貴殿転生 元の知識で本気出す 作:MENOUENOTANKOBU
パーティは王城にて行われる。
大規模なパーティ用に作られた広間の一つ。
長いテーブル。どこに誰が座るか、全て決められた席。
たった10日で用意できたとは思えないほどの行き届いた会場がそこにあった。
スタッフの一人として現地入りした俺は、エリスやギレーヌ達と四人で待合室の入り口付近に立ちながら、参列者の顔を眺めた。待合室と言っても、狭いわけではなく、こっちはこっちで立食パーティのような形をとっている。
期待の表情をする者。
不安の表情をする者。
そうした人々は早い段階で会場に到着していた。彼らは待合室にて、本日アリエルがどのような話をするのか、それを受けてグラーヴェル派がどのような対応をするのか。といった話に興じている。
やや愉快そうに見えるのは、渦中の人物ではないからである。どっちに転んでも影響が少ない彼らは、要するに小物だ。
「おお!ピレモン卿ではないですか!」
一人の貴族が他の者に聞こえる様に大きな声でその名を呼ぶと、皆の視線が入り口付近に集まる。
待合室に入ってきたのは、ピレモン・ノトス・グレイラット。
彼の登場により、場は一層騒がしくなる。
ピレモンは雪崩の様に押し寄せる貴族達を相手しながら、俺達の方に作戦成功のジェスチャーを指で作った。
よし、第一関門は突破だ。後はこのパーティーという名の戦場に生き残り、アリエルを助けるだけだ。
俺は緊張をほぐす為、隣にいたエリスの手を強く握った。
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作戦内容はこうだ。
パーティーが始まる少し前に、ピレモンとディエゴがサテラの護衛兼監視を務めている北神三剣士をパーティー会場へと引き連れて行く。
そして手薄となったところにシルフィとリニアが侵入し、サテラの部屋の窓を開ける。それを合図にオルステッドが部屋の中へ入り、サテラを治す。
これが第一関門。次はパーティー会場だ。
予定通り、パーティー会場ではダリウスの秘密を暴露する。トリスティーナの身の上話、甲龍王ペルギウスの登場、既に役者は揃っている。
問題は水神レイダ、北帝オーベール、ヘルスの敵戦力の居場所だ。
俺達はこの10日間一度も三人の姿を見ていない。アリエルが『場』を作るのに10日を費やした様に、彼らもまたこの期間に何か仕掛けた可能性が高い。
しかし保険もつけておいた。もし俺達が三人の襲撃に対応しきれず、アリエルの命が危なくなった場合、オルステッド自らが登場し、片をつけるのだ。
無論そんな事態にはなって欲しくないし、させないよう努力するつもりだが、相手が相手だ。保険はつけておいて損はない。
随分と大雑把な作戦だが、それでも上手くいきそうな感じがするのは、やはりアリエルの才能と言わざれるを得ない。
作戦は絶対に成功させる。それがオルステッドから俺に与えられた、最初の仕事なのだから。
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「本日、お忙しい中、お集まり頂きありがとうございます」
そしてとうとう、パーティーが始まった。
最初はアリエルが開幕の挨拶。国王陛下の病気の話に始まり、昨今の国内情勢のあれやこれや、アリエルが留学中にどのような思いでアスラ王国を思っていたかなど、比較的穏やかな話であった。
しかし突然、話は攻撃的な話へと変わる。
「さて、本日、皆さまにお集まり頂いたのは他でもありません。二人ほど、紹介したい方がいるのです」
アリエルの言葉と共に、色気のある女性が入り口から出てきた。
「あれは?」
「随分と美しい方ではないか……」
貴族達が次々に疑問の声を上げる中、一人の男だけは、顔面蒼白でその女性を眺めていた。ダリウスだ。
彼女がアリエルの隣に立つと、アリエルは再び話し始めた。
「旅の途中、偶然にもある場所で出会う事ができました。パープルホース家次女、トリスティーナ嬢です」
紹介された淑女……トリスは豪華なドレスをつまんで、俺やエリスよりも遥かに美しい完璧な所作で一礼をした。
「ご紹介に預かりました。トリスティーナ・パープルホースでございます」
彼女が不気味な笑みを浮かべながらそう言うと、会場がざわめいた。
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そこからは、アリエルの独壇場だった。
トリスティーナがダリウスが行ってきた数々の悪行を暴露し、会場はさらに混沌の渦へと変わる。
ダリウスは必死になって弁明し抵抗したが、それすらも予定通りと言わんばかりに、アリエルはダリウスが放った発言が嘘である事を次々と証明していった。それも言い逃れもできない確実な証拠を持って。
見事に撃沈されたダリウスは、途中から参戦した『光と闇』ウィ・ターと『双剣』のナックルガード達の後ろで膝をつき絶望の表情をしている。
ピレモンから聞いたのだが、かつて俺がロアの町にいた時に起きたエリス誘拐事件は、ダリウスが起こした事らしい。あの時俺は初めて死を覚悟した。その事を踏まえれば、今のダリウスの姿に同情の余地はない。
ダリウスは無事撃破、第一ラウンドは勝利だ。
しかし、まだ強大な敵が残っている。
「随分と騒がしいパーティーだ」
頃合いを見計らっていたかのように、そいつは現れた。
実務的な顔をした、金髪の中年王子。
第一王子グラーヴェル、彼は上座より入ってきて、涼やかな顔でアリエルを睨みつけた。
「お久しぶりですね、グラーヴェルお兄様」
アリエルの言葉を皮切りに、戦いは第二ラウンドへと突入していった。
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自ら姿を現し、『場』を乗っ取ろうとしたグラーヴェル。
最初こそ優位な立場にいた彼だが、その立場が逆転してしまう異例の事態が起こった。
その原因が、かの有名な『魔神殺しの三英雄』の一人。
『甲龍王』ペルギウス・ドーラの登場である。
「ペルギウス・ドーラである」
ペルギウスが威圧感のある声でそう言うと、俺の後ろで貴族達が生唾を飲む音が聞こえてきた。
当然だ。アスラ王国で英雄として崇められる存在、甲龍王ペルギウスが今、目の前にいるのだ。
「おお、これは困った。空席が3つ。さて、アリエル・アネモイ・アスラよ、グラーヴェル・ザフィン・アスラよ。我は……どこに座ればよろしいか」
「………」
グラーヴェルは息を飲んだ。
3つある空席の内、一つは最上位の席。
つまり、王が座るべき席だ。
グラーヴェルは決めなければならない。この3人の中で、誰が最もその席に座る権利があるかを。
「それは……もちろん……最上位の席へと、お座りください」
しかしグラーヴェルに選択権などなかった。
ペルギウスは、誰にも邪魔される事なく言った。
「いいや、我はすでにこの国を長く離れすぎた。次代の王の席を奪うわけにはゆくまい」
ペルギウスはアリエルの背中を押した。
次代の王と言いながら、アリエルの背中を。
「アリエルよ。その席には貴様が座れ。我は隣に座らせていただくとしよう」
その時、この場にいる全員が悟った。
次代の王は、今この場で、アリエルに決まったと。
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アリエルは勝利した。
ダリウスを、グラーヴェルを、この場を抑え、あらゆる困難に勝利した。
今更北帝や水神が来たって、ダリウスを助ける事は出来ないだろう。
恐らく、もうサテラの方の治療も終わっている頃だ。そうすればヘルスだって戻ってくるかもしれない。
まだまだアリエルが王になる為には問題があるんだろうが、一番の山場は超えれたんだ。もう俺達が手を貸す必要もないだろう。
そう……もうすべては終わったんだ。
コツコツ……
安堵のため息をついたとき、パーティー会場の入り口から、足音が聞こえてきた。
コツコツ……
独特の乾いた足音が、静寂に包まれた会場に響く。
「全く、王女様はとんでもない事をしてくれたね」
暗闇の中から、そいつは現れた。
小さな体躯に、深い皺に刻まれた肌。美しき黄金色の剣を肩に置きながら。
その姿にエリス、ギレーヌ、パウロは即座に身構えた。
「助けに来てやったよ、ダリウス」
水神レイダ・リィア
歴代最強と言われる彼女が……再び会場を混沌へと誘う。