貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

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89話 終わりと新たな始まり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を開ければ、サテラとアリエルは二人で仲良く話をしていたようだった。

 

 「あらヘルス、お帰りなさい」

 

 「ルーデウス達の所へは行ったの?」

 

 「ああ、一通りはな」

 

 二人とも笑顔で、機嫌は良さそうだ。

 

 良かった良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ん?

 

 違和感に気づいた。

 

 サテラの笑顔が、どこかぎこちないのだ。

 なんかこう、何かを隠しているような。

 

 おかしい……

 

 そう感じつつも、俺は近くにあった椅子へ座ろうとした。 

 

 「ヘルス?」

 

 しかし、サテラに呼び止められる。

 

 「本当に座る場所、そこで合ってる?」

 

 「合ってるって、何が……」

 

 サテラの表情から、笑顔が段々と崩れていく。

 同時に、俺は龍神オルステッド、彼をも上回る程の恐怖に襲われる。

 

 ガシッ!

 

 「私はね、アリエルさんと話し合えって言ったの。体を差し出せ、なんて言ってないの」

 

 「ヒッ!」

 

 サテラにガッチリと肩を掴まれ、俺は身動きが取れなくなった。

 

 

 

 アリエル……助けて……!

 

 藁にもすがる思いでアリエルの方を見るが、彼女は苦笑いを浮かべ、首を横に振った。

 

 助けてくれる人は……いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、王宮内にはしばらくの間、俺の悲鳴が鳴り響いた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 「ヘルス君に、話したい事が二つあります」

 

 「ふぁい……」

 

 腫れ上がった頬のせいで、返事が難しい。

 

 地面に正座する俺の前にはサテラとアリエル。

 俺は視界の行き場を失う。

 

 「まず、一時の感情に任せて身を投げないで。今回は良かったからいいけど、次が成功するとは限らないからね?」

 

 「ふぁい……」

 

 はい、まったくサテラさんの言う通りで……

 

 今回はアリエルだったから許された。

 アリエルが優しかったから、俺を受け入れてくれたし、サテラが寛大だったから、俺はこうして二人の前に立てるのだ。

 

 それを忘れてはいけない。

 

 「そして二つ目、これが一番大事だからよく覚えといて!」

 

 サテラは人差し指を立て、俺の口へつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これから隠し事はなし!何か悩んだら、すぐ私かアリエルさんに相談して!」

 

 「……へ?」

 

 サテラの要望に、俺は間抜けな声を出した。

 

 それって……

 

 「分かった!?」

 

 「あ、ああ!ちょっとルーデウスにも同じ事言われてな……」

 

 ルーデウスからも、頼ってほしいと言われた。

 

 俺……そんなに人に頼った事ないのか?

 あんまりそこら辺が曖昧なんだよな……

 

 「そう?じゃあもし私達に相談しにくい時は、ルーデウスとかにして。とにかく、一人で全部抱え込まないで、分かった?」

 

  サテラは俺の頬を両手で押しつぶす。

 

 「わがっだ、わがっだからつぶざないでくれ……!」

 

 「……はあ」

 

 潰されていた顔がやっと解放され、俺は安堵のため息を吐いた。

 

 「そりゃあ、アリエルさんの方が可愛いし、上手かもしれないけどさ。私だって、ヘルスと……」

 

 サテラは少し顔を赤らめ、そっぽを向いた。

 

 「ああ、なるほど……」

 

 嫉妬の感情があったわけか。

 

 俺はサテラを手繰り寄せ、抱きしめた。

 

 「ちょ、ちょっと!」

 

 「心配しなくても、サテラ、俺はお前を愛してるよ」

 

 愛に優劣なんて存在しない。

 俺はサテラを愛してるし、同じくらいにアリエルも愛してる。

 

 「……もう、今回は騙されてあげるわ」

 

 「ありがとう、サテラ」

 

 サテラを抱きしめると、甘い香りがする。

 

 「………」

 

 すると、アリエルがその奥でモゾモゾと手を動かしているに気付いた。

 

 「アリエル」

 

 俺は片方の手を広げ、アリエルを胸につける。

 

 「こんな自分勝手な男だけど、よろしく頼む」

 

 「もちろんです。生涯あなただけを愛すると誓います」

 

 「別に、俺だけじゃなくたっていいんだぞ?俺も二人を愛してるし……」

 

 これは知り合いから聞いた事なのだが、王女になった者は大抵、複数の夫と結婚し、夫の権力を強くさせないようにするのだそうだ。

 

 「いいえ、そんな必要はありません。私はあなたを愛していますから」

 

 だが今のアリエルに、その気はないようだ。

 俺は二人も妻を娶ったのに……

 

 「分かった。俺もこれ以上妻を増やす気はないから、これからは、三人でずっと幸せに暮らそう」

 

 『はい……!』

 

 俺を抱きしめる二人の腕が、さらに強くなるのを感じながら、夜は更けていった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 数日後

 

 俺は再びルーデウスと共にオルステッドの元へ訪れた。

 

 しかし、以前来た小屋は半壊しており、部屋の天井には、雲一つない青空が広がっている。

 

 「この数日に何があったんだよ……?」

 

 「すいません、今はリフォーム中でして……」

 

 「リフォーム?」

 

 「ええ、実はですねーーー」

 

 

 ルーデウスによると、これからオルステッドの仕事をこなしていくにあたり、小屋を改築する必要があるらしい。

 

 仮眠室や会議室、資料室などを作り、本格的な事務所として機能できるようにするとの事だ。

 

 「離れに武器庫も作る予定なので、必要ならそこから取って行ってください」

 

 「いやいや、そんな必要ねぇよ!申し訳ねぇし」

 

 オルステッドが持つ武器は、一つ一つが国宝級だ。

 見つけただけで本に名前が載るレベルの物もチラホラ……

 

 そんなものを自由に持ち運びできるとは、オルステッドコーポレーション、末恐ろしい。

 

 「アスラ王国にはまだ俺の回収していない武器が複数ある。後で場所を伝えておこう」

 

 半壊した小屋の影に隠れていたオルステッドが呟く。

 

 「それは助かるが、俺達にそんなに無駄遣いみたいな事させて、本当に大丈夫なのか?」

 

 「問題ない、武器庫の物は俺に必要ないガラクタにすぎん」

 

 ガラクタって……

 

 大体全部国宝級なんですけど……

 

 「それよりも、お前がここに来たという事は、あの時の答えが出たのだな?」

 

 「……ああ」

 

 俺はオルステッドの前に立ち、姿勢を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「俺は、あんたの目的に協力する」

 

 

 「おお!」

 

 俺の答えに、ルーデウスは目を輝かせる。

 

 「感謝する。ヘルス・ノトス・グレイラットよ」

 

 「ああ、だが俺からも、一つ頼みがある」

 

 しかしもちろん、ただで協力する訳ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アスラ王国王都で現れた、もう一人の俺。あいつを殺すのを、協力して欲しい」

 

 

〜〜〜?????〜〜〜

 

 

 中央大陸

 紛争地帯

 

 『うおぉぉぉ!!」

 

 血で染まる平原から、勇ましい雄叫びが飛び交う。

 

 ある者は怒りに、ある者は快楽に身を任せ、無心に剣を振るっている。

 

 しかしその場にいる全員が、この戦いの意味を知らない。

 

 この戦いに勝利し、何を得られるのか。

 この戦いが終われば、自分はどうなるのか。

 

 彼らは答えを知る事に興味はなかった。

 

 

 勝利、彼らの目にはそれしか見えていない。

 

 

 

 

 

 

 「愚かですね、私はまさかあんな者達に協力をしていたなんて」

 

 平原から少し離れた山の崖。

 深くフードを被った男が、鼻を鳴らしながら呟いた。

 

 男の手には、長い棒が握られている。

 

 「それで、早速私は何をすればいいのですか?」

 

 

 

 

 男は後ろを振り返り、その奥で座り込む白髪の男に問う。

 

 

 

 「ーーーーー」

 

 白髪の男から出たその話に、男の口角が上がった。

 

 「……随分と面白い計画じゃないですか、フフ」

 

 

 笑い始める男の声が、平原で聞こえてくる雄叫びに混じり合っていく。

 

 

 

 

〜〜〜ヘルス視点〜〜〜

 

 

 

 『もう一人の俺』の正体、それは……

 

 

 

 

 「MMA(ムーマ)だ」

 

 『MMA?』

 

 聞き慣れない単語に、ルーデウスとオルステッドは顔を顰めた。

 

 「俺は以前、変な生き物の姿だったのは、ルーデウスも、オルステッドも一度だけ見た事があるはずだ」

 

 「ああ、覚えている」

 

 「その姿になった俺には、悪夢を具現化させる特殊な魔法を持っていたんだ」

 

 それがMMA。

 

 対象の恐れる生き物を悪夢として、現実へ引き出す能力。

 

 その対象者に、俺も含まれていたのだ。

 

 MMAを使う機会は滅多になかったが、その数少ない機会に、俺の悪夢が徐々に心を蝕んでいた。

 

 しかし、矛盾点もある。

 

 MMAは対象が目覚めれば、時間と共に消失する。

 だがあいつは、俺が目覚めた後も、平気で活動をしていた。

 

 「あいつは俺が作り出した怪物だ。責任を持って俺が倒したいが、一人では絶対に倒せない。だから、圧倒的な力を持つオルステッド、あんたにも協力して欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……無理だ」

 

 

 オルステッドは間を置いて、静かにそう言った。

 

 「……理由を聞いても?」

 

 「数日前にも言ったが、俺は自身にかけられた秘術の特性上、魔力の回復が著しく遅い」

 

 「ああ、言っていたな」

 

 「そして前回、お前と戦ったあの時に、必要以上の魔力を消費してしまった」

 

 「………」

 

 まじかよ……

 それってつまり……

 

 「俺はもう、ラプラスの復活まで、魔術を使用する事ができん」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 夕日が沈み始め、森の中からはうるさいくらいに鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 

 「オルステッド様はああ言っていましたが、俺もできる限り協力しますよ」

 

 俺の後ろを歩いていたルーデウスが、肩を叩きながらそう言ってくれた。

 

 「ありがとう。でもいいのか?お前には守るべき大切な者がいっぱいいるだろ?」

 

 「大丈夫ですって、家には俺よりも強いエリスや父さんだっているんですから」

 

 ルーデウスは笑っているが、俺の心は少し辛い。

 

 

 誰かを頼るのって、こんなに難しい事なんだな……

 

 「お兄ちゃん!お帰りなさい!」

 

 「アイシャ!」

 

 しばらく歩いていると、ルーデウス邸からアイシャが飛び出してきた。

 

 アイシャはそのままルーデウスに抱きつく。

 

 「今日もお疲れ様……って、横の方は?」

 

 「ああ、麒麟だよ」

 

 ルーデウスがそう言うと、アイシャは目を丸くした。

 

 「麒麟って、あのお兄ちゃんの友達の?」

 

 「そうだ。ほら、麒麟も何か言ってくださいよ」

 

 「あ、ああ。久しぶり……だな、アイシャ」

 

 俺が話すと、アイシャの目がさらに丸くなった。

 

 「その声……本当に麒麟さん!?」

 

 

 まあ信じられないのも無理はない。

 魔族だと思っていた奴が、いきなり人間の姿で現れたんだ。

 

 「アイシャ、あまり大きな声を出すんじゃありません……って、麒麟様?」

 

 アイシャの大声に釣られ、リーリャがドアから出てきた。

 

 え?

 

 「リーリャ、なんで俺の事……」

 

 リーリャには、俺が麒麟だって事は伝えてないはずだ。

 ルーデウスが言っていなければ……の話だが。

 

 「以前、その姿をベガリット大陸で見た事がありましたので、まさかとは思いましたが……」

 

 ああ、あの時か……

 ていうか、そんな事よく覚えていたな。

 

 「まあ、詳しい話は中でしましょう。ルーシーが待ってますよ!」

 

 

 やや強引にルーデウスに招かれ、俺はルーデウス邸へと入っていった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 「ルーシーちゃ〜んパパでちゅよ〜」

 

 「……?」

 

 ルーデウス邸にいるみんなに正体を明かし、今はルーデウスの娘、ルーシーと対面している。

 

 「ルーデウス、話し方に問題があるんじゃないか?」

 

 ルーデウスとシルフィの娘ルーシー。

 

 最後に会ったのが、ペルギウスに会いにいく前だったから、大体一年くらいか?

 

 見違える程に成長しているな。

 

 ゼニスに抱かれているルーシーは、ポカンとした顔でルーデウスを眺めている。

 

 「おかしいな、いつもだったら笑ってくれるのに……」

 

 「ルディ、そりゃあやり方が違うからだな!」

 

 待ってましたと言わんばかりに、パウロがゼニスからルーシーを取り上げた。

 

 「ルーシーちゃ〜ん!おじいちゃんでちゅよ〜!ベロベロバァ!」

 

 そんなパウロの必死な姿を、俺は横で苦笑しながら見ていた。

 

 やはり親子は似るな。

 

 だってルーシーの顔、号泣寸前だもん。

 

 

 「いやぁぁぁぁぁあ!!」

 

 「ああルーシーちゃん!どうしたのかな〜!」

 

 焦りはじめるパウロに、ゼニスがゆっくりと近づいていき、ルーシーを取り返した。

 

 「ゼニス……」

 

 ゼニスはそのままルーシーを抱えたまま、俺の前に立つ。

 

 

 

 

 

 

 そして、ルーシーを差し出してきた。

 

 

 

 突然の行動に呆気に取られるが、俺は無意識にルーシーを受け取る。

 

 「うわぁぁぁ………ん」

 

 俺が抱き上げると、ルーシーは喚くのをやめ、俺の目を凝視し始めた。

 

 ルーシーが泣き止むのも気になるが、それ以上に……

 

 「ルーデウス、今のゼニスって……」

 

 ゼニスの行動だ。

 

 草むしりとか、そう言った軽い作業的なことをやっているのは見ていたが、今回は違う。

 

 明らかに何か理由があって俺に近づき、ルーシーを渡してきた。

 

 「ええ、最近多いんですよ。なんかルーシーの気持ちが分かるみたいで……」

 

 気持ちが分かる……か。

 

 これも何か、ゼニスの記憶障害の回復に繋がる予兆なのだろうか?

 それとも、囚われていた事で、新たな能力に目覚めた……とか?

 

 詳しくは分からないが、ゼニスと話せる日が来るのを願うばかりだ。

 

 

 「ブーブー!」

 

 気づけば、ルーシーが俺の腕に抱えられながら笑っていた。

 太陽のような笑顔。

 

 その笑顔に、俺の口が思わず緩んでしまう。

 

 「……なんか面白くねぇな」

 

 「全くです」

 

 その光景を、パウロとルーデウスは恨めしそうに見ていた。

 

 やはり、親子だ。

 

 

 

 

 

 

 しかしそうか、赤ん坊か……

 

 親友の子供を見てこれだもんなぁ。

 もし自分の子供ができるとしたら………

 

 

 

 

 「……それで?ヘルスの方はどうなんですか?」

 

 「どうって……」

 

 「子供ですよ、作りたくない訳ではないんでしょう?」

 

 ルーデウスにニヤけながら言われ、俺はルーシーをもう一度見た。

 

 その瞳には、曇りは一切ない。

 可愛らしいその顔は、見ているだけであらゆる苦痛から解放される。

 

 その可愛らしい子供が、俺の子だったら?

 

 アリエルとサテラの子だったら?

 

 

 

 

 ……いや、ダメだろ。

 

 第一、サテラはアモール病の後遺症とかが心配だし、アリエルは子供を作るとか、そんな余裕なさそうだ。

 

 「ヘルス」

 

 俺が考え込んでいると、ルーデウスは俺の肩に手を乗せてきた。

 

 「一先ず、問題に区切りはついたんです。休む事も大事なんですよ」

 

 「……そうか?」

 

 「ええ、それにサテラやアリエルだって、きっと子供を欲しがっているはずです」

 

 どうだろうか?

 そんな感じには見えなかったが……

 

 

 「でも、それは分からないだろ?」

 

 「じゃあ、子供はいらないんですか?」

 

 「そういう訳じゃーーー」

 

 言い終わる前に、ルーデウスが俺からルーシーを取り返した。

 

 「ヘルス、たまには自分勝手になりましょうよ」

 

 「………」

 

 ルーデウスからの思わぬ発言に、俺は言葉に詰まってしまう。

 

 「そりゃあ、ずっと自分勝手ってのはダメですけど、自分の我儘を相手にお願いするのは、とっても大切ですよ」

 

 我儘……か。

 

 ルーデウスに抱かれたルーシーは、いつの間にかスヤスヤと腕の中で眠っていた。

 

 それも、安心した表情で……

 

 

 

 

 

 

 

 「……そうだな」

 

 たまには我儘も、悪くないかもしれない。

 人任せにするんじゃなくて、相手の気持ちを最優先にするんじゃなくて、自分の気持ちを突き通す事も、大切だ。

 

 だって、決断できる人がいるって、すごく安心できるから。

 

 

 

 

 

 もう少し、俺も我儘でいよう。

 

 

 だって、この与えられたもう一度の人生は、俺のものなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




四章 アスラ王国帰還編 終

五章 シーローン王国編 始

  
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