俺の周りが変な奴ばっかなんだけど?   作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍

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初投稿です。
本日中に第四話まで投稿予定、よろしくお願いします。


第一話「退屈な日々の終わり」

 

 

 

 俺が魔の森を開く開拓村で用心棒として雇われてから、もう二年ほど経つ。

 朝起きたら村を見て回って、たまに村へ近づく魔物を倒す。昼頃には村の男連中を監視しながら畑仕事。夜は村の管理人に一日の報告をあげて味気ない食事を取る。

 これを毎日ただ繰り返すだけの二年。

 正直、雇われたのが俺でなくても変わり映えしないんだろうな、と思う。そんなもんだよな、世の中って。

 誰でもいいから、俺でもいい。

 俺は俺で他に行きたいところがあるわけでもないので、なんとなく仕事の契約を更新してしまう。昨日も管理人の男に声をかけられて、書類を挟んで二人きり。「次の一年もよろしくお願いしますね」なんて微笑まれて、流されるままに書類にサインをしていた。これでまた後一年、この空虚な一日を繰り返す日々が延長されたわけだ。

 

 なんでみんなやりたい事とかあるんだろう。

 俺はない。ずっと。

 だから、村人の男たちが丹精込めて畑を耕しているのもよくわからないし、女たちが男の帰りを待って料理を作って待っていたり、繕い物をしているのもよくわからない。

 同じ村で生きているはずなのに、なんだか違う生き物みたいだ。

 そんなことを考えながら、それでも仕事はちゃんとやる。というか、ちゃんとやる以外のやり方がよくわかんねぇんだよな。いい感じに手を抜ける奴ってそれはそれで技能じゃねぇ? 器用だよな、真似できるもんならやってみたいぜ。

 

 出来る限りテキパキと今日の朝防衛柵に引っかかっていた間抜けな魔物を解体していく。突撃猪(グレートボア)はここらではよく見る魔物だ。まともに衝突すれば武装した歴戦の戦士でも軽々と吹き飛ばすという厄介な魔物だが、四肢を焼いて食べると美味い。魔素という人間に有害な物質を内臓に溜め込んでいるため、一部取り扱いには注意が必要だが、この開拓村ではたまのごちそう的な立ち位置である。俺も、この村に来て初めて食べたが割と好きだ。少しクセはあるものの焼いただけでそれなりに美味しく食べられる、というのは魔物の中ではかなり珍しい部類に入るし。

 

 魔の森はその名前で呼ばれるだけあって、他の地域に比べて魔物の発生数が多い、らしい。

 らしい、というのは俺自身の知識ではないからだ。まあ情報元は管理人の男だし、奴は見た目も話し方もやたら胡散臭いが情報だけは正確だったから、多分そうなんだろう。おそらく。

 

 解体した突撃猪(グレートボア)の肉を担いで、女たちのところに届けに向かう。いらない内臓は村の外の森に出て地面の中に埋めておく、と良いらしい。魔素が地中で溶け出して森に循環して云々、と村に来た当初説明を受けはしたが、ともかく単に廃棄するより良い処理方法があるのならばそうすべきだとは思ったので、その通りにした。

 

 女たちは俺を見るとやや緊張したように身を強張らせる。血の匂いの強い男が恐ろしいのか、二年経っても異物だと思われているのか。まあどうだっていいが、目障りな反応ではあった。慣れていても。

 

 と、村の防御柵の方で、ドスンだかドカンだか、大きな音がした。また突撃猪(グレートボア)でもかかったのだろうか。これ幸いと、女たちから逃げるようにその場を離れた。

 

⭐︎

 

 防御柵は村を囲うように存在している。突撃猪(グレートボア)よりも硬くて強い憤怒熊(ラースベア)の特異個体の骨を他の素材と組み合わせて作られたそれが、総額いくらになるのかと思うと国がこの開拓村にかける期待が伺えるようだ。

 突撃猪(グレートボア)はどうやら赤い色に反応して突撃行為を行う習性があるため、憤怒熊(ラースベア)の骨で出来た柵部分のみ赤く染めることで突撃箇所をある程度誘導している。

 そんなわけで、音が聞こえた方向から一番近い骨柵へと足を進める。

 

 現場に向かいながらまず思ったのは、なんかいつもと違うなってことだ。

 突撃猪(いつも)なら、衝突音は連続で複数回聞こえる。奴らは一度ぶつかっても諦めず、何度でもぶつかりにいくからだ。それでも骨柵の方が強いため、牙やら頭蓋にダメージが蓄積される。目を回したところを倒すのが突撃猪(グレートボア)の一番楽な倒し方だと言える。

 だがそういえば、と言ってはなんだが、衝突音は先の一度きり。……何故だか謎に、嫌な予感がした。

 骨柵に近づいて、様子を確認する。接近するまでもなく状態は見えていたが、骨柵には大きな穴が開けられていた。

 具体的に言うと人間が一人くらい通れそうな感じの大穴である。バキバキに骨が割られていて、修理額のことを思うと目が回る気がした。多分気のせいだけど。

 憤怒熊(ラースベア)の骨を砕くような魔物は、魔の森の表層にはいないはずだ。深層の主が出てくるとは思えないが、あるいは今まで存在しなかったのが他所から流れてきたか。ともかく、穴を開けた犯人を捜索すべきか、それとも穴を塞ぐ方が先か。どちらを選んでも選ばなかった方の選択肢について管理人の男からネチネチ言われそうな気がする。こっちは気のせいではない。

 

 ──あとで思うが、この時の俺は頭の悪いことに油断していた。……そもそも別に頭良くねぇけどな。

 

 不意に背後で物音がした。

 村の男連中の誰かが手伝いにでもきたのかと思って、何の気なしに振り返る。

 

「第一村人はっけ〜ん!」

 

 そこに居たのは見知らぬ少年(ガキ)だった。

 

「だっ、」

 

 誰だ、と言おうとして、言葉が詰まった。少年(ガキ)から放たれる、その圧倒的な存在感と威圧感ゆえに。

 少年(ガキ)は真っ白い頭をしていた。背丈は俺より頭ひとつ低いくらいで、身体に厚みもなくひょろりとしている。腰に短剣を差していたが、腕は細く戦士には見えない。かといって魔術を使うために必要だと言う杖も持っているようには見えず、魔法使いでもないだろう。何が楽しいのかにこにこと笑う顔は何処か幼い。

 なのに、気が付いたらじり、と後退りをしていた。怯えが俺の身体を動かしていた。

 

 何か一つ対応を間違えたら命を奪われるのではないか、と思ってしまうほどのプレッシャーに襲われて、額を汗が伝う。自分では勝てっこないと、戦わなくても分かる。心臓がバクバクと脈打って、知らず息が上がった。

 この少年(ガキ)は魔族か何かなんだろうか。魔王は討伐されたと聞いた気がするが、残党はまだいるんだろう。俺は弱いから、ここで死ぬんだろうか。何もしたいこともなく、何も為せぬままに。

 

「誰だよテメェ」

 

 それも良いかと思って、少年(ガキ)に向かって吐き捨てた。

 少年(ガキ)は目をパチリと瞬かせて「僕?」と小さく呟いた。反射で殺しにくるくらいはしてきそうだと思っただけに少し気が抜ける。こてりと首を傾ける仕草は少女じみていて、場の緊張感に対してやたら浮いていた。

 それから、少年(ガキ)はパァアっと表情を明るくする。不意打ちで朝日が目に飛び込んできた時のように、こんな時なのに思わず目を細めてしまった。その嬉しそうな顔のまま、少年(ガキ)は俺の方に跳ねるように近づいてくる。やっぱり俺死ぬのかな?

 

「僕の名前を聞いたんだよね? お兄さん珍しいねぇ! 僕ね、僕、アストだよ。くれ、じゃなくてアスト・クレイ!」

 

 意外なことに、少年(ガキ)はただ名乗っただけだった。アストとは古い言葉で星を意味する……と、どこかで昔、聞いた気がする。威圧感を除いてよく見ればキラキラしい容貌の少年(ガキ)に似合いの、良い名前だった。

 

 どうやら問答無用で殺(こんにちは死ね!)されることはなさそうだ。変わり者の魔族とかなんだろうか。……いや魔族も全員が全員索敵必殺(サーチアンドデストロイ)してくるわけじゃないのかも。知らんけど。

 

「お兄さんの名前は?!」

 

 キラキラとした瞳が俺を見た。少年(ガキ)、アストの頬は色づいていて、何が楽しいのか興奮しているように見えた。

 

 こういう時、どうするのが正しいんだろうか。だって相手は見知らぬ人間で、……いや魔族かもしれないし、でも見るからに子供で、目の前の骨柵はまだ大穴が開いていて。なんて答えるのが普通なんだ? わからないけど、わからないから、俺は思うままに口を開いていた。

 

「俺は……ロウ。この村の用心棒だ」

 

 よろしく、とは言わなかったのに、アストはにんまりと微笑んで「よろしくね!」と俺の手を取った。

 

⭐︎

 

「ロウさんご飯作るの上手だねぇ! 僕突撃猪(グレートボア)がこんなに美味しいの知らなかったや!」

「うるせぇありがとなよく噛んで食え!」

 

 ぱくぱくぱくぱく。もぐもぐもぐもぐ。

 皿に盛った突撃猪(グレートボア)の肉が次々に小さな口の中に吸い込まれるように消えていく。気持ちのいい食べっぷりである。

 

 あの邂逅のあと、アストの腹が切なげに鳴いた。なんでも昨日の朝から何も食べていないのだという。しょうがないから俺の取り分になる突撃猪(グレートボア)の肉を分けてやって、足りなさそうだったので村の男どもからも一部徴収した。家庭持ちの村人たちが各家で食事をとる中、村の広場で火を焚いて調理を行う。広場にはいくつかベンチや椅子……としても使える丸太や切り株があるので、食事をとるのにも使える。

 

「あの、ロウさん。この人……人? 誰っスか?」

「人だよ多分。なんか知らねーガキ」

「知らねーガキって貴方……」

 

 村人に訊ねられたが知らんもんは知らねーもん。細かいことは食事の後俺が詰めるからいいんだよ。ってか詰めとかないと夜管理人に詰められちゃうからな……俺が。

 

 なお問題の大穴はアストがしれっと魔術で直していた。世の中には俺が知らないだけで杖がなくても魔術が使える魔法使いがいるんだな、と言ったら若干目を逸らされたのはなんだったんだろうか。

 

 突撃猪(グレートボア)の四肢の肉は、香草で巻いて蒸し焼きにする。生で食べて腹を下したことがあるのでじっくりと火を通して、それから表面だけパリッと焼き色をつける。そうするとなんだかただ焼いた時よりも旨味? が逃げ出さないような、そんな気がするので。

 俺の作業が珍しいのか脇でちょこまかと様子を見ていたアストは、肉の第一陣が完成すると我先にと席について美味しそうに食べ出した。おこぼれに預かりにきた独り身の村人にも皿を出してやって、俺はもう一品に取り掛かる。

 

 身を切り出す時に出た蹄付近の肉は、みんなに行き渡るには量が取れず、かと言って廃棄するのはあり得ない。なのでとりあえず解体者の特権として俺が貰っている。どうせ家庭のない独り身の男どもが集りにきて、消費はそっちでやることになるだろうし。

 細切れの屑肉を水を沸かした大きな鍋に放り込む。先ほど蒸し焼きした時に出た脂と少量の塩で味をつけて、色味が寂しいので野菜の切れ端を入れて更に煮込む。この切れ端は畑で育てている野菜の葉や茎をもらってきたものだ。

 

「……んむ、」

 

 一口すくって味をみる。なんだか輪郭がぼやけているような、パッとしない味だ。少し考えて、近くにいた男に鍋の様子を見ているよう申し付けた。「余計なことしたら今後飯抜きな」と伝えると男は必死に頭を振っていたので、多分大丈夫だと思う。

 村の端にある家に戻って、棚から小瓶を取って広場へ戻る。

 鍋を見させていた男が「自分、やりましたよ!」という顔でこちらを見ていたが無視して、味の仕上げに移った。家から持ってきた小瓶を鍋の中身に適量振りかける。

 

「ロウさん、それ……胡椒?」

 

 いつの間にか作業をまた見にきていたアストが聞いてきた。よく知ってるな、と思って俺は頷いた。

 この胡椒、という黒くて小さな粒は、香辛料の一つなのだと管理人に渡されたものだ。俺は夜に管理人へ報告をあげているのだが、ある日俺が晩飯を持参した時があった。多分夜遅くまで魔物が出たり、村人間で喧嘩があったり、なんらかの仕事があったのだと思う。それで、管理人に断って報告しながら晩飯を食って……それをあんまりにも羨ましそうに見ている管理人に晩飯を分けてやったことがあった。そのお礼なのだという。村にたまに来る行商人でも取り扱っているのを見ないので、それなりに珍しいものなんじゃないだろうか。

 それを大胆に使って、またペロリと味を確認する。ピリ、と後味がしまって、美味しくなった、と思う。

 

 完成したスープを深皿に注いでアストに渡してやると、アストはなんだかぼんやりとした顔をしていた。

 

「……んだよ」

 

 早よ食え、と顎をしゃくる。

 アストはたった一つしかない好物を食べるしかなくなって、しょうがなく食べる子供のように、ゆっくり、ゆっくりと時間をかけてスープを皿に残った一滴まで飲み干した。

 

「……ロウさん、お代わりある?」

「あるけど?」

 

 大鍋で作ったはずのスープはもう底をついていて、本当はお代わりなんてなかったけど、それまでなんだかんだ別の生き物みたいに見えていたアストが、あまりにも普通の人間の子供みたいな顔でそう言ったので、俺は自分用だった深皿を渡してやることにした。

 

 妙な拾い物をしてしまった気がする。

 この時は、ただそう思っただけだった。





第二話は12:30頃更新予定です
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