貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
90話 近況報告
『拝啓、ピレモン様
時の流れとは本当に速いものですね。
俺はもう26歳になりました。
父さんがいなくなってしまってから、忙しい毎日が続いています。
まずは、身の回りについて話しましょう。
俺は、アリエルを妻として正式に迎えました。
しかし、曲がりなりにも俺はノトス家の人間なので、王族と結婚すると、色々と問題が起きてしまいます。
そこで、恥ずかしながら、俺はノトスの名を捨てました。
婿入りという感じです。
そう、つまり俺はもう、ヘルス・ノトス・グレイラットではないのです。
ヘルス・アネモイ・アスラになりました。
ノトス家当主の座は、ルークに譲りました。
ディエゴ兄さんの方が適任だと思ったのですが、『俺はそんな器ではない』と一蹴され、辞退されてしまいました。
しかし、ルークも当主としての風格が出ています。
以前よりも真面目になり、日々俺やアリエルの為に色々と手配してくれています。
女癖の悪さは、相変わらずですが……
そうそう、女癖と言えば、パウロについても話しておきましょう。
パウロは『もう1人の俺』との戦いの後、その腕を買われ、アリエルの側近護衛として雇われました。
護衛の中には、かつてパウロの仲間であったギレーヌ・デドルディア、それに水神、北神三剣士もいます。
水神と北神達に関しては、一度敵に回っていたので、一応警戒はしていますが、特にこれといった問題はでてきていません。
そして、この間に起きた一番伝えたい事はこれでしょう。
「あ、また動いた……!」
「ふふ、ちょっと動いただけで、はしゃぎすぎだよ」
サテラの妊娠です。
アモール病が治り、健康体に戻ったサテラは、ついに子供を授かる事ができました。
初めての妊娠、彼女も不安で仕方がないでしょうが、今のところ、母子共に元気です。
アリエルは先に妻になったサテラに気を遣っているらしく、子供を授かるならまずはサテラから、という考えを持っているようです。
俺もサテラも、そんな事気にしていないのですが、本人にその気がないのなら、しばらくはアリエルとの間に子供を作る事はないでしょう。
念願の子供、父さんもこんな気持ちだったのでしょうか?
待ちきれません。
最後に、仕事について話をしましょう。
俺はオルステッドの配下に就きました。
オルステッドコーポレーション、職場は賑やかです。
使っていた小屋は最近改築され、以前よりも居心地がいいです。
何より給与、待遇が素晴らしいです。
オルステッドが所有する数々の武器、それらを全て無料で使用する事ができます。
一つ一つが国宝級の代物、そんな物を一目見るだけで、ワクワクが止まりません。
資金がなくなれば、オルステッドが、溢れんばかりの宝石などを提供してくれます。
流石に怖すぎて、まだ換金などは済んでいませんが、給与に関しては、困る事はないでしょう。
同僚のルーデウスは、いつも笑顔です。
毎日俺に自分の子供の可愛さや、妻達との惚気話をしてきて、笑いが絶えません。
社員は2人だけですが、ホワイトでアットホームな会社です。
みんなのおかげで、今の俺は幸せです。
これからも、色々と問題は出てくると思いますが、みんながいれば、それも楽しいものに変わりそうな予感がしてきます。
父さん、いつかあなたと一緒にこの話をできる事を、楽しみに待っています。
敬具』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……ふう」
持っていたペンを机に置き、書き終えた紙を風で飛ばされないよう引き出しにしまう。
今しまったのは、周辺国から届いた招待状の数々だ。
俺はアスラ王国王女の夫、妻のスケジュールを管理するのも仕事の内だ。
仕事と言っても、俺がアリエルから率先して仕事を貰っているだけだが……
「ヘルス様、後はわたくしたちにお任せください」
部屋の隅から、エルモアとクリーネが現れる。
彼女達も、今や女王の近衛侍女だ。
「ああ、お願いするよ」
彼女達の提案を受け入れ、俺は部屋を後にした。
外はまだ明るい、ちょうど正午といったところだろうか。
この後の予定は特にない、フリーの時間だ。
サテラの様子を見にいってもいいが、彼女も今は自分の事で手一杯だ。
しばらくはそっとしておいてやろう。
アリエルは……論外だな、今は他貴族との会談中だ。
乗り込める訳ない。
暇を持て余す俺に、突如として名案が出てきた。
「久しぶりに、アリかもしれないな」
即断即決、俺は庭に向けて歩き始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
庭に到着した俺は、早速手頃な岩を探し始める。
俺よりも数段大きくて、硬い岩。
小一時間、庭の周りを散策していると、丁度良さそうな岩を発見した。
服を脱ぎ、俺は上裸になる。
久々の軍艦バック、腕がなるな。
岩を前にして、俺は拳に力を込めた。
もちろん、武装色はなしだ。
「はあッ!」
適度に力を入れ、岩に拳をぶつけた。
バコッ!!
岩が内側から破壊され、破片が周りに飛び散る。
良かった、腕は落ちていないようだ。
じゃあ次は……
後ろを振り返り、庭にある湖の前に立つ。
そして、近くにあった剣ほどの長さを持つ枝を持った。
「ふう……」
再度拳を構える。
しかし今度は、拳に炎を纏わせる。
「火拳!!」
俺は真上に飛び上がり、湖に向かって纏っていた炎を放出した。
炎が湖に広がり、辺り一面が真っ赤に染まる。
だが、これだけでは終わらない。
持っていた枝を振り、湖の向こうにある一本の木に向け、炎の渦を放つ。
「王手飛車!!」
放たれた渦は回転を繰り返しながら、木を包み込み、炭に変えてしまった。
「……よし!」
これも成功、幸先がいいな。
俺が今試したのは、新たに手に入れた能力の、試運転といったところだ。
『もう1人の俺』との戦いの後、俺の体に変化が起きた。
まず、魔力総量が増加した。
ルーデウス程ではないが、魔力切れをする事はまずないし、火力で負ける事もないだろう。
これにより、扱える魔術の量が格段に増え、戦い方の幅が広がった。
そして二つ目、これが一番厄介かもしれない。
変身魔法が、使えなくなった。
理由は分からない、いつから使えなくなったのかすら不明。
いつの間にか麒麟の姿へ変わる事ができなくなっていた。
麒麟へ変わらないのなら他のものに……
そう思い色々と試してみたのだが、やはり変身する事ができなくなっていた。
魔力総量が増えたってのに、これは痛いデメリットだ。
しかし魔力が増えたことのメリットはデカい。
長年できなかった
魔力消費が激しいという理由で使えなかったが、これでやっと使う事ができるのだ。
メロメロの実とか、オペオペの実など、この世界の魔術系統から大きく逸れた能力はまだ使えないが、動物系の能力が再現できたんだ。
練習次第では、必ずそれらも使用する事ができるはず。
そう考えると、動物系の能力が使えない事ぐらい、屁でもない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数ヶ月後、俺は安定期に入ったサテラとアリエルを連れ、ルーデウス邸に訪れた。
「うん、順調にお腹も大きくなってきてるね」
「本当!?良かった……!」
シルフィの言葉で、サテラから緊張の糸が消える。
ここ最近、サテラは赤ん坊が本当に大丈夫なのか、不安そうだったからな。
先輩であるシルフィに安心する言葉をかけてもらって、肩の荷が下りたのだろう。
「そんなに心配されなくても、私も無事出産できましたし、大丈夫だと思いますよ」
後ろでは、ロキシーが彼女によく似た髪色の赤ん坊を抱いていた。
あの子はララ。
ロキシーの娘だ。
ルーデウスが言っていたが、あの子はいずれ、ヒトガミを倒す為の重要な役割を担うらしい。
そんな感じは、一ミリも感じられないのだが……
「そう言えば、ノルンが生徒会長になったんだって?」
「そうだぞ!まさか魔法学校のトップになるなんてな、俺も鼻が高いぜ!」
パウロは座っていたノルンを引き寄せる。
「やめてください父さん……!」
ノルンは恥ずかしそうにパウロを離そうとするが、満更でもなさそうだ。
一時はどうなるかと思っていたが、ノルンも学校生活を楽しめているらしい。
「そんな事よりも、ヘルスさん達はもう学校へ顔を出してくれないんですか?」
「学校、あ……」
そうだ、学校。
色々と問題が起きすぎてほったらかしにしていたが、俺はまだ魔法大学に在籍していたんだった。
「そうですね、やめるにしても挨拶ぐらいはしておいた方がいいのではないでしょうか?」
横にいたアリエルの言葉に、ルーデウスが頷く。
「アリエル様の言う通りです。みんなヘルス……麒麟やサテラの事、心配していましたよ」
しかし、ルーデウスの言葉に、俺は少し疑問が湧いた。
「おいおい、サテラが心配されるのは分かるが、なんで俺まで?」
サテラが病気だった事は、クリフはザノバも知っている。
そこから学校内に広まれば、サテラが心配される理由は納得がいく。
だが俺に問題という問題は……
「サテラが体調崩してから、麒麟の様子がおかしいって」
ああ、心配ってそっちの方か。
何はともあれ、心配してくれてるのであれば、顔ぐらい出さなきゃ示しがつかんだろう。
「分かった、また近いうちに学校へ挨拶回りをするよ」
「本当ですか!?あ、でも麒麟さんの正体って、まだ誰も知らないんですよね……」
「それはお兄ちゃんに任せなさい!」
ルーデウスは自信ありげに胸を叩いた。
「麒麟の正体を俺がいい感じに説明しときます。だからヘルスは安心して学校へ来てください」
「それは助かるが、あんまり変な事言うなよ?」
「俺を信用してください」
なんかちょっと不安が残るが、まあいいだろう。
それにしても、学校か……
クリフやザノバ、それにエリナリーゼ。
あいつらがどんな顔をするのか想像すると、少し楽しみになって来た。
『絶望が、静かに迫り来ているとも知らずに』