貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
学校へ挨拶回りに行く事を決めた。
サテラは妊娠中の為、行くのは俺だけだ。
自分の部屋で制服に着替え、身だしなみを整える。
この制服も、随分と懐かしい。
しかし獣人型で過ごしていたせいで、制服はブカブカだ。
その為、制服はルークの着ていた物を貸してもらった。
「あ、ヘルス、おはようございます」
「おはようルーデウス、それにロキシー」
ルーデウス邸の外で待機していると、同じ制服を着たルーデウスと、普段通りの服装をしたロキシーが出てきた。
「ロキシー、ララは大丈夫なのか?」
「ええ、シルフィやリーリャさんが面倒を見てくれると言ってくれたので、心配いりません」
そういえば、ロキシーは学校の先生だったんだ。
見た目から学校の先生なんていう雰囲気は微塵も感じられないが、それを今口に出してしまったら、ルーデウスに何されるか分かったものではない。
ここは、ノーコメントでやり過ごそう。
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学校に到着したが、やはり見慣れない生徒が多い。
「今日は入学式らしいですからね、在校生達はもう中で授業を受けています」
「そうか、もうそんな時期なのか……」
確かに、俺が最後に立ち会った入学式も、これぐらいの時期だった。
「それでは、私はこれで」
「ええ、また後で」
ロキシーはルーデウスと別れのチークキスを済ますと、俺達とは真反対の方向へ向かって行った。
ロキシーが視界から消えると、ルーデウスは怪しい笑みを浮かべる。
「ヘルスさ〜ん」
全く、今回もまたろくでもない事を考えたんだろう。
まあ、そのろくでもない事、俺は好きなんだけどな。
「入学式の説明をノルンがやるらしいんですよ。ちょっと覗きに行きませんか?」
「……なるほど」
偉くなったノルンの姿を拝みたいってわけか。
確かに、俺も今のノルンの状況が気になる。
不思議と、俺の口元もニヤけ始める。
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ルーデウスと共に校庭を覗くと、新入生達が集まっていて、今は校長先生が演説中のようだ。
その横で並ぶ教師達の中にはロキシーもいる。
幸い、こちらにはまだ気づいていないようだ。
俺達は存在を悟られないよう、静かに、そして自然に新入生達の輪に紛れ込む。
「続いて、生徒会長より新入生への言葉」
長ったらしい校長の演説が終わり、とうとうノルンが登場する。
「皆さん、今年度の生徒会長に選ばれた、5年生のノルン・グレイラットです」
ガタイのいい獣族の青年と、背の高い魔族の少女を後ろに従えて。
「あれがノルンちゃんか……」
「魔法大学名物の……」
「ちっちゃいなぁ、たしか成人前なんだろ?」
後ろの方で、やや不穏な声がするが、何も起きていないうちは、目を瞑っておいてやろう。
「まだまだ未熟な身の上ですが、精一杯頑張ろうと思っています」
ノルンが演説を始めても、周囲のざわめきは収まらない。
アリエルの時は、パタリと静かになるのに……
言い方が悪くなるが、これがノルンとアリエルの差なのだろう。
「仕方ありませんね、ここは俺の魔術で黙らせて……」
「待て待て……!そんな事したら入学式どころじゃなくなるぞ……!」
暴走しかけるルーデウスを宥める。
もう余計な面倒ごとはうんざりなんだよ。
しかしまあ、ノルンが舐められているのは、見ているこっちとしても面白くない。
ここは何か策を考えて……
「静まれェェェェェイ!」
その瞬間、ノルンの横に立っていた獣族の青年が怒号を発した。
先程まで騒いでいた新入生達は、蛇に睨まれた蛙のように動かなくなる。
「ありがとうギルバート」
「いえ」
ノルンは青年に軽く礼を言うと、再び演説を始めた。
今度は、誰も話す事はなかった。
「――――以上です。皆さん、良き学園生活を」
ノルンが演説を終え、階段を降りる。
……あ、目が合った。
ガタッ!
ノルンの目が、俺とルーデウスに釘付けになると、ノルンは階段から足を踏み外し、地面へ倒れた。
『クスクス……』
俺の周りから笑い声が聞こえてくる。
あーあ、せっかくカッコよく終われそうだったのに……
いや、俺達のせいか……
「ふん、あれが噂のノルン・グレイラットか、演説でこれじゃあC……いや、期待値込みでBって所だな」
その光景を微笑ましく見ていると、俺とルーデウスの横から、そんな声が聞こえてきた。
誰だ?
そう思い横を見ると、金髪の少年が立っていた。
背丈的に、15歳ほどだろうか?
長耳族で、超がつくイケメンだ。
もしかしたら、ルークよりも顔はいいかもしれない。
そんな顔しているならまあ、自惚れるのにも納得がいく。
「この学校のトップっていうから期待してたが……あの程度か」
おいおい、あんまそういうのを皆の前で言うもんじゃ……
気づけば、少年の周りから、睨むような視線が次々と向けられる。
これは、完全に目をつけられたな。
自業自得だが……
「これなら、あいつの兄という、ルーデウスの方もたかが知れてるな」
少年の言葉に、俺はルーデウスの方を見る。
ルーデウスは苦笑いを浮かべていた。
「そうか?俺はルーデウスもノルンも、十分立派に見えるが……」
「ああ、すまない。この町の人間は、みんなルーデウスを恐れているんだったね。だが安心して欲しい。僕の名前はレイフォルト。長耳族の里の族長マグナフォルテの息子さ。これからは、もうルーデウスに力で押さえつけられることは無いよ」
ほうほう、長耳族の里か……
つまり、リニアと同じ大森林の出なのか。
「僕は君たちとも、もちろんあのノルンとも違う。特別生さ。ここ数年でただ一人のね。長耳族の族長としての教育を受けているし、当然だね」
特別生って事は、俺と同じって事か?
俺とルーデウスの後から、特別生は1人も入ってきていないから、相当凄いな。
「そいつは聞き捨てならないな」
自慢げに話すレイフォルトの後ろから、声がかかる。
振り向けば、小柄な少年が……
「おぉ、ミィじゃないか……!」
「久しぶりだな、レイ」
お知り合いの方でしたか……
ダメだ、訳が分からなくなってくる。
人の名前覚えるの、苦手なんだよ。
「じゃあ、今年の特別生は、僕ら二人だと言うのかい?」
「いいや、それも違う」
ミィと名乗る小さな……おっさん?
「ほら、自己紹介しな」
彼は自身の後ろに隠れていた、さらに小さな少年を呼んだ。
人族だ。
幼い人族、7歳ぐらいだろうか?
顔立ちはアスラ系で………
あれ、この子の顔……どっかで……
後ろから出てきた少年は、震える声で名を名乗った。
「ぼ、ぼくは、グランネルです。グランネル・ザフィン・アスラ。
アスラ王国第一王子グラーヴェル・ザフィン・アスラの次男です」
「あ……」
その名前を聞き、俺の記憶から少年の姿が呼び起こされる。
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「お久しぶりですね。グラーヴェル兄様」
屈託のない笑みを浮かべながら、アリエルはグラーヴェルの部屋に入る。
「アリエル、久しぶり……だな……」
グラーヴェルは冷や汗を垂らしながら、自身の後ろにいる少年を後ろに隠した。
「お初にお目にかかります、グランネルくん」
「こ、こんにちは……」
満面の笑みで挨拶をするアリエルに、グランネルは青ざめた顔をしながら返事をする。
「おい……」
俺はアリエルの横腹を突いた。
「なんですか?」
「怖がってるだろ?もうちょっと優しくしてやれよ」
「十分節度のある対応だとは思いますが……怖がっているならば申し訳ありません」
アリエルはグラーヴェルと、その息子に一礼をする。
「いやいや、滅相もございません。アリエル様は十分お優しいです」
グランネルはあたふたしながら、頭を下げたアリエルの機嫌を取ろうと必死だ。
ほらね?
と言わんばかりの笑みで俺を見つめ返すアリエル。
まったく……
「アリエル、本当に大丈夫なんだろうな……」
グラーヴェルは、グランネルの肩を強く掴む。
「ええ、安心してください。既に魔法大学に話は通してあります」
俺とアリエルが、敵であるグラーヴェルを訪れた理由。
それは彼の息子、グランネルをラノア魔法大学へ行かせる為だ。
無論、ただ学び行かせる訳じゃない。
ラノア魔法大学や、その周辺の国々は、既にアリエルの息がかかっている。
もしグラーヴェルが、王になる為にクーデターをしでかそうとすれば、その息子であるグランネルの命はない。
つまり人質を取りに来たのだ。
グラーヴェルが悪いのであって、その息子のグランネルには何の罪もない。
しかし、放っておけば、いずれアリエルの障壁となり得るかもしれない。
その為にも、彼を魔法大学へ送るしかないのだ。
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全て思い出した。
グランネル、ここに来ることは知っていたが、まさか特別生だったとは……
グランネルは俺とルーデウス、そしてレイフォルトに向けお辞儀をした。
「三人とも、これからよろしくお願いしまーーー」
その時、頭を上げたグランネルと目が合う。
あ、マズ……
後悔しても、もう遅い。
グランネルの足が震え始める。
「あ、あなたは……」
「お、おい、大丈夫か?」
レイフォルトがグランネルに近づき、彼の体を支えるが、それでもグランネルの震えは止まらない。
「ヘ……ヘルス様が、何でここに……」
「あーえっと、俺も特別生……だからな」
俺の言葉に、グランネルは膝から崩れ落ちた。
「ま、まさか、俺をここで暗殺する為に……」
「違う違う!そういう訳じゃない!」
俺は必死に弁解するが、彼の顔からは血の気が引き、気絶寸前だ。
「嫌だ!死にたくない!!お父様助けて!!」
彼のズボンは、いつの間にか濡れている。
やばい、俺に向けられる視線が……
みんなの顔から汗が滲んでいる。
「やばくない……?」
「先生は何で動かないの?」
「今あの子、ヘルスって言ったよね」
やってくれたな、グランネル……
とりあえずここは、どこか逃げなくては……
「おいあれ……」
「こっちくるぞ……」
その時、騒がしかった人混みを掻き分け、1人の少女がこちらへ近づいてきた。
ノルンだ!
助かった……!
さあ、早くノルンの生徒会長パワーで、この場を収めて、できればこのグランネルの誤解を解いてくれ。
「ヘルスさんに兄さん!何してるんですか!」
「……え?」
ノルンは両手に腰を当て、俺達を見上げる。
その後ろには、獣族の青年と、魔族の少女が立っている。
「どうして入学式に混じってるんですか?」
ノルンが俺に詰め寄る。
「そ、それはだな……」
「新入生をいじめてたんですよね!」
"いじめ"
その単語を聞いた途端、俺を見ていた生徒達の目が変わる。
「誤解だ誤解!俺はただ同じ特別生として挨拶を……」
「ヘルスはノルンを悪く言っていた生徒を注意しようとしただけなんだ。そうですよね?ヘルス」
ルーデウス、この野郎……
「私はそういうのに慣れてますから!それに見てください、こんなに怯えているじゃないですか!」
ノルンに支えられているグランネルは、やや顔を赤らめている。
「悪い事したらどうするか、知ってますよね!」
「悪いも何も俺達は……」
「んん……!」
ノルンの圧倒的な睨みに、俺達はとうとう折れてしまった。
『ごめんなさい』
俺とルーデウスは特別生三人に向かい頭を下げた。
悪い事は何もしてないけどね?
「見たか?ルーデウスに頭を下げさせたぞ」
「それに、ルーデウスの隣にいるのはアリエル様の夫、ヘルス様じゃないか?」
勘弁してくれ……
何で学校まで来て頭を下げなくちゃいけないんだよ。
「グランネル……様でしたっけ?」
「あ、はい……」
ノルンに名前を呼ばれ、彼の顔はさらに赤くなる。
「何か不安な事があれば、生徒会の方に来てください。
生い立ちがどうであれ、魔法大学に来た以上、私たち生徒会は生徒の味方です。
どんな境遇の方でも安心して勉学に励めるよう、生徒会はサポートします」
「お、おお……!」
ロボットのようにスラスラと話すノルンに、俺は思わず感嘆の声を上げた。
「……はい」
「では、良い学校生活を」
丁寧なお辞儀をし、ノルンは去っていった。
「見ましたか?ノルン、凄い成長してますよね?」
「ああ、立ち振る舞いだけだったら、もうお前を超えてるぞ……」
俺が想像した以上に、ノルンは日々成長していた。
しばらくここにいてもいいが、周囲からの視線に、そろそろ限界を迎えそうだ。
「ルーデウス、そろそろ行こうか」
「はい、ちょっと居心地悪いですよね」
ルーデウスも同じだったようだ。
その後、俺達は逃げるように校庭を去り、ザノバやクリフのいる場所へ向かって行った。