貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

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79話 歯車

 

水神流

 

剣神流や北神流とは違い、相手からの攻撃を受け流すカウンターを軸とした防御特化の剣術流派である。

 

そして水神流の最高位である水神の称号、それを手に入れるのには初代水神が編み出した五つの奥義のうち三つを習得しなければならない。

 

水神レイダ・リィアもその例に漏れず、既に三つの奥義を会得している。

 

だが、彼女の他にも奥義を習得しているものはいる。

 

既に条件を満たし、水神と名乗れる程の実力を持つ者も……

 

しかし誰も、今の水神レイダ・リィアから水神の称号を得ようとはしていない。

 

自分はふさわしくない、レイダに任せるといって、皆が水帝に留まった。

 

それは何故か?

 

レイダは五つの奥義のうち、最も難しいとされる二つの奥義を習得し、更にはそれを掛け合わせ、幻の六つ目の奥義を繰り出す事ができるからだ。

 

『剥奪剣界』

 

彼女の範囲内で動いた者全てを斬る最強の奥義、剥奪剣界。

 

上下左右どこにいる相手でも、一度動けば斬られる。それが人であろうが魔法であろうが関係ない。皆等しく斬られる。

 

そんな理不尽な技を持つレイダに、誰が挑もうと言うのだろうか……

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ッぐ!!」

 

「父さん!」

 

「誰も動くんじゃないよ、このマヌケみたいになりたくなかったらね」

 

レイダが暗闇から現れた時、最初に動いたのはパウロだった。

 

パウロはかつて、水神流の道場で水神レイダの指導を受けていた事があったと言う。それ故に彼女の持つ奥義『剥奪剣界』の恐ろしさを知っていたのだろう。

 

レイダが技を使用する前に攻撃を仕掛けたのだ。

 

しかし剥奪剣界を使用しなくとも、パウロ一人を相手をするのは、水神であるレイダにとっては容易い事であった。

 

パウロがレイダの横腹めがけて放った斬撃は、軽く片腕で受け流されてしまう。

 

体制を崩し完全に無防備になったパウロの肩に、レイダの剣が食い込んだ。

 

そのまま肩から横腹までを切り裂かれ、パウロは前のめりに倒れむ。

 

「まさかこんな所で会えるなんてねぇパウロ。運命ってのは面白いもんさね」

 

「……全く。あんたは相変わらず容赦ねぇ婆さんのまんまだな……」

 

危機的状況でも軽口を叩くパウロを鼻で笑うと、レイダはパーティー会場の中央に歩き始めた。

 

「こんな手の付けられないような悪ガキを仲間に引き入れるなんて、王女様は末恐ろしいねぇ」

 

エリスとギレーヌは鞘から剣を抜く寸前のところで止まっているが、彼女たちの性格を踏まえれば、いつ水神に切りかかりにいってもおかしくない。

 

「今しがた、命を受けてね、まあ安心しな。あたしは別にあんたらをどうこうしようって訳で来たんじゃないんだからね」

 

「……では、何をしにここへ来たのだ?」

 

自身が作り出した精霊達に守られているペルギウスが、水神を睨み付けながら問う。

 

「ああ、あんたは確か甲龍王だったかい? まさか生きているうちに会うことができるなんて。人生、捨てたもんじゃないね」

 

「質問に答えよ。水神レイダ・リィア」

 

レイダは面倒くさそうにため息を吐きながら、パーティー会場の中央に到着した。

 

「言ったろう? あたしはあんたらに危害を加えに来たんじゃない。あたしの任務は、『あいつ・・・』がここへ来るのを、誰にも邪魔させないことさ……」

 

レイダは肩に置いていた剣を構え、大きく息を吸う。

 

 

 

「さあ、いつでもいいさ。来な……」

 

ガタガタガタ

 

レイダがそう言えると、突然、テーブルの上に置かれていた皿やグラスが小刻みに震え始めた。

 

それだけではない。天井に吊るされた豪華なシャンデリアや、壁に掛けられた装飾品までもが、何かに怯えたように震えている。

 

 

地震……?

 

この世界に地震なんて自然災害、存在するのか?

 

 

 

 

『愚かな謀反を……アリエル……!』

 

様々な疑問が思考を駆け巡る中、その言葉が俺の頭に直接響いてくる。それと同時に、レイダの後ろから、あの五芒星が地面から浮き上がってきた。

 

「ま、まさか!?」

 

突然のテレパシーに五芒星。まさか……こんなタイミングで?

 

五芒星の中から、泥のような球体が現れる。

 

「ペルギウス様! お逃げを!!」

 

異常を察知したアルマンフィが、目にも止まらぬ速さで五芒星に近づき、その球体を破壊しようと試みた。

 

しかし振るった短刀が球体に当たる前に、彼の体は真っ二つに切り裂かれてしまう。

 

「誰も動くんじゃないよ!」

 

水神、彼女の仕業か……

 

球体は形を変え、馬の様な下半身へと変化し、どんどん大きくなっていく。

 

ドチュ

 

「ッんん!?」

 

『アリエル!』

 

上半身を形成している最中、手の形をした泥が、アリエルの体を鷲掴みにした。しかし、誰一人として彼女を助けに行かない。

 

行けないのだ。行けば確実に死ぬ。少なくとも水神レイダ・リィア、彼女の『剥奪剣界』が発動している限りは……

 

ドン!!

 

凄まじい衝撃波が発生すると共に、そいつは現れた。今度は完全な化け物ではない。

 

下半身は馬、そして上半身は……ヘルスだ。髪が白く、よく分からない死装束を羽織っているが……あれは確実にヘルスだ。

 

水神レイダ・リィア

 

そしてヘルス・ノトス・グレイラット

 

最も警戒すべき二人が、同時に現れてしまったのだ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

『お前にしては仕事が遅かったな……水神レイダ・リィア』

 

ヘルスは左手でアリエルを掴みながら、俺達を見下ろしている。

 

「……あたしも歳だからね。腕が鈍ってんのさ」

 

『言い訳か……まあいい』

 

「ッああぁ!!」

 

ヘルスは左手に力を込め、アリエルの体を握り潰そうとした。

 

「ヘルス!やめろ!!」

 

必死に叫ぶが、アリエルを掴む手は段々強くなっていく。

 

『うるさいぞ虫ケラ共。先に死にたいのか?』

 

ヘルスが俺とエリスを睨みつける。すると途端に息が苦しくなって来た。

 

「ッはあ……これは……」

 

「ルーデ……大丈夫……?」

 

次第に力が抜け始め、俺達はその場に倒れ込んでしまう。

 

「自分も苦しんでるってのに、旦那の心配とは、エリス、牙でも抜かれちまったのかい?」

 

水神はエリスに近づき、その首に剣を当てる。

 

「早死にしたくないんなら、大人しくそこで寝てな」

 

エリスは何か言い返そうとしていたが、呼吸もままならない彼女に、言葉を発する余裕はなかった。

 

『アリエル。身の程をわきまえず。一国の王になるという野望を抱いた愚かな女。その最後が、こんなに呆気ないものとはな』

 

「ッく……ヘルス……」

 

必死に意識を保とうとしているアリエルを、ヘルスは自身の顔に近づける。

 

 

 

「ヘルス!!」

 

 

『……ピレモン・ノトス・グレイラットに、ディエゴ・ノトス・グレイラットか』

 

ヘルスの名を叫びながら、パーティー会場へ戻って来たのは、ピレモンとディエゴだった。

 

「お前、アリエル様になんたる愚行を……!今すぐその手を離せ!」

 

「今ならまだ間に合う。まずは落ち着け、ヘルス」

 

「ヘルス、あいつらの動きも止めるかい?」

 

水神レイダが鬱陶しそうにピレモンを睨みつける。

 

『ディエゴだけ動きを止めろ。ピレモン……奴には聞きたい事がある』

 

「了解だよ。ボス」

 

その刹那、こちらへ走っていたディエゴの足が切り裂かれ、ピレモンはその足を止めた。

 

「ディエゴ!大丈夫か!?」

 

「あぁぁぁ!」

 

痛みに耐えかね叫び声をあげるディエゴ。

 

ピレモンはその姿を確認し、彼の元へ戻ろうとするが、既にヘルスは目の前にいる。

 

『さてピレモン、お前に聞きたい事が二つ、言いたい事が一つある』

 

自身の兄の叫びを無視しながら、ヘルスは淡々とピレモンに話し始めた。

 

『到着には随分と時間が掛かったようだが、その間に何をしていた?』

 

「……私はただ、別宅に訪れた客人達をもてなしていただけだ」

 

蛇に睨まれた蛙のように、ピレモンは震える声で答えた。大丈夫だ、嘘ではない。俺達は一応客人なんだ。

 

『……そうか。では聞こう。その客人であるシルフィ・グレイラットに、アリエルに仕える残りの従者はどこへ行った?』

 

「ッ!?」

 

突然ヘルスからシルフィにエルモアとクリーネの名前が上がり、驚愕の表情を浮かべるピレモン。

 

『答えなくていい。その顔を見れば、奴の手紙が真実であったと十分に証明できる』

 

ヘルスはそう言いながら、右手を上げ、何かを合図した。

 

『分かった……ではもうやっていいぞ………』

 

 

 

 

 

 

グチュ

 

静かなパーティー会場に、嫌な音が響く。

 

「………ゲホ」

 

気づけば、俺の後ろにいたピレモンの口から、血が溢れ出ている。そしてその腹には、何者かの剣が貫通していた。

 

「父上……すいません……」

 

剣が抜かれ、ピレモンがその場に倒れ込むと、後ろにいた人物の姿が出てくる。

 

「父上!!」

 

ディエゴがその場を這いずりながら、ピレモンの元へ向かっていく。

 

 

「お前……自分が何をしたのか……分かってるのか!?」

 

 

 

「………」

 

 

「黙ってないで答えろ!」

 

 

 

 

 

 

「ルーク!!」

 

ピレモンを刺したのは、彼の息子であり、アリエルに忠誠を誓ったはずのルークだった。

 

~~~~~~~~~~~

 

ヒトガミの使徒。

 

それを俺とオルステッドはルーク、ヘルス、ダリウスの三人だと考えていた。

 

実際、それは恐らく当たっていた。しかし、俺たちはルークという存在を無視し、ヘルスとダリウスにだけ警戒をしていた。

 

ルークが使徒であったとしても、十分に対処可能だと、信じて疑わなかった。

 

その結果

ピレモンはその背中を刺され、俺達はオルステッドとの死闘以来の絶望的状況に瀕している。

 

『ピレモン、お前の裏切りは実に残念である。まさかこの愚女に、一国の王を託すとは…』

 

 

ヘルスはそう言いながらアリエルを持っていた左手を放す。

 

そして地面に落ちたアリエルの足を、前足で踏み潰した。

 

「ッあぁぁ!!」

 

骨が潰れる音と共に、アリエルの絶叫が響き渡る。

 

『だが、仮にも俺の父だ。そんなお前に一つチャンスをやろう』

 

ヘルスはアリエルを放した左手を上げると、煙とともに短刀が現れた。そしてそれを、ピレモンの目の前に落とす。

 

『この愚女を殺せ、今すぐにな。そうすれば今回の件は全て水に流してやろう』

 

ピレモンは目の前に落ちた短刀を眺めた。

 

「アリエル王女を殺せば……私は助かるのか?」

 

『ああ、まだ立ち上がり、人一人を刺し殺すぐらいの力は残っているはずだろう?こいつを殺すだけで、お前は助かるんだ』

 

「ダメです!父上!!」

 

倒れながらも叫ぶディエゴの目の前に、剣が突き立てられる。

 

「兄上、お静かに……」

 

ルークは倒れ込むディエゴの横で、彼を見下ろしている。

 

「ルーク……! お前はそれでいいのか!? 自分の父が、お前の守るべき存在を今目の前で殺そうとしているんだぞ!?」

 

「………」

 

ルークは何も言わずに顔をしかめ、ピレモンとアリエルの方を向いた。

 

 

 

そしてついに、ピレモンは立ち上がり、その短刀を手に持った。

 

「ピレモン!!」

 

「黙りな!」

 

ピレモンはゆっくりと、しかし確実に一歩ずつ、アリエルの元へ近づいていく。

 

アリエルは既に虫の息……どこかの部位に一度でも刺されれば、命を落としてしまうかもしれない。

 

こうなったら一か八か、捨て身の攻撃をするか?

 

水神レイダに受け流され、一刀両断されて終わる可能性が高いが、これ以外に方法は……

 

 

 

 

その時、動こうとした俺に気づいたのか、ピレモンがこちらを向いた。

 

"後は任せた"

 

口パクでそう告げられると、ピレモンは再びアリエルの方へ向き直る。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

そして雄叫びを上げながら、彼は手に持っていた短刀を、ヘルスの頭めがけて投げつけた。

 

全力で投げられた短刀は見事………ヘルスの額に突き刺さった。

 

『………は?』

 

状況を理解出来ていないヘルスが、呆然とピレモンを眺める。

 

ピレモンは大きく息を吸い、口から血を出しながら……笑った。

 

「くだらん戯言を、さっさと息子を返せ……この化け物め」

 

 

 

 

ブチッ

 

良く、堪忍袋の緒が切れると言われる事がある。

 

しかし前世でも今世でも、その音を聞いたのは初めてだ。

 

『このゴミ虫めがぁぁぁ!!』

 

ヘルスは腰についていた鞘から、禍々しい巨大な刀を取り出した。

 

『愚女と共に死ね!』

 

ヘルスが大きく刀を上げ、二人に向かい全力で振り下ろした。

 

ダメだ……危ない!

 

俺は必死に体を起き上がろうと試みるが、やはり何かの力が働いているのか、体に力が入らない。

 

誰か、誰でもいい。あの二人を……

 

 

 

 

 

ボン!

 

ヘルスが振り下ろした刀が、ピレモンに当たる寸前、巨大な大火球(エクソフレイム)がヘルスに直撃した。

 

『……!?』

 

ヘルスの上半身は燃え上がり、持っていた刀を手放す。

 

「何事だい!?」

 

意識外からの攻撃に対応の遅れたレイダは、『剥奪剣界』を発動しようと構えた。

 

しかしその動作の一瞬の隙を、エリスとギレーヌは見逃さない。

 

『はあぁぁぉ!』

 

エリスは下から、ギレーヌは上から同時に、剣神流奥義『光の太刀』を放つ。

 

レイダは即座に受け流そうとしたが、流石の水神でも、剣王レベル二人の『光の太刀』を捌き切る事はできなかった。

 

エリスの放った斬撃が、レイダの体を切り裂く。

 

真っ二つ……とまではいかないが、かなりの深手を負ったレイダは、その場に崩れ落ち、剣を落とした。

 

「大人しくしなさいよ。これ以上抵抗するなら、ぶった斬るわよ!」

 

「……ッチ 油断したよ」

 

エリスが起き上がったのを見て、俺は再度起き上がろうと試してみる。

 

……起き上がれた!さっきまでの事が嘘だったかの様に、あっさりと……

 

起き上がった俺は、大火球(エクソフレイム)が飛んできた入り口をみる。

 

 

すると影の中から、四人の人物が出て来た。

 

「みんな大丈夫!?」

 

「シルフィ!」

 

アリエルの守護術師であり、俺の妻であるシルフィ。その横にはエルモアとクリーネもいる。

 

そして最後の一人は、近くにいたパウロへ近づき、水神に深く切り裂かれた肩に手を置いた。

 

「ごめんね。みんなに迷惑をかけちゃったね……」

 

パウロの抉れた傷口が、みるみるうちに回復していく。

 

「でも、もう大丈夫だから、後は任せて」

 

「……助かるぜ。でも無理はすんなよ。サテラ」

 

パウロからの心配に、サテラはにこやかな笑みを浮かべる。

 

「ええ、けど彼とは、私が直接話さなきゃ……」

 

火が消え、焼け爛れた皮膚が剥き出しになったヘルスを、サテラは見つめる。

 

「久しぶりね……ヘルス」

 

『………』

 

捻じ曲げられた運命が、再び二人の歯車を動かす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




擬音とかって使わない方がいいんですかね?
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