貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

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81話 最終局面

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜ルーク視点〜〜〜

 

 

 俺にとって、ヘルス兄さんは英雄そのものだった。

 

 ノトス家の三男として生まれた俺は、二人の兄よりも優しく育てられた。

 それは俺が末っ子だったのもあるし、何より俺も二人の兄達と同様に、類い稀な才能を秘めていると期待されていたのが大きいだろう。

 しかし、期待をされたからといって才能が開花する訳ではない。

 

 俺は平凡に育った。

 

 ディエゴ兄さんの様に政治に関して的確な判断を下すことはできないし、ヘルス兄さんのように魔術の才能に恵まれている訳でもない。

 血の滲む様な鍛錬を積んだところで、剣術が周りより強くなることはなかった。

 

 俺が平凡だという事に気付いても、周りからの対応は変わらなかったが、心の中では失望していたに違いない。

 その事を考えるたびに、俺の胸は焼かれたように熱くなり、耐えないほどに苦しかった。

 

 そんな俺がアリエル様の守護騎士としてヘルス兄さんと共に働けると知った時、たまらなく嬉しかった。

 

 これで俺も、兄さんと一緒に肩を並べられる。

 家族として、ようやく認められる。

 

 そんな事、あるはずもないのに。

 

 実際に待っていたのは、自分とヘルス兄さんの圧倒的な実力差を思い知らさせる毎日。

 その差は埋まるどころか、日に日に大きくなって行く。

 俺が兄さんに勝っている所など、一つもありはしなかったのだ。

 

 俺は兄さん達にはなれない。

 

 いつからだろう、そんな情けない考えを持つ様になったのは……

 

 英雄と敬愛していたヘルス兄さんの背中を、嫉妬の目で追う様になったのは……

 

 

 

 

 ヘルス兄さんがノトスを出奔したあの時、心の何処かで安堵の感情が湧いた事に気づいた時は、自分の愚かさと不甲斐なさで押し潰されそうになった。

 

 こんな劣情を抱いてしまった自分の罪を裁いて欲しい。

 叶うならば、ヘルス兄さんの手で直接……

 

 「それは自分勝手すぎるんじゃないかなぁ?」

 

 麒麟の正体が、自身の兄であるヘルス兄さんだった事を知った日の夢の中で、圧倒的な存在感を放っていた人神様にそう言われてしまった。

 

 「君を裁いたところで、君のお兄さんは本当に満足するのかな?」

 

 それは……

 

 「絶対にないね。それは君自身もよ〜く分かっている筈さ」

 

 では……俺は何をすれば……

 

 「ふふ」

 

 人神様は、俺の肩に手を置いた。

 

 「報いるんだよ。ヘルス君の目的に、協力するんだ」

 

 報いる?

 

 俺が復唱すると、人神様の表情が、段々と嬉しそうになっていくのを感じる。

 

 「そう。もし君が本当にヘルス君に協力するのならば、僕も全力で手助けしてやろう」

 

 この世界の神とも言える存在の提案を、俺が断れるはずもなかった。

 

 結果、俺はアリエル様を裏切り、ディエゴ兄さんを地面に押し付け、自身の父を自らの手で刺した。

 

 それも全部、ヘルス兄さんに報いる為。

 自分の罪を洗い流して、ヘルス兄さんと肩を並べられる様になる為だ。

 

 「ルーク……! お前はそれでいいのか!?」

 

 ディエゴ兄さんの声が、俺の体全体に染み渡る。

 

 本当に……これでよかったのか?

 これで、俺は胸を張ってヘルス兄さんとこれからの人生を歩むことができるのか?

 

 月明かりに照らされ、恐ろしくも美しく空中にたたずむヘルス兄さんを見ると、そんな感情が湧いてくる。

 

 しかし、かつての戦友であったシルフィに動きを封じられ、惨めに地べたに押さえつけられた俺は、もう一度自分の罪を見つめる事しか出来ない。

 

〜〜〜ルーデウス視点〜〜〜

 

 オルステッドを地平線の彼方へ吹き飛ばしたヘルスは、ゆっくりと会場へと戻ってきた。

 

 そして同時に気づいた事が一つ、ヘルスの大きさの変化だ。

 最初は数十メートルは超えていたヘルスの体は、今は四メートル程に落ち着いている。

 

 体力の消耗による疲労?

 単にあの大きさは勝手が悪いと判断したのか?

 

 どちらにせよ、小さくなったところでヘルスの脅威は変わらない。

 あらゆる可能性を想定しなくては……

 

 「ヘルス!これは一体どういう事であるか!?」

 

 ダリウスが会場外に響く悲鳴を掻き消す声で、ヘルスの名を呼んだ。

 こんな状況なのにも関わらず、奴は不気味な笑みを浮かべている。

 

 「王族……いや、この王都アルスを混乱に陥れるクーデターを企てるとは、なんたる愚行!」

 

 『………』

 

 ダリウスは意識を取り戻し始めたアリエルの方をチラチラと確認し、北神三剣士の後ろに隠れながらヘルスを責め立て始めた。

 

 「アリエル様、ここは私にお任せください。このダリウス、この命を賭けてでもあなたをお守りします」

 

 あぁ、なるほど、そういう事か。

 

 ダリウスはこの期に及んで、まだ上級大臣の座を保守しようとしているのだ。

 状況が状況、自身の後ろめたい秘密がバレたとしても、『アリエル王女を命を賭けて守った』という肩書きさえあれば、まだ立場を修復できると考えているのだろう。

 

 「……けッ! さっきまであんなに王女様を殺したがってた癖によく言うよ。今になってボケが酷くなったかい?」

 

 「黙れ!」

 

 ダリウスは嫌味を吐く水神を睨みつける。

 

 「ゲスである事は承知していたが、まさかここまでとはな……」

 

 ダリウスの暴挙を静観していたギレーヌが、自身の持っている剣を静かに抜いた。

 

 「ルーデウス、もうあいつは殺しても良いな?」

 

 「ちょ、ちょっと待ってください。まず最初に対処すべきはヘルスでしょう? それに、ダリウスを護衛する二人のーーーー」

 

 

 その時、ダリウスの後ろにあった壁が、ものすごい衝撃音と共に破壊された。

 内側からではなく、外側からだ。

 

 「ルーデウス……あれは……!」

 

 エリスが開いた穴を指差す。

 

 「嘘だろ……」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 王都アルスに住む7歳の男の子

 ルーカス・ウォーカー 

 

 ぼくのこわいもの

 

 『せきりゅう』

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 ダリウスの頭上から少し離れた所に開いた巨大な穴から、紅色に輝く恐らしい鱗を持つ化け物が出てきた。

 

 「せ、赤竜!?」

 

 中央大陸の絶対的王者、赤竜だ。

 しかしその体は歪で、俺が今まで相対してきた赤竜とはどれも似つかないものである。

 例えるならば、子供が描いた絵だ。

 

 「お前達!助けーーーー」

 

 突如現れた赤竜は、そのまま真下にいたダリウスを踏み潰した。

 

 肉の潰れる嫌な音が、静まり返った会場に響き渡る。

 

 「ギャァァァス!!」

 

 「なんで……なんで赤竜が」

 

 赤竜は基本、自身の縄張りからは滅多に出ないはずだ。

 それなのに、今目の前にいるこの生物は、王都どころか、この貴族達が住まう中央区域にまで侵入している。

 

 『死ぬ前に教えてやろう……』

 

 小さくなったヘルスが、ダリウスを潰した前足を舐めている赤竜へ近づく。

 赤竜はヘルスが近づくと舐めるのをやめ、静かにその頭を下げた。

 

 「な……!」

 

 『MMA(ムーマ)、眠る者たちの恐怖の対象。俺はそれを現実へと引き出してきただけだ』

 

 「恐怖の……対象……?」

 

 『そうだ。お前達が恐れれば恐れる程、MMAムーマは強くなり、その力を更に強力なものにしていく。いわば、お前達の天敵……とでも言おうか?』

 

 俺は持っていた杖を落とし、その場で固まった。

 

 嘘だろ……?

 

 身体中の体温が、急激に冷えていくのが分かる。

 

 俺達がどんなに強くても、そんな俺達が恐怖する対象を、ヘルスは無尽蔵に創り出すことが出来る。

 

 そんな奴に勝てるはずないだろ……

 

 

 『そうだ、俺はその表情が見たかった』

 

 ヘルスが俺を指差すと、頭を下げていた赤竜が、静かに俺を睨みつける。

 

 『せめてもの情けだ。一思いに終わらせてやれ』

 

 赤竜の口から炎が溢れ出し、漏れ出た炎が辺りを明るくする。

 

 「ルディ!ダメ! 逃げて!」

 

 「シルフィ……」

 

 シルフィは抑えていたルークを離し、俺の元へと向かってきた。

 しかし、距離が遠すぎる。

 これじゃあ間に合わないだろう。

 

 それでいい。

 死ぬのは……俺一人で十分だ。

 すまないシルフィ、ロキシー、エリス、みんな……

 

 最大まで溜められた赤竜のブレスは、流石の俺でも止められない。

 

 「ルディ!」

 

 『ルーデウス!』

 

 パウロとエリス、ギレーヌも俺に向かってくるが、シルフィ同様距離が遠すぎる。

 

 くそ……ヘルスを助けるって、約束したのに……

 

 こめん……

 

 

 

 

 

 

 「衝撃波(エアバースト)!」

 

 ブレスが当たるその瞬間、俺は勢い良く横に吹き飛ばされた。

 そのままテーブルや椅子を巻き込みながら転がり込む。

 俺は閉じていた目を開け、吹き飛ばされたであろう場所を見る。

 

 「サテラ……?」

 

 一体いつから?

 いや、そもそもなんでこんな近くに……

 

 「敵を打ち砕け!岩砲弾!」

 

 サテラは赤竜に岩砲弾(ストーンキャノン)向けを放つと、俺の杖と自身の杖を両手で持ちながら駆け寄ってくる。

 

 岩砲弾を放たれた赤竜は、撃たれた箇所が粉の様に消え、鳴き声をあげながら会場の外へと消えていった。

 

 

 「サテラ……なんで……」

 

 「いいから早く杖を持って!これ本当に重いから!」

 

 言われるがままに杖を持つと、サテラはヘルスに杖を構える。

 

 「もう、無理ですよ……あんなのに勝てる訳が……」

 

 「じゃあまた諦めるの?また諦めて、今度はヘルスを失うの?」

 

 「あっ……」

 

 諦める

 

 確かに、エリスに捨てられたと勘違いしたあの時、俺は人生を諦めていた。

 あの時だけじゃない、前世でも、俺は諦め続けていた。

 けど今世は前世とは違う。

 

 ヘルスがいた。

 あいつがいたから、俺はここまで来られたんだ。

 

 それはサテラも同じ気持ちなんだ。

 彼女もヘルスに助けられたから今がある。

 

 今度は俺が助ける。

 

 俺は手に持っていた杖を力強く持つ。

 

 「……サテラ、いや、みんなにお願いがあります!!」

 

 声を上げる。

 みんなに伝わる様、とにかく大きく。

 

 「数分だけ、ヘルスを足止めしてください!」

 

 数分だけ、その時間さえあれば、奥の手を準備できる。

 

 「……分かった!任して!」

 

 サテラはこちらを振り向かず、返事だけを返した。

 理由を聞かないという事は、信用してくれている……という事だろう。

 だったら、それに応えなければ。

 

 「任せとけルディ!」

 

 「分かったわ!」

 

 「無茶はするなよ!」

 

 パウロ、エリス、ギレーヌがヘルスに向かい走り始める。

 

 『無駄な足掻きを……!虫ケラ共が!」

 

 ヘルスの刀が再び紫色の稲妻を放つ。

 

 『神避……』

 

 「大火球(エクソフレイム)

 

 『!?』

 

 しかしサテラが放った大火球により、刀を持っていたヘルスの腕が燃え上がった。

 

 『……鬱陶しい虫め』

 

 「それが魔術師ですから!」

 

 それと同時に、パウロ達はヘルスに向かい飛びかかる。

 

 「はあッ!」

 

 3人が振りかざした剣が、ヘルスの両腕と横腹を斬り裂さいた。

 

 『……チッ』

 

 ヘルスは後ろへ下がり、斬られた横腹を確認しながら不愉快そうな表情をつくる。

 

 「お前ら!絶対にルディを守るぞ!」

 

 「分かってるわ!」

 

 「心得ている!」

 

 パウロ、エリス、ギレーヌは再び剣を構え、サテラはその後ろで杖をヘルスに向けた。

 

 「ここで、終わらせる!」

 

 ヘルスとの最後の戦いが、サテラの張り上げた声を合図に始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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