髪はまるでペンキでもぶちまけたのかと思えるほどの真紅。

 

 

 

 

この髪色………見覚えがあるな。

 

いやまさか、違うだろう、この世界に赤髪の女なんてごまんといる。第一に、あいつにここまで来れる程の知能はない筈だ。

 

俺が考えていると、女はゆっくりと起きがり始めた。

 

しかし、片脚辺りが折れているのだろう、完全には立ち上がれず、数歩進んだ所で、膝をついて崩れてしまう。

 

「おお、大丈夫か?」

 

誰かは知らんが、まずは助けなくては……

 

俺は階段を降りて、両膝をついて座っている女の前に立った。

 

女は下を向いている為、まだ顔は分からない。

 

……けど近くで確認すると、やっぱり似てるよなぁ

 

「おい、お嬢ちゃん、大丈夫か?」

 

 

 

 

「………さい」

 

「ん? なんだって?」

 

女は何か呟いているが、想像以上に小さすぎて聞こえない。

 

俺は女の前にかがみ込み、耳を向けた。

 

「もういっぺん大きな声で言ってくれないか?」

 

 

 

「……きなさい」

 

「だから、もっと大きなーー」

 

「どきなさい!」

 

その瞬間、女は右手に持っていた木刀を上げ、俺に向かい凄まじいスピードで振り下げて来た。

 

「ッうお!?」

 

間一髪、その木刀をスレスレで回避し、後ろへ下がる。

 

あのスピード、確実に殺す気だっただろ……

 

助けてやろうとしたのに、とんでもねぇ奴だ。やっぱり剣神流剣士は野蛮……乱暴な奴が多いな。

 

「ヘルス様、お怪我はありませんか!?」 

 

「な、なんとかな……」

 

ウィ・ターが俺の前に立ち、女に向け真剣を構える。

 

「貴様……この方が誰だか……分かっているのか?」

 

「………」

 

女は何も言わず、顔を下に向けながら立ち尽くしている。

 

……不気味だ、こちらを見なくとも、お前らなど斬り殺せるって言う意思表示なのか?舐められているのか?

 

 

俺も腰にかけていた刀を抜き、戦闘体制に入る。こいつの実力が分からない以上、ウィ・ターだけに任せる訳にはいかない。

 

さあ……どう来る?

 

 

 

「エリス!大丈夫か!?」

 

その時、道場の中から、また別の女の声が聞こえて来た。

 

エリス? 今エリスって言わなかったか?

 

俺がその方へ振り向くと、その女と目が合った。

 

『ッ! お前は!?』

 

リニアと同じデドルディア族特徴の耳、ほぼ全裸といっていい程の服装から見えるその褐色の体は、これ以上鍛えどころのない完璧な肉体をしている。

 

そして、俺に剣術を教えた第二の師でもあり、ルーデウスの魔術の弟子でもあるその女は……

 

 

 

「ギレーヌ!」

 

「ヘルス! お前が何故ここに……」

 

ギレーヌ・デドルディア またの名を「『剣王』ギレーヌ」

 

「聞きたいのはこっちの方だ、なんでお前がここに……」

 

そこまで言うと、俺は気づいた。

 

ギレーヌがいるって事は当然、あいつもいるよな。

 

俺は再度振り返り、その場で静かに立ち尽くす女を見る。

 

もしかして……だが

 

「ウィ・ター、剣を降ろせ……」

 

「いいのですか?」

 

「いいから、早く降ろせ」

 

「……かしこまりました」

 

ウィ・ターは渋々剣を下げ、俺の後ろへと下がる。

 

俺は持っていた刀を鞘に戻し、女の前に立つ。

 

「お前……もしかして……」

 

 

俺が言いかけた時、女はずっと離さずに持っていた木刀を、地面に落とした。

 

そのまま女はフラフラとよろめいた後、後ろに頭から倒れてしまった。

 

倒れた女の顔を覗く。

 

……やっぱり

 

運が良いと言うべきか、悪いと言うべきか、どちらにせよ俺は再会してしまった。

 

「……エリス」

 

 

 

 

ルーデウスに一生消えぬトラウマを植え付けた女

 

エリス・ボレアス・グレイラットに……

 

 

 

 

 

 

 

 

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