貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
「久しぶりね、ヘルス」
『………』
パキパキパキ
ヘルスの焼け爛れた皮膚が、ゆっくりと音を立てて再生していく。
その隙に、エルモアとクリーネがピレモンとアリエルを担ぎ、こちらへと後退してきた。
「アリエル様……まずい状態だね。すぐにでも治療しないと!」
「そうはさせん!」
シルフィがアリエルの頭に手をかざそうとしたその瞬間、離れていたルークが一気に距離を縮めて来た。
ルークは持っていた剣をシルフィに振りかざすが、間に割って入ったパウロに受け止められる。
「……パウロ!」
「へへ!俺様大復活だぜ!」
体制を整え、再度剣を構え向かってくるルークに対し、パウロは水神流の構えをとる。
「ルーク、勘違いすんなよ」
しかし、パウロは持っていた自身の剣を落とし、手ぶらの状態でルークへ突進していった。
「ッ!? 血迷ったかパウロ!?」
「いいや、俺は十分正気だぜ?」
ルークの振り下ろす剣が、パウロの頭に当たるその瞬間、パウロは両手を広げその場に立ち止まった。
そしてその剣を……掴んだ。
そのまま掴んだ剣を自身の方へ引き寄せ、ルークから剣を奪った。
ルークは諦めず、パウロに向かい拳を振り下ろす。
しかし、その拳一つ分、パウロの腕は長かった。
同時に放たれたパウロの拳が、ルークの顔面にめり込む。
「ガハッ!」
そのままルークは勢いよく地面に叩きつけられ、意識を失った。
パウロは自身の拳を見つめ、悔しそうな顔を浮かべている。
「……見様見真似でやってみたが、やっぱりそう簡単に出来るもんじゃねぇな」
「父さん、今のは……」
俺は見た、パウロがルークを殴るその瞬間、彼の体からヘルスと同じ紅色の稲妻が走ったのを……
「ヘルスが使ってたあの腕を黒くする技、今なら出来ると思ったんだがな、失敗だ」
だが、当の本人は気づいていない様子だ。
ルークが倒され、水神レイダの『剥奪剣界』の心配がなくなった貴族達は、我先にとパーティー会場の出口へと走り始める。
会場が再び静かになった時には、残っている人物は主要メンバーのみとなった。
良い状況だ。
これで俺も周りを気をつけずに戦う事ができる。
『……はあ』
耐え難い静寂の中で、うんざりした表情でサテラを見ていたヘルスがため息をつく。
『お前は……俺のなんなのだ」
「私? 私はあなたの妻よ」
サテラが迷いなくそう答えると、ヘルスの顔が不愉快な表情に変わる。
『面白くない冗談だな。お前の様な売女が、俺の正妻だと?』
「ええ、売女の私をあなたは受け入れてくれた。私を愛してくれると誓ってくれたのよ」
サテラは両手を広げ、慈愛に満ち溢れた笑みを浮かべた。
「ねぇヘルス、もうこんな事やめよう? 私も一緒に、あなたの罪を背負っていくから、だから……もう一度ーーー」
『もういい』
地面に落ちていた巨大な刀が、ヘルスの元へ戻っていく。
『お前の生い立ち、言動、全てが不愉快だ』
ヘルスが手に入れた刀をサテラの首に向けると、彼女から笑顔が消え、悲しそうな表情へと変わる。
「……そう、本当に、ヘルスではないみたいね」
『あの半端者と俺を一緒にするな。あぁ……本当に不愉快だ。最後の言葉はそれでいいな?』
刀を押し付けられたサテラの首から、血がダラダラと流れ出てくる。
「……分かった。あなたがその気なら仕方ない。ならちょっと痛い目を見てもらうわね」
その瞬間、サテラは右手を挙げ、大きく息を吸い、叫んだ。
「お願い!ヘルスを倒して!」
「オルステッド!!」
パリン
サテラが声を上げたと同時に、会場にあった一つの窓から、一人の男が飛び出してきた。
『何ッ!?』
「オルステッド様!?」
龍神オルステッド
そう認識した瞬間に、俺の全身が凍えた様に震え始めたのが分かる。
ヘルスが突然の龍神登場に動揺している隙に、サテラはこちらへと逃げ始めた。
『お前の仕業か!サテラ!!』
「ええそうよ……ッて危ない!」
逃亡を察知したヘルスがサテラに一瞬で近づき、その刃を振り下ろした。
しかし、間に割って入ったオルステッドの手刀により、それは受け流される。
当然だ。オルステッドは恐らく水神レイダよりも水神流を上手く扱う事ができるんだ。
怒りに身を任せて振るったヘルスの刀を止める事など、造作でもない。
『龍神……オルステッド!』
「すまんが、手加減はできんぞ?」
スバ!
オルステッドの放った斬撃は、ヘルスの上半身と下半身は真っ二つに切り裂さいた。
そのまま上半身が地面へ落ち、下半身も体制を崩し膝をついた。
「オルステッド様……!」
「すまないな、オーベールの対処に時間が掛かってしまった」
オーベール?
俺はこの会場の何処かに潜んでいると思っていたのだが、まさかオルステッド本人が相手にしていたとは……
「殺したんですか?」
「いや、一応無力化だけしておいた。流石の奴でも四肢を切断しておけば動けまい」
聞くべきじゃなかったな……
まあ生かしてもらえてるだけ感謝しなきゃ。
「ルーデウス、気を抜くなよ。敵は手強い」
「ええ、もちろん分かってます」
後ろを振り返ると、既にヘルスの上半身と下半身は繋ぎ直され、再び元の姿に戻っていた。
あの龍神の攻撃を受けても、再生能力は衰えないのか……
『龍神オルステッド、七大列強のお前がなぜここに居る?』
「……お前の質問に答える必要はない」
『そうか、まあいい。死ね』
ヘルスは言い終える前に、オルステッドに向かい横薙ぎの斬撃を放った。
オルステッドはそれを軽く受け流し、ヘルスに向かい再度突進していく。
「何度でも再生するのなら、何度でも殺すまでだ」
オルステッドがヘルスの頭に向かい飛ぶと、ヘルスは刀で頭をガードした。
ガチン!
オルステッドの手刀とヘルスの刀が、凄まじい金属音と火花を散らして衝突する。
力は拮抗し、二人は互いに後方へ下がった。
「物理攻撃では埒が開かない、ならば……」
ヘルスに狙いを定めたオルステッドの右腕から、青色の炎が溢れ始めた。
「グフッ!」
下から凄まじい勢いで繰り出されたオルステッドの拳が、そのままヘルスの顎に直撃した。
青炎に包まれた拳は、ヘルスの頭に燃え移る。
「二十年分の魔力だ。先にサテラが放った大火球とは比にならんぞ」
オルステッドの言う通り、彼の放った青炎は、瞬く間にヘルスの上半身を包み、激しい音を立てながら燃えている。
「ちょっと!やりすぎよ!」
「仕方ない、奴の再生能力を食い止めるにはこれしか……」
オルステッドがサテラの方を向いた、その一瞬だった。
体が燃え尽き、上半身がほぼ灰になったヘルスの腹から、泥状の触手が飛び出してきた。
グチュ
「ッ!?」
触手はオルステッドの体を捕まえると、固まり始め、その本当の姿があらわになる。
赤竜の上顎で見た、骨のない馬の怪物。
「これが、ヘルス?」
怪物はいななき声を上げると、オルステッドを咥えたまま、長い首を上下左右に振り回し始めた。
壁にぶつけ、床に叩きつけ、あらゆる箇所にオルステッドを振り回す。
「クソ!あいつがやられたら終わりだ!ルディ、俺たちも加勢するぞ!」
「分かりました!エリスとギレーヌはアリエル様をお願いします!」
「ええ!」
「任せろ」
エリス、ギレーヌにアリエルを任し、俺とパウロはオルステッドを助ける為怪物の元へ向かう。
「ヘルス!いい加減目ぇ覚ませ!」
怪物の足元に回り込んだパウロは、近くにあった右前脚を切り裂いた。
怪物は体制を崩し倒れかけるが、まだオルステッドを咥えているその口は離していない。
『邪魔をするな、虫ケラが』
「うおッ!」
さらにもう一本の足を切ろうとしたパウロに対し、怪物は残った足を振り回しながら牽制した。
攻撃から逃げに切り替えたパウロは、当たるかどうかのギリギリのタイミングで回避しながら、時間を稼いでくれている。
「父さん!避けてください!」
「おう!いけルディ!」
俺は持っていた
今回は射程圏内で、尚且つパウロが時間を稼いでくれていた。
これなら、最大火力を打ち込める!
「
限界まで回転させた俺の岩砲弾は、音速を超えてヘルスの胴体にめり込んだ。
『あぁぁぁ!!』
下半身に穴が空いた怪物は、咥えていたオルステッドを離し、悶え苦しむ様に暴れ始めた。
「効いたのか!?」
「分かりません!」
なんだ?
岩系統の魔法が弱点なのか?
「ルーデウス!感謝する!」
落下しながらも体制を整えたオルステッドが、再びヘルスへ飛び掛かる。
「なるほど、岩系統の魔術が弱点か」
オルステッドの右腕が今度は青炎ではなく、ゴツゴツとした岩に包まれる。
「終わりだ!」
そのまま怪物の頭上に向かって、その巨大な岩を振り下ろす。
バコン!
怪物の頭が砕け、この激しい戦いは幕を閉じる……
筈がなかった。
「ぐッ!」
頭のない状態で、怪物は前脚をオルステッドに向けて放った。
前脚は見事オルステッドに直撃し、彼は最初に登場した窓から外へ吹き飛ばされた。
上空へ放り出されたオルステッドが、月明かりに照らされる。
怪物の上半身が泥状に戻ると、再びヘルスの体へと作り変えられる。
『ふう……ふう……』
ヘルスは俺を睨みつけると、その姿を消した。
「はッ!? どこに!?」
咄嗟に窓の外を見ると、そこには空を駆け上がって行くヘルスの姿があった。
パカラッパカラ
『鬱陶しい虫が……』
ヘルスは空中から落下し始めたオルステッドに向かい、刀を構える。
「ヘルス!やめろ!!」
「ヘルス!!」
『
ドン!!
紫色の稲妻を纏った斬撃が、オルステッドに向け放たれる。
「ッ!?」
斬撃はそのまま衝突し、オルステッドは凄まじいスピードで吹き飛ばされた。
流石の龍神でも、あんな勢いで飛ばされてしまったら、ここへ戻ってくるのには相当な時間が掛かる筈だ。
しかし、ヘルスの攻撃はそれだけでは終わらない。
ヘルスは持っていた刀を鞘に戻し左手を上げると、煙と共に巨大な角笛が現れた。
ブオオオオォ!
ヘルスにより勢い良く出されたその音は、王都アルス全体に響き渡る。
角笛の音が止み、俺は会場を見回した。
特に誰も負傷したり、倒れている訳でもない。
一体何を………
「うわぁぁぁ!」
会場の外から、困惑と悲鳴の混じった人々叫び声が聞こえてきた。
「なんだあの怪物達は!?」
「赤竜だ!逃げろ!」
「見ろ!ターミネートボアもだ!」
叫び声は益々酷くなっていく。
「なんだなんだ?一体外で何が起こって……」
『お前ら!』
パウロが言いかけた時、窓の外に浮いていたヘルスが叫び声よりも大きい声を張り上げた。
『龍神オルステッドを殺せ!』
一体誰に言っているんだ……?
『お前達に死などという惨めな最後は訪れない!好きなだけ暴れろ!』
『