貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
〜〜〜アリエル視点〜〜〜
『はあ……もういいです』
そう弱音を吐いて、私はフカフカのソファに倒れ込みました。
『どうしたアリエル?らしくないじゃないか』
正面で本を読んでいたヘルスが、ニコニコと笑みを浮かべて聞いて来ます。
『算術なんて……もううんざりです。使うかも分からないものをやれなんて、拷問と一緒じゃないですか』
『拷問って、何処でそんな言葉覚えて来たんだよ……』
ヘルスは少しため息をついてから、机の上に本を置いて、私の隣に座りました。
『どれどれ?あぁ……この問題か……』
そう呟くと、ヘルスは近くに置いてあったペンを持ち、スラスラと問題を解き始めます。
ほんの数分で、その紙に書いてあった算術の問題は、全て解かれてしまいました。
『す、すごいです!』
私は思わず感嘆の声を上げました。
『まあな、でもデリックには言うなよ?あいつに言ったら絶対作り直されちまうからな』
『もちろんです』
ヘルスは少し恥ずかしそうにしながら、自分の頬をポリポリと掻いています。
やはり彼は凄いです。
努力家で強くて、頭もいい。
そして何より、とても優しい。
彼が本気で怒っている姿を、私は誕生日の事件以外に見た事がありません。平民貴族分け隔てなく接し、必要であれば助け、支援する。それでいて、見返りを求める訳でもない。
そんな彼が、私は好きです。
『なあ、アリエル』
『は、はい?』
そんな事を考えていると、いつの間にかヘルスがこちらを向いていました。少し顔が赤かったのでしょうか?恥ずかしい……
『お前は可愛いし、地頭もいい。そんなお前だからこそ、言っておきたい事があるんだ』
『いきなり、どうしたんですか?』
ヘルスから先程の笑顔は消え、珍しく真面目な顔になっていました。
『お前はこれから生きていく上で、必ず沢山の壁に阻まれる。そしてお前は、その多くの壁を一人で突破する事が出来る』
『………』
『でもいつか、そんなお前にも突破できない時が来る。お前がどれだけ頑張っても、どんだけ時間をかけても解決できない壁だ』
『……では、どうすれば良いのですか?』
私が聞くと、ヘルスは私の肩に手をそっと置き、いつもの笑顔に戻りました。
『沢山頼れ、他人の気なんて使わずにな』
『……ップ』
私はその言葉に、思わず笑ってしまいました。あんな真剣な表情で、何を言い出すかと思えば、今更人を頼れだなんて……
『おい、あんま笑わないでくれよ……』
『フフ、ごめんなさい。でも、そんな当たり前の事、わざわざ言わなくてもいいじゃないですか』
『そうか?でもよ、人間は思い詰められた時、案外そんな簡単な事も思い出せないもんだぜ?』
『そういうものなのですか?』
私にはよく分かりませんでした。それを知るには、まだまだ経験が足りないのでしょうか?でも不思議と、ヘルスの言葉には説得力があります。
しばらくすると、ヘルスは立ち上がって、本を拾いました。
『よし、じゃあ俺はそろそろ帰るよ、デリックに、俺がここにいた事は言うなよ?』
『もちろん、分かっていますよ』
『へへ……じゃあな』
ヘルスは手を振りながらドアの方へと向かって行きます。
……嫌だ、行かないで……
突然、そんな感情が湧き出て来ました。
待ってください。
私は必死に彼を呼ぼうとしますが、声が思う様にでません。
彼は一度も振り返らず、ドアを開けました。
このままでは、彼が行ってしまう。
『ダメです!待ってください!』
やっと声が出た瞬間、視界がだんだんと白くボヤけ始めました。
ヘルスはこちらを向き、何かを話し始めましたが、よく聞き取れません。
そして私がヘルスに手を伸ばした時、視界は完全に白に染まりました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………待って!」
目を開けると、そこはペルギウス様からお貸しされた部屋でした。
私は何もない天井に、手を伸ばしています。
……夢、ですか。
まだ外は薄暗く、窓からは月の光が差し込んでいます。私はゆっくりと体を起こし、自分の手のひらを見ました。
もう夢の中の小さく短い手ではありません。
"沢山頼れ"
「……フフ、そうでしたね」
ヘルス……あなたの言う通りでした。
人間、思い詰めている時には、こんな簡単な事すらも思い出せないのですね……
ペルギウス様に出された私への問題、真の王とは何なのか。
その答えが今、分かった気がします……
〜〜〜ルーデウス視点〜〜〜
「随分と、高いな……」
「へへ、ギレーヌ、まさかビビってんじゃねぇだろうな」
「父さん、もうちょっと静かにお願いしますよ……」
昼……と言っても、もう日が下がり始めた頃に、俺達は空中要塞ケィオスブレイカーに到着した。
メンバーはパウロ、ギレーヌ、シルフィと俺の4人だけだ。
エリスも連れて行こうと思ったが、彼女の性格上、ペルギウスとは合わなそうな気がしたから、自宅待機とさせてもらった。俺が目を離した隙に殺し合い、なんて事になったらたまったものではないからな。
ギレーヌは空の上にいるという初めての体験に困惑している様子だ。そしてそれを見てご満悦の笑みを浮かべているパウロ。
自分だって最初に来た時は、サテラを落としかけて、腰を抜かしていた癖に……
「ルーデウス様にパウロ様、そして……獣族のお方。お待ちしておりました」
気づけば正面にシルヴァリルが立っていた。本当、いつでもオモテナシ精神マックスだよなこの人。
「お久しぶりですねシルヴァリルさん、こちらはギレーヌ、剣王ギレーヌ・デドルディアです」
「ギレーヌだ。よろしく頼む」
「はい、改めて歓迎致しますギレーヌ様」
「うむ、世話になる」
うん、ギレーヌは問題なさそうだな。これなら昔殺し合いになりかけた、あのアルマンフィにあっても大丈夫だろう。
ではギレーヌの顔合わせも済んだし、早速アリエルに会い行くとしよう。最も、彼女が今会える状態かは分からない。
俺がアリエルと最後に会った時、彼女はペルギウスから出された問題に苦戦している様だった。そんな忙しいそうなアリエルに会う時間は、果たしてあるのだろうか……
「シルヴァリルさん、いきなりで申し訳ないのですが……アリエル様に会わさせてもらってもいいですか?」
「もちろんよろしいですよ。むしろアリエル様から、あなた方をお呼びして欲しいと要望されておりました」
なんだって?アリエルの方から呼び出しされてるのか?
シルフィやパウロ達は知らないが、俺は特にアリエルに対して何かした覚えはない。ヘルス関連の事だろうか?
「では、アリエル様の元へ案内致しますね」
「あ……はい、お願いします」
後ろに振り返って奥へと進み始めるシルヴァリルに続いて、俺達も歩き始めた。
理由はよく分からんが、こちらもアリエルに用があるのだ。丁度いいだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
シルヴァリルによって案内されたのは、いつもアリエルとペルギウスが話し合っていた庭園ではなく、アリエルが寝泊まりしている部屋だった。
「アリエル様、ルーデウス様と、そのお仲間を連れて参りました」
シルヴァリルがドアをノックすると、ルークがサッとドアを開けた。
「シルヴァリル様、客人の身ながら、ペルギウス様の配下にこの様な無礼を……申し訳ありません。しかしなにぶん、時間がないもので……」
「問題ありませんよ」
「ご厚意に感謝します。では叔父上様達は中へ」
「おう、邪魔するぜ」
「失礼する」
そう言ってズカズカと部屋に入り込んでいくパウロとギレーヌ、一応王女様のお部屋なのだが、彼らにモラルはないのだろうか?
俺とシルフィはシルヴァリルに軽く会釈をした後、ゆっくりと部屋へ入る。
「シルフィにルーデウス様、お待ちしておりました」
アリエルは部屋の真ん中にある小さなテーブルの奥に座っており、その周りには荷物が散らばっていた。先程まで、荷造りでもしていたんだろうか?では、ペルギウスの問題はどうなったんだ?
「まずは、本日私達の元へ来てくれた事、感謝致します」
「大丈夫ですよ。俺達もあなたに会いにここへ来たので」
「そうですか?ならいいのですが……」
俺はお得意の土魔術で椅子を四つ作り、パウロ達を座らせた。連れて来といて立ちっぱなしてのも申し訳ないからな。
「それで、俺達を呼んだ理由ってのは何なんだ?」
椅子に腰掛けたパウロが、不思議に聞いた。
「ええ、そうですね。では回りくどい言い回しはせず、率直に言いましょう」
アリエルはそう言うと、椅子から立ち上がり、こちらへ頭を下げた。
アスラ王国の第二王女が、俺達に頭を下げたのだ。
「ア、アリエル様!?」
シルフィは動揺して椅子から転げ落ちそうになったが、俺がすかさずフォローを入れたおかげで、情けなく後ろに倒れる事態は免れた。
「どうか私……いや……私達が王になる為、あなた方のお力を貸しては頂けませんか」
そう言って顔を上げたアリエルと目が合った。
その目は、覚悟を決めた目だ。
彼女は王になる。その為には手段を選ばない。その過程で犠牲者を大量に出したとしても、彼女の歩みは止まらない。
もし、自分が明日なんの前触れもなく死んだとしても、彼女はそれを潔く受け入れるだろう。
それ程の覚悟を、俺とさほど年齢が変わらない一人の女性が持っている。前世の俺が一生を賭けてもできなかった事を、彼女はやってのけたんだ。
俺はその覚悟を無駄にしたくないし、是非協力をしてやりたい。
しかしまだ、彼女に問いたい事が残っている。
「アリエル様は、本気で王になりたいのですか?」
「はい、覚悟は出来ています」
「……それは例え、ヘルスが敵に回ったとしてもですか?」
ヘルスを敵に回せるのか?
アリエルにとって、ヘルスはシルフィやルークよりも大切な存在だ。そんな親友と、果たして殺し合いができるのか……
「そんな事ないと信じたいですが、もしそうなったとしても、私は彼を必ず連れ戻します」
俺の問いに、アリエルは重みのある声で言った。
ヘルスとは敵対しない。それがアリエルの出した答え。
……うん、それがいい。もし仮にヘルスが敵に回ったとしても、アリエルに彼を連れ戻す気持ちがあるならそれでいい。俺は満足だ。
「アリエル様のお気持ちはよく分かりました。そう言う事ならば、是非俺も協力させてもらいます」
俺はアリエルに手を差し出した。
「いいのですか?あなたが言った通り、ヘルスと敵対するのかもしれないのですよ?」
「俺もヘルスと争う気はありませんよ。それにサテラを助ければ、彼が俺達と敵対する理由はありません」
「ルーデウス様……」
アリエルの目には涙が溜まり、今にも溢れ出しそうだ。
「僕も手伝うよ。これまでアリエル様には、色々とお世話になったし、何より、友達として、最後の役目を果たしたい」
「ルディが行くってんなら、俺も行くしかねぇか……ピレモンにだけは会いたくねぇが……」
「シルフィに、パウロ様まで………すいません」
アリエルは溢れでた涙を、ハンカチで拭うと、先程から一言も話さなかったギレーヌが、ゆっくりと口を開いた。
「アリエル……と言ったな、お前に聞きたい事がある」
「……はい、なんでしょうか?」
剣王の重みある声に、アリエルは真剣な表情で対応する。
「もしお前の下につけば、サウロス様の敵は討てるのか?」
「ええ、もちろんです」
ギレーヌの質問に、アリエルは即答した。事前にギレーヌの事については調べていたのだろう。
「私と共にアスラ王宮へ行き、調査を進めれば、遅かれ早かれ、サウロス様を陥れた犯人は見つかるでしょう。いえ、必ず見つけ出します」
「……そうか」
ギレーヌはそう言って、自分の掌を握り締め、決断した様に頷いた。
「ならば私も協力させてもらおう、構わないか?」
「構いません、よろしくお願いしますね、ギレーヌ様」
アリエルはギレーヌに微笑むと、俺達全体を見る様にして、再び頭を下げた。
「では改めて皆様、ご協力に感謝いたします」
『ああ』
「うん」
「はい」
こうして、俺達は正式にアリエルの護衛として、王都へ向かう事となった。
手遅れかもしれないんですけど一応
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戦闘描写たくさん
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話し合い、イチャイチャたくさん