貴殿転生 元の知識で本気出す   作:MENOUENOTANKOBU

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72話 悪夢再び

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……もう来たのか……」

 

なんで……なんでここにヘルスがいる?

 

 

オルステッドの予想では、ヘルスは王都にいる筈だ。まさか読みが外れたのか?

 

「ヘルス……」

 

アリエルがそう呟くと、ヘルスがアリエル達の方を向いた。

 

「……まあ、当然お前も来るよな」

 

ヘルスはそう言って、鞘から刀を取り出す。

 

「ッは!アリエル様!?」

 

ルークと従者はアリエルの前に立ち、戦闘体制に入る。

 

しかし、ルークが構えたその剣は、ひどく震えていた。

 

「あ、兄上……なぜ……?」 

 

「なぜって? 全く……聞きたいのはこっちだよ……」

 

ヘルスはゆっくりとアリエル達の方へ歩いていく。

 

「お前らがシャリーアで大人しく過ごしときゃあ、こうはならなかった。少なくとも、死ぬのは一人で済んだんだ……」

 

まずい!アリエル達を守らなくては!

 

ヘルスに狙いを定めようと、傲慢なる水竜王(アクアハーティア)を向けた。

 

 

 

ダメだ……ここからでは距離が遠すぎる。俺のストーンキャノンだと、アリエル達も巻き込みかねない。どうすれば……

 

「ヘルス、それ以上近づくと、斬るわよ!」

 

俺がそう考えている内に、エリスがヘルスの行く手を阻んでいた。

 

 

エリスの目はマジだ、本気で斬る気でいるのだろう。

 

しかしエリスの警告を受けても、ヘルスの歩みは止まらない。

 

「すげぇ自信だな。ギレーヌと同じ剣王になれたのが、そんなに嬉しいのか?」

 

「………」

 

酒に酔っているからだろうか、今のヘルスは放つ言葉の一つ一つが刺々しい。いや……それとも、エリスが向かってくるよう、わざと挑発しているのか?

 

エリスはヘルスの言葉に動じる様子はなく、いつもと変わらない顔でヘルスを睨んでいる。

 

「……そういうあんたは、随分とお疲れみたいね」

 

「そりゃあ、お前達のせいでここんとこ動きっぱなしだったからな。酒に逃げたくもなるぜ」

 

バリバリバリ

 

ヘルスが持っていた酒瓶を地面に落とすと、周りから紅色の稲妻が出てくる。

 

 

「まあ、そんな忙しい生活も、今日でおさらばだ」

 

 

 

「アリエル様、僕の後ろに下がっていて……」

 

やばい、みんなやる気だ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

俺は咄嗟にエリスの前に出た。

 

「ヘルスも皆さんも落ち着いてください、俺達が戦う理由はないんですから」

 

「何?」

 

ヘルスが俺の目の前に立つ。身長は大して変わらない筈なのだが、ヘルスから放たれる異質な圧に、俺は萎縮してしまう。

 

俺が高校生……引きこもりになる前、こうやって詰められた事があった。あの時は、俺はその圧に負けて、人生のどん底に落ちてしまった。

 

 

ダメだ、ここで弱っては……俺は決めたんだろ?もう後悔はしないって……

 

「アモール病を治す方法を見つけました」

 

「………なんだと?」

 

俺がそう言うと、ヘルスの指が一瞬震えた。

 

「ヘルスは既に知っているかもしれませんが、俺は龍神オルステッドに戦いを挑んだ後、彼の軍門にくだりました。そしてそれと同時に、彼は約束してくれました。サテラを助けると」

 

「………」

 

「何千年も生きて来た龍神なら、サテラを確実に助けれます。ヘルスも、その為に第一王子側についていたんでしょう?」

 

俺は込み上げてくる恐怖心を必死に抑えながら、ヘルスに訴えた。

 

「安心してください、サテラは助かります。だから………もうこんな意味のない戦い……やめましょうよ」

 

頼む、やめると言ってくれ……俺は親友と争いなんて、したくないんだ。

 

 

ヘルスはこの世界で………いや、前世を含めて初めて出来た親友なんだ。

 

 

 

トン

 

 

ヘルスは何も言わず、俺の肩に手を置いた。

 

 

良かった……分かってくれたのか……

 

「ヘルーーー」

 

 

 

 

 

 

 

「53人だ」

 

「………え?」

 

突然言われた数字に、思わず動揺してしまう。

 

 

「サテラを助ける為に、俺が殺した人間の数だ」

 

「それは………」

 

「老若男女関係なしに、俺は殺した。そん中には、俺に剣術を教えた師匠も入ってる」

 

俺の肩を掴むヘルスの手が、段々と強くなっていく。

 

 

 

 

 

 

「俺は………俺の幸せを心から願ってくれていた師匠を、この手で殺したんだよ」

 

 

 

「……ヘルス」

 

 

 

「そんな師匠の死が、意味のないモノだったなんて、俺は認めねぇよ……!」

 

 

バリバリバリ

 

再びヘルスから、紅色の稲妻が漂い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠の死に意味を与えるのは、俺だ!!」

 

 

「ルディ!下がれ!」

 

「エリス!離れろ!」

 

ヘルスからくる攻撃を阻止しようと、ギレーヌとパウロが飛びかかる。

 

しかし、ヘルスの目標は俺達ではなかった。

 

「剃!」

 

ギレーヌが振り下ろした剣が当たる前に、ヘルスは姿を消した。

 

「消えた!?」

 

俺達が狙いではないのなら、残す目標は一人しかいない!

 

『アリエル様!!』

 

 

 

そう叫び終わる前に、ヘルスはアリエルの前に現れ、その場で従者二人を蹴り飛ばした。

 

「ッぐ……」

 

次に、咄嗟に無詠唱で魔術を放とうとしたシルフィの首を掴み、俺達の方へ投げつける。

 

俺はこちらへ飛んできたシルフィは、そのまま木へと衝突した。

 

 

「アリエル様!お逃げを!」

 

「ルーク!」

 

ルークはアリエルの前に立ち、震える剣を構え、ヘルスに立ち塞がる。

 

 

「重ねて四つだ。痛みはねぇから安心しろよ……」

 

ヘルスは鞘から、禍々しく赤黒く染まった刀を取り出し、二人に向かい構えた。

 

「やべぇ!二人共逃げろ!!」

 

 

ギレーヌ、パウロ、エリスは全力疾走でアリエルの元へ向かう。

 

しかし無理だ……間に合わない。

 

 

アリエルが殺される 

 

 

「ヘルス」

 

 

ヘルスが刀を振るうその瞬間、アリエルがルークの前に出た。

 

彼女は両手を広げ、ヘルスに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「……愛しています」

 

 

ヘルスの振った刃が、アリエルに向かい放たれた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ヘルスはアリエルに向かい刀を振るった。

 

しかし、その刃がアリエルの首を刎ねる事はなかった。

 

刃はアリエルの首に当たったまま、まるで時が止まってしまったかの様に静止している。

 

しかし、実際に時間が止まっている訳ではない。

 

 

刃を当てられているアリエルの首からは、血が静かに流れ落ちている。

 

つまり、ヘルスが自らの意思で、刀を止めたのだ。

 

「あ、兄上……?」

 

ルークはヘルスの行動に理解が追いつかず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

カラン

 

 

「……んでだよ」

 

 

ヘルスはアリエルの首に当てていた刀を地面に落とし、膝から崩れ落ちた。

 

「なんで今、そんな事言えるんだよ……」

 

目の前で膝をついて倒れているヘルスを、アリエルはただ真顔で見つめている。

 

「俺はただ、普通に生きたかっただけなのに、人並みに生きる事ができれば、それで良かったのに……」

 

「ヘルス……」

 

「でも、もうそんな事叶わない……後戻りなんて出来ないって分かり切ってる筈なのに、なんで斬れねぇんだよ……」

 

ヘルスはそれ以上は何も言わず、俯いたまま黙り込んでしまった。

 

俺はそんなヘルスに何も言葉を掛けてあげる事ができず、立ち尽くしてしまう。

 

 

 

 

"まだやり直せる、一緒に頑張ろう"

 

そんな言葉を一言でも掛けてやれば、ヘルスの気が少しでも楽になるかも知れない。

 

でも俺は、そんな事言ってやれる程、強くないんだ。

 

今まで事あるごとにアドバイスをしてくれて、窮地を救ってくれた親友に、俺はそんな一言も掛けてやれない。とんだクソ野郎だ……

 

 

「ヘルス」

 

森に訪れた長い沈黙を破ったのは、アリエルだった。

 

 

「本当に、すみませんでした」

 

アリエルはヘルスに向かい頭を下げた。もちろんヘルスは下を向いているため、頭を下げているのには気づいていないだろう。

 

「………」

 

「私は勝手な我儘で、あなたを傷つけ、突き放しました。正直、殺されても仕方ない事だと思っています」

 

「……じゃあ、なんでここに来たんだよ………王になる為か?」

 

「それもあります。でも、それと同じくらいに、あなたと、こうしてもう一度話し合いたかった」

 

アリエルがそう言うと、ヘルスの肩が、一瞬震えた。

 

「怖かったんです。もう二度とあなたと会う事が出来ないと考えただけで、夜も眠れない程に……」

 

「………」

 

「あんな別れ方をしておいて、何を今更と言われても、仕方ありません。けど、本当に怖かったんです」

 

アリエルの瞳から、ポロポロと涙が落ちいく。そこで初めて、ヘルスはアリエルの顔を見上げた。

 

「許せとは言いません。どれだけ私を罵って、乱暴にしてもらっても構いません。だけれど、私には果たさなくてはならない役目……王になる役目が残っています」

 

「………」

 

「凄く身勝手で、おこがましい事だとは重々承知しています。だけど、あなたを愛する一人の女として、今一度聞きたいんです」

 

アリエルはヘルスに手を差し伸べた。

 

「もう一度、私と一緒に、同じ道を歩んではくれませんか?」

 

「………」

 

ヘルスはアリエルから差し伸べられた手をじっと見つめている。

 

アリエルは言ったのだ。

 

俺が言えなかった事を、代弁してくれたのだ。

 

 

「俺は、本当にやり直しても……いいのか」

 

ヘルスが、声を震わせながら聞いた。

 

「はい」

 

アリエルはなんの躊躇いもなく返答した。

 

「サテラも助かるのか……?」

 

「はい」

 

「もう、お前らと戦わなくていいのか?」

 

「はい」

 

「みんなと、また一緒に、やり直せるのか」

 

「はい」

 

ヘルスはそこまで聞くと、体を震わせながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「アリエル」

 

「はい、なんでしょう」

 

ヘルスから名前を呼ばれ、アリエルは涙ぐみながら返事をした。

 

 

「俺は………お前のーーーー」

 

 

 

 

 

 

『ならん………』

 

 

 

 

「ッぐ……!」

 

ヘルスがアリエルに何かを言おうとしたその瞬間、頭に直接響く様な声が聞こえて来た。なんだこれは、頭がカチ割れる様に痛い……

 

「ヘルス!大丈夫ですか!?」

 

アリエルの叫び声が聞こえた俺は、なんとかヘルスとアリエルの方向を向いた。

 

「ッぐあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そこには、自身の首を抑え、膝をつきながらもがき苦しむヘルスと、それを必死に助けようとするアリエルがいた。

 

「ヘルス、一体どうしたのですか!?その手をまずは……」

 

「ッああ!ダメだ!来るんじゃねぇ!」

 

 

ヘルスは近づこうとしたアリエルを突き飛ばし、再びもがき苦しみ始めた。

 

「ヘルス!一体どうしたんだ!?」

 

「兄上!」

 

ギレーヌが突き飛ばされたアリエルを受け止め、パウロとルークがヘルスの元へ走る。

 

 

 

ボン!!

 

 

次の瞬間、黒いモヤを出して悶え苦しんでいたヘルスの体が、青い炎に覆われた。

 

そしてその下からは、謎の魔法陣が現れる。

 

五芒星……まさかこれは……!

 

ベガリット大陸のヒュドラ討伐の時に見た、ヘルスが謎の化け物に変わったものと同じだ。

 

「ッは!?叔父上、いきなり何を!?」

 

「一旦退くぞ!これは……」

 

パウロも魔法陣に気づき、ルークを担いでこちらに下がった。

 

「ヘルス!」

 

必死にそう叫ぶが、ヘルスには届かない。

 

「まさか……俺は……」

 

ヘルスはそう呟くと、こちらを向いて、手を伸ばした。

 

 

「アリエル………」

 

その瞬間、ヘルスの周りから黒い稲妻が現れ、ヘルスは五芒星の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手遅れかもしれないんですけど一応

  • 戦闘描写たくさん
  • 話し合い、イチャイチャたくさん
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