俺の周りが変な奴ばっかなんだけど? 作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍
薄々気がついてはいた。気づいてたんだ。朝のやつが類を見ないほど癖が強くて変だって……いや、類は見てるな。少なくとも三例。しかし、だからこそおかしい。だって
「ロウ、」
頭を悩ませる俺の背を、ゼンヅが軽くぽんぽんと叩く。なんだ、と思ってそちらに目を向けると、ゼンヅは浅鍋を指差して言った。
「焦げるぞ」
おっといけない。
慌ててヌヌを浅鍋から上げる。せっかくみんなで皮を剥いたのに、乾煎りの段階で焦がしてしまってはあまりに勿体なさ過ぎる。さっさと第二陣、三陣と煎ってしまおう。
作業を続ける俺の背後で、アストとフィフィーリオ・フェルシュタインと名乗った男との会話は続いていた。
「えーっと、フィフィーリオさんは二年前くらいに、グラム王国の南西の方の村にいたでしょう?」
グラム南西の村。その場所については、なんだか割と最近聞いたことのあるような。
「……ああ、そうか。其方、あの時の小僧か!」
合点が言ったような声が聞こえ、歌うように続いた。
「
「めちゃくちゃにしたのは君の方でしょ」
呆れたようにアストが呟いた。
……しかし、グラム南西の村で、祭り、めちゃくちゃ、か。思い出して来た。これ、前に聞いた邪教徒の村の話だ。
「あの時、本当にびっくりしたんだよ? 人買いならともかく、人食いに会うことって中々ないんだから」
「素晴らしく愚かで、下劣で、哀れな村だったであろう? 木の葉は流れには逆らえぬ。此方はただ息を吹きかけてやったのみ」
「悪趣味だなぁ」
「ふふ、それが
ううん、やはり、想像通り例の邪教徒の村の話だった。アストが生きたまま食われそうになったという、元々は普通の村であったはずの村。会話を聞くに、その村に
またしても思考の渦に飲まれながら乾煎りを終えたヌヌをそれぞれの皿に分けていると、カインが急に「あ、」と声を上げた。
「わかった。お前アレだな? “嘘つきメルクリオ”!」
……何がわかったのかは俺にはわかんねーけど、カインは腑に落ちたらしい。
「はて?」
「嘘つきメルクリオ?」
「およ? グラムの方で有名な童話なんだけどもしかして誰も知らない感じか?」
俺だけじゃなくて他もわかってなさそうで良かった。まあグラムの方の童話なら俺が知らなくてもしょうがないし、つーか童話なんてディーンのも知らないし。
「“嘘つきメルクリオ”とは、グラム王国で実際に起きた事件が元になった童話だ」
と、思っていたら隣でゼンヅが口を開いた。お前は知ってんのかい。
「嘘つき男のメルクリオは嘘つきで有名な男だった。だがある日野盗が自分の住む村を狙っていることを知り、そのことを正直に知らせてやった。しかしいつも嘘をつく男の言葉は誰にも信じられず、結果として村は野盗に襲われた。メルクリオだけは事前に村から脱出し、近くの別の村へ向かっていた。メルクリオはその村にも野盗のことを知らせたが、その村でも嘘つき男は有名で、話を信じてはもらえなかった。野盗はメルクリオを追ってその村も滅ぼした」
淡々と抑揚もなく、ゼンヅが続ける。
「メルクリオは村や街を転々とし、その度に嘘つきは信じられず、追って来た野盗によってそこは滅びた。ついにはメルクリオこそが野盗を引き連れているのだと国に処刑されることになったが、その前にメルクリオは首を括って死んだ。嘘つきはやめましょう、という教訓を含んだ物語だな」
怖い! 内容もだけどゼンヅの話し方含めてこえーよ!!
「嘘つき嘘つきメルクリオ〜正直ならば良かったのに〜、って歌もあるぞ」
カインから怖い補足まで入っちまった。アストは「わぁ、“オオカミ少年”と“ハーメルンの笛吹男”のミックスっぽい話だね」とのほんと笑っている。
「まぁそう、そんで、その嘘つきメルクリオになぞらえてその名で呼ばれた詐欺師がグラムにいたんだよね。俺はなんか……活動圏が被らなかったらしくて実際に遭遇はしてないんだけどさ」
カインが話を続ける。
「何でもそいつが訪れた村や街はそのほとんどが壊滅状態になってて、一応生存者はいたからそこから人相描きが出てたりするんだけど……」
するり、カインの腕が伸びてフィフィーリオと名乗った男の髪を掬った。
「髪の色が違うなぁ。こんなに綺麗な色ならもっと騒がれそうなもんだけど?」
「カインさーん、僕が会った時は髪の毛茶色だったよ〜」
「ふふ、
「繰り返すなよ」
「botかな?」
皿に分けたヌヌをそれぞれの席の前に置いていく。アストの隣にカイン、カインの手前にゼンヅで、最後に俺。なんだか机が寂しい気がしたので、湯を沸かしてお茶を淹れておく。
「ま、髪の色なんて簡単に変わるからそれは良いよ。僕は落とした首が繋がってることの方が気になるなぁ。そんな面白人間いる?」
俺は割とお前もそんな感じなんじゃないかと疑ってるけど? 面白人間かはさておき、果たして本当に
お茶を淹れたマグを五つ机に置いて、それから椅子を一つ暖炉の方から移動させた。
「面白人間ではない。此方が生きているのはただ、それが
「あ、なるほど」
急に何かに気がついたようにポンと手を叩いて、アストは自分の席についた。
「ゼンヅさんが言ってた大いなる気配、何かと思ってたけど
「俺もわかってきたぞ。ゼンヅくんが嫌がってるわけとか」
「……ふん、」
相変わらず不機嫌そうなゼンヅは置いておいて、カインも何か気づくことがあったのか、少し嬉しそうですらある様子で自分の席につく。
俺も続いて座ろうとして、男が一人立ち尽くしているのが目に入った。堂々とした立ち姿ではあるが、こちらが全員座っている中、一人立たせたままというのもなんだろう。
「おい、その……フィフィーリオ、だっけ? お前も良ければそこ、座れば? 茶は……まあ要らなくなければ飲めよ」
声をかけると、金色の目がキョトンと見開かれて、それからぱちりと瞬いた。尊大で神聖な雰囲気から程遠く、只人のような顔でそいつはにこりと笑って、一つ余ったマグの前に腰を下ろす。
途端、周囲から三つの深いため息が聞こえた。
「貴様、先程までの話を聞いてなかったのか? 行動しながら寝るとは随分と器用なことだ」
「ロウくんって本当に迂闊だよな〜まぁそうじゃなきゃ俺らみたいの家に上げないだろうけど……」
「大丈夫だよ、ロウさん。僕は君のそういうところ、良いと思ってるからね」
よくわからないが散々な言われようであることはわかる。
「なんだよダメなのかよ?!」
思わずギャンと噛み付くと、三人分の声が「いや、ダメではないが」「ダメっつーかさ、」「全然ダメじゃないよ〜!」とバラバラに響いた。割と食い気味に返されたせいで少し引いてしまったが、ダメではないなら良いんじゃないのか?
「朝もそうだが……其方は親切であるな。心遣い嬉しく思うぞ」
フィフィーリオはにこにこと笑ってマグに口をつけている。お茶が口にあったようで良かった。
「……で、何? アストは何に気がついたって?」
「ロウくん、俺俺、俺も気づいてるよ」
とりあえず全員が席に落ち着いたので改めてアストに訊ねると、斜め前の席からカインが茶々を入れてきた。うるさいなわかったってば。
「えっとね、このお兄さん
「は?」
普通からはだいふほど遠くねーかな、と斜め前に腰掛けた男を見て思う。普通の男は笑う時に上品に口元を押さえたりしないし、花のように微笑まないし、こんな尊大な話し方はしないし、他人の家に二度も勝手に上がってきたりはしない。
「──まぁ、そうといえはそうであるし、そうでないとも言える。此方は、余は、妾は、わたくしめは、誰かであり誰でもない。適当に生きている内に適当に生きることしかできなくなった男だ」
謎かけのように話す男だ、と思った。なんで普通に喋らないのだろう。これがこいつの普通だからなのか、あるいは。
「
ニタリ、と治安の悪い笑みが一瞬男から漏れ出して、すぐに微笑みに隠された。
「平和な村に悪を持ち込んだ詐欺師の、あそこで悪党の首が落ちるのは、間違いなく
「……何て言うんだろう、こう、本人はただの詐欺師なんだけど、大いなる気配、もとい世界の意思とやらがこの人バックアップを勝手にやっちゃってるっていうか」
ばっくあ……? 何かよくわからないが、ともかくこいつが変なのは、その世界とやらのせいって事……なのか?
「いやいや、変なのは絶対元々だよ。だってあの変な儀式を選んだのは面白いからでしょ?」
「ふふ、所詮この世は偽りである。ならばその場で一番面白くあらねば全てが嘘ではないか」
俺の考えを否定するようにすぐさまアストが口を挟むと、男は笑みを深めまるでここが舞台であるかのように大きく手を広げた。
「面白いぞ? 異教に触れ、染まり、後戻りができなくなり、人を巻き込み、正当化し、段々と境界を失って右往左往する人の様子は」
最悪の発言だよ。何なんだこいつ。
「まぁそれは否定しないけど」
「わかるな〜わかっちゃうんだよなコレが」
「人など大抵はそのようなものだ」
じゃあもう全員最悪なんじゃねーか。何だこの空間。ヤバいやつしかいねーじゃん。
「ゼンヅがずっとなんか不機嫌なのは……?」
「ああ、それはさ、明らかに格下のやつがなんの脈絡もなく理由もなく意味もなく
「適者生存も素敵だよ、ゼンヅさん」
「うるさい」
ぽり、とヌヌの実を齧りながらゼンヅが吐き捨てる。……齧りながら?
「あれっ、もう食べてる?!」
「なんだ、暖かい内に食べた方が良いのでは?」
「乾煎りするとわりと軽くいけそうでいいなコレ」
ゼンヅとカインが話す横でアストももぐ、と口を動かしている。俺がぼんやり話を聞いてる間に全員食べ始めてたってことかよ?
少し考えるように、味を確かめるようにヌヌを噛み締めていたアストが、ぽつりと呟く。
「僕、なんかきなこパン食べたくなっちゃった」
「きな……?」
「お、なんだなんだ? アストくんから偶に出てくる謎の食べ物の名前の新しいやつか?」
「きなこ……黄粉? 乾燥させたヌヌを粉に挽くということか?」
アストはゼンヅの言葉にうんと頷いて、お茶を一口飲んだ。
「そう。揚げた後あまーく味付けしたパンに、乾燥させて粉状にした豆……この場合はヌヌの粉をまぶして食べるの」
給食で出たことあるんだよ、とアストが笑った。きゅーしょくが何かは知らねーけど、多分良い思い出なんだろう。
「で、ロウさん。まだ油残ってたよね?」
「えっ」
「ああ、からあげの時のやつか。ロウくん油の出し惜しみしてたからな〜かなりあるはずだぞ」
「保管庫の左端の棚の中段手前にあるので、温めて液状に戻せば使用可能だろう」
畳み掛けるように話し出す三人と、黙ったまま、しかし目を輝かせるフィフィーリオ。あー、もう。
⭐︎
「して、コレをすり潰せば良いのか?」
「そーそー。力仕事で悪いけど、まあお前だけヌヌの皮剥きやってねーし、食べる気があるならやっといた方がいいぞ」
すり鉢と棒を手に、フィフィーリオがうんうんと頷く。
「良い良い。
そう言ってごりごりとヌヌをすり潰し始めた。安定感のある手つきに安堵して、俺も俺で作業に移る。
きなこパン、とやらを作るならまずパンを焼かねばならない。そう時間のかかる作業ではないが、待たせているのは無駄に力のある腹ペコ共だ。さっさと作ってしまうに越したことはないだろう。
パン種を成形して、さっと茹でる。普段ならこの後浅鍋で焼くのだが、アストの話を聞く限り揚げる工程があるそうなので、そこは省略。茹でたパンを、暖炉の熱で液状に戻し、事前に高温にしておいた油の中に投入する。
俺がきなこパン作りに集中している背後で、何やらアストが口を開いた。
「結局さぁ、フィフィーリオ……さんは、どうして朝この家に来たの?」
「む、其方ならわかっているのではないか?」
フィフィーリオの返答に「ええ〜?」とアストが声を上げたのが聞こえた。
「早朝、予定より早く村にたどり着いた時、大きな力……小僧の力をこの家から感じたゆえな。権力者というのは強き者を侍らせているはずであろう? ゆえにここが
「ああ、そゆこと。それなら俺もフィフィと同じだわ」
パンを油でさっと揚げていく。両面に焼き色が入れば十分だろう。油から取り出したものは布の上に置いておけば、ある程度は油を落とせるはずだ。
「フィフィ?」
「フィフィーリオくんだと長すぎるだろ?」
蜂蜜を湯で少し緩めて、伸ばしていく。パンを甘くするって、どこら辺までやるんだろう。とりあえず表面に塗っておけば良いのか?
フィフィーリオから粉状になったヌヌを受け取って、パンにまぶしていく。蜂蜜で表面が濡れているから、粉が良くくっつくんだな。
「この村に来たのは本当に偶然だけど、この家に入ったのは一番ヤバい感じがしたからだぜ」
「……私がここを訪れたのはベーコンの匂いに引き寄せられて、だが……」
「そのベーコンを作ることになったのは僕が
おそらく完成したと思われるきなこパンとやらをそれぞれの皿に配っていると、何やら視線がアストに集まっていた。誤魔化すように片目を瞑ったアストがぺろっと舌を出す。
「てへっ」
よくわからんがアストの額はとりあえず強めに突いておいた。