貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

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83話 泥沼対馬骨 後半

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜サテラ視点〜〜〜

 

 

「ここは、本当に現実なの……?」

 

 目の前に広がる光景に、私達は唖然とした。

 

 「誰か助けて!」

 

 「うわあぁぁぁ!」

 

 炎に包まれ、夜とは思えない程に明るくなっている町には、逃げ惑う人々。

 

 そしてその人達を追いかける魔物……とは言い難い、不恰好な生き物がいる。

 ターミネートボアの様に完全な魔物の姿から、限りなく人間に近い姿のものまで、とにかくその種類は数え切れない。

 

 「どうしよう、このままじゃ完全に逃げ道を失っちゃう」

 

 「分かっている。今はとにかく負傷者の身を隠せる場所を……危ない!!」

 

 町の状態に私が思わず一歩後退したその時、横の建物から何者かの拳が飛んできた。

 

 間一髪、飛んできた拳が私の頭に直撃する前に、ウィ・ターの盾が割って入る。

 

 拳が盾に当たる。

 その周囲からは火花が飛び散っている。

 

 「ぐッ……!」

 

 ウィ・ターの盾にはヒビが入り、今にも破壊されてしまいそうだ。

 

 「はぁッ!」

 

 その横からシルフィの風魔法が放たれ、拳をぶつけていた奴が吹き飛ばされた。

 

 「大丈夫!?」

 

 「はあッ……すまん、助かった」

 

 シルフィから差し出された手を、ウィ・ターは躊躇なく掴んで立ち上がった。

 

 「水神達も……一応は無事ね」

 

 突然の襲撃でウィ・ターが離してしまった、ピレモンと水神も無事だ。

 

 「敵の心配をするなんて、お嬢ちゃん、まだまだ甘っちょろいね」

 

 「今は敵味方関係ないでしょう?それに、弱っているおばあちゃんを見捨てる程、私は落ちぶれちゃいない」

 

 私は横向きに倒れている水神を立たせて、軽く治癒魔術をかける。

 

 この人が水神って聞いた時は驚いたけど、彼女の体を触れて感じるこの不思議な威圧感から、その実力が本物である事が分かった。

 

 「さあ、無駄話はそこまでにしておけ、そろそろ来るぞ」

 

 ウィ・ターがそう言って構えると、私達も続いて武器を持つ。

 吹き飛ばされた煙の中から、その敵の姿が現れた。

 

 「あ……あれは……」

 

 「嘘でしょ……?」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 王都に住む54歳の商人

 

 ベン・ヴェーカー

 

 私の怖いもの

 

 七代列強二位

 

 龍神オルステッド

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「龍神オルステッド……?」

 

 『………』

 

 恐ろしい形相でその場で佇んでいるのは、先程私のアモール病を治してくれた、あの龍神オルステッドだ。

 

 だけど様子がおかしい。

 姿はオルステッドによく似ているが、彼を認識した時に感じるはずのあの嫌悪感や憎悪を今は感じない。

 

 つまり、今私達の前にいる彼は偽物……と捉えていいでしょうね。

 まず彼が本物なら、私達を攻撃してくるメリットはない。

 

 しかし偽物だったとしても、その実力は本物だ。

 北王であるウィ・ターの構えた盾を、呆気なく壊してしまう程には……

 

 「……ふう」

 

 正直に言いたい。

 無理。

 

 北王ですら倒せない今の私と、その私と大差ない実力のシルフィでは、あの龍神オルステッドもどきを倒す事は不可能。

 

 逃げるにしてもアリエルさんや水神はともかく、ピレモン卿やルーク先輩を抱えて逃げるのは至難の業だ。

 

 どうしよう……

 

 「お嬢ちゃん」

 

 考えろ……考えろ……

 なんだっていいの、この場を切り抜ける方法さえあれば……

 

 「サテラ!!」

 

 「あ!はい!」

 

 しまった。頭をフル回転させていたせいで、水神の声を無視してしまっていた。

 

 「あの龍神オルステッド、邪魔かい?」

 

 ……え?

 

 「……どういう事?」

 

 「だから、あそこにいる龍神オルステッドが邪魔かって聞いてるんだよ」

 

 水神は縛られている手をこちらに向けて来た。

 

 「もしあんたがあいつを足止めしたいってんなら、手を貸すよ」

 

 「え……?」

 

 ちょっと理解が追いつかない。

 

 「全く、最近の若いのは二回言ってやらないとダメなのかい?」

 

 「そういう事じゃない!だってあなたは……」

 

 水神は敵。

 それは龍神オルステッドから聞いている。  

 私が来た時には既に無力化されていたけど、それでもまだ脅威である事に変わりはない。

 

 そんな水神という巨大な脅威を、私の勝手な判断で解放していいの?

 

 「……あたしの雇い主だったダリウスは死んだ。もうあたしにはあんたらに敵対する理由はないさね」

 

 「で、でも……」

 

 いいの?

 オルステッドもどきはまだ攻撃を仕掛けてこないけど、いつ私達に突進して来てもおかしくない。

 早くこの場で決めなくてはいけない。

 私の判断で……この状況を……

 

 「……なくては」

 

 その時、横で倒れていたピレモンがゆっくりと立ち上がる。

 

 「ピレモン卿?大丈夫ですか?」

 

 「……かなくては」

 

 「はい?」

 

 ピレモン卿はそのまま私達が走って来た方向……会場の方へと向きを変えた。

 

 「行かなくては……!」

 

 そう呟き終わると、ピレモンは信じられない速さで会場へと走り始めた。

 

 「ピレモン卿!?」

 

 「シルフィ!ダメ!」

 

 私はシルフィが咄嗟に風魔法でその動きを封じようとするのを止めた。

 ピレモンに治癒魔術をかけたとはいえ、本来なら、まだ安静にさせなければいけないのだ。

 あんな速度で走っている事自体が危険なのに、シルフィの風魔術なんて喰らったら、それこそ本当に命に関わる。

 

 このまま彼を一人にさせるのは危険だけど、オルステッドもどきを倒す為の戦力を無くすわけにはいかない。

 

 後がどうこうとか、そんな事言ってる場合じゃない。

 私は水神を縛っていた縄を解いた。

 

 「サテラ……」

 

 「分かってるよシルフィ、でももうこれしかないんだ……」

 

 「酷い言われようだね。あたしはあんたらに危害は加えないと言った筈だよ」

 

 水神は苦笑しながらも、腰についていた剣を取り出す。

 

 「それで?あたしの役目はあの龍神を足止めする事かい?」

 

 「ええ、その間に私とシルフィはピレモン卿を追いかけるから」

 

 「いや、僕も残るよ」

 

 水神の横で、シルフィも静かに杖を構えた。

 

 「敵は龍神だけって訳じゃなさそうだからね」

 

 そう言われて、私はオルステッドもどきがいた場所に視線を向ける。

 いつの間にか龍神の左右には、ターミネートボアがいた。

 そしてその後ろからも、私が冒険者時代に戦って来た屈強な魔物達が迫って来ている。

 

 「アリエル様とルークは僕に任せて、サテラはピレモン卿をお願い」

 

 「………分かった、気をつけて!」

 

 悩む時間なんてない。

 私はかつてヘルスから貰った杖を力強く握りしめながら、ピレモンが走り去って行った方向へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜ルーデウス視点〜〜〜

 

 「……ふう」

 

 集中しろ。

 目の前にいるのは、龍神オルステッド以来の圧倒的強者。

 身体中の全神経を研ぎ澄ますんだ。

 

 『魔導鎧』の耐久性はオルステッドのお墨付きだが、ヘルスの持っているあの刀なら、その鎧をいとも容易く切り裂いてしまうだろう。

 失敗は許されない。

 

 俺は腕についているガトリング砲をヘルスに向けた。

 

 だからこそ……躊躇はしない……!

 

 「はあッ!!」

 

 

 取り付けられたガトリング砲から、幾千もの岩砲弾(ストーンキャノン)が射出される。

 

 発射から着弾までのタイムラグはほぼないに等しい。

 

 にも関わらず、ヘルスは放たれた岩砲弾を持っていた刀で次々と受け流していく。

 しかし、流石のあいつでも全てを防御できる訳ではなかった。

 

 放たれた内の岩砲弾の一発が、ヘルスの腹を貫く。

 

 『ぐあぁぁぁ!!』

 

 その瞬間、ヘルスから凄まじい悲鳴が聞こえて来た。

 

 痛みに耐えかねたのか、ヘルスは向かってくる岩砲弾を『受け流し』から『回避』へと切り替えた。

 ヘルスは残りの岩砲弾を被弾しながらも、会場を走り回る事で回避していく。

 

 俺がガトリング砲の射出をやめると、ヘルスも動きを止め、荒い呼吸をしながら俺を睨みつけて来た。

 

 やっぱり……

 

 体の大部分を失っても尚再生を続ける、不死身の肉体を持つヘルス。

 奴の弱点が、分かったかもしれない。

 

 確定、とまではいかないが、恐らく奴の弱点は……俺だ。

 

 自分に特別な力があるとかそういう訳ではないが、サテラの岩砲弾ならまだしも、俺よりも威力の高い土魔術を放ったオルステッドの攻撃が大して効いていなかったのに対し、俺が放った魔術だけ、明らかに効いている反応をしているのだ。

 

 詳しくは分からないが、俺の攻撃が弱点ならば、それは大きなメリットである事に変わり無い。

 

 俺はもう一度ガトリング砲をヘルスに向け、魔力を流し込む。

 それと同時に、ヘルスの刀が紫色の稲妻を纏い始めた。

 

 『調子に乗るなよ、虫ケラ風情が……!』

 

 来る!!

 

 俺はガトリング砲に魔力を流し込むのを中断し、代わりに脚の部位へ魔力を流し始める。

 

 バリバリ

 

 『神避!』

 

 ヘルスから放たれた横薙ぎの斬撃が、ありえない速さで俺の方に向かって来た。

 

 ダメだ。

 

 俺は咄嗟に上へと飛び上がったが、判断が少し遅かった。

 

 放たれた斬撃が魔導鎧の腹に直撃する。

 

 「ぐッ……!」

 

 鎧はミシミシと嫌な音を立て、俺はそのまま会場の壁へと吹き飛ばされた。

 

 痛い……

 全身の骨が折れたのだろうか?

 体が全く動かない。

 

 しかし、クリフが鎧に組み込んでいた治癒魔術の魔法陣のお陰で、徐々に痛みが和らいでいく。

 魔導鎧の方も、俺の体の再生程ではないが、ゆっくりと直り始めている。

 

 『あの攻撃が直撃してまだ生きているのか……?化け物め』

 

 「化け物は……はあッ、あなたでしょう……」

 

 体勢と呼吸を整える。

 そして次の一手を考える。

 

 また岩砲弾で攻めるか?

 いや、流石に二度目は通用しないだろう。

 

 では大技で攻めるか?

 それならヘルスに致命傷を負わす事が可能だ。

 周りに及ぶ被害を考慮しない場合、だか……

 

 その時、ヘルスの体から煙が上がり始めた。

 溢れ出す煙にヘルスは覆われ、姿が消える。

 

 なんだ?

 ここに来てまた変身か?

 

 そして煙の中から、小さな人影が現れた。

 今回はちゃんと人間の姿をしている。

 下半身も上半身も、ヘルスそのものだ。

 

 下半身が馬だと、俺の攻撃を避けれないと判断したのか?

 ヘルスの意図がよく読めないが、ガタイが小さくなったのは好都合。

 このまま魔導鎧で押し切れば……

 

 『力でなら勝てる……とでも思っているのか?』 

 

 ヘルスが持っていた刀を引き摺りながら、こちらへと歩いてくる。

 

 「ええ、それにあなたの弱点は、俺なんでしょう?」

 

 できるだけ自然な形で、ヘルスの弱点が俺である事を確認しようとしてみる。

 

 『……だからこそ、お前はここで死ななければならない』

 

 ヘルスはそう言い終えると、彼の持っていた刀がまた紫色の稲妻に包まれた。

 

 『これで、終わりだ』

 

 次の瞬間、俺の視界からヘルスが消える。

 

 それと同時に、背中からとてつもない力が加わった。

 

 「ぐはッ!」

 

 まさか、蹴られたのか?

 だとしたら速い、余りに速すぎる。

 

 吹き飛ばされる……とまではいかないが、俺は体制を崩して前に倒れかけた。

 まずい、体勢を立て直さな……

 

 そんな事を考える間もなく、次は俺の腹に向かって凄まじい衝撃が来る。

 

 次は頭、脚、腕、そしてまた腹。

 

 一発一発の威力すら高いのに、それらの攻撃が数秒の間に何十発も打ち込まれる。

 

 まずい……!

 これ以上、魔導鎧は耐えられるか?

 

 (パワー)

 

 速度(スピード)

 

 技術(テクニック)

 

 『杓死(しゃくし)……』

 

 そしてとうとう、魔導鎧の横腹辺りに穴が空いた。

 ダメだ。

 魔導鎧を……捨てなくては。

 

 「パージ!!」

 

 痛みに耐えながら叫ぶと同時に、背部装甲版が弾け飛んだ。

 俺はそれに引っ張られるようにして、魔導鎧の外に弾き出される。

 

 「ゲホッ!ゲホッ……!」

 

 壁に激突し、大量の血を口から出して倒れながらも、魔導鎧があった場所を見てみる。

 

 「嘘でしょう?」

 

 そこには完全にスクラップになった魔導鎧と、傷一つ付いていないヘルスの姿があった。

 

 まさか、オルステッド以外に、魔導鎧を破壊されるなんて……

 

 『万策尽きた……といったところか?』

 

 しかしヘルスの額には汗が出ている。

 全く効いていなかった、という訳ではないのだろう。

 

 くそ……まだだ。

 まだやれる……

 

 やっとの思いで体を起こすが、腕に力が入らない。

 足もガクガクと震え、身体中が死にそうな程に痛い。

 

 『もういい、もう十分だ』

 

 ヘルスは表情一つ変えずに、俺に向け刀を構えた。

 

 『俺をここまで追い詰めた褒美だ。一振りで葬ってやる』

 

 「……ぐッ!」

 

 何か手はないのか?

 この状況を打開できる、完璧な策は……

 

 『じゃあな、哀れな虫ケラ』

 

 ヘルスがこちらに向かって走りながら、刀を上へ上げる。

 

 嫌だ……! 

 まだ死なない!

 

 俺はまだ、ヘルスを救えてないんだ。

 

 ドン……

 

 その時、俺の横から凄まじい勢いで何かが飛んできた。

 

 「ッ!?」

 

 その衝撃で、俺は横へと吹き飛んだ。

 そのまま何回転もしながら地面に倒れ込む。

 

 痛い……

 俺はすぐに体勢を整え、自分の体を見た。

 

 どこも斬られて……ない。

 

 その事実が俺の脳へと伝わると一瞬、安堵した。

 

 そう、一瞬だけでも、俺は安堵してしまったんだ。

 

 『は?』

 

 前の方から、ヘルスの気の抜けた声が聞こえてくる。

 

 『何を……した?』

 

 「……ゲフッ!」

 

 ビチャ

 

 俺とヘルスしかいない筈の会場から、血が地面へと滴り落ちる嫌な音がした。

 

 『何をしたと聞いている……!答えろ!』

 

 ヘルスの出した怒号に釣られて、やっと俺は正面を見た。

 

 『ピレモン!!』

 

 ヘルスが振り下げた刀。

 その目の前には、大量の血を吹き出しているピレモンの姿があった。

 

 「あぁ、やっと……やっとだ」

 

 ピレモンは痛がりもせず、普段通りの歩き方でヘルス前に立つと、大きく両手を広げ、彼を抱きしめた。

 

 「やっとお前に触れた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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