俺の周りが変な奴ばっかなんだけど? 作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍
初投稿です。
本日中に第四話まで投稿予定、よろしくお願いします。
俺が魔の森を開く開拓村で用心棒として雇われてから、もう二年ほど経つ。
朝起きたら村を見て回って、たまに村へ近づく魔物を倒す。昼頃には村の男連中を監視しながら畑仕事。夜は村の管理人に一日の報告をあげて味気ない食事を取る。
これを毎日ただ繰り返すだけの二年。
正直、雇われたのが俺でなくても変わり映えしないんだろうな、と思う。そんなもんだよな、世の中って。
誰でもいいから、俺でもいい。
俺は俺で他に行きたいところがあるわけでもないので、なんとなく仕事の契約を更新してしまう。昨日も管理人の男に声をかけられて、書類を挟んで二人きり。「次の一年もよろしくお願いしますね」なんて微笑まれて、流されるままに書類にサインをしていた。これでまた後一年、この空虚な一日を繰り返す日々が延長されたわけだ。
なんでみんなやりたい事とかあるんだろう。
俺はない。ずっと。
だから、村人の男たちが丹精込めて畑を耕しているのもよくわからないし、女たちが男の帰りを待って料理を作って待っていたり、繕い物をしているのもよくわからない。
同じ村で生きているはずなのに、なんだか違う生き物みたいだ。
そんなことを考えながら、それでも仕事はちゃんとやる。というか、ちゃんとやる以外のやり方がよくわかんねぇんだよな。いい感じに手を抜ける奴ってそれはそれで技能じゃねぇ? 器用だよな、真似できるもんならやってみたいぜ。
出来る限りテキパキと今日の朝防衛柵に引っかかっていた間抜けな魔物を解体していく。
魔の森はその名前で呼ばれるだけあって、他の地域に比べて魔物の発生数が多い、らしい。
らしい、というのは俺自身の知識ではないからだ。まあ情報元は管理人の男だし、奴は見た目も話し方もやたら胡散臭いが情報だけは正確だったから、多分そうなんだろう。おそらく。
解体した
女たちは俺を見るとやや緊張したように身を強張らせる。血の匂いの強い男が恐ろしいのか、二年経っても異物だと思われているのか。まあどうだっていいが、目障りな反応ではあった。慣れていても。
と、村の防御柵の方で、ドスンだかドカンだか、大きな音がした。また
⭐︎
防御柵は村を囲うように存在している。
そんなわけで、音が聞こえた方向から一番近い骨柵へと足を進める。
現場に向かいながらまず思ったのは、なんかいつもと違うなってことだ。
だがそういえば、と言ってはなんだが、衝突音は先の一度きり。……何故だか謎に、嫌な予感がした。
骨柵に近づいて、様子を確認する。接近するまでもなく状態は見えていたが、骨柵には大きな穴が開けられていた。
具体的に言うと人間が一人くらい通れそうな感じの大穴である。バキバキに骨が割られていて、修理額のことを思うと目が回る気がした。多分気のせいだけど。
──あとで思うが、この時の俺は頭の悪いことに油断していた。……そもそも別に頭良くねぇけどな。
不意に背後で物音がした。
村の男連中の誰かが手伝いにでもきたのかと思って、何の気なしに振り返る。
「第一村人はっけ〜ん!」
そこに居たのは見知らぬ
「だっ、」
誰だ、と言おうとして、言葉が詰まった。
なのに、気が付いたらじり、と後退りをしていた。怯えが俺の身体を動かしていた。
何か一つ対応を間違えたら命を奪われるのではないか、と思ってしまうほどのプレッシャーに襲われて、額を汗が伝う。自分では勝てっこないと、戦わなくても分かる。心臓がバクバクと脈打って、知らず息が上がった。
この
「誰だよテメェ」
それも良いかと思って、
それから、
「僕の名前を聞いたんだよね? お兄さん珍しいねぇ! 僕ね、僕、アストだよ。くれ、じゃなくてアスト・クレイ!」
意外なことに、
どうやら
「お兄さんの名前は?!」
キラキラとした瞳が俺を見た。
こういう時、どうするのが正しいんだろうか。だって相手は見知らぬ人間で、……いや魔族かもしれないし、でも見るからに子供で、目の前の骨柵はまだ大穴が開いていて。なんて答えるのが普通なんだ? わからないけど、わからないから、俺は思うままに口を開いていた。
「俺は……ロウ。この村の用心棒だ」
よろしく、とは言わなかったのに、アストはにんまりと微笑んで「よろしくね!」と俺の手を取った。
⭐︎
「ロウさんご飯作るの上手だねぇ! 僕
「うるせぇありがとなよく噛んで食え!」
ぱくぱくぱくぱく。もぐもぐもぐもぐ。
皿に盛った
あの邂逅のあと、アストの腹が切なげに鳴いた。なんでも昨日の朝から何も食べていないのだという。しょうがないから俺の取り分になる
「あの、ロウさん。この人……人? 誰っスか?」
「人だよ多分。なんか知らねーガキ」
「知らねーガキって貴方……」
村人に訊ねられたが知らんもんは知らねーもん。細かいことは食事の後俺が詰めるからいいんだよ。ってか詰めとかないと夜管理人に詰められちゃうからな……俺が。
なお問題の大穴はアストがしれっと魔術で直していた。世の中には俺が知らないだけで杖がなくても魔術が使える魔法使いがいるんだな、と言ったら若干目を逸らされたのはなんだったんだろうか。
俺の作業が珍しいのか脇でちょこまかと様子を見ていたアストは、肉の第一陣が完成すると我先にと席について美味しそうに食べ出した。おこぼれに預かりにきた独り身の村人にも皿を出してやって、俺はもう一品に取り掛かる。
身を切り出す時に出た蹄付近の肉は、みんなに行き渡るには量が取れず、かと言って廃棄するのはあり得ない。なのでとりあえず解体者の特権として俺が貰っている。どうせ家庭のない独り身の男どもが集りにきて、消費はそっちでやることになるだろうし。
細切れの屑肉を水を沸かした大きな鍋に放り込む。先ほど蒸し焼きした時に出た脂と少量の塩で味をつけて、色味が寂しいので野菜の切れ端を入れて更に煮込む。この切れ端は畑で育てている野菜の葉や茎をもらってきたものだ。
「……んむ、」
一口すくって味をみる。なんだか輪郭がぼやけているような、パッとしない味だ。少し考えて、近くにいた男に鍋の様子を見ているよう申し付けた。「余計なことしたら今後飯抜きな」と伝えると男は必死に頭を振っていたので、多分大丈夫だと思う。
村の端にある家に戻って、棚から小瓶を取って広場へ戻る。
鍋を見させていた男が「自分、やりましたよ!」という顔でこちらを見ていたが無視して、味の仕上げに移った。家から持ってきた小瓶を鍋の中身に適量振りかける。
「ロウさん、それ……胡椒?」
いつの間にか作業をまた見にきていたアストが聞いてきた。よく知ってるな、と思って俺は頷いた。
この胡椒、という黒くて小さな粒は、香辛料の一つなのだと管理人に渡されたものだ。俺は夜に管理人へ報告をあげているのだが、ある日俺が晩飯を持参した時があった。多分夜遅くまで魔物が出たり、村人間で喧嘩があったり、なんらかの仕事があったのだと思う。それで、管理人に断って報告しながら晩飯を食って……それをあんまりにも羨ましそうに見ている管理人に晩飯を分けてやったことがあった。そのお礼なのだという。村にたまに来る行商人でも取り扱っているのを見ないので、それなりに珍しいものなんじゃないだろうか。
それを大胆に使って、またペロリと味を確認する。ピリ、と後味がしまって、美味しくなった、と思う。
完成したスープを深皿に注いでアストに渡してやると、アストはなんだかぼんやりとした顔をしていた。
「……んだよ」
早よ食え、と顎をしゃくる。
アストはたった一つしかない好物を食べるしかなくなって、しょうがなく食べる子供のように、ゆっくり、ゆっくりと時間をかけてスープを皿に残った一滴まで飲み干した。
「……ロウさん、お代わりある?」
「あるけど?」
大鍋で作ったはずのスープはもう底をついていて、本当はお代わりなんてなかったけど、それまでなんだかんだ別の生き物みたいに見えていたアストが、あまりにも普通の人間の子供みたいな顔でそう言ったので、俺は自分用だった深皿を渡してやることにした。
妙な拾い物をしてしまった気がする。
この時は、ただそう思っただけだった。
第二話は12:30頃更新予定です