貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
剣の聖地・当座の間
剣と共に生き、剣と共に死ぬ事を選んだ人間だけが辿り着く場所。
それゆえに、そこにいる全員が、剣神流聖級以上の使い手である。
上級程度の実力があれば、一国の騎士団長を任せられる事があると言えば、それよりも上位の階級である聖級の凄さが分かるだろう。
「つまらないものですが……どうぞ……」
「ああ、すまないな」
俺は向かってきた女から茶を渡された。
本来聖級レベルの実力をつけるのには、長い年月がかかる。それは当座の間にいる者たちも例外ではなく、殆どが40代、若くても30代程の見た目をしている。
その中で、今俺に茶を渡して来てくれた青髪の女は、異常なまでに若かった。多く見積もったとしても、20歳後半になったばかりだろう。
聖級の猛者達に囲まれながら、俺は胡座をかき、渡された茶を飲み干す。
「……はあ」
……そんなに見つめられると気まずいんだよなぁ
先程から、周りを囲む者達の視線が俺に向いている。正確には、俺の持っている刀を見ている気がするんだが、見られているという感覚に変わりはない。俺の横を挟む様に座っているリニアとウィ・ターも、居心地が悪そうだ。
「若いだろ?」
長い静寂を破ったのは、俺の正面に座っていた男。
男の名はガル・ファリオン、剣神だ。
この中にいる誰よりも強く、誰よりも速い男。再生能力があるとは言え、こいつとは戦いたくはない。
「ああ、随分とな」
「あいつは俺の娘で、ニナってんだ。まだまだ未熟だが、結構やるぜ?」
「い、いえ、私などまだまだです……」
剣神がおだてると、女……ニナは、頬を赤くする。
ニナ……確か前に会った事がある気がする。どこだったっけな?
『わ、我が名は、ニナ・ファリオン!いざ、尋常に、勝負!』
……思い出した。魔法大学で、獣族の決闘に巻き込まれた時、一人だけ明らかに強かった奴だ。よく見てみると面影がある。
「でもよ、お前も相当なんだろ?」
剣神は頬を赤くするニナから、俺の方を見て来た。その顔は、まるで新しいおもちゃを見つけた子供の様な、不気味な笑みを浮かべている。
「まあ周りに比べれば腕は立つ方だが、あんたが望む程の実力は持ち合わせていないぞ?」
俺がそう言うと、剣神は膝を叩きながら笑い始めた。
「嘘はよくねぇぜ坊主、その刀、見た事はねぇが相当な業物だ。一体どこで手に入れたんだ?」
「こ、これは………」
この刀は、俺が自分の能力で出した物だ。
固く、軽く、鋭い。
そしてこの刀の最大の特徴は、斬った箇所を凍結させる所だ。それが炎に包まれていようが関係ない。全てを凍らせる。
俺の最高傑作ともいっても良い代物……名刀だ。
しかし自分が作った。と言って納得する様な男ではないだろう。下手な嘘をつけば、最悪斬り殺される。死にはしないだろうが……困ったな……
「ガル坊、あんまり客人を困らせる様なこたぁやめときな。見ろ、黙っちまったじゃないか」
だんまりを決め込む俺を見て、剣神から少し離れた場所に座っている一人の老婆が、苦笑しながら言った。
剣神ガル・ファリオンを「ガル坊」呼びできるのは、ここには……ていうか、世界中を探しても、一人しかいないんじゃないだろうか。
水神 レイダ・リィヤ
歴代最強とも言われる彼女、簡単に言えば、まじで強いババアだ。
しかし歴代最強とは言われているが、見た目は剣神とは違い、かなり老けている。顔もかなり優しそうで、素性も何も知らずに見れば、家で静かに編み物でもしてそうな感じだ。
見た目に惑わされてはいけないと分かってはいるが、こんな水神の姿を見ると、どこか気が抜けてしまう。
「あんた、貴族にしては随分と謙虚でいい子だね。うちの娘にも、その謙虚さを見習って欲しいもんさね」
水神は周囲に紛れていた、彼女によく似た顔立ちをしている女を睨む。
「精進して参ります……」
そいつは、水神の娘 イゾルデ・クルーエル
「それにしてもヘルス様、お久しぶりですね……」
「ああ、本当にな、よく今まで覚えてくれていたな」
「当然ですよ、あんな戦い方をする人物、忘れるはずないじゃないですか」
イゾルデとは過去に面識があった。
俺がまだ師匠から剣術を習っていた頃、師匠の紹介で水神流の道場へお邪魔する事があった。
俺自身が上級貴族という事もあり、水神から直接教えを受ける事ができると言われたが、丁度その時、水神は他の道場へ出張に行ってしまったらしく。代わりにその娘であるイゾルデと手合わせをする事となった。
俺よりも年下の少女、油断していたのもあるが、俺はそこで完全なる敗北を喫した。それも一回ではない、変身しても、何度やっても彼女に勝つ事はできなかった。
そこで俺は剣の道を挫折し、拳という道へ逃げる様になってしまった。
つまり彼女は、俺の剣術への道を閉ざした元凶。
もちろんその事を恨んだ事はないし、彼女を責める気なんて毛頭ない。
それに彼女の祖母には、やってもらいたい事があるのだ。
「ところで水神様、手紙の方は見てくれたのか?」
「ああ、今オーベールが持ってるアレの事かい?」
水神は、北帝 オーベール・コルベットが持っている手紙を指差す。
「ふむ、内容は拝見させていただきました。某と水神をダリウス殿の剣客として迎え入れたいと……」
「そうだ、俺としては今すぐにでもあんた達に………」
「ルーデウス!ルーデウスはどこ!?」
突然、廊下をドタドタと大きな音を立てて歩く音が聞こえる。
「エリス、まずは傷を癒せ。折れた骨はまだ完全には治っていない」
当座の間の入り口の襖が、勢い良く開かれた。
ボロボロの道着姿で入ってきたのは、エリス・ボレアス・グレイラット
「ヘルス!ルーデウスはどこ!?」
「エリス……」
エリスの屈託のないその笑顔が、俺の心を複雑にする。エリスは周囲の人々を押しのけながら、俺の前に来る。
その後ろから、ギレーヌも来た。
「ヘルス、お前がいると言う事は、ルーデウスもいるはずだろう?エリスに居場所を教えてやってはくれないか?」
ギレーヌはため息をつきながら、俺に懇願する。
……ああ、何から言えばいいんだろうな。言いたい事は山ほどあるが、
まあまずは、これだよな。
俺はゆっくりと立ち上がり、エリスの肩に手を乗せる。
「なあエリス、お前はルーデウスが好きか?」
「何よ突然、もちろん好きよ!私はルーデウスを愛してる!」
エリスは恥ずかしがる事もなく、声を張り上げ言った。
なるほど。
つまり、エリスがルーデウスに残した手紙の、釣り合いが取れないってのは、エリス自身の事で間違いなさそうだ。結局、ルーデウスがただ勘違していただけって訳だ。
でも、そんなの関係ないよな?
「そうか……ならエリス……歯食いしばれよ」
「……?」
俺はエリスの肩から手を離すと、右の拳を構え、武装色を纏った。
「ッふん!!」
「何し……ッガハア!」
俺は何の躊躇いもなく、エリスの腹に向け、拳をぶつけた。
エリスはそのまま吹き飛び、近くにあった柱に衝突する。
「エリス!」
ギレーヌが即座にエリスに駆け寄り、ルーデウスから習った初級の治癒魔術をかけ始めた。周りにいる人々は驚愕の表情で俺を見ている。剣神と水神らも少し動揺している様だ。
「……ッぐ、ヘルス、何すんのよ……」
どうやらエリスはまだ意識があるらしい。流石、剣の聖地に何年も籠っていただけはあるな。
「顔じゃなかっただけ有難いと思えよ……」
俺は殴った手を振りながらエリスに近づく。
エリスにヤリ捨てるなんて気はなく、むしろルーデウスの為に離れたのだとしても、あの手紙はダメだ。
実際、ルーデウスはそれで長い間苦しめられた。あの時のルーデウスを知っているからこそ、友達として、一発エリスを殴らなければならなかった。
「ルーデウスはな、お前のせいでずっと苦しんでたんだぞ?」
「…っえ?」
エリスは信じられないという顔をしている。どうやら自分のしでかした過ちにまだ気づいていないらしい。なら教えてやろう。こいつが置いていった手紙で、ルーデウスがどうなってしまったのか。
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エリスがようやく座れるぐらいに回復した所で、俺はエリスに教えてやった。
自分が消えた後、俺たちがどうやって今まで生きていたのかを。
「わ、私のせいで、ルーデウスが……不能に?」
俺が話し終えると、エリスはようやく自分のしてしまった事の重大さに気付いた様だ。
「そうだ、お前の言葉足らずな手紙のせいで、ルーデウスは何年も苦しんでいたんだ」
いつもエリスを擁護するギレーヌも、今回ばかりはだんまりだ。彼女も、エリスの去り方に対しては、思うところがあったんだろう。
「そ、それで!ルーデウスは結局どうなったの!?」
「あいつなら、魔法大学で再会した同郷の幼馴染と結婚して、なんとか立ち直ったよ」
「う、嘘、ルーデウスが……結婚……?」
エリスは驚愕の表情をしながら、俺の方を見つめている。
まあ……エリスの気持ちも分からんでもない。エリスが消える前夜にしたあの行為も、恐らくルーデウスを繋ぎ止める為でもあったんだろう。
そんな自らの体まで捧げて、守ろうとした存在が、自分の知らぬ間に結婚していて、仲睦まじく生活をしている。
見方を変えれば、NTRと捉える事もできる。完全に自業自得なんだが……
「ルーデウスが、結婚だと?」
そばにいたギレーヌも、その事を信じられない様だ。
「ああ、それに最近になって、新しい妻を娶ったんだ。ロキシーって言ってな、ルーデウスと同じくらいすげぇ魔術の……」
「ちょ、ちょっと待ってください。新しい妻を娶ったってどう言う事ですか!?」
イゾルデが突然声を上げた。
「ん?言葉の通りだ。ルーデウスが新しい妻を娶った、それだけだ」
「あ、ありえない……そんな最低な方をヘルス様は親友と呼び慕っているのですか?」
「最低って……お前なあ……」
そこまで言うと、隣にいたウィ・ターが俺の肩を掴み、小声で囁く。
「ヘルス様、水神流の方々はミリス教の信者が殆どです。彼女がここまで不満を憤らせているのは、それが原因かと……」
「そうなのか?」
なるほど……つまりイゾルデは根っからのミリス教信者だったって訳か、
なら生涯一人の妻を愛し抜くって言う教えから、完全に逸脱してるルーデウスに、嫌悪感を抱くのは当然っちゃ当然だ。
「エリス、そんな人の為に、あなたが剣を振るう必要はありません。私と一緒にアスラに行きましょう。ヘルス様も居ますし、お師匠様も、それでいいですよね?」
「あたしはどうでもいいさね」
「なら決まりですね、そうしましょう!」
イゾルデはエリスの両手を掴み、説得を試みている。
「………」
エリスはと言うと、まるで魂が抜けたかの様に、ただ天井を見ていた。
絶望しているのだろうか?
エリスは本来考えるより先に手が出るタイプだ。深く考えず、直感で行動する。それがエリスの長所でもあり、同時に悪い所でもある。
そんな彼女が、今はマネキンの様に硬直している。
エリスに非があるとは言え、今の姿は見るに耐えない。だが俺にできる事はないし、あったとしても、それはただの慰めにしかならないだろう。
……見捨てられた時のルーデウスと、同じ状況だな。
あの時、ルーデウスはなんとか立ち直ったが、エリスにそれができるのだろうか?やはりここは、一言慰めの言葉でもかけておいてやるか……
「エリス、お前の気持ちは……」
「分かったわ!!」
エリスは突然立ち上がり、いつも通りのうるさすぎる声を上げた。
「ヘルス、ルーデウスは二人妻を娶ったって言ったわよね?」
「あ、ああ」
「なら、私を3人目の妻として迎え入れてもらうわ!!」
「エリス、本気ですか!?」
「……はあ?」
待て待て、意味がわからない。なんでそうなるんだよ。
大体、ルーデウスがロキシーを妻として迎え入れる事ができたのは、俺とパウロの後押しと、シルフィの優しさあっての事だ。流石のシルフィでも、3人目は許しちゃくれないだろう。
「話が飛びすぎだ。それに、もしダメだったらどうするんだよ?」
「断られちゃっても、側で支える事はできるでしょ?」
エリスは俺の質問に躊躇なく答えた。
エリスは本当に、ルーデウスを支えるつもりなのだ。例えルーデウスがエリスを拒絶し、離れたのだとしても、彼女は絶対にルーデウスを見限ったりはしないだろう。一途な女だ。
「……ハハ!」
俺は不思議と笑ってしまう。久々にこんな声で笑った気がする。
「何がおかしいのよ!?」
しかしエリスはそれにご立腹の様子だ。
「ハハ、すまない……けどよ」
そう言って俺はまた笑い始めてしまう。
やっぱりエリスはこうでなくては、純粋無垢、その発言や行動に一切の曇りはない、純度100%の真実。
俺が笑い終えた頃には、エリスは殴る寸前の構えをとっていた。
「……俺もそれがいいと思う」
「何がよ?」
「お前はルーデウスの為に、ここまで頑張って来たんだろ?なら、結果がどうであれ、まずは会って話し合ってみろよ。ルーデウスなら、きっとお前が幸せになる選択をする筈だ」
もちろん今の言葉に確証はない。しかし俺はルーデウスを信用している。シルフィやロキシーに反対され、迎え入れなかったとしても、あいつなら絶対に、エリスを幸せにする筈だ。
「なら決まりね!ギレーヌもそれで良いわよね!」
「私は、お前の判断に任せる」
「やったぁ!」
そしてしばらくの間、道場内には、エリスの歓喜する声が響いたのだった。
手遅れかもしれないんですけど一応
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戦闘描写たくさん
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話し合い、イチャイチャたくさん