貴殿転生 元の知識で本気出す   作:MENOUENOTANKOBU

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74話 帰還

 

 

 

 

「転生法か……」

 

「……え?」

 

俺は昨日起きた出来事を、オルステッドに報告した。

 

そして彼はしばらく黙り込んだ後、独り言の様にそう呟いた。

 

 

「俺もあの現場には居合わせていたが、ヘルスが突如として苦しみだした時、あの時に、奴から流れ出る魔力が変わった。それも表現し難い程、禍々しい魔力にな」

 

「……魔力って、人によって変わるものなんですか?」

 

「大抵の人間は同じだ。しかしお前の様に、ラプラス因子を強く持つ者や、神子などの魔力はある程度見分ける事が出来る」

 

魔力を見分ける……よく分からんな。オルステッドの様に何千年も生きていれば、そういう事も可能なのだろうか?

 

しかしそれよりも気になるのは……

 

「それで、魔力の変化と転生法にはどんな関係が?」

 

「それは……まあ、いいだろう」

 

オルステッドは諦めのため息を吐いた。

 

「転生法とはすなわち、別の魂が他の者の肉体に宿る事だ。しかし、転生した者と他者との魔力には必ず違いがある。その場合、大抵は乗り移った魂の魔力に置き換わる」

 

ほおほお

 

「本来ならば、魔力の違いは微々たるモノである為、その変化は分かりにくいが、今回、ヘルスの魔力と乗り移った魂の魔力では、大きな違いがあった。だからつまり、そう言う事だ」

 

なるほどなるほど、全く分からん。

 

「もうちょっとだけ、簡単にしてくれませんか?」

 

「理解しなくてもいい、いずれお前も感覚で分かる筈だ」

 

なんですかそれ、投げやりじゃないですか社長。

 

内容の三分の一も理解出来なかったが、つまり、あれはヘルスではないって事なんだな。

 

「どこの誰がヘルスの体に乗り移ったのかは見当もつかないが、奴がより厄介な存在になった事に変わりはない。奴にこれ以上面倒事を起こされる前に、早めに手を打っておくべきだ」

 

「……つまり、ヘルスを殺すと?」

 

俺からの問いに、オルステッドは顔色一つ変えずに頷く。

 

「転生法の存在を知り、それを使用できる程の実力。それでいて会話も交渉も困難となれば、こちらにはもう奴を生かしておくメリットはない」

 

「………」

 

オルステッドの言う通り、確かにこれ以上ヘルスを生かしたとしても、こちら側が有利になるような事は起こらないだろう。むしろ暴れられて、被害が拡大するかもしれない。

 

それでも、俺はヘルスを殺したくない。

 

これは理屈じゃない、ただのワガママだ。親友を殺して平気でいられる程、俺は強くないんだ。

 

「………」

 

「……王都まではまだ時間がかかるだろう。その間に、お前も覚悟を固めておけ」

 

俺はオルステッドの言葉に、ただ頷く事しか出来なかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

そこから王都へ到着するまでの数日間、俺達はなんの妨害や問題もなく進行する事ができた。

 

本当、不気味な程に……

 

問題……とまではいかないが、変わった事があるとすれば、ルークやアリエル、従者達だろう。

 

ヘルスがあんな風になったのを目の当たりにしてから、明らかに彼らの口数は減った。

 

特に変化が大きかったのはアリエル。

 

常に笑顔を絶やさないでいる彼女も、今回の事はかなり響いたのだろう、悲しげな表情を浮かべながら、馬車で静かに座り続けていた。

 

アリエルの気持ちは痛い程分かる。全てを投げ出してしまいたいぐらい辛いだろう。

 

 

けど、きっと彼女は諦めない。そう信じ切れる。アリエルならきっと大丈夫だ、今までもそうだったんだからな。

 

それに悪い事ばかりではない。

 

つい先日、ダリウス失脚の重要な役目を果たす人物、トリスティーナ・パープルホースを見つけ、さらにはこちら側に引き込む事に成功したのだ。

 

幼い頃に誘拐されたトリスは、ダリウスにより盗賊団に売られた後も、なんとかして生き延びていたらしい。自分より何倍も年上の男に体を売り、同じ様な境遇の女を何度も奴隷として売ってきたり、かなりエグい内容が殆どだったが、トリスは泣くでもなく笑うでもなく、淡々と話し続けていた。

 

アリエルはそんなトリスの壮絶な人生に心から涙し、そして懇願した。

 

共に王都へ戻り、ダリウスを倒してほしいと。

 

最初は渋っていたトリスだが、アリエルの揺るぎない覚悟を信じ、協力する事を約束してくれた。

 

トリスの協力を得た事で、必要最低限の手札は揃った。

 

甲龍王ペルギウスの後ろ盾に、アスラ王国上級大臣ダリウスの知られざる秘密。最低限と言うのには勿体無い気がするが、アスラ王国の王になる為には、これ程の手札が必要なんだろう。

 

後は俺達の頑張り次第……といったところだろう。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「あ……えぇ」

 

「凄いわね!」

 

丘の上から王都を見た時、俺はエリスと二人で揃って口を開けた。

 

ペルギウスの城よりもさらにデカい城、それを囲む分厚い城壁の中には、きらびやかな邸宅の数々。

 

そして何より、上から見ても視界に収まりきらない程広い町並みに、俺達は圧倒され、同時に実感した。

 

とうとう到着したのだ。この世界で最も栄えている都、王都アルスに。

 

「やっと、帰ってきましたね」

 

興奮冷めやらぬ俺とエリスとは別に、アリエル達は険しい表情を浮かべ、巨大な城を睨みつけている。

 

「やっぱり……変わってねぇな」

 

パウロもいつものおちゃらけた表情ではなく、どこか懐かしみを感じている様な顔で、城を眺めていた。

 

そうか、パウロは確か、元々はノトス家の長男だった。長い間帰っていない様だが、一応は里帰りって事になるのか。

 

「先へ急ぎましょう」

 

アリエルの言葉で、俺達は王都へと入って行った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

外から見ればあれほど美しかった町並みも、内側に入ってしまえば大した事ではなかった。どこかで見たことある様な店、馬車、人々、他の町と大差はなかった。唯一違うところと言えば、他の町よりも少し広い道ぐらいだろうか。

 

「まずは私の別宅へと移動します。そこを拠点としましょう。王宮に入る前に、いろいろと準備が必要です」

 

と言うアリエルの言葉により、ひとまず俺達は上級貴族が住む区画である場所を目指す事にした。丘から見た感じだと、ここからは半日程ぐらいだろう。

 

ルークを先頭にして、俺達は広々とした道を一列に進んでいく。冒険者主体の町から、町人主体の町へと変わっていくと、町人の中からこちらを指差す者が出始めた。

 

「あれ……もしかしてルーク様とフィッツ様じゃないか……?」

 

「ホントだ……てことは、あの場所にいるのは……」

 

「アリエル様か!?」

 

「国王陛下のご病気を聞いて、戻ってらしたんだ!」

 

町人達は歓声を上げて、次々と現れる。

 

それをルークやシルフィが笑顔で手を振り、歓声はさらに高くなっていく。

 

別にバレてはいけない訳ではないので、ルークやシルフィ達の行動は構わないのだが、前世で色々あった俺にとっては、こういう注目される様なのはちょっと恥ずかしい。

 

「アリエル様〜〜!!」

 

ふと、歓声を上げ手を振る一人の青年を見た。

 

他の町人となんら変わりない、ただの青年。しかし、その腕には何か印の様なものがついていた。

 

いや、青年だけではない。歓声を上げる町人をよく見ると、三人に一人は同じ印が体のどこかについている。

 

ある老人には首に、ある妊婦には手の甲に、場所は様々だが、印は統一されている。

 

何かの宗派的なものなんだろうか?詳しい事は分からないが、何か異質だ。

 

しかし、印以外に町人に問題などはなく、熱烈な歓声を浴び、どこか晴れた気持ちで、俺達は貴族が住む地区へと入って行った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

貴族が住む地区に入った途端、先程まで嫌と言うほど聞こえてきた歓声は一気に消え、貴族達は俺達の姿を見て、ヒソヒソと何かを話している。

 

歓声はあまり好きではないが、こう言う陰口っぽいのはもっと苦手だ。

 

「何よあいつら、ムカつくわね」

 

エリスも不機嫌そうに俺の前を歩き、貴族達を睨みつけている。

 

「この居心地の悪さ、中もやっぱり変わってないな……」

 

パウロがポツリと呟いた。

 

「父さん、昔の事、よく覚えてるんですか?」

 

「おうよ、あん時の俺は居場所がなくてなぁ、生きづらくって仕方なかったよ」

 

「意外ですね、父さんならどこでも馴染めそうな感じがしますけど」

 

「家族との折り合いが悪くてな、特に弟……ピレモンの野郎には……」

 

「エリス!!」

 

その時、隣を歩いていた一人の見習い兵士らしき人物が、こちらを走り寄ってきた。

 

ギレーヌ、エリス、パウロは咄嗟に剣を構え、俺とシルフィ達はアリエルの乗る馬車を囲む様に広がった。

 

「ちょっと待ってくださいよ!私ですよ!エリス、ギレーヌ!」

 

声からして、女性だろうか?

 

その人物は俺達がいきなり戦闘体制に入った事に驚きながら、慌てて兜を取り外した。

 

「イゾルデです!」

 

「……誰よ」

 

「ええ!?」

 

兜の中から出てきた長髪の美女は、自分が覚えられていない事実にショックを受け、その場で兜を落としてしまった。

 

「……冗談よ、久しぶりね、イゾルデ」

 

「はあ、冗談でしたか……って、エリス、そう言う事言える人だったんですね」

 

イゾルデは額に貯まった汗を拭きながら苦笑した。

 

「ていうか、なんであんたがここにいんのよ」

 

「私ですか?私はおばあちゃ……水神様の付き添いで、たまたま見習い兵士として活動しているんですよ」

 

水神……やはりここに来ているのか。

 

「ああ違う違う!そんな事よりもエリス、少し聞きたい事があるのですが……」

 

「……何よ」

 

「ヘルス様には、もうお会いになられましたか?」

 

その言葉に、一瞬言葉を失いかけたエリスだったが、そばにいたルークがすかさずフォローにはいる。

 

「失礼、ご婦人。申し訳ないのですが、我らは任務の途中。いずれ時間など取れる時期もありましょう。その時に、お詫びなども兼ねて……」

 

「結構です」

 

「左様ですか、では、失礼します」

 

イゾルデに冷たく言われたルークは苦笑もせず、にこやかな笑顔をしたまま下がる。

 

ルークを見たイゾルデは、エリスの耳元で何やら囁き始めた。

 

「ーーー」

 

「……ええ、大丈夫よ」

 

「ーーーーーー」

 

「……何を勘違いしてるか分からないけど、私はルーデウスを愛してるの」

 

「……そうですか、エリスがそう言うなら、まあいいです。すいません、急いでいたのですね」

 

イゾルデは最後にそう言い終えると、何故か俺の方を向き、笑顔でお辞儀をして去って行ってしまった。

 

「エリス、あの人は一体誰だったですか?」

 

「あれは……友達よ……」

 

「友達!?」

 

エリスの予想外の発言に、俺は思わず声を上げてしまった。

 

あの手のつけられない程暴れん坊だったエリスに友達かぁ。なんかこう、グッと来るものがあるな。

 

「その友達、大切にしろよ?」

 

「……それは、無理かもしれないわ」

 

ああ、そうだった。彼女はダリウスに雇われている水神の孫娘、つまり一応はダリウスの部下にあたる訳だ。となると、俺達とは敵対関係になる可能性があるのか。

 

「……エリスは、それでいいのか?」

 

「腕が鳴るわ。剣の聖地での決着をつけられるもの」

 

友達と殺し合う。ヘルスの時も、真っ先に前に出ていたが、ちゃんとその意味をエリスは理解しているんだろうか?まあその辺は、彼女なりの価値観があるんだろう。

 

「ルーデウスにエリス、先へ急ぐぞ」

 

「はい」

 

「分かったわ」

 

ギレーヌにそう言われて俺達は再び歩き始めた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その後、上級貴族の住む地区に入り、アリエルの別宅へと到着する頃には夕方を過ぎていた。

 

町中に入ったのが昼すぎだったから、本当に半日費やしてしまったのか。

 

別宅へ到着すると、数人の執事やメイド達が出迎えてくれ、俺達は建物の中へと案内された。

 

 

案内された建物の内部は、豪華だった。

 

もちろん、ペルギウスの城と比べると確かに見劣りはしてしまうが、それでも色々な場所に置かれている高そうな美術品を見ると、いかにも上級貴族、王族が使っているそうな別宅だと感じれる。

 

それぞれに客間を割り振られ、旅の汚れや疲れを水浴びで落とした後、俺達は食事をとりながら、今後の方針を決め始めた。

 

「私は、明日より動き始めます。ペルギウス様をお出迎えするため、そしてダリウス上級大臣を失脚させる為の『場』を用意します。その他にも、やるべき事は大量にあるでしょう」

 

「はい」

 

「私にはあまり時間がありません。そこで、厚かましいのは重々承知しているのですが、ルーデウス様達に一つ、お願いを聞いては貰えないでしょうか?」

 

「もちろん協力しましょう。俺達に出来ることならなんでもします」

 

「そう言ってもらえると助かります」

 

「で、俺達に頼みてぇ事ってのは?」

 

パウロが尋ねると、笑顔だったアリエルの顔が真剣な表情に変わった。

 

「ヘルス……ノトス家をこちら側に引き込む事です」

 

アリエルがそう言うと、全員が顔をあげ、食事をしている手を止めた。

 

「それは……流石に厳しいな」

 

「ええ、ですからこれは、祈りの様なものですよ」

 

あの状態のヘルスを、こちら側に引き込むなど、不可能に近いだろう。

 

でも、それができなければ、ヘルスは殺される……殺さなくてはならなくなる。それだけは、なんとしても避けなければならない。

 

「……やります」

 

「え?」

 

「絶対に、ノトス家……いえ、ヘルスを仲間にします」

 

俺が力強く言うと、一瞬アリエルはきょとんとした表情を浮かべたが、やがていつものにこやかな笑顔に戻った。

 

「ええ、そうしてください。お願いします」

 

 

その日の夕食は、久しぶりに全員が笑顔で食事を終えることができた。

 

 

 

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