貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

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77話 兄弟

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻ると、ピレモンが椅子に座ったまま寝ていた。

 

「すみません、父上は多忙の為忙しく……」

 

「フフ、お互い大変ですね」

 

アリエルはそんなピレモンの姿に苦笑する。

 

ピレモンも相当疲れていたのだろう、自分の息子があんな状態なんだ、無理もない。

 

みんなもそんな哀れなピレモンを気遣い、彼が自分で起きるまで待っておこうという話になった。

 

「……ッチ」

 

その時、部屋の隅で不機嫌そうにしていたパウロが、わざとらしく大きな足音を立ててピレモンに近づいた。

 

パウロはピレモンの前に立つ。

 

そしてピレモンの腹を、勢いよく蹴った。

 

「ッグハ!!」

 

「父さん!?」

 

ピレモンは後ろに頭から倒れ、苦しそうなうめき声を上げる。

 

「父上!!パウロ様!一体何を!?」

 

パウロはディエゴの問いには答えず、体を曲げて苦しんでいるピレモンを睨んだ。

 

アリエル達も、パウロの突然の行動に驚き呆気にとられている。

 

咳き込みをしながらも、ピレモンは体制を整え、ゆっくりとパウロを見上げた。

 

「パ、パウロ」

 

「……ムカつくんだよ、テメェは」

 

ピレモンが自分の方を向いたのを確認したパウロが、への字に曲げていた口を開く。

 

「昔から泣き虫で、姑息で、漢気のカケラもねぇようなお前が、俺はずっと嫌いだったんだよ」

 

「………」

 

ピレモンは何も言い返さず、ただパウロを見ている。

 

「ヘルスがああなって苦しんでるのはテメェだけじゃねぇ。アリエルだって、ルディだって、俺だって辛いんだよ。なのに、自分が一番辛いです見たいな面してる今のお前が、過去最高にムカつくんだよ」

 

「父さん……」

 

"自分が一番辛い"

 

かつて世話になったステップトリーダーのゾルダートも、今のパウロと同じ様な事を言っていたのを思い出す。

 

今のピレモンも、あの時の俺と同じ状態なのかもしれない。

 

「……俺だって、お前が憎い……憎らしくて仕方がなかった」

 

ピレモンは下を向き、覇気のない声で呟いた。

 

「常に俺の先を行き、己の無力さ、才能のなさを自覚させてくる。父からの期待、母からの愛を一番に受けていたお前が……」

 

ドン!

 

ピレモンが地面に拳を力強く打った音が、静かになった部屋全体に響き渡る。

 

「俺はお前になりたかった……!お前が俺だったら、こうはならなかった筈だろ……」

 

「………それはどうだろうな」

 

「そうやって深く考えず生きていく事ができれば、俺はどれほど幸せだったか……」

 

「深く考えて生きる道を選んだのはお前自身だろ?俺を貶めて家族に亀裂を入れ、家から追い出した。それがお前が選んだ道だ。いい加減分かれよ」

 

今日のパウロはいつも以上に大人びている。弟に再会したからか、俺の知らない内に精神が成長していたのかは分からないが、ピレモンが放つ不満を淡々と正論で返していく姿は、いつものおちゃらけたものではない。

 

「自分の息子を政治の道具として使ってきたツケが、ようやく回ってきたんだよ」

 

「ちがう!!」

 

ピレモンが声を張り上げて否定する。

 

「俺はただ、息子達に幸せになって欲しかっただけなんだ。家督を継がせ、俺がいなくなった後も、何不自由なく暮らせる様にさせたかった。当主になれなくとも、各々が幸せになれる様に、俺はしたかっただけなんだ……」

 

しかしその声は段々と小さくなり、また囁き声に戻った。

 

「でも、俺は失敗した、判断を誤った。その結果、ルークは命の危機に晒され、ディエゴの負担が増え、そしてヘルスは………クソ!」

 

「………」

 

「もう嫌なんだ。俺のせいで息子達が苦しむ姿を見るのが、どうしようもないくらいに、自分が嫌になる……」

 

ピレモンは地面にうずくまり、何も言わなくなってしまった。

 

ピレモンが啜り泣く声が、静かな部屋に響く。

 

限界か……

 

とても協力をしてもらえるような状態ではない。ヒビ割れたグラスみたいに、これ以上の刺激を与えれば、壊れてしまうかもしれない。

 

「立てよ」

 

パウロの一言が、ピレモンの体を震わせる。

 

「父さん、これ以上は……」

 

「ヘルスが言ってたぜ、俺が憧れてるのは、父上ただ一人だってな」

 

ピレモンは再び体を震わせると、今度はパウロの方を向いた。

 

「お前が自分をどれだけ下に見てるかは知らねぇけどよ、あいつの中ではまだ、お前は憧れの存在なんだよ」

 

「………」

 

「俺はお前を許す気はねぇし、関わる気もねぇ。けど今は違う、息子を助けるんだろ?だったら父親のお前が動かなくてどうすんだよ」

 

パウロは恥ずかしそうに頭を掻きながら、床に倒れ込んでいるピレモンに手を差し出す。

 

「助けに行くぞ、ヘルスをよ」

 

「……あぁ、そうだ、そうだった……」

 

ピレモンは差し出された手を力強く握り、立ち上がった。

 

「アリエル様、大変お見苦しいところをお見せしました」

 

「構いませんよピレモン卿、それで、あなたはこれからどうなさるおつもりですか?」

 

「決まっています。ヘルスを助け、アリエル様を王にする」

 

ピレモンは俺達の方を向き、頭を下げた。

 

「その為にも、あなた方のお力が必要です。どうかこのピレモン・ノトス・グレイラットに、お力を貸しては頂けませんか?」

 

「もちろんです。ヘルスを助ける為ならば、俺たちも惜しみなく力をお貸ししましょう」

 

俺はピレモンからの願いを受け入れた。

 

ヘルスやルーク達に似ていなくとも、彼はやはり父親なのだ。パウロや、最近父親になった俺と同じだ。ならば同じ父親……パパ友として、手を貸してやろうではないか。

 

「ありがとうございます」

 

「では、親睦も深まった事ですし、早速ですが作戦を練り直したいと思います。よろしいですか?」

 

『ええ!』

 

アリエルの問いに、全員が声を上げる。

 

夜はまだ、始まったばかりだ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

カチャ………

 

王宮内にある一室。

 

そこで、一人の男が優雅に紅茶を飲んでいる。

 

「失礼します」

 

ノック音と共に、部屋の中にもう一人の男が入ってきた。

 

男の名はオーベール・コルベット 北帝である。

 

「………どうだ?」

 

男の問いに、オーベールは苦笑しながら、近くに置いてあった椅子に腰掛け、一枚の手紙を取り出した。

 

「ーーーは優秀な方ですね。こちらの知りたい情報は全て送られてきました」

 

男はオーベールに差し出された手紙を受け取る。

 

「………なるほど。ダリウスの弱み……トリスティーナ・パープルホースを手に入れ、更にはピレモンと、ディエゴを仲間に引き入れた……か」

 

「ええ、ピレモン卿とディエゴ殿は敵に回ったとて大した影響はありませんが、問題はトリスティーナ・パープルホースですな」

 

「………ううむ」

 

白髪の男が頭を掻くと、再びオーベールが立ち上がる。

 

「トリスティーナはアリエル王女により匿われ、居場所が特定できないのが現状です。ここは一度、アリエル王女を襲撃し、直接手を打つべきかと」

 

「やめておけ」

 

男は静かな、そして威圧感のある声でオーベールを制止した。

 

「パーティーは明日開かれる。下手に動けば他の連中から疑いの目をかけられかねん」

 

「しかし、それではダリウス様の弱みがパーティーで公表され、彼が立場を追われる可能性が……」

 

「そうなったとて、やりようは幾らでもある。いいか?戦力的にも政治的にも優位に立っているのは我々だ。お前は大人しく明日に備え、己の役割を果たせ」

 

「……承知致しました。では、某はこれで……」

 

男の不気味な圧に押され、北帝は逃げるように部屋を後にした。

 

再び一人になった男は、既に冷めてしまった紅茶が入ったマグカップを手に持ち、幾千もの星が見える窓の外を、静かに眺め続けていた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

みんなで作戦を練り直した後、俺達は明日の『場』に備える為、体を休める事に専念した。

 

もちろんアリエルの護衛も忘れちゃいない。本番前に一番の重要人物が死なれては困る。しかし護衛にはギレーヌとパウロがついている。水神や北帝が来ない限りは、多分大丈夫だろう。

 

「ねぇルディ」

 

「なんだいマイハニー」

 

明日の戦いに備え、シルフィと一戦を交えた後、俺の腕の上に頭をのせて寝ていた彼女が、突然話しかけてきた。

 

「ルディはさ、本当にヘルスを助けられると思う?」

 

「当たり前さ、ヘルスは優しい男だから、きっと分かってくれるよ」

 

少し怯えているシルフィの頭を撫でながら、俺はシルフィを励ます。

 

「……あのね、ルディにも言ったと思うけど、僕もヘルスとは同じ守護術師として働いていた事があるんだよ」

 

「知ってるよ。その時のお礼も、いつかしなきゃね」

 

「うん。でもね、今になって言うのもおかしいと思うんだけど、僕、ヘルスに一度も勝てた事がないんだ」

 

「………」

 

「ルディはヘルスに勝った事……ある?」

 

「……ほぼないね」

 

ヘルスと最後に戦ったのは、ロアの町で家庭教師をしていた頃だ。

 

それからこの数十年間、俺は一度だってヘルスと戦う事はなかった。必要がなかったと言ってもいい。

 

あいつは俺を気遣ってくれてたし、いつも俺を見守ってくれていた。戦うなんて、考えた事もなかった。

 

しかし戦っていないだけで、実力がないわけではない。

 

ベガリット大陸で見た、暴走したヘルスのあの剣捌き、俺はあれを果たして受け止める事は出来るのだろうか?

 

「ごめんね。本当こんな時に言う事じゃないのは分かってるんだけど、ちょっと怖くなっちゃって」

 

「大丈夫、その気持ちは俺も同じさ、でも……」

 

俺はシルフィの頭を、自分の胸に押し当てた。

 

「俺にはみんなと頑張って作った"あれ"がある。あれがあれば、オルステッドだって怖くないさ」

 

「……フフ、やっぱりルディは凄いや」

 

それから程なくして、シルフィは静かに寝息を立てて寝てしまった。俺はそんなシルフィの頭を撫でながら、大きく深呼吸する。

 

大丈夫……大丈夫だ……

 

 

自分の中に潜む大きな不安を押し殺しながら、俺も静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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