貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

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70話 女王の覚悟

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜アリエル視点〜〜〜

 

 

『はあ……もういいです』

 

そう弱音を吐いて、私はフカフカのソファに倒れ込みました。

 

『どうしたアリエル?らしくないじゃないか』

 

正面で本を読んでいたヘルスが、ニコニコと笑みを浮かべて聞いて来ます。

 

『算術なんて……もううんざりです。使うかも分からないものをやれなんて、拷問と一緒じゃないですか』

 

『拷問って、何処でそんな言葉覚えて来たんだよ……』

 

ヘルスは少しため息をついてから、机の上に本を置いて、私の隣に座りました。

 

『どれどれ?あぁ……この問題か……』

 

そう呟くと、ヘルスは近くに置いてあったペンを持ち、スラスラと問題を解き始めます。

 

ほんの数分で、その紙に書いてあった算術の問題は、全て解かれてしまいました。

 

『す、すごいです!』

 

私は思わず感嘆の声を上げました。

 

『まあな、でもデリックには言うなよ?あいつに言ったら絶対作り直されちまうからな』

 

『もちろんです』

 

ヘルスは少し恥ずかしそうにしながら、自分の頬をポリポリと掻いています。

 

やはり彼は凄いです。

 

努力家で強くて、頭もいい。

 

そして何より、とても優しい。

 

彼が本気で怒っている姿を、私は誕生日の事件以外に見た事がありません。平民貴族分け隔てなく接し、必要であれば助け、支援する。それでいて、見返りを求める訳でもない。

 

そんな彼が、私は好きです。

 

 

 

『なあ、アリエル』

 

『は、はい?』

 

そんな事を考えていると、いつの間にかヘルスがこちらを向いていました。少し顔が赤かったのでしょうか?恥ずかしい……

 

 

『お前は可愛いし、地頭もいい。そんなお前だからこそ、言っておきたい事があるんだ』

 

『いきなり、どうしたんですか?』

 

ヘルスから先程の笑顔は消え、珍しく真面目な顔になっていました。

 

『お前はこれから生きていく上で、必ず沢山の壁に阻まれる。そしてお前は、その多くの壁を一人で突破する事が出来る』

 

『………』

 

『でもいつか、そんなお前にも突破できない時が来る。お前がどれだけ頑張っても、どんだけ時間をかけても解決できない壁だ』

 

『……では、どうすれば良いのですか?』

 

私が聞くと、ヘルスは私の肩に手をそっと置き、いつもの笑顔に戻りました。

 

『沢山頼れ、他人の気なんて使わずにな』

 

 

 

 

 

『……ップ』

 

 

私はその言葉に、思わず笑ってしまいました。あんな真剣な表情で、何を言い出すかと思えば、今更人を頼れだなんて……

 

『おい、あんま笑わないでくれよ……』

 

『フフ、ごめんなさい。でも、そんな当たり前の事、わざわざ言わなくてもいいじゃないですか』

 

『そうか?でもよ、人間は思い詰められた時、案外そんな簡単な事も思い出せないもんだぜ?』

 

『そういうものなのですか?』

 

私にはよく分かりませんでした。それを知るには、まだまだ経験が足りないのでしょうか?でも不思議と、ヘルスの言葉には説得力があります。

 

しばらくすると、ヘルスは立ち上がって、本を拾いました。

 

『よし、じゃあ俺はそろそろ帰るよ、デリックに、俺がここにいた事は言うなよ?』

 

『もちろん、分かっていますよ』

 

『へへ……じゃあな』

 

ヘルスは手を振りながらドアの方へと向かって行きます。

 

……嫌だ、行かないで……

 

突然、そんな感情が湧き出て来ました。

 

待ってください。

 

私は必死に彼を呼ぼうとしますが、声が思う様にでません。

 

彼は一度も振り返らず、ドアを開けました。

 

このままでは、彼が行ってしまう。

 

 

 

『ダメです!待ってください!』

 

やっと声が出た瞬間、視界がだんだんと白くボヤけ始めました。

 

 

 

ヘルスはこちらを向き、何かを話し始めましたが、よく聞き取れません。

 

 

 

そして私がヘルスに手を伸ばした時、視界は完全に白に染まりました。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「………待って!」

 

目を開けると、そこはペルギウス様からお貸しされた部屋でした。

 

私は何もない天井に、手を伸ばしています。

 

……夢、ですか。

 

まだ外は薄暗く、窓からは月の光が差し込んでいます。私はゆっくりと体を起こし、自分の手のひらを見ました。

 

もう夢の中の小さく短い手ではありません。

 

 

 

"沢山頼れ"

 

 

「……フフ、そうでしたね」

 

ヘルス……あなたの言う通りでした。

 

人間、思い詰めている時には、こんな簡単な事すらも思い出せないのですね……

 

ペルギウス様に出された私への問題、真の王とは何なのか。

 

その答えが今、分かった気がします……

 

 

〜〜〜ルーデウス視点〜〜〜

 

 

 

 

「随分と、高いな……」

 

「へへ、ギレーヌ、まさかビビってんじゃねぇだろうな」

 

「父さん、もうちょっと静かにお願いしますよ……」

 

昼……と言っても、もう日が下がり始めた頃に、俺達は空中要塞ケィオスブレイカーに到着した。

 

メンバーはパウロ、ギレーヌ、シルフィと俺の4人だけだ。

 

エリスも連れて行こうと思ったが、彼女の性格上、ペルギウスとは合わなそうな気がしたから、自宅待機とさせてもらった。俺が目を離した隙に殺し合い、なんて事になったらたまったものではないからな。

 

ギレーヌは空の上にいるという初めての体験に困惑している様子だ。そしてそれを見てご満悦の笑みを浮かべているパウロ。

 

自分だって最初に来た時は、サテラを落としかけて、腰を抜かしていた癖に……

 

「ルーデウス様にパウロ様、そして……獣族のお方。お待ちしておりました」

 

気づけば正面にシルヴァリルが立っていた。本当、いつでもオモテナシ精神マックスだよなこの人。

 

「お久しぶりですねシルヴァリルさん、こちらはギレーヌ、剣王ギレーヌ・デドルディアです」

 

「ギレーヌだ。よろしく頼む」

 

「はい、改めて歓迎致しますギレーヌ様」

 

「うむ、世話になる」

 

うん、ギレーヌは問題なさそうだな。これなら昔殺し合いになりかけた、あのアルマンフィにあっても大丈夫だろう。

 

ではギレーヌの顔合わせも済んだし、早速アリエルに会い行くとしよう。最も、彼女が今会える状態かは分からない。

 

俺がアリエルと最後に会った時、彼女はペルギウスから出された問題に苦戦している様だった。そんな忙しいそうなアリエルに会う時間は、果たしてあるのだろうか……

 

「シルヴァリルさん、いきなりで申し訳ないのですが……アリエル様に会わさせてもらってもいいですか?」

 

「もちろんよろしいですよ。むしろアリエル様から、あなた方をお呼びして欲しいと要望されておりました」

 

なんだって?アリエルの方から呼び出しされてるのか?

 

シルフィやパウロ達は知らないが、俺は特にアリエルに対して何かした覚えはない。ヘルス関連の事だろうか?

 

「では、アリエル様の元へ案内致しますね」

 

「あ……はい、お願いします」

 

後ろに振り返って奥へと進み始めるシルヴァリルに続いて、俺達も歩き始めた。

 

理由はよく分からんが、こちらもアリエルに用があるのだ。丁度いいだろう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

シルヴァリルによって案内されたのは、いつもアリエルとペルギウスが話し合っていた庭園ではなく、アリエルが寝泊まりしている部屋だった。

 

「アリエル様、ルーデウス様と、そのお仲間を連れて参りました」

 

シルヴァリルがドアをノックすると、ルークがサッとドアを開けた。

 

「シルヴァリル様、客人の身ながら、ペルギウス様の配下にこの様な無礼を……申し訳ありません。しかしなにぶん、時間がないもので……」

 

「問題ありませんよ」

 

「ご厚意に感謝します。では叔父上様達は中へ」

 

「おう、邪魔するぜ」  

 

「失礼する」

 

そう言ってズカズカと部屋に入り込んでいくパウロとギレーヌ、一応王女様のお部屋なのだが、彼らにモラルはないのだろうか?

 

俺とシルフィはシルヴァリルに軽く会釈をした後、ゆっくりと部屋へ入る。

 

「シルフィにルーデウス様、お待ちしておりました」

 

アリエルは部屋の真ん中にある小さなテーブルの奥に座っており、その周りには荷物が散らばっていた。先程まで、荷造りでもしていたんだろうか?では、ペルギウスの問題はどうなったんだ?

 

「まずは、本日私達の元へ来てくれた事、感謝致します」

 

「大丈夫ですよ。俺達もあなたに会いにここへ来たので」

 

「そうですか?ならいいのですが……」

 

俺はお得意の土魔術で椅子を四つ作り、パウロ達を座らせた。連れて来といて立ちっぱなしてのも申し訳ないからな。

 

「それで、俺達を呼んだ理由ってのは何なんだ?」

 

椅子に腰掛けたパウロが、不思議に聞いた。

 

「ええ、そうですね。では回りくどい言い回しはせず、率直に言いましょう」

 

アリエルはそう言うと、椅子から立ち上がり、こちらへ頭を下げた。

 

アスラ王国の第二王女が、俺達に頭を下げたのだ。

 

「ア、アリエル様!?」

 

シルフィは動揺して椅子から転げ落ちそうになったが、俺がすかさずフォローを入れたおかげで、情けなく後ろに倒れる事態は免れた。

 

「どうか私……いや……私達が王になる為、あなた方のお力を貸しては頂けませんか」

 

そう言って顔を上げたアリエルと目が合った。

 

その目は、覚悟を決めた目だ。

 

彼女は王になる。その為には手段を選ばない。その過程で犠牲者を大量に出したとしても、彼女の歩みは止まらない。

 

もし、自分が明日なんの前触れもなく死んだとしても、彼女はそれを潔く受け入れるだろう。

 

それ程の覚悟を、俺とさほど年齢が変わらない一人の女性が持っている。前世の俺が一生を賭けてもできなかった事を、彼女はやってのけたんだ。

 

 

 

 

俺はその覚悟を無駄にしたくないし、是非協力をしてやりたい。

 

しかしまだ、彼女に問いたい事が残っている。

 

「アリエル様は、本気で王になりたいのですか?」

 

「はい、覚悟は出来ています」

 

 

「……それは例え、ヘルスが敵に回ったとしてもですか?」

 

ヘルスを敵に回せるのか?

 

アリエルにとって、ヘルスはシルフィやルークよりも大切な存在だ。そんな親友と、果たして殺し合いができるのか……

 

「そんな事ないと信じたいですが、もしそうなったとしても、私は彼を必ず連れ戻します」

 

俺の問いに、アリエルは重みのある声で言った。

 

ヘルスとは敵対しない。それがアリエルの出した答え。

 

 

 

……うん、それがいい。もし仮にヘルスが敵に回ったとしても、アリエルに彼を連れ戻す気持ちがあるならそれでいい。俺は満足だ。

 

 

「アリエル様のお気持ちはよく分かりました。そう言う事ならば、是非俺も協力させてもらいます」

 

俺はアリエルに手を差し出した。

 

「いいのですか?あなたが言った通り、ヘルスと敵対するのかもしれないのですよ?」

 

「俺もヘルスと争う気はありませんよ。それにサテラを助ければ、彼が俺達と敵対する理由はありません」

 

「ルーデウス様……」

 

アリエルの目には涙が溜まり、今にも溢れ出しそうだ。

 

「僕も手伝うよ。これまでアリエル様には、色々とお世話になったし、何より、友達として、最後の役目を果たしたい」

 

「ルディが行くってんなら、俺も行くしかねぇか……ピレモンにだけは会いたくねぇが……」

 

「シルフィに、パウロ様まで………すいません」

 

アリエルは溢れでた涙を、ハンカチで拭うと、先程から一言も話さなかったギレーヌが、ゆっくりと口を開いた。

 

「アリエル……と言ったな、お前に聞きたい事がある」

 

「……はい、なんでしょうか?」

 

剣王の重みある声に、アリエルは真剣な表情で対応する。

 

「もしお前の下につけば、サウロス様の敵は討てるのか?」

 

「ええ、もちろんです」

 

ギレーヌの質問に、アリエルは即答した。事前にギレーヌの事については調べていたのだろう。

 

「私と共にアスラ王宮へ行き、調査を進めれば、遅かれ早かれ、サウロス様を陥れた犯人は見つかるでしょう。いえ、必ず見つけ出します」

 

「……そうか」

 

ギレーヌはそう言って、自分の掌を握り締め、決断した様に頷いた。

 

「ならば私も協力させてもらおう、構わないか?」

 

「構いません、よろしくお願いしますね、ギレーヌ様」

 

アリエルはギレーヌに微笑むと、俺達全体を見る様にして、再び頭を下げた。

 

「では改めて皆様、ご協力に感謝いたします」

 

『ああ』

 

「うん」

 

「はい」

 

 

こうして、俺達は正式にアリエルの護衛として、王都へ向かう事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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