俺の周りが変な奴ばっかなんだけど?   作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍

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隔日投稿の予約分が切れてたことにさっき気がつきました
今日明日連続投稿です


第十七話「朝日より差し込んで」

 

 

 朝、日課を終えて家の暖炉に火を入れようとしたら、既に部屋が温まっていた。

 暖炉前の椅子には人影が見える。

 誰かが気まぐれで早起きでもしたのだろうか、となんの気無しに近づいて、それが勘違いであることに気がついた。

 

 ──その人は、美しい灰銀の髪をしていた。

 

 近づいた俺の気配を察したのか、ぱちりと開いた瞳は太陽と同じ金色で、長いまつ毛がかの人の瞬きに従って揺れているのがわかった。

 

「其方、」

 

 開いた口から漏れた声は、女性的な印象の見た目に反して少し低い。……否、よく見れば身体つきはゼンヅよりもしっかりしているし、その厚みも加味するとカインより体格がいい……?

 

「其方はこの村の管理人か?」

 

 その人が男である、と俺が認識を確かにした時には、彼は椅子から立ち上がって俺の目の前に移動していた。身長は俺よりやや低く、ゼンヅより少し大きいくらいだろうか。肩口でスッパリと切り揃えられた灰銀の髪が、本人から受けるどことなく神聖な雰囲気と、そこだけチグハグな気がした。

 そして音も気配もない移動。対峙してわかる妙な存在感。何とも言えない既視感。

 

「……いや、いや違う。管理人の家はここじゃねーんだ。村から見てここと反対側の大きな屋敷が管理人の家だよ」

 

 ともかく管理人(ナンセル)の客だというのならば、この人を無碍には扱えない。例え既になんとなく厄介ごとの空気を感じていても。

 

「そうか、其方は親切であるな。それは良き事。此方の心に留めておこう」

 

 ふふ、と静かに花が揺れるように笑って、その人は俺の家から出て行った。

 俺だけになった部屋で、暖炉の火がパチパチと音を立てている。

 

「いや、今の誰?!?!?!」

 

⭐︎

 

 朝食の準備をしていると、いつもの如く元気に降りてきたアストは、しかし俺を見て首を傾げた。

 

「ロウさん……もしかしたら、勘違いかも何だけどぉ、朝暖炉の方に知らない人来てなかった?」

 

 何とも形容し難い表情である。基本にこにこと笑みを浮かべているアストには珍しい。

 

「あ、いや。俺の声が聞こえて起こしたか? 悪かったな」

 

 先ほどは思わず大きな声を出したが、他の奴らは起き出していない早朝のことなのだから起こしてしまったか、と反省していると、アストは悩むような表情のまま首を振った。

 

「ううん、そうじゃなくて。寝ててもさ、知らない魔力が動いてたら何となくわかるでしょ? それで、もしかしてそうなのかな〜って」

「わかんねーよ?」

 

 寝てる時は寝ててくんねーかな。なんで気配察知出来てるんだよ野生の獣か?

 「でもなんか覚えがあるような」なんてことをむにゃむにゃ言いながらアストが席に着く。と、ゼンヅがいつにも増してムスッとした顔で姿を現した。

 

「朝ここに人が来たな。誰だ?」

 

 第一声がそれかい。

 だがゼンヅは魔族だから、まだ寝てる間の気配察知(そういうこと)が出来ても納得というか。

 

「あー、わからん。多分ナンセルの客」

「管理人の? というか誰かわからん相手を家に上げるな。その危機感の無さを何とかしろ」

 

 俺が家に上げたんじゃなくて気がついたら家にいた、が正解なんだけど、言ったらもっと怒られそうだな。黙っとこ。

 ゼンヅはぶつぶつと「大いなる気配が、」とか「不愉快だ」とかなんとか呟きながら席に着いた。

 二人の席の前に朝食のパンとスープ、ベーコンを置いていると、のっそりのっそりと大きな影が降りてきた。カインだ。

 

「おはよぉ。なんか教会の奴来てなかった?」

「お前もわかってんのかよ!」

 

 なんだ? 寝てる時気配がわかるのって普通のことなのか? 出来ない俺がおかしいのか?

 俺が自分の中の常識を疑っていると、カインが「いやいや、」と顔の前で手を振った。

 

「俺、睡眠時間短いからさ。夜は遅くて朝は早い。だからふつーに起きてて、家から出てく奴を見てたわけ」

「あ、なるほど」

 

 カインの返答に少し安心して、それから首を捻る。でもこの前こいつ、俺が起こしに行くまで起きてこないくらい寝汚かった気がするんだが。

 

「普段は俺、二度寝してっからさ? ちゃんと起きてる上で布団の中で微睡むのがいいんだよな」

 

 カインはそう言って笑いながら席に着いた。隣のアストは「あ〜、いいよね、二度寝」なんて相槌を打っている。そこら辺は俺には共感できない感覚だったので、とりあえず「朝は起きてこい」とだけ言ってカインの前にも朝食を置いた。

 

「んでさァ、教会の奴がここに何の用だったわけ?」

 

 パンを食べながらカインが言う。

 

「教会の奴、かは知らねーけど、つーかそれ一眼見たくらいでわかるか? 別に朝の人はカトラ教の服とか着てなかっただろ」

 

 なんかヒラヒラした服は着ていたが。カトラ教の聖職者の服装はもっとこう、質素な感じだったはずだ。少なくとも俺が見たことあるのは。

 

「いやいや、ロウくん。姿勢とか歩き方を見ればある程度何してる奴なのかはわかるだろ?」

「わかんねーよ」

 

 何が“いやいや、”だ。

 

「姿勢や歩き方だけでは特定の根拠としては甘いだろう」

「いいんだって、俺のは誘導と鎌掛けも込みだから」

「そうか」

 

 上品な仕草でパンを口に運びながら、ゼンヅが頷いた。何らかの共有か、共感があったのだろう。それが何かは知らないが、まあいい。

 

「朝の人ならナンセルに会いたかった? か、用があって来てたっぽいぞ」

 

 沸かしておいた湯でそれぞれのマグへお茶を淹れてやりながら答えると、カインは顔を歪めた。

 

「そんで場所教えてやって“ハイ、解散”したわけ? おいゼンヅくんやっぱこの子の危機感もうちょっと育てた方が良くないか?!」

「ロウは既に成人している」

「だから自己判断だろって? ゼンヅくんから見たら赤ちゃんみたいなもんなんだから育てとけよ……いや、危機感が育ったらまず追い出されるのは俺らか……やっぱやめとこ」

「私は追い出されない」

 

 さっき危機感を持てとかなんとか言われた気はしたが、育てるってなんだよ。カインはゼンヅを俺の何だと思って発言してるんだ。

 あと今更こいつらを積極的に追い出そうと思うことはない。それよりもこいつらがここから出て行きたくなる方が先だろう。そして俺にはそれを止める手立てはない。

 自分用にも淹れたお茶を飲んでいると、正面に座っていたアストが「ねぇ、」と口を開いた。

 

「その人、なんで管理人さんに会いたいのにこの家に来たの? 管理人さんの家って向こうのお屋敷だよね」

 

 当然の疑問である。

 わかりやすく屋敷が立っているのに、わざわざ村から少し離れたこの家を訪れたはなんなのか。

 

「あー、多分。この家が元々管理人用の家だったからじゃねーかな」

「あ、ここってやっぱりそうなんだ。ロウさんの身長と合ってないもの多いもんね」

「だからこの家ロウくんが使わなさそうな道具とか置いてあるのか? 間取りも用心棒の一人暮らしには不相応だもんな」

「家具の使用痕跡からもわかる事実だな。さして驚く程の事でもない」

 

 怖い怖い怖い。なんで全員が全員訳知り顔なんだよ。

 実際、この開拓村ができた当初管理人の屋敷の建設が間に合わず、取り急ぎこの家を建てて管理人の家として使っていたのだと言う。だからか、この家は村の他の連中の家とは少し離れた位置、かつある程度全体が見渡せる位置にある。建物も二階建てだし、台所や保管庫、客室がそれなりにちゃんとしているのは、元々が管理人(ナンセル)のために建てられた家だからだ。俺が来た二年前には屋敷は完成していたため、空いた家を既に屋敷の方に移り住んでいたナンセルから譲り受けた、という流れになる。

 

「うーん、でもそれって()()()()()()()()()()()()()になるかな? 管理人さんのお屋敷の方が目立つよね? 普通そっちに先に行くだろうし、管理人さんはそこでロウさんを矢面に立たせるタイプじゃないよね?」

 

 う、と言葉が詰まる。

 確かに、ナンセルの客なんだと思ったから違和感を覚えつつも見なかったことにしたが、よくよく考えるとアストの言う通りおかしな話だ。

 一体あの人は何故、何のためにここへ?

 

「こ、怖い話になってねーかコレ」

「最初からそうだ。貴様の危機感の無さという点においてな」

「ロウくん危機感ちゃんと持った?! 持ってね!」

「持った持った」

 

 俺が肝を冷やしていると、食事を終えたらしいアストが「まぁ、」と言ってお茶を一口飲んだ。

 

「タイミング的にさ、多分“種子祭り”に関係する人なんだろうね。確か今日だったでしょ」

 

⭐︎

 

 しゃなり、しゃなり、とかの人が動くたび、纏ったヴェールが風に音を鳴らす。厳かな面をつけて顔を隠しているが、背格好や、その髪の色からして朝の人、その人だろう。

 

 ナンセルは彼を「今年の種子祭りの神楽を納める(げき)である」と紹介した。(げき)とはつまり、舞手のことだ。去年までは老婆が勤めていたはずだが、限界が来たのか、人を変えたらしい。

 

 村の中央の広場で始まった儀式を、俺たちは村の連中の後ろから眺めている。背の高い俺やカインはともかくアストやゼンヅはせっかくだから前に行けばいいのに、と思いはしたのだが、本人たちが何も言わないのならば特に文句もないのだろう。三人とも騒ぐでも茶々を入れるでもなく、大人しく見学に努めている。……まあゼンヅが終始苦虫を噛み潰したような顔をしているのは、気になるっちゃ気になるが。

 

 焚かれた火を中心に、円を描くように(げき)は舞う。滑らかな足の運びに、繊細な手付き。俺にとっては、種子祭りなど何やら踊りを見た後にヌヌを食べるだけの祭りだった。それでも去年までと違ってその人の舞には何か心に訴えるようなものがある。どうにも、()()()()()()()ような。

 炎と太陽の光で照らされたその人の髪は、灰銀ではなく白金のように輝いて見えた。

 そういえばアストも白い髪をしているが、こちらは雪の白さだ。思わずつい、とアストに目を向けると、視線に気付いたのかバチっと目が合う。何故だかアストは少し困ったような顔をしていた。

 

「うーん、ごめんねロウさん。朝この人が来たのって、僕のせいかも」

「は?」

 

 こそっと囁く声に俺が間抜けな声をあげていると、俺の隣で不機嫌な顔をしていたゼンヅが口を開いた。

 

「つまり貴様の客だと?」

「えっ、なになに? アストくんアイツとなんか絡みあんの?」

 

 続いてカインも口を挟んできた。

 全員ちゃんと声を潜めて入るものの、あからさまに儀式から目を離している、というのもどうなんだろう。その話は後で、と仕草で示して舞の方に視線を戻した。

 舞は焚いた火が灰になるまで続く。その灰をそれぞれの畑に撒くところまでが儀式なのである。撒いた灰を畑に馴染ませ、翌朝から種蒔きが始まる。

 儀式を見届ければ、あとは各自ヌヌを食べるだけの日だ。そんな淡白さが、開拓(この)村における種子祭りなのである。

 

「で、さっきのは何だよ?」

 

 家に帰り、ヌヌを浅鍋で乾煎りしながら訊ねた。乾燥させたヌヌはそのまま食べてもいいのだが、量を食べるなら乾煎りした方が断然食べやすい。

 俺以外の三人が食卓について乾煎りを待つ中、アストは先ほどと変わらず少し困ったような顔で笑っている。

 

「えっとねぇ、僕のお客さんではないんだけど、あの人がここに来たのは僕のせいかな〜ってことなんだけど」

「釈然としない言い方だな」

「アストくんが言い淀んでるの珍しいな!」

 

 もごもごと何やら言葉を重ねるアストに、ゼンヅとカインが口を挟む。

 

「なんか、前に会ったことがある人と似てるんだよね。こう……ゼンヅさん風に言うなら、大いなる気配とやらが」

 

 アストの過去の話だろうか。普段アストは……というか、俺たちの誰も、自分の過去の話を出さない。それは無意識の線引きなのかもしれなかったし、単に意味がないからかもしれないが……ともかく、前にチラと出たのはカインが来た時と、それからもっと前の、ゼンヅがやって来た時だ。どちらも俺にはよく理解できなかったけど。余剰魔力がどうとか、邪教徒がどうとか?

 アストの言葉を受けて、ゼンヅが訝しげに眉を顰めた。

 

「貴様がそこで悩むことがあるのか。個人の差異ならば読める範囲では?」

「え〜? いやだって……」

 

 ううん、とアストが首を捻る。カインではないが、確かにアストがこうして何かに答えを出せないでいる姿は珍しい。大体はスパッと答えに辿り着いているようなのに。

 アストは困り眉のまま、部屋の入り口に目を向けた。

 

「だって、()()()()()()()()()()()()()()()? お兄さん」

 

 瞬間、その場の全員がそちらを見た。

 

「おや、其処な小僧……何処かで会ったか?」

 

 その人がいた。室内で見る髪はやはり灰銀。長いまつげに縁取られた目を瞬かせ、彼は花のように微笑んで部屋の入り口に立っていた。

 

 言葉も出ない。

 だって、だってそうだろう? 俺だけならともかく、なんでこの人の侵入に()()()()()()()()()()()()んだ?

 思わずビクリと揺れた俺の背を、いつの間にか近くに立っていたゼンヅが宥めるように抑える。

 

「おうおう、しれっと入って来てんな〜? なァにこいつ。さっきまで気配もなかったんだけど?」

「ふふ、それが神の思し召しであるならば」

「会話して?」

 

 おお、カインが困ってる。基本的に飄々として真意を掴ませない男が、おそらく本気で困惑しているようで、その背中もいつもより丸まって見える。

 飄々としているといえば、アストもそうだ。いつもニコニコと楽しそうに笑う顔ばかりが印象に残る。そのアストは現在、目をカッと開いた状態でブツブツと何やら呟いていた。

 

「記憶がない? 首が落ちたことによる記憶の断絶かな? それよりなんで生きてるの? 生き物じゃない……わけはないね。前見た時と地続きの存在ではない? 違う。あの髪を落としたのは僕。雰囲気が違うけどそれは別に人間ならおかしくはないよね、」

 

 怖っ。何言ってんのかわかんねーけど、この状態のアストってなんか怖いんだよな……。

 しばらくブツブツ呟いていたアストは、それから「ま、月が二つもあるような世界に常識を求めても無駄か、」と一つ息を吐いて、いつもの笑顔を浮かべた。

 

「ええと、お兄さん。()()()()を、聞いてもいいかな? 君はどこの誰?」

 

 そうアストから問われて、それまでカインと笑顔で睨み合っていたその人が、まるで大輪の花のように、嬉しそうに微笑んだ。

 途端に感じる強い存在感。ヒリつく程の濃い気配。朝にも覚えた既視感。薄々気がついてはいたが、つまりこの人は……いや、こいつも。

 

「よくぞ聞いたな、小僧。此方は演者、世界()の望むままに嘘をつく(生きる)此方の、尊き今の名はフィフィーリオ。フィフィーリオ・フェルシュタインであるぞ」

 

 そう、癖が強い!!!!

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