俺の周りが変な奴ばっかなんだけど?   作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍

11 / 22


隔日更新だと最新が今日になることをさっき思い出したので投稿します


第十一話「言わぬ人、気付かぬ人、されど」

 

 

 雪はその後も降り続き、三日も経つと開拓村はすっかり白く染められていた。

 真白の大地を喜んでアストは元気に駆け回り、ゼンヅは雪合戦で懲りてしまったのか暖炉の前で丸くなっている。

 俺としてもここまで冬になってしまうと仕事もほとんどないので、やることといえば井戸の氷を割ったり、屋根から積もった雪を降ろしたりと、終わりのない作業に従事している。まあそれも、一つ一つはそう時間のかかる作業ではないので、結局家にいる時間が伸びているのが現状だ。

 

「んッぐ、」

 

 と、暖炉にあたりながら読書をしていたゼンヅが小さくくしゃみをした。無理に噛み殺そうとしたような、ともすれば呻き声のようにも聞こえた。

 

「おいおい、暖炉の前でもまだ寒いのかよ?」

 

 ゼンヅは鋭利な刃物のような、氷柱のような印象の男だ。鋭く、美しく、恐ろしい。冬がよく似合う風体をしているのに、本人は寒さに弱いらしい。最近はいつ見ても防寒着を着込んでいるし、暖炉からは離れないし。

 そのことが少しおかしくて、喉の奥で笑いながら、俺はゼンヅに布の切れ端を渡してやった。くしゃみをするとなぜだか鼻をかみたくなる事もあるだろう。

 大人しく受け取ろうと伸ばされたゼンヅの手が、俺の手にぶつかる。距離感をうまく掴めなかったのかもしれない。こいつにしては珍しい事だ。なんて呑気なことを一瞬考えて、ハッと我に返る。

 触れた手が熱い。

 

「ゼンヅ?」

 

 恨めしげにこちらを見る赤い目が、なにやら潤んでいるような気がする。顔がうっすらと赤く、汗をかいているのに小さく震えて──。

 

「えっ、風邪?!」

 

 ギョッとしてゼンヅの額に手を当てると、普段と違う高温を感じる。きっと辛かったはずだ。一体いつから……?

 ゼェゼェと苦しそうに、つっかえつっかえゼンヅが口を開く。

 

「症状、が……出始めたのは、朝食を食べる……すこし、前、だな」

「もっと早く言え!!!!」

 

 今朝からどんだけ経ってると思ってんだそろそろ昼食の時間だぞコラ。

 てか喋るのも大変なくらい辛いって時に俺の思考と会話してる場合か?

 

「……とりあえず、舌噛むなよ」

 

 一声かけるとゼンヅは怪訝そうな目をこちらに向けてきたが、無視して暖炉前の椅子に腰掛けたままのゼンヅを()()()()()()()()()。そしてそのまま二階にあるゼンヅの部屋に向かう。

 少し行儀は悪いが部屋の扉を足で開け、中に入っていく。ベッド脇にゼンヅを降ろすと、ゼンヅは何やら固まったままこちらを凝視していたが、気にせずベッドを整える。シーツを替えて、ゼンヅを乗せて、上に布団を被せて、さらにその上から毛布を乗せる。これできっと寒くはないだろう。

 寒くはないだろうが、熱いかも。額を流れる汗を見てそう思ったので、一階の台所から濡らした布を持ってきて、額の上に置いてやる。

 幾分かゼンヅの表情が穏やかになったのを見届けて、部屋を出ようとした。その時、

 

「ロウ、」

 

 掠れた小さな声に呼ばれた。

 ベッド脇まで真っ直ぐ戻って、要件を聞いてやる。

 

「なんだよ?」

「昼……たし、も……食べる……ぞ、」

 

 食欲おばけの方?

 そういえば朝だっていつもと同じくらい食べてたような気がする。体調が良くない時って食欲が減ったりするって聞いた気がするんだけど、ゼンヅの食欲に翳りはないようだ。

 

「了解了解、お前でも食べれそうなモン作っとくよ、大人しく寝ておけよな」

「な……でも、食べれる……」

 

 なんでもは無理だろ。と、言いたいところだが出したら本当に食べそうだ。だからと言って、わざわざ病人相手に肉の塊とか出してやる気はねーけど。ゼンヅの部屋を後にしながら考える。

 はてさて、何を作ったものか。

 

⭐︎

 

「ああ、ゼンヅさんの熱あがっちゃったんだね」

 

 外から帰ってきたアストの第一声がこれだ。

 

「アスト、テメェ気づいてたのかよ?」

 

 玄関で服に着いた雪を落としてやりながら聞くと、アストは「うーん、」と少し首を傾げた。

 

「ゼンヅさん、いつもより口数が少なかったでしょ。それに動きがゆっくりで、咀嚼も遅かったよね。会話のテンポもいつもと違ったし、あとは呼吸も少し速かったから、体調悪いんだな〜とは思ってたよ」

 

 怖ぁ。

 気づいてたなら言えよ! くらいの気持ちで聞いたら結構淡々と事実が積み上げられてしまった。ええ……これ気づかなかった俺が薄情なのかなあ?

 

「帰ってきたら一階にはロウさんしか居ないみたいだし……ほら、ゼンヅさん一応誰かが帰ってきた時玄関まで覗きにくるでしょ? 今日はいなかったから、だから僕が外に出てる間に体調が悪化して、熱が上がるなりしたんだろうな〜って感じ」

 

 わかったような、わからないような。とりあえずこいつなりの判断基準がちゃんとあった、ということだけはわかった。

 雪で濡れた白い頭を乾いた布で拭ってやって、暖炉の前に座らせる。子供は体温が高いらしいが、雪遊びから帰ったなら芯まで冷えていてもおかしくない。セウの根を擦って湯で溶かしたもの……セウ湯? に蜂蜜をひと匙入れたものをアストに渡してやって、隣の椅子に腰掛けた。

 

「昼ってさ……ゼンヅが食べれなさそうなモンとかあんのかな?」

「ゼンヅさんならなんでも食べるって言いそうだね」

 

 言ってたわ。

 

「言ってたけど! なんか、ほら……あるだろ? 病人は食べない方がいいモンとか」

「脂っこい物とか、消化に悪いものは避けた方がいいらしいね」

 

 じゃあやっぱり肉は論外だな。

 

「でもお肉がなかったらゼンヅさんが暴動を起こすと思うよ」

 

 どうしろってんだよ。

 

「僕はね〜ポトフが食べたい!」

「お前の食べたいものじゃなくて今はゼンヅの……」

 

 いや、いいかも。ポトフ。

 ポトフは簡単に言えば野菜スープだし、ベーコンを入れてやればゼンヅも文句は言えないはずだ。そして何より身体が温まる。

 アストの昼には少し軽すぎる気もするが、そこはパンでも用意すれば良いだろう。

 

「ポトフにすっか」

 

 やった、とアストが椅子からぴょんと立ち上がった。そのまま台所奥にある保管庫の方へ駆けていく後ろ姿を追って、保管庫へと向かう。

 

 冬の食事で困るのは、野菜の保存が難しいところだ。ロキャやポトンなんかの根菜はともかく、葉物野菜は特に。ジャベジの葉は冬に入って早々に使い切ってしまって、あとは保存用に塩漬けにしてあるものしかない。これをポトフに入れるのは少し味が濃いように思うので、今回は使用を見送ることにした。

 

「僕はねぇ、玉ねぎが好きだな〜」

 

 俺が野菜を選んでいる隣でアストが笑う。

 

()()()()……ああ、ニオニンか。お前アレ好きだよな。今度ベーコンと一緒に丸ごと煮でもやるか」

 

 アストは偶に物を変な名前で呼ぶ事がある。ジャベジの葉を()()()()と言っていたり、ルルミを()()()と呼んだり。……まあ名前の違いなど些細な事だ。伝わるならば問題はない。

 「丸ごと煮……!」と目を輝かせているアストを視界の端に収めながら、野菜の選別を進める。ダメになりそうなやつから使っちまわねーと。

 

 めぼしい野菜を選んだら台所で下処理を行う。桶の中で野菜の泥を丁寧に落とし、場合によっては傷んでいる部分を切り落としておく。なおこの間アストはこちらの作業を見ているだけだ。手伝ってくれとは言わねーけど、それなら見守りの方も要らないんですけど?

 

「だって段々と“料理”になっていくのが面白いんだもーん」

 

 アストはそう言うが、多分自分の手を動かした(手伝った)方が面白いぞ。料理って。

 それぞれの野菜を一口大に切り分けたら、水や香草と一緒に深鍋に投入する。煮込み料理を作る時は時間をかけるならともかく、すぐに食べるなら具材の大きさは均等な方が火の通りが管理しやすくて良い。

 そして煮込み料理の良いところは、ある程度()()()()()ところだ。

 火を起こした後その場を少し片付けて、二階へ向かった。

 

 ベッドで眠っているゼンヅは、やはり息苦しそうにしていた。声をかけると意識はあるようだったので、身体を拭いて着替えさせる。額の濡らした布もすっかり温くなってしまっていたので交換し、さて鍋の様子を見にいくか、と席外そうとした時、ゼンヅが俺の服の裾を引いた。

 

「何?」

 

 しゃがみ込んで訊ねる。

 何か必要なものでもあるだろうか。そういえば喉が渇いているかもしれない。セウ湯でも持ってこよう。

 

「ポ、トフ……」

 

 バレてんなあ。

 何? なんなの? どこからバレてんだよコレは……。

 

「に、匂い……と、貴様の……目が。少し、赤く、」

 

 ごほ、ごほ、とゼンヅが咳き込む。丸まった背中を落ち着かせるように手を当てた。

 

「いいって、教えてくれよーとしてんのは助かるけど! 元気になってからな!」

 

 揶揄い半分で“先生”と呼んだ日から、ゼンヅは俺が何かしら疑問を持つとその答えや考え方を俺に共有しようとする。アストなんかはニヤニヤしながら見ていて、なんとなく妙な心地だ。いや、俺は別に、困ってないから良いけど、それにしたってどういう欲求? あと単純に無理を押してまでやる必要はないだろ。

 

 不満そうな顔を隠そうともしないゼンヅに見送られて、鍋の様子を見に台所へと戻る。

 グツグツと沸騰していたので一度鍋を火から降ろす。あんまり煮てると水が無くなっちまうんだよな。テキトーに野菜を取り出して串を刺し、火の通りを確認する。大体大丈夫そうだったので、隣で雛鳥よろしく口を開けて味見待ちのアストの口に放り込んで、鍋を再び火に戻した。

 

「ね、ゼンヅさんにどこでバレてた?」

 

 ほこほこと、ポトンの実を食べながらアストが聞いてくる。

 

「バレて……あー、作ってるのがポトフってことか? 匂いと、あとは俺の目が赤いってよ」

「ニオニン沢山入れたもんねぇ」

 

 熱を通す前のニオニンは、切れば切るほど涙が止まらなくなる厄介なシロモノだ。これで食べて不味かったら土に埋め直してると思う。美味しいからしないけど。

 だから多分、それで目が赤くなったことからニオニンを切ってることが分かって、ニオニンを使う料理の中で匂いからポトフとバレた……って感じか? 正解はあとでゼンヅに聞いておこう。

 

「んふふ、やっぱり面白い人だね、ゼンヅさん。こんな時でも見るのをやめられないんだ」

 

 クスクス笑って、アストが何やら意味深げなことを言う。真っ黒な目が三日月型に歪んで恐ろしい。

 気味の悪さに立った鳥肌を寒さのせいと誤魔化して、ベーコンを切った。ベーコンを入れると、それ自体に付いている塩味や香草の風味などがスープに溶け出して味が格段に良くなる。今までは冬用の保存食と思ってベーコンのことは作製していたが、これからは季節にとらわれず作り置きしておいても良いかもしれない。

 なお、肉を後入れしているのは、長く煮ることによってベーコンの味がスープに()()()()()それ自体の味が薄くなってしまわないようにするためだ。

 後入れしたベーコンに火が通るまでの時間でパンを焼いて置く。これはパン種を成形して茹でておいたものを朝のうちにいくつか余分に準備しているので、それを利用する。表面が焦げ付かないように両面を焼けば完成である。

 

「アストー! 机の準備……」

「いつでも行けるよロウさん!」

 

 振り返りながら声をかけたら既に準備が終わっていた。速っ。

 アストの分のパンを皿に置いてやり、深皿にポトフを注いだ。野菜はなるべく均等になるように、気持ちニオニン多めで。

 

「ドーゾ」

 

 わぁい、とはしゃいで手を合わせるアストを横目に、ゼンヅの分をお盆に準備していく。ポトフとセウ湯と、それから念のためパンも。

 俺が部屋の戸を開く前に、きっとゼンヅは起きているだろう。お盆の上のポトフを見て、なんて言うだろうか。具材がいつもより小さく切られていることに気がつくだろうか。セウ湯がいつもより甘い事には?

 少し先の未来を思って、喉の奥で笑った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。