貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
パタン
「………うむ」
龍神オルステッドが日記を閉じた。ただそれだけの動作にも関わらず、俺の心臓は過去最高速度で鼓動している。
オルステッドが先程まで読んでいた日記は、未来の俺……老デウスから貰ったものだ。
あの日、老デウスから日記を渡された俺は、もう一つの未来を知る事になった。
ロキシーやシルフィ、パウロなど、本当に大切な人達が次々に死んでいく、恐ろしい未来。
その全ては、ヒトガミの策略によるものだった。
しかし、俺がそれを知った所でどうする事もできず。ヒトガミの駒である事に変わりはなかった。そして家族を助ける為、龍神オルステッドを殺すという無理難題を押し付けられた俺は、万全の準備を整え、オルステッドへと戦いを挑んだ。
結果は惨敗、惨めに這いつくばって命乞いをする俺を、間一髪、エリスとギレーヌ、パウロが助け、その後、オルステッドの提案により、俺は彼の軍門に下る事となった。
しかし俺に後悔はない。オルステッドは俺の家族をヒトガミの手から守ると言ってくれたし、失った目と腕も治してくれた。正直、ヒトガミよりも彼の方が信用できる。顔はすげぇ怖いけど……
「なかなか興味深い日記だった……時間移動の魔術の術式には興味があるが、再現できないのであれば、ひとまず置いておこう」
「は、はい!」
俺が過去を遡っていると、オルステッドが淡々と話し出した。
「しかし、日記の内容に入る前に、お前が今までヒトガミとどんな会話をしていたのかを洗いざらい吐いてもらう」
「もちろん、全て嘘偽りなく答えましょう」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その後俺は、オルステッドにヒトガミとの会話を全て話した。
ヒトガミからどのような助言を貰い、その結果どうなったのか。とにかくヒトガミと関連がありそうな事全て。
そして俺の話を聞いたオルステッドは、ある一つの結論を導き出した。
"ヒトガミは、お前を利用して歴史を変えている"
なんでも、この世界には強い運命力で結ばれた者達がいるそうで、俺もその内の一人らしい。
ヒトガミはそれを利用し、自分にとって都合の良い未来、つまり老デウスの様な未来を作ろうとしていたのだ。なんと悪趣味な野郎だ、許せん。
「さて、次は本題である日記についてたが……」
「はい」
オルステッドは日記を開き、ある文を指差した。
"ヘルス・ノトス・グレイラット"
日記にはそう書かれていた。
「ヘルス・ノトス・グレイラット、こいつが気になる」
「ヘルスがですか?」
「ああ、こいつはお前やナナホシと同様、本来の歴史には存在しない筈の男だ」
「存在しない………?」
俺が聞き直すと、オルステッドは静かに頷く。
「最初はお前が生まれた事や、ナナホシが召喚された際の歴史の歪みで生まれた、という事も考えたが、こいつはお前達よりも前に生まれている」
なるほど、俺達のせいではないと……ちょっとよく分からないな
「つまり、それは一体どういう事なのでしょうか?」
「………奴は、お前と同じ転生者である可能性がある」
「え?」
オルステッドの言葉に、俺は手に持っていた杖を床に落としてしまった。
なんだって?ヘルスが転生者だと?
いやいや、それは流石に…………
ありえるのか?
思い返してみれば、怪しいと思う所はあった。ナナホシがヘルスがいなくなって、あからさまに悲しんでいた事も、ヘルスが転生者で、ナナホシと親しみを持っていたのならば納得ができる。
そして何より、ヘルスとロアの町で初めて戦った時に、あいつが使った変身魔法の姿……あれはどう見ても、前世に居たキリンだった。
最初はこの世界にもいるのか、みたいな感じで流していたが、天大陸以外を渡って来た俺でも、そんな感じの生き物は見た事がなかった。
うん、可能性は大いにある。むしろなんでここまで伏線があったのにそれに気づかなかったのだろう。
「だが、奴が転生者であるか否かは大した問題ではない。問題なのは、奴がヒトガミの使徒である可能性だ」
「ヒトガミの使徒ですか?」
「ああ、日記を見た限りだと、ヒトガミの使徒である可能性が高いのは、ヘルスと、その弟であるルーク・ノトス・グレイラットの二人だ」
ルーク?
待てよ?ヘルスがヒトガミの使徒である可能性があるのは分かる。あいつがヘルスを唆して、シルフィやルークを殺した。それで辻褄は合う。
しかし……
「なぜルークもヒトガミの使徒だと?」
ルークはアリエルの護衛で、その忠誠心は凄まじいものだ。そんな彼がアリエルを殺す為の使徒だって?
「アリエルは本来賢い人物だ。しかしこの日記では、大した戦力や権力もつけず、あのような無謀な戦いを挑んでいた。これは明らかに何者かの意思が働いていると言っていいだろう」
「でもそれだと、アリエル様自体が使徒である可能性もありますよね?」
俺の推察に対し、オルステッドは首を横に振った。
「アリエルの運命力は強い、ヒトガミはそのような運命力が強いものは本来使徒にする事ができない。お前は特別だがな……」
「なるほど、だからアリエルに対し強気の意見を言えるルークをヒトガミの使徒だと考えたんですね」
「うむ」
そういう事なら納得だ。互いに兄弟であるルークとヘルスに殺し合いをさせて、ニマニマとムカつく笑みを浮かべるヒトガミが容易に想像できる。
「……もし彼らが使徒だった場合、どうするんですか?」
「殺す」
オルステッドは冷たく、重みのある声でそう言った。
「殺すって……なんとか無力化して、生け捕りとかでもいいでしょうよ」
彼らは同じ仲間だ。そしてヘルスに関しては、まだまだ返しきれてない沢山の恩がある。確定ではないにしろ、俺はそんな彼らを絶対に殺したくはない。
「……できると思うか?」
オルステッドは鋭い目つきで俺を睨む。彼の顔は常に怒っている様に見えるが、今回はきっとガチ怒だ。普段よりも顔が怖い。
「ルークの無力化は確かに容易いだろう。しかしヘルスはダメだ。奴は殺しておかなければならん」
「……何故です?」
「危険すぎるからだ。奴は少なくとも王級上位、帝級下位程の実力を持ちながら、ノトス家当主という政治においても強力な力を有している。ヒトガミの思惑が分からぬ以上、そんな膨大な力を持った奴を生かしておくのは、あまりにリスクが大きすぎる」
「ちょ、ちょっと待ってください!ヘルスがノトス家当主ってどう言う事ですか?」
「ん?知らなかったのか? 奴は数ヶ月前、突如として当主の座を降りたピレモン・ノトス・グレイラットに代わり、新たな当主となったのだ」
ヘルスがノトス家当主に?なんで?
おかしい、ヘルスは元々サテラを助ける為に、王都へ行ったはずだ。そんな彼がいつの間にかノトス家に戻り、当主になっただと?
ヘルスが権力に溺れたとは考えにくい。きっと何か理由があったのだろう。当主にでもならなければ、サテラを助けれない理由が……
あ!そうだ!サテラだ!
「オルステッド様、一つ質問をいいですか?」
「……なんだ?」
「オルステッド様の力で、アモール病を治せたりってしますかね?」
「アモール病か……」
オルステッドはそう呟くと、何かを思い出す様に額に指をつける。
「もしや……そのアモール病にかかっているのは、ソフィア・アルフェンスではないか?」
「ソフィア……誰ですかそれ?」
ソフィア・アルフェンス?そんな人物、聞いた事がない。誰かの知り合いなのだろうか?
「ああそうか……今回は少々違ったのだな。確か今は、奇跡のサテラという名前で冒険者をしている女だ」
「サテラを知ってるんですか!?」
オルステッドの口からサテラが出てきた事に驚いた。つまり、そのソフィアっていう人物の正体は、サテラって事になるのか?
「うむ、ソフィ……サテラは元の歴史では、ラプラスを倒す為の重要な鍵となる筈だった人物の一人だった」
「その話、詳しく聞いても?」
オルステッドは軽く頷くと、サテラ、もといソフィア・アルフェンスの素性について話し始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ソフィア・アルフェンス
ミリス神聖国の有力貴族である両親から生まれた一人娘。
彼女の両親は、ゼニスの実家でもあるラトレイア家との交流が深く、特にソフィアの父と、ゼニスの実母であるクレア・ラトレイアは、互いに気難しい性格だった為か馬があった。
そんなアルフェンス家に、突如として悲劇が訪れる。父親がミリス教を布教する為、ソフィア達家族を連れて中央大陸へと渡った時、運悪く盗賊集団に襲われてしまう。
父母は共に死亡。生き残ったソフィアは奴隷として売られ、中央大陸の貴族達にたらい回しにさせられた。
そして商品価値がなくなり、処分される寸前で、彼女は命懸けの脱走を測った。
幼い頃から英才教育を受けていた彼女は、その身を削りながら、なんとか故郷であるミリス神聖国に帰還し、ラトレイア家に保護されたが、数日後、既に壊れかけていたソフィアの体は限界を迎え、その短く儚い生涯を終える。
しかし彼女の死は無駄にはならなかった。ソフィアの死を惜しんだラトレイア家の者達は、彼女の勇敢な行動を記憶し、それを詩へと変え、世界に広めた。
そして彼女は、自身の生涯を多くの人々に知られる事になった。
「それで、その詩を読み感銘を受けたある人物が、将来的にラプラスを倒す為の重要な人物であるということなんですね」
「ああ、歴史通りに進んでいたらの話なんだがな」
オルステッドはそう付け加えると、少し残念そうな顔をし、目を閉じてしまった。
まあ、自分の有力な手札を失ってしまったのは悲しいか。
オルステッドには悪いが、俺は今もサテラが生きているというのは嬉しい。彼女にも何度も助けられたし、最近はヘルスと結婚したんだ。これからもずっと幸せでいて欲しい。
しかしそんな彼女は今、アモール病を患って生死不明の状態だ。このまま行くと死んでしまうかもしれない。
ヘルスが頑張ってくれてるとはいえ、こちらも何か手伝わなければ……
「それで、オルステッド様はアモール病は治せるんですか?」
「治せる。スクロールがない為、俺が直接治さなければならないが……」
おお!なんて運がいい。これでサテラを助けられる道筋は出来た。後は、オルステッドを説得するだけだ。
「では、オルステッド様、俺から一つ提案があるのですが……」
オルステッドはギロリと鋭い目つきで俺を睨む。いや、絶対睨んではいないんだろう、本人にそんな気はない筈だ。そう信じよう。
「こ、この作戦が上手くいけば、ヘルスとサテラの両方を、こちら側につける事が出来るかもしれません!」
「……聞こう」
「ま、まずヘルスは元々、サテラを助ける為に、王都へと独断で行きました。恐らく、そこでヒトガミに唆されて、今の様な敵対関係へとなってしまったんでしょう」
「………」
あぁ……話しずらい、目つきだけでも、もうちょっと優しくならないのか?
「しかしヒトガミに騙されたとしても、サテラを助けるという目的は変わっていないはずです。だから彼に、オルステッド様ならアモール病を治すことが出来る事を伝えましょう。そうすれば確実に、彼をこちら側に引き込む事ができます」
俺は息継ぎを一度もせずに話し終えると、大きく息を吸った。
……言えた!言えたぞ!あのオルステッドに、意見を言えたんだ!
「ヘルスについてはよく分からんが、そいつと長く時を過ごしたお前が言うのならば、そういう男なのだろう」
オルステッドは机を人差し指で叩きながら、壁の方を見ている。
「……つまり?」
「ヘルスの対応については、一先ずお前に任せる。しかし、もし俺が説得不可能と判断した場合、すぐに殺す。それでいいな?」
「あ、ありがとうございます!!」
俺は背筋を伸ばし、オルステッドに全身全霊で感謝した。
「できれば今日中に、アリエルを王にする為の手順を説明したかったが、もう日が落ち始めている。続きは明日にするとしよう」
「そんな気を使わなくても、俺は別に時間なんて……」
「お前の為ではない。先程からドアの奥で待っている、お前の父が殺気を放っているのでな」
「え?父さん?」
俺がそう呟くと、ドアが勢いよく開いた。
「ルディ!怪我はねぇか!?」
ドアを蹴り飛ばす勢いで出て来たのは、パウロだった。
「父さん!?なんでここに?」
「お前の帰りが余りにも遅いんでな、てっきりどっかのクソ野郎にでも攫われたのかと思ってよ……」
パウロは両腰につけている二つの剣が入った鞘に手を置いき、オルステッドを睨みつける。戦闘準備満タンだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!別にオルステッド様は何も悪いことはしてません!むしろ何も知らない俺にあれこれ教えてくれて、感謝したいぐらいです」
「ああ?てめぇまさか、ルディを騙してまたロクでもないことをしようとしてんのか!?」
「………はあ、ルーデウス、そいつを連れて今日は帰れ」
「は、はい!では明日また!」
俺はオルステッドに飛びかかったパウロを抑え、出口へと向かう。
「おいルディ!離せ!あいつの顔面に一発ぶちかましてやらねぇと気がすまねぇ!」
「その前に父さんの腕がなくなっちゃいますよ」
「だったら足でやってやるよ!」
子供の様に駄々をこねるパウロを引きずりながら、外へと出ていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ッたく、ルディ、これからあいつの元へ行く時は、必ず俺を連れてけよ?」
「そんな子供じゃないんだから……それにオルステッド様については言ったでしょう?みんながそんなにあの人を嫌うのは……」
「分かってるよ、呪いのせいなんだろ?でもよ、あいつはそんな呪いがなくたって、十分胡散臭い野郎だぜ」
「だからそう思うのも呪いの……はあ」
きっと、なんど説明しても同じ事だ。仕方ないか、呪いが効かないはずの俺でも、彼を前にするとションベンちびりそうになっちゃうんだもん。彼自身にも少し問題はあるのだろう。
それにしても今日は疲れた。座って話を聞いていただけなんだが、その話があまりに濃すぎた。
ヘルスが転生者で、同時にヒトガミの使徒である可能性。サテラの素性と、彼女を助ける為の交渉。
それに明日もオルステッドとの話し合いがある。もう既にパンク寸前の頭に、明日の内容は果たして入るのだろうか?自信が湧かないな……
「なあルディ……」
「なんですか?」
俺が考え込んでいるうちに、パウロは冷静さを取り戻し、気づけば俺の前に立ち止まっていた。
「ヘルスを……殺すのか?」
「………聞いていたんですか?」
パウロはその問いに、こちらを振り向かすに頷く。
「最後らへんを少しな……盗み聞きするつもりはなかったんだが、すまん………」
「そうですか……」
しばらくの間、俺とパウロは何も話さず。静寂が続いた。
………パウロの背中を見ていると、常々思う。
もしあの時、迷宮でパウロが死んでいたら、どうなっていたんだろう。
こんな能天気に暮らせていただろうか?ロキシーと結婚できていたのだろうか?
あの時、一歩間違えれば、下半身を食われたのはヘルスではなく、パウロだったかもしれない。そうすれば俺は、一生消える事のない後悔をしていただろう。
パウロだけではない、あそこで誰か一人でも死んでいたら、何かしらの後悔はしていた筈だ。
そうだ、一人でも欠けたらダメなんだ……
ヘルスもルークもサテラも、誰か一人でも死んだら、みんな必ず後悔する。
死ぬ事を計画に入れちゃダメなんだ。
「……絶対に死なせません」
「………」
「俺は、絶対にヘルスを殺しませんし、サテラも死なせません。必ず全員助けます」
そこまで言うと、何も言わなかったパウロはこちらを振り向き、静かに笑った。
「ああ、だな」
そうして、俺達は再び他愛もない話をしながら、帰りを待つ家族の元へ歩き始めるのだった。
手遅れかもしれないんですけど一応
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戦闘描写たくさん
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話し合い、イチャイチャたくさん