貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

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71話 襲撃者

 

 

 

 

 

『赤竜の顎ヒゲ』

 

それは、アスラ王国と北方大地を繋ぐ谷、『赤竜の上顎』を抜けた先に広がる深い森林。

 

森の中にはアスラ王国には珍しい強力な魔物や、南北を股にかける盗賊団が潜んでおり、度々商人や周辺の村が被害を受けている。

 

「……ヒック」

 

そんな危険が隣り合わせの森で、一人の男が歩いていた。左手に酒瓶を、右手には刀を持っている。

 

盗賊や魔物にとって、男は恰好の的であり、いつ狙われてもおかしくはない。

 

しかし、男は数日前から滞在しているのにも関わらず、一人も……一匹も男を襲おうとはしなかった。それは何故か?

 

「ヘルス殿、お体に障りますよ」

 

それは男の後ろから音もなく出て来た、もう一人の男のせいだろう。

 

奇抜な髪型に、派手な服装、誰が見ても見間違える筈もない。

 

北帝 オーベール・コルベット

 

北神三剣士の中で、最強の男であり、逃げ足だけで言えば、オルステッドを凌駕する可能性すらある。

 

「……うるせぇ」

 

ヘルスは近づこうとするオーベールを払いのけ、酒瓶に残っていた中身を飲み干した。

 

「小言言う暇あんならよぉ、近くの村から酒とってこい。一番強いやつをな」

 

「………はあ、承知致しました」

 

オーベールはため息を吐きながら、ゆっくりと闇の中へ消えていった。

 

ヘルスは飲み干した酒瓶を投げ捨て、再び森の中を歩き続ける。

 

『赤竜の上顎』に到着した時、ヘルスは歩みを止めた。空を見上げれば、眩しい程に輝いている月が昇っている。

 

「……そろそろか」

 

彼は広大な赤竜山脈を見上げながら、小さな声でそう呟いたのだった。

 

〜〜〜ルーデウス視点〜〜〜〜

 

とうとう、アスラ王国王都へと向かう時が来た。

 

向かうメンバーは9人

 

アリエル、ルーク、シルフィ、エルモア、クリーネ。

 

そこに俺、エリス、ギレーヌ、パウロが追加される形だ。

 

俺達は、魔法都市シャリーアの入り口で、大勢の人達から見送られ、王女が使用するとは思えない質素な馬車を走らせた。

 

 

 

王都への移動には、転移魔法陣と馬、馬車を併用する。

 

まず一度空中要塞まで行き、王都周辺に転移させてもらう。最初はヘルスと同じ様に、王宮内部にある転移魔法陣を使う予定だったのだが、何者かの手……恐らくダリウスがそれを察知し、王宮内にある全ての転移魔法陣を破壊した為、代わりに周辺の場所へ転移する事となったのだ。

 

 

ペルギウスの協力は、アリエルが、俺達に協力を得る前に約束されたと言う。

 

なんでもギリギリになって、真の王とはなんなのか、その答えを、彼女なりに導き出し、その答えがペルギウスに好印象だった事で、協力してもらえる事になったらしい。

 

いい滑り出しだ。恐らしい程に……

 

このまま問題なく、事が進んでくれればいいのだが……そうもいかないだろう。

 

「ルディ?大丈夫?」

 

シルフィにそう言われて、現実へと引き戻される。気づけば俺は、シルフィの手を強く握り締めていた。

 

「ご……ごめんシルフィ、痛かったか?」

 

「このくらい平気だよ。それにそれでルディが安心してくれるなら、僕は幸せだよ」

 

満面の笑みで答えるシルフィを見て、俺の心が正常に戻った気がした。その証拠に、俺の手は既にシルフィの尻の方へ移動している。

 

「ッひゃ!」

 

俺がお尻を触ると、シルフィは顔を赤くして体をビクつかせた。

 

「ル…ルディ、流石に今はダメだよ……」

 

「フフ、大丈夫だよ、俺もそのくらいは………」

 

そこまで言うと、俺はエリスに睨まれている事に気づいた。いや、彼女にとってはあの目つきが普通なんだろうが、こういう時、怒ってるかの判断に困るなぁ……

 

「では、行きましょう」

 

アリエルの一言で、皆次々に魔法陣の中へと入っていく。

 

ルーク、エルモア、クリーネ、アリエル、パウロ、ギレーヌ、シルフィ。

 

俺も魔法陣へ入ろうとした時、エリスに手を繋がれた。

 

「エ…エリスさん、怒ってますか?」

 

「別に怒ってなんかないわよ。ただちょっと、羨ましいなって……」

 

「ごめん……じゃあ帰る時は、一緒に手を繋いで帰ろう」

 

「……約束よ」

 

「ええ」

 

俺は握られた手を強く握り返し、二人で一緒に魔法陣へと入った。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

転移した先は、遺跡の中だった。ベガリット大陸や、ラノア王国にもあった、似たようなやつだ。

 

遺跡から出ると、外は森の中だった。

 

事前に地図で確認した情報によると、『赤竜の上顎』と呼ばれる渓谷の、やや北西か。

 

森を抜け、街道付近にまで移動した後、今日はそこで一夜を過ごす事になった。  

 

料理はシルフィと従者二人が、見張りはギレーヌ、パウロ、エリスがそれぞれ担当してくれたおかげで、俺は何もする事がなくなってしまう。

 

俺は魔術で作り出した椅子に座り、紅く燃え上がる焚き火をぼんやりと眺めていた。

 

 

冒険者時代、こんな風になんの役割もなかった時があった。

 

その時は、同じ様な状態になっているヘルス……麒麟と良く雑談していたものだ。

 

なんともくだらない会話で、なんの実りもない話だった。でもその時間が、今ではとてもなく恋しく思えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

夕食が終わり、夜になると、アリエルはテントに、俺達は見張りをする事になる。見張りは基本二人一組。

 

しかし、少しだけ三人一組となる時間帯がある。

 

その時は、その中の一名が周囲の見回りをしにいく。

 

「じゃあ、見回りに行って来ます」

 

初日の担当は俺だ。俺は同じ見張り担当だったパウロとエリスにそう告げ、奥の森へと消えていった。

 

 

5分程歩き、エリスやパウロ達とは相当離れた筈だ。ここなら、彼が来ても大丈夫だろう。

 

「……待たせたな」

 

「ッふぇ!?」

 

突然隣から声をかけられ、情けない声が出てしまう。

 

声をかけられた方を見ると、オルステッドが立っていた。

 

「オルステッド様、お疲れ様です」

 

「ああ」

 

俺は挨拶しつつ、近くの木の根に座った。オルステッドも俺の正面にあった木の根に腰を下ろす。

 

オルステッドとは、定時連絡をするよう事前に決めておいた。

 

俺はルークや他のメンバーの行動に異常がないかを伝え、オルステッドは俺達が進む先に罠などがないかを下見してもらう。

 

そうする事で、よりスムーズに今後の方針を決める事ができるのだ。

 

 

 

オルステッドに一通り報告し終えると、オルステッドは一つ、俺に警告をしてくれた。

 

「しばらくは何もないとは思うが、赤竜の上顎を抜けたあたりでは注意しろ」

 

「分かりました」

 

やはりオルステッドも危惧していたか……

 

赤竜の上顎を抜けた先にある森。

 

通称『赤竜の顎ヒゲ』

 

森の中には強力な魔物や、盗賊達がわんさかいる。つまり、いつ死んでもおかしくない場所なのだ。

 

要人を消すのにはもってこいだ。もし敵が来るとしたら、そこしかないだろう。

 

「ヘルスは王都にいる筈だ、もし森で戦闘になるのだとしたら、その相手は、北帝オーベールである可能性が高い」

 

北帝オーベール

 

噂では、北神流のお手本みたいな人物で奇抜な髪型に派手な服装。周りにの環境に合わせ、多種多様な攻撃をしてくる厄介な男らしい。

 

 

そんな男が、森の中で待ち伏せしているのか……

 

相手がオーベールだけならいいが、もし他にも強力な敵が待ち構えているとなると、アリエルを守り切れるか不安だ。

 

「……安心しろ、もしお前達が劣勢に追い込まれでもしたら、その時は俺がやる」

 

俺が不安な顔を出していたせいか、オルステッドはため息混じりにそう言ってくれた。

 

「いえ、オルステッド様には重大な任務があるのでしょう?ここは俺達だけでなんとかしますよ」

 

オルステッドの力は強大だ。多分、オルステッドに勝てる人物なんて、世界中どこを探してもいないだろう。しかし、彼の魔力は有限だ。俺達が数日で回復してしまう魔力量でも、彼には数十年の時間を要する。

 

数百年後、オルステッドにはヒトガミとの決闘が控えている。だからできるだけ彼には魔力を温存しといてもらいたい、その為に俺がいるんだ。

 

絶対に勝たなくては

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

『赤竜の上顎』

 

ただ一本道が続く渓谷。

 

ミリス大陸で通った、聖剣街道のようにまっすぐではないが、分かれ道もない一本道である。国境と国境の間にある、どこの国のものでもない領域。

 

かつて、俺もここを通った事があった。

 

あの時、俺は全てに絶望していた。

 

エリスに捨てられたと勘違いし、半ば自暴自棄になっていた。もしヘルスやサテラがいなかったらと考えると……寒気がしてくる。

 

でも、あれから俺は立ち直り、今では一児の父だ。『立派』とつけれないのが残念だが、一応父親だ。

 

 

 

アリエルが旅慣れをしていなかった為、その日はあまり進まずに、一夜を過ごした。早く王都へ戻りたいルーク達には悪いが、俺には好都合だった。

 

この先、必ず敵の襲撃が待ち構えている。その為、事前にフォーメーションを再確認したかったのだ。

 

エリス、ギレーヌ、パウロの剣士は前衛。

臨機応変に対応できるシルフィが中衛。

予見眼を持つ俺が後衛。

 

ルークや従者達は、アリエルの直衛だ。

 

そして従者のクリーネには、魔力付与品マジックアイテムで、アリエルに変装してもらう。もし、敵がアリエル達の元へ到達し、命の危険に晒されても、彼女が身代わりになってくれると言う訳だ。そんな事絶対に起こさせないが……

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

翌日。

 

昨日確認したフォーメーションで移動を開始した。

 

最前列に、エリス、ギレーヌ、パウロ、それに続いて、俺とシルフィの乗った馬。その後ろに、アリエル達の馬車という感じだ。

 

皆が警戒を怠らず、常に周囲を確認しながら進んでいく。

 

赤竜の上顎を抜ける直前、俺の身長の半分程しかない岩に、あるマークが刻まれているのを発見した。

 

$の様な形をしたマーク、間違いない、これはオルステッドと事前に打ち合わせしていたものだ。

 

『この先、待ち伏せあり』

 

ここを抜けた先に、敵がいるのだ。

 

俺は持っていた杖を強く握り締め、もう一度、戦う覚悟を鼓舞した。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

赤竜の上顎を抜けると、森が広がっていた。

 

「とうとう、ここまで戻って来たね」

 

シルフィはそう呟くと、歩かせていた馬を止めた。

それに続き、ルークも場所も、全員が止まった。

 

馬車からアリエルが降りて来た。手には小さな花束を持っている。

 

アリエルが歩き始めると、ルークやシルフィ、従者達もそれに続く。

 

そして五人は、道端にある石の所まで歩いた。

 

どこにでもある様な、なんの特徴もない石。しかしその表面には、力強く削られた×字の印が刻まれていた。

 

アリエルは花束をそこに添え、祈りのポーズをとった。

 

他四人も、形は違うが、皆が祈りを捧げている。

 

恐らく、あの石の下に眠るのは、アリエルの仲間だろう。この森、赤竜の上顎で死んでいった、アリエルの護衛達だ。

 

アリエルの護衛……つまりシルフィの同僚に当たる訳だ。俺も手合わせぐらいはしておかねば……

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫さぁ前に進もう、太陽をいつも胸に〜〜〜』

 

俺が石に近づこうとした瞬間、森の奥から歌が聞こえて来た。

 

この世界では馴染みのない言語……日本語だ。

 

俺は杖を森に向け、戦闘体制に入る。

 

そして、森の中からゆっくりと人影が出て来た。

 

「……ヒック」

 

森から出て来たのは、男だった。

 

男は左手に酒瓶を持ち、千鳥足になりながら、こちらへと歩いてくる。

 

その男の姿を見た時、全員が同じ言葉を叫んだ。

 

『ヘルス!!』

 

男の正体は、ヘルス・ノトス・グレイラット

 

「ああ……もう来たのか……」

 

オルステッドの言っていた襲撃者、それは、ヘルスだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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