貴殿転生 元の知識で本気出す   作:MENOUENOTANKOBU

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73話 醜い

 

 

〜〜〜ヘルス視点〜〜〜

 

 

俺は……アリエルをどう思っているんだ?

 

アリエルが涙を流しながら謝り続ける姿を見ていると、そんな疑問が浮かんできた。

 

 

最初は憎らしくて仕方がなかった。殺してしまいたいと思うほどに、俺はアリエルに嫌悪感を抱いていた。

 

しかし今は、そんな彼女に刀を振り切れずにいる。

 

 

何故だ?

 

アリエルを殺したかったんじゃないのか?憎らしくて仕方なかったんじゃないのか?

 

なんで俺は、こんなに躊躇っているんだ?

 

 

いや、まず……何故アリエルが嫌いなんだ?

 

自分が王位継承争いに巻き込まされそうになったから?

 

違う。

 

薄汚い貴族達に笑みを浮かべて、媚びへつらうアリエルが、単に気に入らなかったのか?

 

違う。

 

完全に違う、とも言い切れない。何故アリエルが嫌いなのか、それすら思い出せないのだから。

 

だけど、それが分からなくても、確かな事が一つある。

 

 

 

 

 

 

 

俺がどうしようもないクズだって事だ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

この世で最も愚かで醜い存在は何か?

 

 

極悪非道の限りを尽くし、それでいて反省の色も見せない奴か?

 

何事にも興味を示さず、誰とも理解し合えない孤独な奴か?

 

人によっては、そいつらだと言うかもしれないが、俺はそんな奴らが醜いとは思わない。

 

 

彼らには芯がある、意志がある。

 

俺は俺、私は私

 

極悪非道の奴が、なんの躊躇いもなく人を殺せる様に。

 

誰とも理解し合えない奴が、簡単に人を切り捨てられる様に。

 

彼らには意志がある。誰からも干渉されない程強い意志が。

 

 

俺が思う最も愚かで醜い存在は、そんな芯すらも持っていない奴……つまりは俺自身だった。

 

 

 

 

"俺は、ルーデウスの意思を尊重する"

 

相手を気遣っている様に思える言葉だが、実際の所、それは相手の事を全く考えていない、逃げの言葉だった。

 

俺は今までそうやって逃げて来た。選択から、覚悟から。

 

 

逃げ続けて来た男に、芯なんて、ある筈もないだろう……

 

 

 

もう家族の顔すらも思い出せなくなったが、前世でそうだったんだろうか?

 

こうやって、ずっと逃げ続けて来たんだろうか……

 

 

「もう一度、私と一緒に、同じ道を歩んではくれませんか?」

 

アリエルはそう言って、俺に手を差し伸べて来た。

 

救いようのない醜い存在に、手を差し伸べてくれた。

 

アリエルの手は、もう俺が知っていたかつての手ではない。

 

雪の様に白く、傷一つない綺麗で華奢な手。しかし子供ではなく、一目で大人の手だと分かる。

 

 

 

俺はゆっくりと、アリエルの方へ顔を向けた。

 

黄金色の長い髪、恐ろしい程に整った顔、変わらぬ姿をしたアリエルの姿が、そこにはあった。

 

しかしその目は、覚悟を決めた、強い意志を持った目だった。

 

自分は必ず王になる

 

そう覚悟を決めた、勇敢な女。

 

 

 

 

 

……そうだった。

 

彼女の顔みて、俺はようやく気づいた。

 

俺は、アリエルが嫌いだったんじゃない。

 

俺が嫌いだったんだ……

 

 

貴族達に媚びへつらって、薄気味悪い笑みを浮かべるアリエル。その姿が俺と似ていて、物凄く不快だったんだ。

 

俺が大好きで、尊敬していた奴が、俺になろうとしている。それだけはなんとしても避けたかった。

 

でも、別にそんな心配しなくても良かったんだ。

 

アリエルは、誰にも曲げる事の出来ない強い意志を持っている。絶対に俺になる事はないんだ。

 

つまり結局は、俺の勘違いだった。

 

俺がただ一方的にアリエルを嫌い、避けていただけだったんだ。

 

 

最低だ………

 

そんな落ちぶれた俺を、アリエルはまだやり直せると、手を差しのべている。

 

 

"どうか……お幸せに……"

 

師匠が最後に残した言葉

 

俺は、幸せになっていいのか?

 

もう、楽になってもいいのか?

 

でもまずは、アリエルに謝らなくてはいけない。今までの行いを、悔い改めなければならない。

 

俺はゆっくりと立ち上がり、真っ直ぐアリエルの方へを向いた。

 

「アリエル」

 

「はい、なんでしょう」

 

今度は逃げない、しっかりと話し合うんだ。

 

「俺は……お前のーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ならん………』

 

 

その時、俺の頭に直接話しかけられる様に、その声は聞こえた。

 

この声は……もう一人の俺?

 

そう理解した瞬間に、突然喉が焼ける様に熱くなった。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」

 

耐え難い痛みに、思わず叫び声を上げてしまう。

 

『アリエルを殺すという役目すらまともに果たせないとは、やはり半端者には任せるべきではなかった』

 

俺の意識が、底なし沼の様な闇の中に消えていくのを感じる。

 

何故?

 

こいつが俺の体の主導権を握る事は出来ない筈だ。今まで俺の体を乗っ取らなかったのが何よりの証拠。何故だ……

 

『泳がせてやっていた事に気づいていなかったのか……やはり愚かだな、お前は……』

 

なんだと……?

 

『あの時、五芒星アビスを設置した時点で、お前の体は既に俺のモノだったんだよ』

 

もう一人の俺が話すたびに、俺の意識がどんどんと薄れていく。

 

嫌だ……俺はまだ……

 

「まさか……俺は……」

 

そして薄れいく意識の中、俺はある事に気づいてしまった。

 

まさか、もう一人の俺……こいつの正体は………

 

 

俺は痛みに耐えながら、ルーデウス達の方へ手を伸ばした。

 

伝えたい……これだけは……

 

今ならまだ、最後に一言ぐらいは喋れる。

 

俺は残っていた力を振り絞りルーデウス達に一言呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「アリエル………」

 

そして、俺の意識は完全に闇の中へと堕ちていった。

 

 

〜〜〜ルーデウス視点〜〜〜

 

 

ヘルスが五芒星の中へ完全に沈むと同時に、そいつは現れた。

 

 

馬の様な姿の化け物、肉はついておらず、骨だけだ。

 

そして頭には、2本の角が生えている。

 

こいつは、やはりベガリット大陸でみたあいつだ。今回は上半身が人間ではなく、完全に馬みたいになっているが、雰囲気で分かる。

 

俺達はアリエル達を後ろに下げ、戦闘体制に入る。

 

「あ、あれは一体……」

 

アリエルは信じられないと言う表情で、化け物を見上げた。

 

『………』

 

化け物は何も発さず、そして動かずに、こちらを見下ろしている。

 

あいつは一体なんなんだ?ヘルスはどうなったんだ?

 

俺の頭には大量の疑問が絶えず流れてくるが、今は全てを忘れよう。目の前の敵にだけ集中するのだ。

 

『……できれば、ここで全員始末しておきたがったが……』

 

「ッなんだ!頭に直接!?」

 

さっきみたいに、頭から直接聞こえてくる声に警戒するが、あの頭がカチ割れるような痛みはもう襲ってこない。

 

『お前ら、さっさと出て来い』

 

化け物が森の方を見ると、中からゾロゾロと大量の兵士達が現れた。

 

こんな大人数、一体いつから居たんだ?

 

『お前もだ、オーベール』

 

「……え?某も……ですか?」

 

森の反対側、つまり赤竜の上顎の出口から、気の抜けた声が聞こえた。

 

咄嗟に後ろを向くと、奇抜な服を着た男が一人いた。

 

特徴からして間違いない。こいつが北帝オーベール……

 

何故北帝が俺達が来た方向から出てくるんだ?待ち伏せだとしても、エリスやギレーヌなら気づけた筈だ。

 

「今、ここで第二王女を殺せる絶好のチャンスなのですぞ?」

 

『……厄介な虫ケラが一匹紛れている』

 

「はあ……」

 

厄介な奴、オルステッドの事か?彼なら遠くで見守っていると言っていたが、まさか近くまで来ているのか?

 

『俺とオーベールは王都へ戻る、お前達は奴らの足止めをしろ』

 

化け物は森から出て来た兵士達に冷たくそう言うと、オーベールは驚愕の目を向けた。

 

「本気ですか!?相手勢力は剣王が二人もいるのですぞ!?退くのであれば彼らも共に……」

 

『誰が口答えしろと言った?』

 

「し……しかし」

 

『所詮こいつらは、役に立たん虫ケラ共だ。王都へ戻らせる価値もない』

 

 

 

兵士達は全員が恐怖の顔を浮かべている。当然だろう。

 

逃げれば化け物に殺される。戦えば剣王に殺される。どちらを選択したとしても、彼らの死は今ここで決定したのだから。

 

『俺は先に戻る、余計な真似はするなよ?オーベール』

 

「…………」

 

化け物はそう言うと、再び現れた五芒星の中へと消えていった。

 

残された敵は、北帝と、名前も知らない兵士達。

 

「………すまぬ」

 

オーベールは顔をしかめながら、不満を残し森の中へと走り去っていく。

 

これで、相手側の主戦力は消えた。

 

「お前ら!今降伏すんなら、命だけは助けてやるぜ?」

 

パウロは剣を兵士達に向け、降参するよう要求する。

 

「それとも、この剣王のお二人と戦って死にてぇのか?」

 

剣王、その言葉でさらに震え上がる兵士達だが、握っている剣だけは、震える事なく、俺達に向けられている。

 

やるしかないのか……

 

「……まあ、それで降伏しちゃ、兵士は務まらねぇわな」

 

「行くぞ、エリス、パウロ」

 

「ええ!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ザシュ

 

 

「ッぐはぁ!」

 

最後まで立っていた兵士は、エリスによって真っ二つに切り裂かれた。

 

 

 

勝敗は分かりきっていた。

 

それでも彼らが俺に特攻を仕掛けて来たのは、恐怖からか、単にあの化け物を崇拝しているかは分からない。

 

けど、あいつはヘルスじゃない、乗っ取られているだけだ、それだけは分かる。

 

ヘルスは絶対に人をあんな風に扱わないし、脅したりしない。

 

絶対に違う、そう信じよう。

 

 

 

 

俺は最後に倒れた兵士に近づき、頭に手を乗せた。

 

「お疲れ様でした……」

 

弔いの言葉を最後に呟き、体全体を火で燃やした。

 

決して死体を弄んでいる訳ではない。殺した死体を放置しておくと、アンデットとして蘇る可能性がある為だ。

 

死体を完全に燃やし、ふと、着ていた装備に目を向けた。

 

 

 

「ルーク先輩……この紋章って……」

 

「……ああ、そうだ」

 

男の着ていた鎧に刻まれていたこの紋章、これは……ミルボッツ領の紋章。

 

 

ミルボッツ領はノトス家の領地、つまり、ルークの実家だ。

 

ヘルスが来た時点で薄々気づいてはいたが、やはりノトス家は第二王女側を裏切っていたか……

 

「兄上……何故……」

 

そしてルークの様子を見るに、ルーク本人はノトス家の裏切りを知らなかったと見て間違いないだろう。

 

となると、ルークがヒトガミの使徒である可能性はかなり低くなり、逆に、ヘルスがヒトガミの使徒である事はほぼ確実になる。

 

 

 

あの状態では、話し合う事はおろか、会う事すら困難だ。

 

そうなれば、オルステッドはなんの躊躇いもなくヘルス……あの化け物を殺すだろう。

 

化け物を殺す分にはいい、しかし仮にあの化け物を殺したとして、ヘルスは戻ってくるのだろうか?そのまま化け物と一緒に死ぬって事もありえる。それだけはなんとしても避けたい。

 

しかし、あの化け物を無力化する力も、説得する手段も、俺には考える事が出来ない。

 

 

では……どうすればいい?

 

 

 

俺は、意味もないであろう前世の自分を思い出して、必死に答えを探そうとした。だが、結局その日は答えを見つける事もなく、静かな森の中でゆっくりと時間が過ぎるのを感じるだけだった。

 

 

 

 

 

 




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