俺の周りが変な奴ばっかなんだけど? 作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍
「と、いうわけで
「いきなり誰に向かって言ってんだお前は」
何が“と、いうわけで”なんだ?
「それにまだここ全然目の前じゃねーし。向こうの察知圏内ギリギリくらいなんじゃねーか?」
「勘がいいな、その通りだ!」
やや声を潜めてカインが笑う。こいつにもどうやら強大な魔物の前で慎重になる程度の危機感はあるようで安心した。木陰に大男二人がしゃがんで隠れている、というと随分愉快な絵面だが、竜種の強さを思えば当然とも言える。二人で挑もうとしてる時点で全然当然ではないが。
「ロウくんさァ、竜種との戦闘経験は?」
「そういうのって普通行き道で聞くべきだろ」
反射でツッコミつつ、「
「
うんうん、とカインは訳知り顔で頷いた。大抵の竜種は人里から離れたところにいて、ごく稀に天災の如く人の世を脅かす。
「先輩からの助言その一」
カインが一つ、指を立てる。
「つよ〜い相手と戦う時は、相手が舐めてくれてる隙を狙うこと」
瞬間、カインが纏っていた魔力が消える。というか森を歩きながらずっと、少しずつ薄れてきてはいたのだが、それが今完全に消えた。これでは丸腰のただの人間だ。
「助言その二」
カインが二つ、指を立てる。
立てられた指を見て初めて、中指に銀製と思わしき指輪がはまっていることに気がついた。そういえば耳にも装飾をつけているし、カインはかなり洒落ている。……こんな時に考えることではないが。
「勝負は生きてる方が勝ちってこと」
すくっと立ち上がったカインが、そのまま滑るように走り出す。足元の草木を踏んでいるはずなのに、音もない。
大木の近くで伏せていた
「助言その三」
大きな手の形をした魔力が、
「生き物なら心臓か頭を潰せば死ぬ」
その言葉を聞いて、やっと握りつぶされたものが
哀れ森の王者の一角は、自分が何をされたのかついぞ気づくことなく、辺りを見回すような仕草のまま血を撒き散らしてそのまま生き絶えたのだった。
穴を開けたところから吹き出した血飛沫を、咄嗟に魔力壁を纏うことで防御したのだろうカインは、一仕事終えた疲れもなく、いつものようにニンマリと笑う。
「な? 簡単だろ」
どこがだよ。
⭐︎
目の前には竜種。それも死にたてほやほやの。となればすることは一つである。
「解体します」
「ハイ」
助手、というか実行役はカインである。理由は簡単で、俺の持っている剣では
「酷いよロウくん。俺めちゃくちゃかっこよかったでしょ? なんですぐ先輩を上手に使おうとするの?」
「その言い方だと俺褒められてねーか?」
だがまあ、カインのおかげで助かっていることは事実だ。実物を見て思ったが、俺一人では絶対に勝てないどころか、村にまで被害を出していた可能性が高い。ディーン王国はその程度では困らないだろうが、ナンセルは困るだろう。それはなんとなく嫌な感じがする想像で、だから本当にありがたいと思っている。思っているが、それはそれだしこれはこれだ。
「手伝うどころか討伐全部やってもらっちまったのはありがてーと思ってるよ、でもお前、興味ないのか?」
「は? 何がぁ?」
カインが唇を尖らせたまま声を上げたので、俺は
「アストが前言ってた
つまり
「からあげってアレか、大量の油で食材を揚げるやつ。そんでロウくんが
「そうだ」
なんでも肉に下味をつけ、衣をつけ、大量の油で揚げて食べるらしい。言われたその場では断ったが、アストだけでなくゼンヅもカインも興味がありそうな顔をしていたし、出来るもんならやってみたい気持ちはある。
「食べたくねぇ?」
「食べたい〜!」
乗り気になってくれてよかった。
「これ、つーってやるとちょっと面白いな」
「カインは解体したことねーのか?」
開始直後はおっかなびっくりだった手つきが安定してきた頃、カインがヒヒ、と笑った。
「おいおい、俺に人間を
あ、ハイ。
そういやこいつ元盗賊だった。しかもそこの頭領だったわ。一緒に住んでると普通にそこらへん忘れそうになって困るよな。
「その趣味はなくて良かったけど……そういえば、カインも杖がなくても魔術が使えるんだな」
普通、人間は杖がなくては魔術を使えない。それは魔術を行使できるくらいの魔力を人間が動かすためには、人体の内部にある器官の濾過能力では間に合わないからだ、とゼンヅは言っていた。ゼンヅは魔族だからそれが生身でできるらしい。あとアストは例外として考えろ、とも言われた。
ではカインは? 見たところ素手で身軽な軽装で、杖の類を持っているようには見えない。こいつもまた、ゼンヅの言う例外の一人なんだろうか。
「んはは、先輩から忠告してあげるな」
皮を剥がす手を止めずに、ぎらりとした目が俺を映した。
「他人の武器の在処を訊ねるような真似は無礼だぞ」
「ッ、」
思わず、肩が跳ねる。
それは、その通りだった。戦い方を詳らかにするような真似は愚か者のすることで、知りたがるのは死にたい奴のすることで、そんなことは俺だって、ずっと前から知っていたはずのことなのに。
何も言えない俺を満足げに見留めて、カインは三日月型に目を歪めた。
「でも俺はお前のこと気に入ってるから教えてあげちゃう〜!」
「は、あ?」
これこれ、とカインは自分の中指にはめた指輪を見せてきた。先ほど戦いの前に存在に気がついた、繊細で華美な装飾が施された銀製の指輪だ。
「俺の杖代わりなんだよね〜! ロウくん、杖が必ずしも杖の形をしてるわけじゃないってこと、覚えておきな?」
そう言ってカインは微笑んだ。
「んで? これ多分油袋だよな、どうすんの?」
ほい、とカインから手渡されたものを見る。袋状の内蔵を少し揺らすとたぷんと影が揺れ、中身が液体であることがわかった。
中身が溢れないように袋に穴を開けて中に指を突っ込む。カインがギョッとしたのが視界の端に映った。
指に付いた透明な液体の匂いを嗅ぐ。異臭はなく、突っ込んだ指が無事であることから中身が溶解液ではないこともわかった。
ベタつきもなく、さらっとした液体だ。そのまま液体が付着した指をぺろと舐める。
「え、ちょっ」
舌がピリつくような違和感はない。苦みもなく、無味に限りなく近いと思う。
「ああ、多分これが油袋でいいと思う。毒性もない、もしくは低そうだ」
確認を終えて顔を上げると、横で見ていたらしいカインが顔を青くして俺の肩を揺すった。
「確認の仕方が原始的すぎるだろ!! なんだよもう! 危ない子だなぁ!!」
「うわ、おいやめろ油が溢れたらどうすんだよ」
「溢しとけそんなもん!!」
そんな言い方ねーだろ。
「アストくん……はともかくゼンヅくんはお前のその迂闊さと危なっかしさに何も言わないの?!」
なぜか“ともかく”扱いされているアストは置いておいて、ゼンヅが俺に? 問われて、ゼンヅとの今までの会話を思い返す。迂闊さと危なっかしさ……は心当たりがないって言ったら怒られそうだよな。目の前のカインに。そもそもカインはなんでちょっと怒ってるんだ? 質問が迂闊だったことか? 何でも聞く俺に対してゼンヅは。
「なんでも質問するのは俺の美徳だって」
「くっそ〜助長させてる側かよ!」
あの蛇ぜって〜帰ったら文句言ってやる! と謎に憤慨しているカインを他所に、解体を進める。硬い鱗さえなければあとの解体は俺でもできるからだ。持って帰れる分だけ肉を取ったら内臓を土に埋めておけば、あとは森が如何様にもするだろう。
⭐︎
「ちょっとゼンヅく〜ん!?」
帰宅早々、いつも通り玄関まで様子を見にきたゼンヅにカインが絡みに突撃していた。ゼンヅは面倒臭そうな態度を隠そうともせず、しかし正面から対応している。アレはアレで仲の良さの一つなのかも。
「ロウさんおかえりなさぁい」
持ち帰った荷物を台所奥の保管庫の方に運んでいると、珍しく玄関までで迎えにきていたアストがするりと俺の隣に寄ってきた。家に戻る前にナンセルへは軽く報告をしているから、荷物と言っても本当に油と肉くらいなものだが。
「カインさんとは仲良くなれた?」
全部お見通しみたいな顔が、にこりとお手本のように微笑んだ。
ああ、成る程。一つ納得して「多分な、」と相槌を打つ。
カインが出掛け前に言っていた“アストとゼンヅが空気を読んでいる”というのはつまり、俺とカインに
カインは、それを
「嬉しいな、今日は唐揚げなんでしょ〜?」
にこにこと楽しそうにアストが言う。何でもかんでもバレている相手だ。隠し事をする必要がなくて助かる。
「そーだよ」
いえーい、とくるくるアストが回る。嬉しいのはいいから手を振り回すな。ぶつかったらあぶねーから。
「貴様、私に文句を言うばかりで目的は達成したのか?」
「は〜?! 達成してますぅ〜!」
ぐちぐちと言葉を交わしながら、ゼンヅとカインも台所の方に入ってくる。敷居をくぐるなりカインは俺の腕を取り、肩を引き寄せた。
「見ろよ! 俺たちめちゃくちゃ仲良しだかんな〜?! なぁロウくん!」
何に対するどういう宣言?
腕から手を外してカインの肩をポンと軽く叩く。ゼンヅに「ただいま」と言って、それから本日の重大なお知らせを発表してやった。
「今日の晩御飯はからあげ、とやらです! ゼンヅも楽しみにしてたよな? 先輩に感謝するよーに」
「んな、」
ゼンヅが一瞬目を輝かせて、それから眉を顰めた。
「先輩?!?!」
すぐ横からデカい声が響く。声の方を見るとカインが頬を赤らめて満面の笑みを浮かべていた。
「いやぁ、えへへ! 先輩……そう、先輩! そうなんだよね〜、へへ、ゼンヅくんは先生だもんな? ふふ、俺は先輩〜」
「うるさい」
お、思ったより嬉しそうだ……! なんで?
ニヤニヤした顔でゼンヅにまた絡み出したカインを見ていると、なんだか良いことをしたような気さえしてきた。まあ交流を深めたのは事実だからな。
やいやい騒いでいる二人を放置して、からあげ用の肉に下味をつけるべく保管庫から香草や塩、胡椒を取り出していると、くい、とアストが後ろから俺の袖を引いた。
「何の先輩なの?」
確かに急に出てきたらそう思うのも無理はない。というかその場のノリで呼んではみたが俺としてもかなり漠然としていてよくわからなくもある。
「人生の、だって」
「ロクでもな〜い」
うーん、それはそう。