貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
「助けに来たぞ、お前達」
「ヘルス!!」
ルークの隣にいたアリエルが、俺の胸へと飛びついてきた。
抱きつくアリエルを、今度は突き放さない。
俺はアリエルの体を優しく包み込む。
「ヘルス……グスッ」
「ああ、俺はここにいる」
「兄上……」
ルークは目に涙を浮かべながら、俺の方を見ていた。
まったく、何年経っても、仕方のない弟だな。
「ほら、ルーク。お前もこい」
アリエルを右胸に寄せ、隙間をつくり左手でルークを手招きする。
「兄さん……!」
それを合図に、ルークも迷わず俺の左胸に飛び込んできた。
二人の啜り泣く音が、俺の不安を掻き消してくれる。
そうか、俺はこんなにも大切に思われていたんだ。
「ヘルス……?」
二人を抱きしめていると、サテラが呆然とした表情で俺を見ている。
「サテラ、ただいま」
そう言うと、彼女の顔が歪み始め、その場で泣き崩れてしまった。
彼女も抱きしめてやりたいが、今のこの状況じゃあ行こうにも行けないな。
「良かった……目が覚めたんですね」
ルーデウスは杖を支えにしながら、俺の方へと向かってくる。
「ああ、本当迷惑をかけたな。すまないルーデウス」
「迷惑だなんて、俺もたくさんあなたに世話を焼かせましたからね……」
ルーデウスが俺の前へ来ると、彼はそのまま俺に手を差し出してきた。
『また会えて嬉しいです。親友』
聞き覚えのある言語で、彼は流暢にそう言った。
なんだ、もう気づいていたのか?
ナナホシから聞いた……ではなさそうだな。
あいつの口が固いのはよく知っている。
という事は、自力で俺が転生者だと気づいたという訳か。
なら、もう隠す必要もない。
元々そんな必要、ないとは思ってはいたけどな。
『そうだな、またよろしく頼むよ。マイベストフレンド』
俺は差し出された手を強く握り、互いの友情を確かめ合った。
「さて、話したい事は沢山あるんだが、まずは怪我人の手当てを……」
その時。
パカラッパカラッ
外からこちらに向かって何かが駆け抜けて来る音が聞こえ始めてきた。
まじか……
その音はありえないスピードでこちらに近づいてくる。
バコン!!
会場の壁が突き破られ、外から『もう一人の俺』が侵入してきた。
まあ、あれで死なないとも考えていたが、まさかノーダメージとは……
『はあ……はあ……』
獣人型になっている『もう一人の俺』は息を荒げ、自身の刀を俺達に向ける。
『とんだ邪魔立てを……生きて帰れると思うなよ?』
「それはこっちのセリフだ。俺の仲間を散々傷つけやがって」
ルークとアリエルを離し、あいつに一発お見舞いしてやる為に構えをとった。
「ルーク、アリエルとサテラを頼む」
「はい!」
会場のど真ん中に、俺が二人。
今ここで、どっちが本物なのかを教えてやる……!
『ふんッ!』
『もう一人の俺』から放たれた斬撃を、俺はバネのように伸びた足で避ける。
『その力、まさか……』
「なんだろうな?当ててみろよ!」
ああ、なんて気分がいい。
自由って、こんなに気持ちがいいんだ。
腕を後ろに伸ばす。
腕はありえない程に伸びる。
「ゴムゴムの〜〜!」
『……ッチ!』
『もう一人の俺』は刀を盾にガードの構えをとった。
だが残念だな。
この攻撃は、横からだぞ。
「
ドゴォ!
横から放たれた俺の拳が『もう一人の俺』の頭を貫通する。
周りからは、星の形をした光が飛び出す。
『ゔぁッ!?』
『もう一人の俺』は巨大な体を回転させながら壁へと激突した。
「よっと……!」
俺は伸び切った腕を元に戻し、フラフラとよろめきながら地面に着地する。
よし、使いこなせてる。
これも変身魔法のノウハウのおかげか……
傷は再生しているが、奴もそうとう体力を消耗している筈だ。
このままジリジリと戦っていけばいつかは……
「ゲホッ……」
その時、俺の口の中から、ドス黒い血の塊が出てきた。
「あ……?」
突然体から力が抜け、抗いようのない無力感に襲われる。
嘘だろ?
魔力枯渇?
いや、魔力はまだ残っている筈だ。
このニカ状態の魔力消費量が激しいとはいえ、なんで……
『何故そうなるか、教えてやろうか?』
立ちこめる煙の中から、『もう一人の俺』が出てきた。
拳がめり込んだ箇所に手を当てながら、『もう一人の俺』は片方の手で俺を指差す。
『仮にも神の名を冠する力だ。お前のような半端者が一朝一夕で使いこなせるはずがないだろ』
「ゲホッゲホ……!」
吐血が、止まらない……
太陽神ニカの能力、まさかその代償がこんなに重いものだとは……
「大丈夫ですか!?」
「今治癒魔術をかけるから!」
サテラとアリエルが俺の元に駆けつけ、倒れそうな体を支えてくれる。
ダメだ……お前らも。
「離れろ……死ぬぞ……!」
「嫌です!もう絶対に離れません!」
「私も、死ぬ時は一緒!」
必死に二人を引き離そうとするが、彼女達の力は強く、離せない。
『まとめて三人、手間が省けるな』
あぁまずい、奴がまた構え始めた。
これじゃあ、本当に全滅だ。
動け……!
動け!
父さんに、繋がれたこの命を無駄にする訳には……
ブン
振りかざされた刀が、ゆっくりと、しかし確実に俺の元へと向かってくる。
あぁ、クソ……
ごめんなさい、父さん。
せっかく助けられた命なのに……
ごめんなさい。
バキ……
刀が俺の首元に触れる寸前に、刀は静かな音を立てて砕けた。
「え……?」
『なに!?』
気づけば、俺達の前に男がいた。
白髪の髪に、高そうだが少し汚れた服を着た男。
その姿を認知した瞬間に、とてつもない憎悪と恐怖が体を襲う。
あの背中、忘れるはずもない。
ルーデウスを殺しかけた張本人。
「龍神、オルステッド……」
七大列強二位。
龍神オルステッド。
「オルステッド様!?」
アリエルがオルステッドの名を呼び終える前に、あいつは『もう一人の俺』に飛びかかる。
「もう容赦はしないぞ?」
『ッ!!この虫ケラがぁぁ!』
なんで、なんで奴がここに?
なんで、アリエルがあいつの姿を、名前を知っている?
ああ、頭が割れるように痛い。
これ以上は、限界……だ。
「うぅ」
「ヘルス!?しっかりしてください!」
「アリエル様離れて、もう一回治癒魔術を……!」
アリエルとサテラの声を聞きながら、俺の意識は再び暗闇へと消えていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
暗い暗い空間。
ぼんやりとした意識がある。
手や足の感覚があるのも分かる。
しかし、体は動かない。
「ーーー!?」
「ーーーです」
うっすらと声が聞こえてくる。
この声は、アリエルと、サテラか?
「本当にそれでいいんですか?」
「はい、それが彼と私にとって、一番いい事でしょうから……」
「そんなの……本人なしじゃ分からないじゃないですか!」
サテラの叫ぶような声が、ぼんやりとした意識を刺激する。
なんの、話をしているんだ?
しかし、しばらくすると声は聞こえなくなり、再び静寂が訪れる。
同時に、俺の意識が吸い込まれるように闇へと消えていく。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うぅぅ」
目覚めは、情けはない声と共に……
目を開けると、俺は真っ白なベットの上にいた。
全身が痛い……
この痛みは、筋肉痛に近い。
痛みに耐えながら、なんとか上半身を上げる。
周りには俺が寝ているベットが綺麗に配置されていた。
ここは、医務室か?
周りをみると、俺の周りには沢山の花束が置かれている。
ドサ……
「ボス……?」
その花束を眺めていると、入り口からリニアが入ってきた。
リニアは手に持っていた花束を落とし、呆然とした顔で俺を見てくる。
「リニア……これは……?」
「ボ……ボボ……ボ……」
「ボスが起きたニャーーー!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ヘルス!痛い以外に気持ち悪いとかはある!?」
「兄上、お怪我はもう大丈夫なのですか!?」
「ヘルス!まだ横になってでください!」
「お前ら、俺は大丈夫だから……」
俺の言葉はかき消され、部屋に入ってきたサテラ達の質問攻めに合う。
どうやら、俺はあの後三週間の間意識がなかったらしい。
『もう一人の俺』については、オルステッドとの死闘の末、王都から逃げていったという。
色々話を聞かされ、話を整理する。
その一
ダリウスを失った第一王子派は勢いを失い、アリエルが王になることがほぼ確定。
そのニ
ダリウス側に雇われていた北神三騎士と水神レイダは今回の騒動の責任を取らされかけたが、アリエル側に寝返る事で不問とされた。
その三
今回の戦いで出た死者は、ピレモン・ノトス・グレイラット、そしてダリウス・ガニウス・シルバ。
町は復興に何年も掛かる程の被害を被っているのにも関わらず、死亡したのはその二人だけだった。
「父上の葬式は既に終わった。体調が良くなったら、墓参りでもしに行こう」
「ええ……もちろん」
ディエゴは俺の肩を叩きながら、少し悲しそうな顔を浮かべていた。
父の死。
父さんとの最後の語らいが思い出される。
『いってらっしゃい』
覚悟はしていた。
父さんは死ぬんだって。
でも心の中でもしかしたら、何かの手違いで生きているんじゃないかと、期待している自分がいた。
ディエゴの言葉で、本当に父さんが死んだという事実が再び突きつけられる。
でも、泣いてはいけない。
挫けてはいけない。
それが父とした、最後の約束なのだから。
「ヘルス……?」
騒がしい医務室の外から、声が聞こえてくる。
入り口の方へ顔を向けると、そこにはアリエルが立っていた。
「ああ、アリエル。おはよう」
「………」
アリエルは何も言わず、ただその場に立ち尽くしている。
どうしたんだ?
どこか体調でも悪いのだろうか?
「アリエル……?大丈夫ーーー」
「本当に……申し訳ありませんでした」
俺が言い終える前にアリエルはそう言って頭を下げ、そのまま医務室から出ていってしまった。
………え?
待ってくれ。
申し訳ない?
いやいや、むしろ迷惑をかけたのは俺の方、本来なら俺が謝る立場だ。
「なんで……?」
それなのにアリエルは謝り、そのまま俺の前から姿を消した……
何故?
「さあ……俺にも分かりません。でも、アリエル様はヘルスが寝込んでいる間、あなたの為に必死に頑張っていたんですよ?」
「俺の為……?」
「ええ、今回の騒動の原因がヘルスだと騒ぎ立てる大勢の人々を、アリエル様は一人で抑え込んだんです」
今回の騒動は紛れもない俺が原因だ。
俺のせいで町は被害を被り、俺のせいで人が死んだ。
それなのに、アリエルは俺の為に戦ってくれていたんだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
しばらくして、サテラ以外の全員が部屋から出ていった。
彼らも彼らで色々とやる事があるらしい。
「あのね……ヘルス」
静かになった部屋では、サテラの声がよく聞こえる。
「なんだ?」
「ヘルスはさ、今、アリエルさんの事、どう思ってるの?」
「どうって……」
サテラの質問に、俺はどう答えればいいか迷うが、その前にはっきりと言おう。
俺はアリエルが好きだ。
一度変な感じにはなってしまったが、ここにきてもう一度、俺はアリエルに恋をしてしまったようだ。
なんて自分勝手な男なんだ、俺は……
「そう、やっぱり好きなんだね……」
「な、なにを!?」
顔に出ていたのか!?
できる限りポーカーフェイスでいたはずなんだが……
「違う……あぁいや!好きには好きなんだが……そういう恋愛的な好きじゃなくーー」
「分かってる分かってる。あなたがそうやってはぐらかそうとする事もね」
「ぐッ………!」
怒ると思っていたが、サテラはどこか少し嬉しそうな表情をしている。
「でも、そう、よかった。好きなのね……」
「……?」
よかった?
「ヘルス。もう率直に言うわね」
サテラが俺の手を強く握りしめる。
「アリエルさんと、結婚する気はある?」
とりあえず今月中には第1章の書き直しを完成させたい……