俺の周りが変な奴ばっかなんだけど?   作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍

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またしても予約投稿をしそびれてました。悲しい。


第十二話「知らない前提」

 

 

「世話になったな」

 

 ゼンヅの熱が無事下がった翌朝の、当人の発言である。

 言葉とは裏腹に威圧感がすごい。腕を組んだ状態で、座っている俺を見下ろしながらの言葉なので、なんだ? 喧嘩売られてんのかな? ま、元気になったならいいか。

 

「それは別に良いけど。お前さあ、体調悪いの自分でわかってたならちゃんと申告しろよな」

 

 というかこいつらの面倒は常に見てねーか? 俺。体調関係ねーなあ。嫌な気づきをしてしまった。

 変わらず俺を見下ろしたまま、ゼンヅは目を瞬かせた。

 

「私の体調が悪くて貴様に何か関係があるのか?」

 

 あるだろ。テメェ昨日どんだけ俺に面倒見られてたか忘れたのか? と、言ってやろうとして言葉が出ないまま口を閉じた。

 面倒を見ることと体調不良に因果関係がないという、ついさっき気が付いた事実のせいだ。

 でもなんか、その言い方は違くないか? 何か関係があるのかって、俺が面倒見ちゃうのとは関係なくても、なんかほら、別のところでさ……。

 もにょもにょと言い淀んでいると、今日とて元気に二階から降りてきたアストがあっさりと言ってのけた。

 

「深く考えないでさ、“心配だから”で良いんじゃないの?」

 

 ゼンヅがほう、と感嘆の声を上げる。何かいい事に気が付いたぞ、みたいな顔やめろ。嫌な予感がする。

 

「では今度からは、気が付いた段階で申告しよう。貴様がそれで心労を重ねずに済むならな」

「おーおー、是非そうしろ」

 

 言葉だけはやはり誠実だが、表情が裏切っている。ニヤニヤニタニタと面白がる様子を隠そうともしない。普段あんまり笑わねー癖にこういう他人の弱みみたいなのを見つけるとスゲー楽しそうなのは本当に何? 性格が悪いのかな? 多分そう。

 あまり長くこの話を引っ張られても面倒なので、話題の転換を試みる事にした。

 

「つーかさあ、魔族でも風邪って引くんだな」

 

 魔素を克服し、理性を得た特別な生き物。魔族の事をそのように認識していたので、昨日は余計に驚いた。風邪を引くなんてまるでただの人間で、熱に浮かされる様子も、また。

 

「引くだろう。魔族といえどただの“生き物”であることに代わりないのだから」

 

 ゼンヅは淡々としている。

 こいつほど()()()()()()という括りが似合わないやつも早々居ない……いや、それはアストもか。

 

「そういうモンか」

「そういうモンだ」

 

 頷きあってから、とりあえず今日の朝食を並べるべく立ち上がった。

 今日の朝食は焼きたてのパンと分厚く切り分けたベーコンである。

 

「昨日のゼンヅさん、結構大変そうだったよね。風邪ってそんなに辛いの?」

 

 お手伝いと称してつまみ食い目当てのアストが配膳をしながらゼンヅに訊ねた。ちなみに机に置きながら既にパンをちぎり始めている。行儀が悪い。

 

「そうだな、頭がはっきりしない上に咳で肺が痛くなり、暑いのに寒いという理不尽に晒されるところがだいぶ」

「わぁお、僕絶対なりたくなーい」

 

 聞いておいてこの言い草である。アストもゼンヅも大概()()なんだが、可愛げがある分アストの方がマシだ。それにしても今のは酷いけど。まあ普段から言葉の鋭利さはどっこいどっこいだから仕方がないな。

 

「そうか、でも風邪ってそんなに辛いんだな」

 

 ふむふむ、と頷きながら残りを配膳し席に着くと、ゼンヅが訝しげな表情を浮かべた。

 

「……その言い方だと、まるで今まで風邪を引いたことがない、と言っているようだが」

「僕も僕も! 僕もないよ〜」

「うるさい貴様には聞いていない」

 

 風邪。果たして引いたことはあったのだろうか。俺の記憶にないだけか、風邪と認識しないままに治っていたか、まあどちらにせよ俺がわかんねーんだから答えはこうだろう。

 

「ないぜ」

「体力バカどもめ……」

 

 チッと吐き捨てられた。自分が貧弱なだけかもしれないのに酷い言いようである。

 

⭐︎

 

 食事を終え雑事を片付けていると、暖炉の前でぐにゃぐにゃと暖まっていたアストが「はい!」と急に手を挙げた。

 

「なんだよ?」

 

 ゼンヅは暖炉前で読書の姿勢から動かないので代わりに手を止めて訊ねると、満面の笑みが返ってくる。

 

「ウミガメのスープをやろう!」

 

「は?」と口から漏れた声がゼンヅと揃っていた事に少し安堵した。ゼンヅもわかってないってことは俺が無知なだけじゃなさそうだな! ……ところで何のなんだって?

 

「ウミガメのスープ、基、水平思考クイズ……問題? かな」

「ほう」

 

 あ、マズい。ゼンヅがなんか察したような顔してやがる。今の情報で何がわかったんだよ?!

 

「んっとねぇ、二人以上必要な遊びなんだけど、」

 

 アストが指を二本立てる。

 ……雪遊びといい、こいつ意外と他人を必要とする遊びが好きだよな。人懐こそうに見えてかなり他人に興味なさそうに感じるのに。正確には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という感じだが。

 

「出題者と解答者にわかれて、出題者が出した一見筋の通っていない問題に対して、解答者は“はい”と“いいえ”で答えられる質問を繰り返しながらその答えを探っていくっていう謎解き遊び……みたいな感じ?」

 

 みたいな、と言われても俺には類似するものがわからねーけども。洗い物を再開しつつアストの説明に耳を傾けてはいたが、まあ案の定俺にはよくわからない。

 ただこれだけはわかるぞ。この遊び、絶対アストとゼンヅがめちゃくちゃ得意なやつだ。

 

「僕が例題を出すから、とりあえず一回やってみようよ! ねっ、」

 

 椅子にもたれたままアストが足をバタつかせる。仕方がないので、洗い物を区切りの良いところで切り上げ、話を聞きやすいよう近くの椅子に腰掛けた。

 俺とゼンヅの二人から見つめられて、アストがニコリと笑う。

 

「えっとね〜、【謎】とある少年はある日空を見上げて目を丸くしました。何故でしょう?」

 

 ……? 少年が空を見て驚いて……それが何故か……ってそんなんわかるわけない。情報が足りなさすぎる。と、そこまで考えてこの遊びの趣旨がわかった気がした。なるほど、これが“一見筋の通らない問題”か。

 

「【問】その少年は人間か?」

 

 読んでいた本を閉じ、傍に置いたゼンヅが口を開く。

 

「いいねいいね、そんな感じ! 【答】人間だよ〜!」

「【問】それは、天気に関係があるか?」

「【答】ないよ!」

「【問】少年が目を丸くしたのは、空にある何かを見たことがなかったからか?」

「そうだね! 【答】そうとも言えるかも」

「では、【問】少年は“太陽”を知っている?」

「【答】知ってるよ〜!」

「【問】それは誰が見ても目を丸くする?」

「【答】う〜ん、僕が知ってる範囲ではその少年以外はそんな反応にはならないんじゃないかな?」

 

 二人の間で【問】と【答】のやり取りがリズム良く行われる。問題を解くのに足りていない情報を解答側の質問で埋めていって答えを探す遊び、ってことなんだな。

 ふむふむ、と頷いて、今までのやり取りを思い出してみた。

 まず、とある少年は人間。空を見て驚いたって言っても天気が急に変わったから、とかじゃなくて、空にある何かを初めて見たから。空にあるもの……いくつかあるが、そのうちの太陽ではない。それを見た事によって驚くのは少年だけで、他のやつは平然としてるはず。

 ……。……ええ? これまだ全然情報足りないだろ。でも何を聞いたら答えに辿り着くのかもわかんねーな。

 先程から質問を繰り返していたゼンヅも、「そうか」と言ったきり顎に手を当てて黙り込んでいる。やっぱわかんねーよな? な?

 しかし、やがてある程度考えをまとめたのか、ゼンヅが再び「…………ふむ、」と口を開いた。

 

「【問】少年が目を丸くしたのは数か?」

「あはっ、【答】そうだよ!」

 

 意味のわからない【問】と、満面の笑みと共に打ち返される【答】。

 ゼンヅは一つ息を吐いて椅子の背に脱力し、それから姿勢を正して膝の上で手を組んだ。

 

「では、【解答】を」

 

 ゼンヅの硬質な声で、問題の答えが小さな口から淡々と紡がれる。

 

「──少年は空を見上げたら月が二つあった事に目を丸くした。何故なら彼は別の世界の住人で、そこの月は一つだったから」

 

 ぽかん、と思わず口が開く。

 月の数? 二つで驚く? 月って普通二つあるよな? 空を見るとさ、赤いのと青いのとで二つ……それに別の世界? どういう…………?

 混乱する俺をよそに、笑顔のままのアストが椅子からぴょんと飛び上がってくるりと回る。

 

「ゼンヅさん大正解〜!!」

 

 大正解らしい。

 何やらゼンヅは頷いて訳知り顔だし、アストは嬉しそうだ。俺にはよくわからなかったけど、頭のいい奴には楽しい遊びなんだろう。

 アストは俺の方を向いて微笑んだ。

 

「僕のお話どうだった?!」

 

 ああ、と納得した。()()。情報が足りない、というよりは、つまりそういう設定のお話が前提にあって、それを元に問題を出してくるのを、前提を質問から導き出して答えを探る遊びか。なんだか、やっと遊び方をちゃんと理解できた気がする。そういう事ならできそうかも?

 

「まあ、何回かやればできるよーになるかもな」

「じゃあやろうよ何回か! 遊んでるうちに覚えるのも遊び方の一つだよっ」

 

 アストに促されたので、今度は聞いているだけでなくちゃんと参加しなくてはならなくなった。

 今度の出題者はゼンヅがやるらしい。

 

「では、【謎】とある成人済みの男が自分より倍以上年上の男の世話を焼いていた。それは何故か?」

 

 成人済みの男同士で何やってんだそいつらは。成人ってアレだろ、酒が大っぴらに飲めるようになる年だから、十五のことだろ? つまり最低十五歳の男が三十歳以上の男の面倒を見る状況……?

 

「どういう状況なんだ……」

「ロウさんロウさん、それを探って考える遊びだよっ」

 

 わ、わかってるっつーの。何の気無しにぽろっと溢れた言葉にツッコミを入れられると少し気恥ずかしい。

 

「えーと、じゃあ……【問】、その二人は師弟関係か?」

 

 気を取り直すように【問】を投げかけてみる。

 師弟であれば、住み込みで仕事を覚えさせてもらう代わりに家事をある程度引き受ける、とかはないこともない話だ。大抵は師匠の嫁がやっちまうんだけど。

 

「【答】いいや。二人に師弟関係はない」

 

 違うかあ。他にどんな前提があれば面倒を見るだのなんだのの話になるか、だよな。……なんかゼンヅがスゲーニヤニヤしてるのが気になるんだけど。

 

「はぁい、【問】二人は家族?」

「家族とは血の繋がりのことだな? 【答】そういった関係ではない」

 

 家族だったらなんでこの謎が成立するんだよ。アストはアストで「血の繋がりだけが家族ではないんじゃない?」とかなんとかいっている。

 つーか、この謎だと年齢設定もかなり曖昧だよな。成人済みの情報だけでは十五歳以上であることしか明かされていない。

 

「あー、【問】成人済みのとある男……の、年齢は二十歳以上か?」

「そうだな……【答】二十歳前後くらいだと思われる」

 

 げ、と舌を出す。てことは俺より年上の可能性もあんのかよ。本当に師弟関係ねーの? 工房の親方と弟子とかならまだわかるんだけど。

 しかしそれよりも、ゼンヅがやたらと真っ直ぐに俺の目を見て話したことが妙に気にかかる。視界の端でアストが何かに気がついたような顔をしたのが見えた。

 

「ゼンヅさん……【問】その世話を焼かれている男は怪我をしちゃったのかな?」

「【答】怪我()していない」

 

 あー確かに、自分で自分の面倒が見れねー状態にあるって考え方もできるのか。でも怪我はしてない。“は”ってことは、他の……でも似たような状態?

 頭を悩ませる俺をよそにアストは小さく吹き出して足をバタつかせた。楽しそーなやつだよ本当。

 

「【問】揶揄ってるんだね?」

「【答】そうだ」

 

 そうだ?! アストの【問】の方もよく意味がわからねーけど、【答】もなんなんだよ。そうだ???? それで誰が誰を揶揄って……………………あ?

 「まさかな」という思いと、「やりそ〜」という思いが混ざり合う。半々……いや三対七かな……すごくやりそう。

 うげっ、と浮かべた表情を隠すこともなくゼンヅに向かって【問】を投げた。

 

「【問】お前が俺を揶揄ってる?」

「【答】そうだ」

 

 こいつ……。

 

「【解答】成人済みの男()が自分より倍以上年上……かは知らねーけどテメェの世話を焼いていたのは熱を出したテメェを心配したから………………って言わせてーんだな???」

 

 赤い目がニンマリと歪む。

 

「正解だ」

 

 アストはもう腹を抱えて笑っているし、ゼンヅは満足気だ。朝から嫌な予感がしてたからどっかでおちょくられんだろーなとは思ってたが、つい遊びと思って油断をしていた。

 悔しい。めちゃくちゃ悔しいから今後一週間くらいベーコン薄く切ってやろ。

 

「待て貴様それは、」

「じゃあ次ロウさんの出題ね!」

 

 何か言いかけたゼンヅをアストが遮るように話し出した。そのせいでゼンヅが何を言おうとしたのかはわからない。……ああ全くわからないし明日からベーコンは薄くなる。

 

 まあだいぶ、ムカつきはするが……こういう冬の過ごし方も悪くない。暖炉に火が入り、曇った窓の向こうをただ眺めるだけでない賑やかな冬も。

 それはそれとして! 断固として! ベーコンは薄くします!

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