貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
ロアの町へ行く当日。
俺は今荷物をまとめている。
何回も中身を確認し、忘れ物がないかを何度も繰り返す。
なんせ、この世界で初めての修学旅行に行くのだ。
忘れ物をしては困る。
久々のノトス家の自分の部屋に趣を感じつつ、必要な物を鞄に詰める。
持っていくのは、剣、デリックにもらった片手用の杖、そして着替えとタオル、その他必要な物と、最近学んでいる語学の本だ。
この世界の言語は
人間語 獣人語 闘神護 天神語 魔神語 海神語 の六つがあるらしい
人間語は話せるので俺は残りの5つの内、獣人語 魔神語を学んでいる。
獣人語は難なくクリア、しかし魔神語はどうも理解しにくい。
単語自体は覚えれるが、それを文にするってのが難しいのだ。
元々の文献が少ないってのもあるが、もっと若い時に覚えるべきだったな。
今も十分若いが……
「ヘルス!迎えの馬車が来たぞ」
「はい!分かりました」
開けてある窓から、父の声が聞こえてきた。
もう出発の時間か。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『お、おお……』
馬車の横に立っていた女を見た時、俺と父は多分同じ考えを持っていただろう
胸がデカい
その女は獣族の女で、褐色の色をしていた。
右目には眼帯をつけており、素人から見ても、その体つきが歴戦の猛者という事を物語っている。
きっと彼女がそう、剣王ギレーヌだ。
まさか剣王直々に迎えにくるとは……
「ロアの町に連れて行くというは、そいつか?」
「ああそうだ。よろしく頼むぞ」
「安心しろ、無事に送る」
「よろしくお願いしますギレーヌ様」
俺は久々の貴族流の挨拶を見せた。
「そんな固くならなくてもいい、そして私のことはギレーヌと呼べ」
なんだこの人、見た目通り脳筋タイプなのか?
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揺られる馬車の中、俺の前にはほぼ裸も同然の女性がいる。
正直、理性を保っている俺を褒めてほしい。
まあ多分襲ったとして、半殺しにされるだけだろうが。
「お前、ロアの町に行くのは初めてか?」
静寂だった馬車の中を破ったのは、剣王ギレーヌ。
「そうだ、俺の父とあんたのとこの領主は仲が悪いんだろ?
尚更行かないだろ」
さっきは敬語で話してしまったが、俺はこれでも上級貴族なんだ。
舐められては父の顔に傷がつく。
「うむ、サウロス様はお前が来る事を相当嫌がっていたぞ」
「う……」
思わぬカウンターを喰らってしまった。
自爆しただけだが、そこまでストレートに言われるとは思わないじゃないか。
「……じゃあ、なんで俺がロアの町に行く事が許されたんだ?」
「知らん、だがお前を連れてきてもいいと言ったのはフィリップ様だ」
フィリップ、一回顔を見た事がある。いつもニコニコしていてポーカーフェイスを保っている男。
それに糸目キャラ。
多分ここで恩を売っておいて、後で色々と利用するつもりなのだろう。
それを覚悟の上で、俺を連れて行ってくれたピレモンにまた感謝しないとな。
「それと、お前はこれから領主の館に住む事になるだろうが、そこにはお前ともう1人が住んでいる。騒ぎを起こすなよ」
「騒ぎって、俺を何だと思っているんだ。あ、もしかしてその1人ってのは、最近噂の家庭教師のことか?」
「そうだ、よく知っているじゃないか。ちなみにお前がこれから私と修行する時は、そいつとエリスも一緒だ」
エリス?
ああ、あの凶暴な領主の娘か。
「なるほどな。で?その子達は強いのか?」
「強いぞ。エリスはまだ11歳だが、既に剣神流中級の実力を持っている。ルーデウスは剣術こそ向いていないが、9歳にして水聖魔術師の称号を持っている。幼いながら大したものだ……」
「水聖級!?」
思わず立ち上がってしまい、天井に頭をぶつけた。
聖級
それは天候をも変えてしまう凄まじい力、そんな才能をもった9歳の子供、ギレーヌの話の内容からしてルーデウスという人物だろう。
エリスという女が剣神流中級の実力を持っているってだけでも驚きなのに、さらに追い討ちをかけられた。
「それは、楽しみだな」
そんな奴らと共に修行ができるのか……
……へへ
不思議と口角が上がる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ロアの町は想像以上に大きかった。
到着した時が真昼間ってのもあったが、俺が乗っている馬車が他にもたくさん通っている。
最初は露天商、奥に進むと宿やしっかりとした店がある。
そして全体的に、動きやすい服をきた者が多い、あれが噂の冒険者なんだろう。
羨ましいな。
ずっとアリエルの護衛をしてきた俺だが、最近夢ができた。
世界中を旅する事だ。
もちろんそれは上級貴族である俺にとってほぼ不可能だということは理解している。
だからこそ、魅力があるのだ。
まだ見ぬ地、地平線まで続く海、そんなところへ行き冒険するのが俺の夢なのだ。
「ほら、さっさと降りろ」
「え?あ、ああ」
そんなことを考えていると、いつの間にか城についていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「やあ初めまして、君がヘルス君かな?」
「はい、これから一年間お世話になります」
「ふふ、いいね。礼儀正しい子は好きだよ」
ギレーヌと別れ、俺はアルフォンスという執事的な人物に連れられ応接室に案内された。
そしてしばらくした後、ここに連れてくることを許可した張本人、フィリップが現れた。
今はそのフィリップと、軽く雑談をしているところだ。
サウロスは今は狩りに出掛けていていないらしい。
俺に挨拶するのが嫌だから逃げたのか?
どちらにしろ、面倒な奴がいないのは俺にとっても好都合。
「君の願いは確か、ギレーヌの所で剣術を学びたいんだったよね?」
「そうです。剣王とお会いすることなど、滅多にない機会ですので」
「そうかい。なら丁度いいね、今は僕の娘もギレーヌに修行をつけてもらっているんだ。是非仲良くしてくれ」
フィリップはテーブルに置いてあった紅茶を手に取る。
「もちろんです。本人にその意思があればですが」
口に紅茶を運んでいたフィリップの手が止まった。
少し嫌味っぽく聞こえたのか?
「おや?もしかしてまだ僕の娘が凶暴だって思っているのかな?」
「まあ……さっき少し顔を見た時、少々睨まれましてね」
先程アルフォンスに連れられている最中に広間のような空間を見ると、そこには2人の子供がいた。
1人は燃える様な赤色の長い髪をした少女。
もう1人は俺と同じ茶髪で、赤髪の少女よりも少し背が低い男子だ。
あの二人が恐らくエリスとルーデウスなのだろう。
二人を眺めているとルーデウスがこちらに気づきお辞儀をされた。
それを見たエリスも俺見て、そして睨んできた。
噂通りの凶暴な性格そうだ。
「多分、それは睨んでいるのではなくて、君を見ていただけだよ。あの子は目つきが鋭いからね」
「そうなんですか?ならすいません、失言をしてしまいましたね」
フィリップはそういうが、俺は信用しない。
あの目つきは、アリエルが襲われた日の男の目つきと似ていた。
完全に敵意を持った目だ。
「まあまずは会って話をしないとね、ギレーヌは多分先にいるだろうから、私が案内するよ」
「ええ、よろしくお願いします」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
再び広間に集まった俺は今度はより近くで2人の前に立つ事になった。
「今日から俺もギレーヌの弟子として修行させてもらう、ヘルス・ノトス・グレイラットだ。よろしく頼む」
年下だ。
敬語は必要ないだろう。
「初めましてヘルスさん、僕はルーデウス..グレ..、ルーデウスと言います。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む。ルーデウス」
なんか言葉が詰まっていたが、礼儀正しいな。
貴族流の挨拶もよくできている
そして
「エリスよ!」
腕を組み、視線も合わずに大声で名前を言うだけ。
想像していた通りだが、こいつも一応俺と同じ上級貴族だよな?
下級貴族どころか、普通の挨拶かも怪しい。
これならルーデウスが上級貴族と言われても不思議ではない。
「ヘルス、まずはお前の実力が見たい。エリスと戦ってみろ」
「え?いいのか?年下の女の子いじめても?」
「すぐにそんな事言えなくなるぞ」
俺はエリスの方を見る。
「……フン!」
そっぽを向かれた。
可愛げのない奴……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お前達、準備はいいか?」
「ああ」
「……ええ」
「よし、では……始め!」
ギレーヌの声と共に一直線に向かってきたエリス。
「はあッ!!」
「おっと、ッぶねぇな」
俺はそれを軽くよけ、振り返り再び突進しようとするエリスに向き直る。
そして右手に持っていた木刀をエリスに向けて投げた。
「はあ!?」
もちろんエリスに効くはずもなく、木刀は弾き返されてしまう。
「なによあんた!剣投げたら戦えないじゃない!」
「俺は剣を使わない剣士なんだよ。それに、木刀で幼い女の子を殴る気にはなれないんだ……」
ゾク……
エリスに睨まれ、背筋が凍る。
この殺気、確実に殺してやろうって奴のそれだ。
こいつ、本当に年下か?
エリスが俺に向かい再度突進してくる。
殺気は異常だが、行動は幼稚だ。
何も考えず突進、まさに獣。
しかし何か引っかかるものがある。
こう、奥歯に何かが挟まっているような不快感が……
まあ、気にしなくていいか。
相手は歳下、深く考えるだけ無駄だ。
俺はエリスを迎え撃つ体制をとる。
「どりゃぁ!!」
エリスの木刀が俺の横腹に向かったその時、俺は後ろに下がり木刀を避け、エリスの腹めがけてパンチを繰り出した。
決まった、完全なカウンターだ。
そう思ってしまった。完全なフラグを立ててしまった。
「終わ……ッ!?」
エリスは俺の上を飛び、そのまま背中を蹴る。
「ぐッ!」
思わず情けない声が出る。
クソ!エリスはどこに!?
後ろを振り返るが、既にエリスはそこにいない。
まさか、裏をかいてさらに後ろに回ったのか?
咄嗟に頭を手でカバーしたが、狙われたのはまた背中だった。
俺はまたもや吹き飛び、そして理解した。
こいつはもう、剣神流中級のレベルじゃない。
上級に達するほどの域にまで出ているのだ。
エリス・ボレアス・グレイラット
まさかその歳でそこまでの才能を持っているとは……
ならば、俺も相応の対応をしなければならないな。
本気を出さなければならない。
俺はゆっくりとエリスの方へ向き直った。
「エリス。お前を下に見ていた事を謝るよ。すまない、お前は強い」
「何よ急に!」
「いや。だからさ、今からは本気でお前と戦うって事だ……!」
今度は俺の番だ。
エリスに向かって走って行く。
同時に、エリスも俺に向かって走ってきた。
「ここよ!!」
エリスが俺の頭めがけ木刀を振りかざす。
「だよな!」
想定内だ。
エリスは確実に頭を狙う。
俺はカウンターの構えを取り、エリスの木刀に向け拳を振る。
木刀が俺の拳にぶつかるその瞬間、拳は黒曜石のような真っ黒な塊へと変化した。
バキバキ
「なッ!?」
エリスの持っていた木刀は、無惨にも割れた。
驚くエリスに余裕は与えない。
次の瞬間にはエリスの腹に拳をぶつけていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アリエルの守護術師になって5年ほど経ったある日。
俺はいつもの様に岩などに拳をぶつけていた。
拳にぶつかった岩が割れる。
それだけだが、その時稀に、腕にとてつもない力が出る事に気づいた。
この謎の現象、俺はそれを知っている。
ワンピース世界の強者達はみんな使える。
いや、これを扱う事ができるから強者なのか。
武装色の覇気だ。
でも、それはワンピース世界での話だけだと思っていた。
この世界、現実でできわけないと思っていたんだ。
しかし、この世界には魔力がある。
前世なら無理だったが、ここなら話は変わってくるんじゃないか?
腕に力を込める、もちろんそれだけでは足りない。
だからそこに魔力を流し込む。
覇気の代用として、魔力を起用するのだ。
腕に魔力を纏い、とてつもなく硬くするイメージ。
もちろん一発成功する訳じゃない。
それでも変身魔法の恩恵か、感覚はすぐに掴む事ができた。
体全体に流れていた魔力を、次は体の一部に移動させる。
そうして気づけば、体から紅色の稲妻の様なものが走り、腕が黒くなった。
ロアの町にいく数ヶ月前に、ついに成功したのだ。
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エリスはそのまま三メートル程吹き飛び、壁に衝突し気絶した。
「……ふう」
いてぇ……
まだまだ制御が粗いせいか、自分にも少しダメージが入っている。
本気を出すと言ったが、流石に武装色を纏ってガチパンチを繰り出すのは怖いので、少し手加減はした。
「勝負あり!」
「エリス!!」
ギレーヌの声と共にルーデウスがエリスに駆け寄り治癒魔法をかけ始める。
「お前、その歳で闘気を纏えたのか?」
気づけば、俺の横にはギレーヌがいた。
闘気……なんだそれ?
「闘気?」
「あぁ、お前がエリスの腹を殴った時に使ったものだ。私の知るものと違い、腕が黒くなっていたがな」
なるほど。
であれば、この世界で武装色は闘気と言うものになるのだろう。
しかし発言からして、ギレーヌもその闘気ってのを纏えそうだ。
やっぱり世界は広いな。
「できれば剣術の腕を見たかったが、まあいい。大体実力は分かった。次はなんでもありの勝負をしてみろ」
「分かった、けどエリスはしばらく起きなそうだぞ」
俺が倒れているエリスを見ながらそう言うと、ギレーヌは顔を横に振り、エリスの横に座っている男を指差した。
「いや、お前が次に戦うのはルーデウスだ」
「なッ!?」
「え?僕ですか?」