貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

66 / 78
66話 親友の手紙

 

 

 

剣の聖地へと辿り着いてから数ヶ月が経過した。

 

俺としては、水神と北帝には一刻も早く王都へと行って欲しかったのだが、エリスがイゾルデに勝つまでは、ここからは出ないと水神に言われてしまったのだ。

 

サテラの無事が保証されているとは言え、流石に数ヶ月も離れていると不安で仕方がなかった。

 

しかもあのエリスだ。獣の様な殺気を丸出しにして戦うエリスは、水神流であるイゾルデとの相性は最悪、勝てる事はないと思っていた。

 

 

 

しかし先日、エリスはついにイゾルデに勝ったのだ。

 

イゾルデが本調子じゃなかったとか、気を抜いていたとかそういうのではない。完全に実力で勝利を勝ち取ったのだ。

 

その時の試合を見ていたが、いつも殺気で溢れていたエリスが、ニマニマと不気味な笑みを浮かべた瞬間、その殺気が消えた。本人曰く、ルーデウスの事を考えていたらしいが、それだけであれほど殺気を消せるのか?愛の力とは、末恐ろしい。

 

 

 

なんにせよ、エリスはイゾルデに勝ったんだ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ヘルス!この服装、本当に変じゃないわよね!?」

 

「これで何回目だよ……十分似合ってるぜ」

 

エリスがイゾルデに勝利してから数日後、やっと俺達は王都へと帰る事になった。

 

しかし、エリスとギレーヌはルーデウスに会いに行く為、そのままシャリーアに向かうらしい。

 

そして今、ルーデウスに変な目で見られない様、エリスは何度も何度も俺やニナ達に自分の服がおかしくないか確認をとっている。

 

ルーデウスの事だから、別に服装とかは気にしないと思うんだが……

 

「エ……エリス、本当に大丈夫なんですか?」

 

馬車を引き連れて来たイゾルデは心配そうな顔をしている。

 

「そのルーデウスと言う人は、心からあなたを愛してくれるのでしょうか?」

 

「当たり前よ!ルーデウスは優しいんだから!!」

 

心配するイゾルデを、エリスは根拠のない感情論で捩じ伏せた。

 

「ああ、どうかこの子にミリス様のご加護がありますように……」

 

イゾルデはそんなエリスの手を握り、ミリス教の祈りを捧げる。それが彼女なりの応援なのだろう。

 

「郵便でーす」

 

皆が別れを惜しみ、各々が出発しようとした時、感動の別れとは程遠い気の抜けた声が聞こえた。その方向を向くと、前世でいうチャラ男が立っていた。全く……せっかくの感動が台無しだ。

 

「こんなかに、エリス・ボレアス・グレイラット様は居ませんか?」

 

「私よ!」

 

「ルーデウス・グレイラット様から手紙を……ッうお!?」

 

言い終える前に、エリスはチャラ男が取り出そうとした封筒を奪い、領収書のような紙と共にビリビリに破ってしまった。

 

「ああ!何してくれてんすか!?サインしたって証拠がないと、報酬貰えなくなるんすよ!?」

 

チャラ男の悲痛な叫びを無視し、エリスは封筒の中に入っていた手紙をまじまじと見つめている。

 

「内の仲間がすまない。受け取らなかった報酬は俺が払おう」

 

「あ、そうすか?へへ、なら全然……」

 

顔をニヤニヤとさせ始めたチャラ男に金を払うと、チャラ男は悪い顔をしながら去っていった。

 

こりゃあ報酬以上の金を取られたな……まあいいか、金には困ってないし。

 

それよりも今は……

 

「エリス、手紙にはなんて?」

 

「………」

 

エリスは何も言わず、ただ手紙を眺めている。何かやばい事でも書いてあったのだろうか?

 

「ねえエリス、手紙にはなんて……」

 

「うるさいわね!習ってない字があって読めないのよ!!」

 

ニナが質問すると、エリスはキレた。

 

なんだそりゃ、その歳でまだ読めない字とかあるのかよ……

 

まあしゃあないか、エリスが勉強する機会なんて、今まであんまなかったしな。

 

「俺が代わりに読んでやるから、手紙をよこせよ」

 

俺はエリスから貰った手紙を見る。

 

 

内容を要約するとこうだ……

 

エリス久々!元気してた?君がいなくなったあの日、僕は君に見捨てられたと思って苦労したんだよ?でもその事を恨むつもりはないし、実は僕の為にこんな事をしてくれたなんて……本当感謝してるよ。そんな勘違いをした僕には、もう二人の妻がいるんだけどね、君を3人目の妻として迎え入れる準備もできてるんだよ?君がその気なら、僕の家に来ない?

 

 

うん、とんでもないな。

 

文の中には、自分も悪かった的な事は書かれていない、これは完全にエリスに非があったと遠回しに言っている。

 

「あ、ああ……なんと……」

 

手紙を読み終えると、イゾルデは膝から崩れ落ちた。熱心なミリス教徒には、少々刺激が強すぎたか。

 

エリスも腕を組み、難しい顔をしている。

 

しかし不思議だな、なんでこんなジャストタイミングで、ルーデウスからの手紙が届いたんだ?

 

そんな疑問が俺の頭をよぎったが、すぐに一つの答えを導き出した。

 

"ヒトガミ"

 

こんな事をできるのは、あいつぐらいだろう。あいつが仕組んだ事ではないにしろ、何かしらの関係はある筈だ。一体何を考えてるんだ?

 

 

「あ」

 

読み終えた手紙をエリスに返そうとした時、もう一枚、手紙がある事に気付いた。

 

 

手紙を広げると、先程よりも短い文が、中央に書かれていた。

 

『追伸。私はこれから、龍神オルステッドに戦いを挑みます。勝てるかどうかはわかりません。この手紙が届いた時、私は既にこの世にいないかもしれません。もし生きて帰って来れたら、話の続きをしましょう』

 

俺がその手紙を読み終えると、エリスとギレーヌは凄まじいスピードで馬を走らせ、剣の聖地を去ってしまった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

龍神と戦う?この世にはいない?

 

どう言う事だ?

 

俺はエリスとギレーヌが去った後も、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 

何故?どうして?

 

ルーデウスは、本来、無謀な戦い事を避けるタイプだ。己の力を過信せず、自分や仲間が生き残る最善の行動をする。

 

そんな賢明な男が、この世界で最も強いとされる七大列強二位の男、龍神オルステッドに戦いを挑むだと?

 

嘘に決まってる、第一……そんな事してもメリットはない筈だ。しかし、嘘をつくメリットもない。

 

『ヘルス殿、ルーデウスからの手紙は届きましたかな?』

 

その時、ダリウスからのテレパシーが来た。

 

今まで、なんの音沙汰もなかったのに……

 

「ダリウス……これはどう言う事だ?」

 

『それは、届いたという事でよろしいんですね。ではその手紙の通りでございます。ルーデウス・グレイラットは、龍神オルステッドに戦いを挑む。それだけですよ』

 

「違う!俺が聞きたいのは、何故あいつが龍神と戦うのかだ!」

 

『それは……王都へ帰還された時にお話しましょう。あなたの今すべき事は、水神と北帝を王都へ連れて行き、私の剣客として招き入れる事です』

 

「つまり、ルーデウスを見殺しにしろと?」

 

『いいえ、ルーデウスは死にませんよ。人神様からはそう言われています。だから安心して、あなたは王都へお戻りください』

 

ルーデウスは死なない?つまり勝つって事なのか?あの龍神に?

 

頭が痛くなって来た……

 

俺はこれからどうするべきだ?

 

今から俺一人でエリス達を追えば、余裕で間に合うだろう。なんならエリス達よりも早くつける筈だ。そこでルーデウスを助け、共に龍神を倒す。

 

しかしその場合、サテラはどうなる?龍神に負けたとして、俺が死んだら、用済みとなったサテラは、治療を施されずに死ぬだろう。例え龍神に勝っても、ダリウスの命令に背いたんだ。難癖をつけられて治療を先延ばしにさせられる可能性もある。

 

ルーデウスかサテラか……

 

 

 

俺はエリス達が去った方向へ一歩進む。

 

ルーデウス……俺の親友。年下なのに、俺よりも優秀で、俺よりも強い男。そんな奴が、一度殺されかけた強敵に、再び挑もうとしている。親友として、俺はそれを助けなければいけない。

 

……けど、俺には……

 

 

 

 

 

 

 

……ルーデウス、すまない。

 

 

「イゾルデ……馬車に乗れ、王都へ帰るぞ」

 

「よろしいのですか!?エリスと、あなたのご友人が、龍神オルステッドに挑もうとしているんですよ!?あなたならまだ間に合……」

 

「聞こえなかったか?馬車に乗れ」

 

「ッ!? ……分かりました」

 

イゾルデは苦い顔をしながら、大人しく馬車に乗った。

 

俺もそれに続いてに入る。馬車の中には水神 北帝 ウィ・ター リニア イゾルデ全員が揃っている。

 

「よし、出発しろ」

 

「いいのかい?お仲間は助けに行っちまったよ?」

 

水神は興味深そうに聞いて来た。俺が親友を見捨てるとは思わなかったんだろう。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「ボス………」

 

リニアはそんな俺を、憐れむような目で俺を見る。

 

 

 

俺はサテラを助ける為、沢山の物を捨て、殺した。今更後戻りなんて出来ない。

 

 

ルーデウスには悪いが、俺は決めたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。