俺の周りが変な奴ばっかなんだけど? 作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍
ぜェんぶ全部、壊しちゃえよ!
それが一番面白いんだからさァ!
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その男がやって来たのは、芽吹きの季節の一歩前、降り積もった雪が溶けつつある日のことだった。
俺は普段のように、暖炉前でだらしなくダラけながら手遊びするアストや読書に勤しむゼンヅの傍ら、家の雑事をこなしていた。
突然、家のガチャン、バタン、と大きな音が玄関の方から聞こえた。
こんな時期に物盗りだろうか。夜の報告で先日ナンセルから聞いたところによると大きな盗賊団が壊滅したそうで、平和になって何よりと思ったところでこれだ。……しかし普通物盗りなら夜に侵入しないか? 余程切羽詰まっているのか、自分の力量に自信があるのか。
と考えているうちにも足音は真っ直ぐにこちらへ向かって来て、やがて侵入者が顔を出した。
男は目を引く外見をしていた。
華やかな赤い髪に、柔らかい土色の目。大きな口は緩やかに弧を描いており、穏やかで気が良さそうに見える。あとめちゃくちゃデカい。
俺は自分でもそれなりに上背のある方だと思ってるんだが、その俺と比べてもゆうに拳一つ分はデカい。日常生活に支障がありそうな大きさで、現に今も部屋に入ってくる時は通りにくそうにやや頭を下げながら入って来ていた。
「いや誰だテメェ?!」
なんだって俺はこんなに緊張感が無くなってんだよ。最初から不法侵入だってわかってたのに!!
男は俺の言葉を無視して……というか俺の存在ごと丸っと無視して、暖炉前の二人を見てニンマリと笑った。
ぞくり、と肌が粟立つ。この、感覚は。
「やーやー。お前ら、ゼンヅくんとアストくんだろ? こんなところで会えるなんて俺嬉しいよ。俺はカイン、よろしくな!」
朗らかな声だ。大きな口から鋭い牙のような歯を覗かせて、全然よろしくしてないギラリとした目が笑う。
こんなところってなんだよ他人の家に対して、とか、そもそも不法侵入だろとか、言ってやりたいことはあるのに、言葉が口から出てこない。
「わぁ、よろしくだって。ゼンヅさんの知り合い?」
「私に不法侵入者の知り合いはいない。貴様の知り合いでは?」
暖炉の前からのんびりとしたやりとりが聞こえる。…………そういや、こいつらも充分
「ちぇ、まぁそりゃ二人は俺のこと知らないよな。二人とも俺の国では有名人だからさァ」
俺も俺の国では結構有名人なんだけど、と聞いてもないことを宣いながら、カインと名乗った男は机に寄りかかるように腰掛けた。
「ゼンヅくんはアレだろ? グレト山の蛇神様! 遭難者を助けて名乗ったりするから名前が売れるんだぜ」
「助けてない。寝床付近でうるさかったから摘み出した」
グレト山というと、グラム王国の北側に位置する一番大きな山である。俺でも知っているくらい有名で、何がそんなに有名かと言うと、そこに登ったが最後降りてこないやつばかりなのだ。ディーン王国ではよく大人が言うことを聞かない子供に「グレト山に置いてくるぞ」と言って言うことを聞かせている光景を目にする。
ところでゼンヅは、嘘はつかない男だ。事実を婉曲して伝えて来たり、本当のことを言わなかったりはするが、嘘はつかない。つまり今ゼンヅが「そんなことはしていない」と言わなかった以上、おそらく心当たりがあるのだろう。グレト山の蛇神様とやらに。蛇神様って何?
「そんでもってアストくん!」
カインと名乗った男はビシッとアストを指差した。人を指差すんじゃねえ。
「お前は本ッッッ当によくやった! アストくんがうちの上をめちゃくちゃにしてくれたおかげで俺はスゲーやりやすかったんだよね。助かっちゃったぜ! ありがとう!」
何やったの????
いや待て、前にゼンヅから聞いた気がする。アストの手によってグラム王国の上層部がめちゃくちゃになったって。あの時も思ったんだが、
「え〜? 魔王討伐がさっさと終わって暇だったから、なんかテキトーに暇つぶししてただけだよ? でも嬉しいからお礼は受け取っとこ」
どういたしましてぇ、と椅子の上でぐだつきながらアストが答える。
「魔王討伐が終わって暇ってお前……」
「あはははは! それで村一つ潰したのか? いい暇つぶしだなァ」
聞こえた言葉に思わず目を剥く。アストを凝視していると、何を考えているかわからない顔でこちらにひらりと手を振った。
「人聞き悪いなぁ。単に、ふらっと寄った村で変なお祭りやってたから参加しただけだもん」
「結果が村の壊滅なあたりイカしてるよな!」
何あの変な会話。
助けを、というか共感を求めるようにゼンヅの方に視線を動かすと、ゼンヅは暖炉前から隣に音もなく移動して来て一つ頷いた。
「奴らが話しているのはグラム王国の首都から南西にあるとある邪教徒の村についてだな。確かに二年……いや一年半ほど前か、その頃に人間の作った地図を作り替える必要が出てな」
いや欲しかったのは説明じゃなくて共感の方なんだけど……まあ話は気になるからいいか。
顎に手を当ててゼンヅが言葉を続ける。
「何かというと、
で、それをやったのがアストだって?
できるかと言われたらそりゃもう
「その村とやらは消滅の約一年前まではどこにでもある……いやむしろグラム王国上層部に一枚噛んでいる文官の出身ですらある、やや裕福な村だったそうだ。それが奇妙なことに、……あー、消滅の頃に行われていた儀式について聞きたいか?」
ゼンヅがニタリと嫌な笑みを浮かべる。
「別に聞きたくはねーけど、話の流れ的にその儀式ってアストが参加したとかいう“変な祭り”のことだな? 一応聞いとく」
なんでそんなに詳しく知ってんだよ、とかは今更聞かない。そういうことがあったという事実さえあれば、経緯を知る方法なんて山程あるんだろう。少なくともこいつらのような生き物にとっては。
俺の了承を聞いて、ゼンヅは満足げに鼻を鳴らした。
「村人から一人“神”の役を決めて、そいつを他の村人たちで
想像しようとして、上手くできなかったのでとりあえず感じたままに吐く真似をした。
「うえ、怖い話してる?」
「事実に基づいた話をしている」
じゃあ尚更こえーよ!
「大丈夫だよロウさん! 僕は食べてないから」
「食べる方じゃなく“参加した”ならテメェが食われる側ってことじゃねーか!!!!」
何が大丈夫なんだよ?!?! いやまあ、今生きてるわけだから、結果としては大丈夫なんだろうけど。
なんだか疲れてしまって、眉間を抑える。とりあえず会話はまだ続けるようだし、それなら飲み物が必要だろう、と湯を沸かすことにした。
「面白そうな村だったから……俺が遊びに行く前に無くなっちゃったのは残念だったけど、芋蔓的に上が不倫騒動やら横領やらでゴタゴタしてんの含めて面白かったから許してやるよ」
「え〜? そんなに面白くはなかったよ? 村も国も……なんかぁ、暇だったから色々突いてみたんだけどそれくらいしか出てこなくてつまんなかったんだよね」
だからバイバイしちゃった、とアストが朗らかに笑う。
相変わらず楽しげではあるが、勇者が国から出奔するのってそんなさらっとした理由でいいのか? 作ったセウ湯をアストに渡しながら考えずにはいられない。
「それで、」
セウ湯を啜りながら、ゼンヅがカインと名乗った男に声をかけた。
「それで貴様は一体何をしに来たんだ。ここには貴様が喜びそうなものなど何もないが?」
その言い方が、なんとなく引っかかって首を捻る。なんか知り合いじゃないって言ってた割に、よく知ったような言い方だ。いやゼンヅが
「あは、ロウさん。ロウさんも知ってるはずだよ」
いつの間にか暖炉前を離れて俺の背後に移動していたアストがこっそりと囁いた。謎に全員机の方に集まっちゃったな……。
「あ? 俺が知ってる……何を?」
「あの男の人のこと。ロウさんが言ってたんじゃない。最近大きな盗賊団が壊滅したって。あの人がそこの頭領だと思うよ」
……。え? …………は?!?!
アレが?! という俺の無言の問いに答えてアストはこくりと頷いた。
「
淡々と、ゼンヅが男に問う。問われた男は口が裂けたようにニンマリと悪い顔で笑った。
「ゼンヅくん……なんで
返された言葉に一つ瞬いて、ゼンヅは納得したように「では貴様ももうやる気がないのか」などと口にした。
何を納得してんだよ何を! 「まーね、」と喉の奥で笑う男の手にセウ湯の入ったマグを握らせると、男は自分から椅子を引いて腰掛けた。まだ少し湯気の残るセウ湯を一口啜ってほっと息をつき、それから首を傾げる。
「……うん?? なんで俺は今座って湯を飲んでるんだ????」
知らねーけど。
「この湯なんか入ってるな。匂い的にセウの根か? えっ、待ってディーンの蜂蜜入ってない? ほんのり甘くてうまっ」
と、思ったらなんか一人でごちゃごちゃ言いながらごくごくとセウ湯を飲み出した。変なやつだなあ。
やがて飲みきったのか、ぐりんと勢いよく男の顔がこちらを向く。土色の目が、この時初めて俺を見た。
「なんで俺に飲ませた?」
感情の乗らない平坦な声だった。
なんでと訊ねられて、改めて考える。なんでだろう。
「話したら喉が渇くと思ったから……?」
一応ちゃんと答えを返してやったのに、男は眉を寄せてアストとゼンヅに目をやった。六つの目玉はそれぞれ見合って、それからにこりと微笑んだり肩をすくめたりした。会話しろや。
「あのさァ、」
黙り込んでいた男が俺を見上げた。いくら身長が高くても、座った状態では流石に俺の方が目線が高い。同時に長い脚を机の下で持て余しているのまで見えて少し笑えた。
「俺、今日からここに住むから!」
にかっとそこらにいるただの男みたいな気さくさで、そいつは笑った。
しかし聞き捨てならない発言である。
「は?」
「ってかさ〜お前めちゃくちゃ面白い奴じゃん! 誰? 名前は? 俺はカインね、よろしく!」
発言の意図を確認する間もなくカインがすごい勢いで詰めてくる。さっきまで俺の存在ごと認識から消してたやつの言葉とは思えない。
なんて自分勝手で、強烈で…………そして物凄く既視感を覚える態度だろう。思わず視線がアストやゼンヅの方を向く。
「……ロウ。ここの家主だが……テメェがどこに住むって?」
「ロウくんか! よろしくな、今日からここの二階に住むからな!」
こいつ完全に決定事項として言ってやがる。有無の言わせなさまで似てんなあ。まあいいか。
⭐︎
嵐のようなやり取りから始まり、すっかり日も落ちて暗くなった夜のこと。アストやゼンヅが自分の部屋に寝に戻った後も家の雑事を取り行っていた俺のところへ、部屋の整理にひと段落ついたのかカインがやってきた。
「ここは夜が早いんだな」
夜らしい、どこか静かで穏やかな声だった。
「まあ、灯りがねーからな。俺も暖炉が落ちる前に片付けて寝るし」
大きな町なら夜も外は街灯があったり、裕福な家ならいくつか灯りを灯しておくこともできるのだろうが、国からいくらか金が出ているとはいえ、開拓村の夜などこんなものだ。暗くなったら寝る。実に健全だろう。
「わはは、みんな可愛くって眠たくなっちゃうな」
「おーおー、そのまま寝ちまえ」
そう言いながら、暖炉の残火で温めたセウ湯をカインに渡してやった。
「あのさ、ロウくん……会ったばっかの俺が言うことじゃないけど、身の振り方は考えた方がいいぜ」
本当に会ったばっかのやつに言われることじゃねーな……と思いながら、雑事を進める手は止めずに「というと?」と先を促す。
「俺なんかはただの悪い奴だけど、あの二人は俺とは違う。あの二人は正真正銘バケモンだぜ」
アストとゼンヅのこと。
まあ、そうなんだろうな、と思った。これまでも感じていたことだ。とことん変で気ままで意味不明で、強大で尊大で恐ろしく、底がしれない。俺にわかるのは、あいつらにとって俺を殺すことなど造作もないという事実だけ。だがそれでいい。それ以上を知る必要もない。
それに、と俺は口を開いた。
「俺にとっちゃ、テメェも充分バケモンだよ」
告げられた言葉に、カインは少し照れたように頬を掻いた。……照れる要素は、なかったと思うんだが。
「俺、多分長くここにいるからな。俺がお前を壊したくなるまでよろしく、ロウくん」
本日何度目かの“よろしく”だった。家に居付かれるにあたって、改めてそんな言葉を聞いたことはない。なんか知らねー間に二人は居着いてやがったし。
「そういう言葉が出る分、テメェが一番常識あんのかもな……」
って、この程度でそんなこと言ってたらいよいよ持って俺がチョロいことの証明でしかねーのかも。
カインは途端に吹き出して、ヒィヒィ笑った。
「ふ、くくッ、じ、自分のチョロさを理解してて偉いぞ!」
だからなんで俺の思考と会話するんだよ?!
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ま、壊すまでもなく面白いなら……それはそれで長く楽しめていいんじゃん?