俺の周りが変な奴ばっかなんだけど?   作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍

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第十九話「見え方の違い」

 

 

 やはりと言うべきか、何となくそうなりそうな気はしていたと言うべきか、あの後フィフィーリオは家に居着いてしまった。

 別に二階にまだ余ってる部屋があったし、俺が使うことはないからそういう意味では良いんだけど、フィフィーリオはカトラ教から(げき)として派遣されて来ているはずで、勝手に駐在していいんだろうか。

 

「ふふ、元々カトラ教内でもそろそろ開拓村に手を伸ばすべき、という話が出ていてな。つまり問題ない」

 

 本人に聞いてみた解答がコレである。じゃあもういいか。

 フィフィーリオはアレから妙にきなこパンを気に入ったようで、俺の周りを彷徨いてはきなこパンを催促してくる。俺としてもそんなに気に入られたなら作るのもやぶさかではないのだが、ヌヌの処理が面倒なんだよなあ。作り方教えるから自分で作ってくんねーかな。

 

「何を言うか。台所(ここ)の主は其方であろう。で、あれば其方に黙って勝手はせぬのが道理と言うもの」

「いや、その主とやらが勝手に作ってくれって言ってんだけど?」

 

 ごちゃごちゃ言ってるけど結局は自分で作るのが面倒ってことなんじゃねーの? つーかこいつ今さらっと俺の思考と会話しやがった。つくづくアストたち(あいつら)の同類だな。

 当の他のやつら(あいつら)はというと、

 

「僕外で遊んでくるね〜!」

「昼までには帰るからな、俺らの昼ご飯をゼンヅくんにあげちゃダメだぞ」

 

 と、アストとカインは朝食後早々に外出してしまった。カインがいるから外遊びも一安心……ということは全くなく、寧ろ村人()で遊んでないかやや心配になるところだ。まあ二人とも森の散策の方が面白いようだから、多分大丈夫だろう。

 ゼンヅはゼンヅで、俺とフィフィーリオがヌヌの皮剥きの準備を始めた段階で読書を口実に自室へと引き篭もってしまった。あの調子だと昼食の時間までは降りてこないんだろうな。

 そんなわけで、今朝からフィフィーリオと二人、台所でヌヌの皮剥きに従事することになったのである。

 

 フィフィーリオの手つきは安定している。ナイフがヌヌの皮につぷりと刺さって、そこから撫でるようにするりと切り込みを入れ、滑らせるように中身を取り出す。労働などしたことがないような手をしているのに、随分と器用なことだった。

 それに、フィフィーリオは魔術を使っていない。少なくとも、この皮剥きにおいては、使っているような魔力の動きが()()()()。俺と同じで魔力による補助ができない、あるいは必要がないのだろう。ヌヌをすり潰す手つきを思い出せばかなり安定していたし、苦労している様子はなかった。

 

「ふふ、視線が熱いな星の子よ」

「あ、わり」

 

 指摘されて、視線を手元に戻す。ジロジロ見るのはやっぱり不躾すぎるよな。

 

「あー……、生活には慣れたかよ?」

 

 沈黙に耐えられず何となく話を振る。

 

「うむ。手狭な部屋だがあの慎ましさが好ましくもある」

「いや、狭いってんなら別にここじゃなくてさ、近くに別の空いてる家もあるけど?」

 

 ゼンヅにもカインにも勧めて断られたが、開拓村の空き家はまだある。別に食べにくるくらいなら全然良いし、住む場所だけでも分ければ良いと思うんだが。

 

「……いいや、ここが良い。星の子の手の入った空間は心地良いゆえな」

「ふーん」

 

 黙々と作業に戻る。

 と、いうところで不意にフィフィーリオが座った椅子の後ろからひょいと何かを取り出した。

 

「ところで其方の部屋にこんな物があったのだが……」

「ギャッ」

 

 視界に入ったそれを見て、思わず作業の手がぶれる。

 それは見覚えのあるシャツだった。

 肩の部分がほつれていて、背中には大きく刺繍が入っている。

 

「な、な、」

 

 自室の箪笥にしまっておいたはずだ。はずなのに、何故ソレがここに、

 

「すまない、其方に用があって声を掛けたのだが返事がなく、つい中へ入ってしまい……」

「そ、そりゃ鍵とかねー部屋だけどさあ!」

 

 思わず声が大きくなって、それが少し気まずい。気を取りなおすように一つ咳をして、改めて口を開いた。

 

「いや、ま、うん。もう……いいけど、よく見つけたな、ソレ」

「ああ、偶然にも床に落ちているところを発見したのだ。しまい場所もわからず、其方に確認しようと思ってな」

 

 じゃあ多分、俺が悪い。きっと他の物を取り出した時にうっかり一緒に引っ張り出してしまったのだろう。

 

「ああ、うん、それは勝手にしまわれるよりは助かるわ」

「この刺繍は……其方が?」

 

 フィフィーリオがシャツを広げて背に入った刺繍を見る。アストと遭遇した翌日、アストから返ってきた俺のシャツ。背中の刺繍はアスト曰く“ロウさん()(アスト)”だ。

 

「アストだよ。初めての刺繍だったんだと」

「小僧か……存外器用なのだな。しかし袖が直っておらんな」

 

 当然の指摘に苦笑した。そりゃほつれたシャツをそのまま保管してるやつがいたら、俺だって言うと思う。

 

「あー……まあそれはもうシャツとしては着ねーから、良いかなって」

「そうか」

 

 フィフィーリオからシャツを受け取って自室の棚の中にしまい直した。

 黙々と作業に戻る。

 

「あ、そだ。今日の昼何にする? きなこパンはまあ……おやつだろ?」

 

 そういえば昼食のことを考えていなかったことに気がついた。

 いつもなら適当に一人で決めてしまうのだが、せっかく目の前に他のやつがいるのだから、相談してみるのもたまには良いだろう。

 

「きなこパンを食べる」

 

 フィフィーリオは手元のヌヌから目を逸らさずそう言った。話聞いてたか?

 

「おやつにしろって」

「きなこパン……」

 

 どんだけ気に入ったんだきなこパン?!

 

「おいゼンヅでももうちょい聞き分けいいぞ」

 

 というかゼンヅは量は要求するし肉が一切なかったら文句を言ってくるが、基本それ以上に注文をつけてはこない。その要求してくる量が一番の問題なんだけど。

 ゼンヅの名前を出されたフィフィーリオは一瞬苦虫を噛み潰したような顔をして、すぐさま何事もなかったように澄まし顔に戻った。

 

「何? あの蛇と比較されるとは……では此方の方がより大人であることを示さねばならぬな」

「そーしてくれ」

 

 黙々と作業に戻る。

 ……しかし昼、どうしようかな。ポトフとパンでも良いんだが、昨日もそうだったしなあ。アストはポトフ出すとなんか機嫌が良さそうだから良いとして、ゼンヅやカインあたりはそろそろ別のものも食べたがるんじゃないだろうか。きなこパンで油使うし、どうせならからあげまたやるか?

 

「カインは、」

 

 俺が思考の波に飲まれていると、フィフィーリオが口を開いた。

 

「ここに来て長いのか? 盗賊団の頭領が、随分と馴染んでいるようだが」

「いや、割と最近だけど……知ってんのか?」

「何をだ? カインが盗賊であったこと? それなれば簡単な事よ。此方もまたかつてはグラム王国に暮らす身として、盗賊団に襲われた後の村に行くこともあったゆえな」

 

 グラム出身であること(それ)カインの正体を知ってること(これ)は別じゃねーか?

 まあでもあんな大男なかなか居ないし、つーか本人もそう言ってたし、そこら辺目撃情報とか出て……出てんのかなあ? カインが目撃者を生かしておく想像は……出来なくはないか。その方が面白そうとかいう理由でやりそう。

 

「ま、そこら辺は本人から聞いてくれ。他人が言うことじゃねーから」

「ふふ、星の子は誠実であるな」

「それ!!」

 

 耐えられなくなって思わずフィフィーリオの方を指差してしまった。軽く謝罪をして手の動きをヌヌの皮剥きに戻す。

 

「その呼び方……何?」

「呼び方?」

「アストは小僧でゼンヅは蛇、カインはそのままカインなのに、なんで俺だけ“星の子”なんだよ?!」

 

 ずっと気になってた。なんなら他の一切がどうでも良いくらい気になってた。

 アストへの小僧はまあ、アレだろ? 十六歳(成人済み)とはいえアストは成長途中なのがわかる見た目だし。

 ゼンヅの蛇はちょっと……よくわかんねーけど、多分グレト山の蛇神様あたりから来てるんだとは思う。蛇神様が何なのかはまだわかってねーけど。

 カインは無難にそのままだし。年も近そうだったし、普通に仲良くなったのかもしれない。

 で、星の子って何?!

 

「はて、何でも何も、そのままではないか」

 

 フィフィーリオは皮を剥く手を止めず真っ直ぐ顔を上げて俺を見た。

 金色の目に、俺が写っている。瞬き一つせずじっとこちらを見る瞳には、俺がどう写っているのだろう。

 

「フィ、」

「たっだいま〜!!」

 

 ガチャンと大きな音ともにアストが部屋に飛び込んできた。後ろから顔を出したカインは「わはは、お昼より全然早く帰ってきちゃったな」と笑っている。

 

「おかえり。貴様ら、随分早く帰ってきたな」

 

 いつの間に二階から降りてきていたのか、ゼンヅもひょっこりと台所の方に顔を出した。

 何だかこのままここで会話が続きそうな雰囲気を感じたため、とりあえず作業の手を止めて暖炉の熱で湯を沸かす。最近はすっかり体の芯まで凍えるほどの寒さは引いてきたので、淹れるのはセウ湯ではなくお茶で良いだろう。

 

「わぁ、フィフィーさん沢山皮剥きしたんだね」

「俺らが準備で剥いた量より既に多くない?」

「体力バカ。筋力バカ」

「うるさいぞ愚か者」

 

 茶葉の種類はどうしよう。アストが好む柑橘の香りか、あるいはゼンヅの好むダーリトンか。一応どちらも行商人が来た時に補充しておいたが、冬の間にかなり減ってしまった。五人分淹れるにはやや心許ないか?

 

「ところで、お話の続きはいいの?」

 

 まるで先ほどまでのこちらの話を聞いていたかのようなアストの問いに、思わず肩が揺れる。

 

「お、なんだ? 何の話してたんだ?」

「何のことはない。此方が星の子をそうと呼ぶ理由について訊ねられていた」

 

 にこりと微笑むフィフィーリオの前には皮剥きを全て終えたヌヌの実の山。本当に四人でやった時より早く終わっちまったな……。

 フィフィーリオの返答を聞いて、カインは首を傾げる。

 

「へえ?」

「何か疑問に思うところあったか?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()。アストとカインの態度が俺にそう告げている。

 ……そんなことある?!?! 同居人が星の子呼びされてて何一つ疑問がないことある?!

 

「そうだろう、見たままだ」

 

 フィフィーリオは椅子から立ち上がり、大きく両腕を広げた。背にした窓から急に光が差し込み、後光のようにすら見える。仰々しい仕草と神懸かり的な演出が、まるで何かの物語のようで神聖であり、そしてそれ以上に胡散臭い。

 

「陽の光を帯びて輝く淡い金糸に、静かな湖畔のような瞳。内側から輝くように白い肌と血色の良い唇」

 

 撫でるような声だ。フィフィーリオの視線が辿るように俺の表面を滑っていく。

 

「……まるで星屑を集めた姫君のようではないか?」

「は、」

 

 絶句した。

 これは、揶揄われているのか? 怒っていいやつなのか? 大の男に、ましてや俺に()()などと、正気ではない。じと、と睨む目に力が入る。

 だがフィフィーリオの表情は真剣そのものだ。いや、そのこと自体が既にちょっと胡散臭くはあるのだが、それはともかく。

 

「身体こそ大きく実務的な筋肉に覆われてこそいるが、それもまた機能美ですらある」

 

 褒められてるかもしれないなこれは。

 

「あ、受け入れるとこそこなんだな、ロウくん」

「やっぱり筋肉は自分で育ててるからじゃない?」

 

 外野が騒がしいのは置いておいて、自分の耳がじんわりと熱を持っていることがわかる。カッコつかねーから、顔まで赤くなっていなきゃいいんだけど。

 

「それが何だ?」

 

 不機嫌な声が地鳴りのように響いた。バッと横を見る。ゼンヅだ。

 ゼンヅは苛々とした様子で足をダンダンと床に打ちつけた。いつもやや不機嫌そうな顔つきでその実平坦な態度のゼンヅだが、これは怒っている。明らかに何かに怒っている。…………俺か?

 

「誰が見ても一目でわかる事実を得意げに披露して悦にいるな戯け」

 

 あ、俺じゃなさそう。

 

「ゼンヅさん、自分が伝えなかった内容でロウさんが喜んでるのを見て悔しいんだね」

「ゼンヅくーん! 言葉にしなきゃ他人には伝わんないんだぞ〜!」

 

 アストとカインの茶々はさておき、ゼンヅはギリギリと歯噛みしている。その内歯を噛み砕きそうな勢いでちょっと怖いので、ヌヌを片付けてからとりあえず席に座らせてお茶を淹れておく。こいつの好きなダーリトンのセカンドフラッシュなら、少しは落ち着くだろうか。

 対するフィフィーリオはゼンヅの様子を見て鼻を鳴らした。

 

「ハ、自らが出遅れただけのことを此方に当たるなど笑止千万。余程眺めるのに忙しかったと見える」

「こーらこらこら、フィフィ? フィフィ? 煽んのやめな?」

 

 そう宥めるカインに背中を押されてフィフィーリオは部屋から出ていく。去り際にカインがこちらに片目を瞑って何らかの合図を送ってきていたので、まあおそらくは昼食までには一緒に戻ってくるのだろう。

 椅子に座って大人しくお茶を飲んでいるゼンヅを見た。変わらず不機嫌そうではあるが、その対象が場にいないからか、先ほどよりだいぶ落ち着いている。……しかし。

 

「なんか、ゼンヅとフィフィーリオって思ったより仲悪いか?」

「うーん、仲が悪いと言うか、単純に相性が良くない感じかな? 本人たち視点だと仲が悪いってほどでもないと思うよ」

 

 本当かあ?

 隣に残っていたアストに訊ねると帰ってきた答えに、首を捻らずにはいられない。

 あれで仲悪くないなら仲悪いやつらとか存在しないのでは?

 

「だって会話が成立してたでしょう? 会話ができてるならそれはもうプロレスみたいなもんだよ」

 

 それはわかんねーけども。何? ぷろれす?

 

「いや、まあ仲悪くねーならいいけど。ゼンヅせんせがなんで不機嫌だったのかはやっぱりよくわかんねーし」

 

 どうやって昼食までに機嫌を取ろうかなこれ。

 と、思っていたらマグから口を離したゼンヅが、座ったまま俺を見上げていた。ゼンヅはいつになく、何かを確かめるようにゆっくりと瞬きをして、それから口元を緩める。

 

「ふん、昼はからあげにしろ」

「あ? ああ、うん。いいけど」

 

 元々そのつもりだったし。突然のゼンヅの要求に驚きながら頷くと、ゼンヅはどうやら持って降りていたらしい本を開いて、読書に勤しみ始めた。

 何故だか機嫌が良くなっている気がするが、何なんだ?

 

「あはは、ゼンヅさんご機嫌だねぇ」

 

 本当に何?

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