貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
『赤竜の顎ヒゲ』
それは、アスラ王国と北方大地を繋ぐ谷、『赤竜の上顎』を抜けた先に広がる深い森林。
森の中にはアスラ王国には珍しい強力な魔物や、南北を股にかける盗賊団が潜んでおり、度々商人や周辺の村が被害を受けている。
「……ヒック」
そんな危険が隣り合わせの森で、一人の男が歩いていた。左手に酒瓶を、右手には刀を持っている。
盗賊や魔物にとって、男は恰好の的であり、いつ狙われてもおかしくはない。
しかし、男は数日前から滞在しているのにも関わらず、一人も……一匹も男を襲おうとはしなかった。それは何故か?
「ヘルス殿、お体に障りますよ」
それは男の後ろから音もなく出て来た、もう一人の男のせいだろう。
奇抜な髪型に、派手な服装、誰が見ても見間違える筈もない。
北帝 オーベール・コルベット
北神三剣士の中で、最強の男であり、逃げ足だけで言えば、オルステッドを凌駕する可能性すらある。
「……うるせぇ」
ヘルスは近づこうとするオーベールを払いのけ、酒瓶に残っていた中身を飲み干した。
「小言言う暇あんならよぉ、近くの村から酒とってこい。一番強いやつをな」
「………はあ、承知致しました」
オーベールはため息を吐きながら、ゆっくりと闇の中へ消えていった。
ヘルスは飲み干した酒瓶を投げ捨て、再び森の中を歩き続ける。
『赤竜の上顎』に到着した時、ヘルスは歩みを止めた。空を見上げれば、眩しい程に輝いている月が昇っている。
「……そろそろか」
彼は広大な赤竜山脈を見上げながら、小さな声でそう呟いたのだった。
〜〜〜ルーデウス視点〜〜〜〜
とうとう、アスラ王国王都へと向かう時が来た。
向かうメンバーは9人
アリエル、ルーク、シルフィ、エルモア、クリーネ。
そこに俺、エリス、ギレーヌ、パウロが追加される形だ。
俺達は、魔法都市シャリーアの入り口で、大勢の人達から見送られ、王女が使用するとは思えない質素な馬車を走らせた。
王都への移動には、転移魔法陣と馬、馬車を併用する。
まず一度空中要塞まで行き、王都周辺に転移させてもらう。最初はヘルスと同じ様に、王宮内部にある転移魔法陣を使う予定だったのだが、何者かの手……恐らくダリウスがそれを察知し、王宮内にある全ての転移魔法陣を破壊した為、代わりに周辺の場所へ転移する事となったのだ。
ペルギウスの協力は、アリエルが、俺達に協力を得る前に約束されたと言う。
なんでもギリギリになって、真の王とはなんなのか、その答えを、彼女なりに導き出し、その答えがペルギウスに好印象だった事で、協力してもらえる事になったらしい。
いい滑り出しだ。恐らしい程に……
このまま問題なく、事が進んでくれればいいのだが……そうもいかないだろう。
「ルディ?大丈夫?」
シルフィにそう言われて、現実へと引き戻される。気づけば俺は、シルフィの手を強く握り締めていた。
「ご……ごめんシルフィ、痛かったか?」
「このくらい平気だよ。それにそれでルディが安心してくれるなら、僕は幸せだよ」
満面の笑みで答えるシルフィを見て、俺の心が正常に戻った気がした。その証拠に、俺の手は既にシルフィの尻の方へ移動している。
「ッひゃ!」
俺がお尻を触ると、シルフィは顔を赤くして体をビクつかせた。
「ル…ルディ、流石に今はダメだよ……」
「フフ、大丈夫だよ、俺もそのくらいは………」
そこまで言うと、俺はエリスに睨まれている事に気づいた。いや、彼女にとってはあの目つきが普通なんだろうが、こういう時、怒ってるかの判断に困るなぁ……
「では、行きましょう」
アリエルの一言で、皆次々に魔法陣の中へと入っていく。
ルーク、エルモア、クリーネ、アリエル、パウロ、ギレーヌ、シルフィ。
俺も魔法陣へ入ろうとした時、エリスに手を繋がれた。
「エ…エリスさん、怒ってますか?」
「別に怒ってなんかないわよ。ただちょっと、羨ましいなって……」
「ごめん……じゃあ帰る時は、一緒に手を繋いで帰ろう」
「……約束よ」
「ええ」
俺は握られた手を強く握り返し、二人で一緒に魔法陣へと入った。
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転移した先は、遺跡の中だった。ベガリット大陸や、ラノア王国にもあった、似たようなやつだ。
遺跡から出ると、外は森の中だった。
事前に地図で確認した情報によると、『赤竜の上顎』と呼ばれる渓谷の、やや北西か。
森を抜け、街道付近にまで移動した後、今日はそこで一夜を過ごす事になった。
料理はシルフィと従者二人が、見張りはギレーヌ、パウロ、エリスがそれぞれ担当してくれたおかげで、俺は何もする事がなくなってしまう。
俺は魔術で作り出した椅子に座り、紅く燃え上がる焚き火をぼんやりと眺めていた。
冒険者時代、こんな風になんの役割もなかった時があった。
その時は、同じ様な状態になっているヘルス……麒麟と良く雑談していたものだ。
なんともくだらない会話で、なんの実りもない話だった。でもその時間が、今ではとてもなく恋しく思えてくる。
夕食が終わり、夜になると、アリエルはテントに、俺達は見張りをする事になる。見張りは基本二人一組。
しかし、少しだけ三人一組となる時間帯がある。
その時は、その中の一名が周囲の見回りをしにいく。
「じゃあ、見回りに行って来ます」
初日の担当は俺だ。俺は同じ見張り担当だったパウロとエリスにそう告げ、奥の森へと消えていった。
5分程歩き、エリスやパウロ達とは相当離れた筈だ。ここなら、彼が来ても大丈夫だろう。
「……待たせたな」
「ッふぇ!?」
突然隣から声をかけられ、情けない声が出てしまう。
声をかけられた方を見ると、オルステッドが立っていた。
「オルステッド様、お疲れ様です」
「ああ」
俺は挨拶しつつ、近くの木の根に座った。オルステッドも俺の正面にあった木の根に腰を下ろす。
オルステッドとは、定時連絡をするよう事前に決めておいた。
俺はルークや他のメンバーの行動に異常がないかを伝え、オルステッドは俺達が進む先に罠などがないかを下見してもらう。
そうする事で、よりスムーズに今後の方針を決める事ができるのだ。
オルステッドに一通り報告し終えると、オルステッドは一つ、俺に警告をしてくれた。
「しばらくは何もないとは思うが、赤竜の上顎を抜けたあたりでは注意しろ」
「分かりました」
やはりオルステッドも危惧していたか……
赤竜の上顎を抜けた先にある森。
通称『赤竜の顎ヒゲ』
森の中には強力な魔物や、盗賊達がわんさかいる。つまり、いつ死んでもおかしくない場所なのだ。
要人を消すのにはもってこいだ。もし敵が来るとしたら、そこしかないだろう。
「ヘルスは王都にいる筈だ、もし森で戦闘になるのだとしたら、その相手は、北帝オーベールである可能性が高い」
北帝オーベール
噂では、北神流のお手本みたいな人物で奇抜な髪型に派手な服装。周りにの環境に合わせ、多種多様な攻撃をしてくる厄介な男らしい。
そんな男が、森の中で待ち伏せしているのか……
相手がオーベールだけならいいが、もし他にも強力な敵が待ち構えているとなると、アリエルを守り切れるか不安だ。
「……安心しろ、もしお前達が劣勢に追い込まれでもしたら、その時は俺がやる」
俺が不安な顔を出していたせいか、オルステッドはため息混じりにそう言ってくれた。
「いえ、オルステッド様には重大な任務があるのでしょう?ここは俺達だけでなんとかしますよ」
オルステッドの力は強大だ。多分、オルステッドに勝てる人物なんて、世界中どこを探してもいないだろう。しかし、彼の魔力は有限だ。俺達が数日で回復してしまう魔力量でも、彼には数十年の時間を要する。
数百年後、オルステッドにはヒトガミとの決闘が控えている。だからできるだけ彼には魔力を温存しといてもらいたい、その為に俺がいるんだ。
絶対に勝たなくては
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『赤竜の上顎』
ただ一本道が続く渓谷。
ミリス大陸で通った、聖剣街道のようにまっすぐではないが、分かれ道もない一本道である。国境と国境の間にある、どこの国のものでもない領域。
かつて、俺もここを通った事があった。
あの時、俺は全てに絶望していた。
エリスに捨てられたと勘違いし、半ば自暴自棄になっていた。もしヘルスやサテラがいなかったらと考えると……寒気がしてくる。
でも、あれから俺は立ち直り、今では一児の父だ。『立派』とつけれないのが残念だが、一応父親だ。
アリエルが旅慣れをしていなかった為、その日はあまり進まずに、一夜を過ごした。早く王都へ戻りたいルーク達には悪いが、俺には好都合だった。
この先、必ず敵の襲撃が待ち構えている。その為、事前にフォーメーションを再確認したかったのだ。
エリス、ギレーヌ、パウロの剣士は前衛。
臨機応変に対応できるシルフィが中衛。
予見眼を持つ俺が後衛。
ルークや従者達は、アリエルの直衛だ。
そして従者のクリーネには、魔力付与品マジックアイテムで、アリエルに変装してもらう。もし、敵がアリエル達の元へ到達し、命の危険に晒されても、彼女が身代わりになってくれると言う訳だ。そんな事絶対に起こさせないが……
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翌日。
昨日確認したフォーメーションで移動を開始した。
最前列に、エリス、ギレーヌ、パウロ、それに続いて、俺とシルフィの乗った馬。その後ろに、アリエル達の馬車という感じだ。
皆が警戒を怠らず、常に周囲を確認しながら進んでいく。
赤竜の上顎を抜ける直前、俺の身長の半分程しかない岩に、あるマークが刻まれているのを発見した。
$の様な形をしたマーク、間違いない、これはオルステッドと事前に打ち合わせしていたものだ。
『この先、待ち伏せあり』
ここを抜けた先に、敵がいるのだ。
俺は持っていた杖を強く握り締め、もう一度、戦う覚悟を鼓舞した。
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赤竜の上顎を抜けると、森が広がっていた。
「とうとう、ここまで戻って来たね」
シルフィはそう呟くと、歩かせていた馬を止めた。
それに続き、ルークも場所も、全員が止まった。
馬車からアリエルが降りて来た。手には小さな花束を持っている。
アリエルが歩き始めると、ルークやシルフィ、従者達もそれに続く。
そして五人は、道端にある石の所まで歩いた。
どこにでもある様な、なんの特徴もない石。しかしその表面には、力強く削られた×字の印が刻まれていた。
アリエルは花束をそこに添え、祈りのポーズをとった。
他四人も、形は違うが、皆が祈りを捧げている。
恐らく、あの石の下に眠るのは、アリエルの仲間だろう。この森、赤竜の上顎で死んでいった、アリエルの護衛達だ。
アリエルの護衛……つまりシルフィの同僚に当たる訳だ。俺も手合わせぐらいはしておかねば……
『大丈夫さぁ前に進もう、太陽をいつも胸に〜〜〜』
俺が石に近づこうとした瞬間、森の奥から歌が聞こえて来た。
この世界では馴染みのない言語……日本語だ。
俺は杖を森に向け、戦闘体制に入る。
そして、森の中からゆっくりと人影が出て来た。
「……ヒック」
森から出て来たのは、男だった。
男は左手に酒瓶を持ち、千鳥足になりながら、こちらへと歩いてくる。
その男の姿を見た時、全員が同じ言葉を叫んだ。
『ヘルス!!』
男の正体は、ヘルス・ノトス・グレイラット
「ああ……もう来たのか……」
オルステッドの言っていた襲撃者、それは、ヘルスだったのだ。
手遅れかもしれないんですけど一応
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戦闘描写たくさん
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話し合い、イチャイチャたくさん