俺の周りが変な奴ばっかなんだけど?   作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍

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第十四話「数を数えて」

 

 

「そういや、七日後に“種子祭り”あるから」

 

 食事時に思い出してそう告げると、六つの目玉がきょとんと俺を見た。

 

「え、何、種子祭り知らねーの?」

「種子……ふむ、バクムの種のことか」

「ああ、つまり新年祭だな!」

「もう春なんだね〜」

 

 あれ、と目を瞬かせているとバラバラの反応が返ってくる。

 

「新年祭……」

「そーそー。冬を超えて新しい春をみんなで迎えましょうってグラムの祭り。俺は街育ちだからアレだけど……村の方ではバクムの種を植えるのってこういう祭りの後って聞いたことあるぞ」

 

 椅子にもたれたままカインが言った。

 へえ、グラムの方ではそういう名前の祭りなんだ。ってかもしかしたらディーンでも大きな街とかではそうなのかもな。俺は開拓村に来てからしかこういう祭り参加したことねーからよくわからねーけど。

 

「特にその、祭りでなんか役割とかがあるわけじゃねーけどさ。ヌヌの実を年の数だけ食うだろ? いくつ必要か聞いとこうと思ってよ」

 

 六つの目玉が以下略。

 

「ええ? ヌヌの実も伝わんねーの?」

 

 これ俺に村の外の常識がないのとこいつらに常識がないのとどっちが原因だ?

 頭を傾げているとアストがにこやかに「はい、ゼンヅさんどうぞ」とゼンヅを促した。

 

「ヌヌの実とは、寒冷地帯に生息するグヌ科の植物で、地中に根を張り実をつける。生命力が強く痩せた土地でもよく育つことから北方では主食としても用いられることがあり、味は濃厚だが生だと青臭さが強い」

「ゼンヅさんすごいねぇ、AIアシスタントかウィキペディアみたい」

 

 えあ? とか、うぃなんちゃらは知らんがゼンヅが博識なのはわかる。こいつ最近ナンセルに借りた本読み切って専門書とか要求し始めてるんだよな。学習意欲が強そうで何よりだが、それを伝える俺の身にもなれよって話である。

 

「あ、アレか?」

 

 ぎこぎこと椅子にもたれたまま揺れていたカインが、何かに思い至ったように口を開いた。

 ちなみに椅子は元々この家には三脚しかなかったので、カインが居着くにあたって、俺はもう一脚を作成する羽目になった。そもそもゼンヅが増えた時にも作ったので、まあそれはいい。いいんだが、カインの脚が長さゆえに持て余されているのが不便かと思って椅子の方の足も伸ばしてやったのに、当の本人に「いや、それだと曲げた膝が机にぶつかっちゃうからさ」とヘラっと笑って辞退されたのはイラッとした。じゃあ一生そこで持て余してろ。

 そんなわけで普通の椅子を揺らしながらカインは言う。

 

「新年祭でみんな年取る時にさ、お祝いってことで子供はその時の年の数だけ蝋燭に息を吹きかけて消すっていうのがあるんだけど、それのこっち版ってことかな?」

 

 一歳なら一回、十歳なら十回で〜ってやつ、とカインが言うと、アストも何かに納得したように頷いた。

 

「節分の大豆みたいだね!」

 

 いやそれは知らねーけども。

 

「アストくんの住んでた国でも似たようなことやってんだな」

「うーん、そうだね。まぁアレは別に新年とかではなかったと思うけど……」

 

 むぐむぐとパンを食べながらカインとアストが話す。話すか食べるかどっちかにしろ、というのは食事時に話を持ち出した俺が言えることじゃないからいいとして、パンクズをぼろぼろ落とすのはやめろ。別に後で掃除はするが、見てて勿体無いだろ。ゼンヅを見習えよこの行儀のいい食べ方を! 食欲の方は見習わなくていいけど。おかわりがあんまり多いもんだから、最近はもう諦めてゼンヅの分だけ最初から多く出してしまっているが、それでもお代わりするんだよなこいつ……。

 思わずじとっとした目で見てしまったのがバレたのかゼンヅの胡乱げな視線を振り払うように首を振って、話を本題に戻す。

 

「お前らも一応村にいるんだから参加はするだろ? 祭りの方は別にたいしたことしてねーから無視してもいいが、せっかくならヌヌの方は食えよな」

 

 なんかどっかから司祭だか巫女だかを呼んできて舞を奉納してもらうとかなんとか、そんな感じのことをしていた気がする。面をつけて舞う老婆は確かに厳かで神聖な雰囲気があったが、村の連中が有り難がるほどの“何か”は俺にもわからなかったし。

 

「で、お前らはヌヌの実をいくつ食うんだ?」

 

 要するに聞きたいのはこれだけだ。

 当日を迎えるまでには確認をしておいて、準備しなくてはならない。ヌヌなら育てている量に対して消費量がそう多くもないので、想定している数で問題なければ足りなくなることはないはずだ、多分。……なお余ったヌヌは毎年乾燥させて他の野菜の肥料になっている。

 

「そうだな、俺は……えっと、二十五かな? 多分」

 

 少し考えるように首を捻りながらカインが言う。

 ああ、やっぱりそのくらいの年なんだ。大体見た目通りの年齢申告に安心していると、「そもそも俺十二で盗賊になってから新年祭まともにやってねぇから合ってるかはわかんないんだけどな!」と全然安心できない補足がついてきた。

 聞かなかったことにしてゼンヅの方を見る。

 

「ゼンヅは前に年が俺の倍以上とか言ってたよな。だから三十八……いや、区切りよく五十でいいか?」

「長老かよ」

「ゼンヅさんお腹パンパンになっちゃうねぇ」

「ふん、私がその程度なものか。どうせ区切りよくというなら百用意しろ……ではなくて、」

 

 五十でも多いか? と思いながら確認したのに百て。しかも言い方的にもっと長く生きてる(食べられる)けど手加減してやるよ的な意味にもとれるんですけど? バケモノか? 魔族(バケモノ)だったわ。

 

「貴様、ということは今十九か?」

「あー……多分」

 

 多分、というのは、今まで俺が年齢についてあまりちゃんと考えたことがなかったからだ。大体年齢なんて生きてることには特に関係ない……こともないから開拓村で雇われるにあたって考える羽目になったんだけど! 成人してないと流石にちょっと、とかナンセルが言うから二人でめちゃくちゃ頭を悩ませて()()()()の年齢を割り出したのだ。その結果の、多分十九、である。

 

「わっかいなァ! ロウくん俺お兄さんだぜ。お兄さんにお茶のお代わりを頼むよ」

「年長者にも頼む」

「うるせーな」

 

 騒ぐ二人のマグにお代わりを注いでやって、それからアストのマグにも注いでおいた。要らなければ残すだろう。

 

「お前は?」

「僕? 僕はねぇ、ここに来たのが()()()()()()だったから……ん〜十四歳かな?」

 

 卒業式、とやらが一体何から誰が何をするものなのかは知らないが、しかし。

 

「十四かお前……本当に子供なんだな……」

「ロウくんその判断はアストくんに適応して大丈夫なやつか?」

「よく考えろ戯け、ソレに年齢など関係あるものか」

「ちょっとぉ、外野が煩いんですけど〜」

 

 ぶうと頬を膨らませてアストが剥くれるフリをする。

 思えばアストって機嫌がコロコロ変わる……と見せかけてかなり安定してるんだよな。常に楽しそうというか。まあ拗ねたりはするんだが、こう、癇癪を起こしたりとか、そういう子供らしさはない。存外大人っぽい子供なのかもな。

 

「あ、そういえばみんなって誕生日はいつなの?」

 

 やっぱりすぐに表情を戻したアストが何故かわくわくとした顔をして言った。誕生日、ね。

 

「アストくんお前、何言ってるんだ?」

「え?」

 

 「僕は十月……って言ってもわかんないかな? 秋生まれなんだよね〜」などと楽しげに続けていたアストの言葉を、カインが遮る。

 どうやら()()()()()()()()()()()()()()という常識は、グラムでもディーンでも変わらないらしい。そんなものを一々記録する余裕があるのは貴族くらいなものだ、という事情の方もおそらく。人なんて生まれた時が一歳で、あとは新年のたびに一つずつ歳を重ねるだけだ。

 アストはカインの顔を見て、続いてゼンヅ、そして最後に俺の顔を長めに見つめた後、ぽんと手を打った。

 

「あ、あ〜〜〜〜、数え年かぁ」

 

 アストの言った“数え年”というものは知らないけど、まあそう言うならそうなんだろう。アストは俺の知らないものに名前をつけるのが上手い。

 それにアストの発言に対してゼンヅやカインが異論を唱えないと言うことは、おそらく本当にそういう名前がついているか、あるいは概念の捉え方として正しいということだ。

 

「そっかぁ、種子祭りとか新年祭は元旦代わりなんだ……明確な年月日の概念が緩いからこそ季節の節目で設けてるのかな? へぇ〜」

 

 何となく見守る俺たちを他所に、アストはなんだか俺にはよくわからないことをブツブツと呟いて、勝手に納得している。いつもはくるりと丸い目が何かヤバいものをキメたみたいにギラついていたのが見えて、少しだけ身体をアストから離した。

 

「数え年だと、満年齢に足していく形になるはずで、僕はまだ今年の誕生日は来てないから満年齢に二つ足して……」

 

 ぱちぱちと目を瞬かせた後、たった今俺たちの存在に気がついた、というような顔でアストは仕切り直すようににこっと笑った。……ずっと居たよ?

 

「僕こっちだと十六歳みたい」

「大人じゃん」

「大人だ」

「大人だな」

 

 成人済み(大人)だったわ。

 じゃあ大人っぽい子供というよりは子供っぽい大人ってことになるか。

 選挙権もないのに大人はちょっと、と笑いながらお茶を飲むアストを見る。センキョケン、とやらが何かは知らないが、自分の機嫌を取るのって大人でも難しいことだ。だからまあ、アストはやっぱり変なんだろう。大人だけど子供っぽいのに、そこらの大人よりも余程成熟している。

 

⭐︎

 

 ところで、ヌヌの実を食べられるようにするためには、下処理がそれなりに必要である。

 地中で実る植物なだけあってヌヌの実は可食部分が分厚い()()の中にある。更にさやを開いた中には実がいくつか並んで入っているのだが……これがまたそれぞれの実もひとつひとつがぶよぶよとした皮、あるいは膜に包まれている。ヌヌの実を生で食べた時に青臭さが強いのはこの膜を綺麗に取り切るのが難しいからだ。何せみずみずしくぶよぶよとした膜なのである。

 だからヌヌの実を手っ取り早く美味しく食べるために必要なのは()()、これに尽きる。乾燥さえさせてしまえば膜は力を込めるとパキンと割れる薄皮でしかない。どちらにせよ膜自体を取り除かねばならないのには変わりないのだが、労力が段違いである。

 

「と、いうわけでここに乾燥させたヌヌがある」

 

 そう言いながらざるに積んだヌヌを見せると、「わ〜!」と歓声を上げるアスト以外の二人、ゼンヅとカインはこれから自分たちが何を言われるのか予め承知しているように既に嫌そうな顔をしていた。

 

「わかってると思うがヌヌの皮を剥く。せっかくだからお前らも一緒にやれ」

 

 別に自分の分だけならもはや膜があってもそこまで気にしないが、みんなで食べるならそういうわけにもいかない。あとゼンヅのせいで思ったより量がすごいことになってしまったので、「どうせならみんなでやった方が楽しいよね!」とはアストの談である。

 

「俺、ヌヌの皮剥き初めてだな」

 

 パキン、パキン、と淡々と音が響く中カインが言った。

 

「初めてなんだけど…………既に飽きてきたな……」

 

 わかる。

 単調な作業って黙々とできる分には良いんだが、一定の量を超えるとちょっと飽きるよな。でもさあ。

 

「カインさんそれまだ五つめじゃない。早すぎだよ〜」

「アストくんには言われたくないぞ! 二つめ以降ロウくんの周りをうろつく時間が増えてるの気づいてるからな!」

 

 早いんだよ飽きるのが。集中力という概念をどこかに落としてきたのか? ゼンヅを見習えよ、黙って作業を続けて……うん?

 ゼンヅの手元に視線を落とすと、ヌヌの皮にナイフの先端を当て、切れ込みを入れている。そこから力を入れるとパキンと割れるはずだ。なのだが、一向にナイフが刺さらない。余程力を抜いているのかと思えば手や腕に血管が浮かぶくらいには力が入っている。……ええ〜?

 

「……非力?」

「魔力さえ使えばそうでないことをここで見せてやろうか?」

 

 結構です、とお断りしてルルミ割り機をゼンヅに渡してやった。この調子だと皮を割る方も時間がかかるだろう。

 

「ゼンヅさん、五十個にしておいてよかったね」

「本当だぞ、一生終わらないところだったな!」

 

 ちなみに各目標数はそれぞれの食べる個数の半分である。まあこの調子でゼンヅ本人に五十個全部やらせてたら一生……は言い過ぎでも当日までには終わらなさそうだし、なんなら半分でも終わらなさそうなので既に俺がだいぶ手を出してる状態だ。

 

「貴様がやった方がはやい……」

「シーッ、明らかな事実だけどそれを言ったら終わりだぞゼンヅくん!」

「というかこれに関してはロウさんが凄いよねぇ……」

 

 

⭐︎

 

 結果、ざるに山盛りのヌヌのうち八割は俺が皮を剥くことになった。カインとアストがそれぞれ一割弱、残りがゼンヅである。

 翌々日あたりから三人は腕の筋肉痛に呻いていたが、まあいい記念になったんじゃないだろうか。恨めしげな視線を見なかったことにして、俺は三人のマグにお茶を注いだ。

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