俺の周りが変な奴ばっかなんだけど?   作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍

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第二話「いつもと違う夜」

 

 

「これはどういうことでしょう、ロウさん」

 

 管理人の男・ナンセルが眼鏡をガチャガチャと抑えながら聞いてきた。いつも冷静な男らしくもなく、混乱しているように見えた。

 

「説明をしてください、私は今、冷静さを欠こうとしています」

「ご、ごめんって」

 

 多分もう冷静さは欠いてんじゃねぇかな、とは言わなかった。言えなかったとも言う。流石に火に油を注ぐ趣味はないので。

 夜、俺の家で行われる管理人への報告だったが、いつもと違うところがあって、ナンセルの視線の先には謎ににこにこと微笑むアストの姿がある。報告をしないわけにはいかなかった。俺は所詮雇われの身で、村について責任を取れる立場にないから。

 ちらりと見ると、それに気づいたのかアストはパチっと片目を瞑って手を小さく振ってきた。そういうの良いから大人しくしててくんねぇかなぁ。

 

「えっと、今日の昼頃になんか、村にふらっとやってきたガキで……多分めちゃくちゃ強くてスゲェ食べる」

 

 あと人間って言ってましたぁ。もはや説明とは言い難い投げやりさでナンセルに伝えた。だってアスト(こいつ)俺が何聞いても「ええ〜? わかんなぁい」とか、「ふふ、ロウさんはどう思う?」とかしか言わねぇんだもん。無理だよ。

 

「つまり、その少年は村の防御柵は破壊されたか無視して通ってきて、ロウさんは何か彼の実力を知るような出来事があって、あと村の中である程度自由に過ごさせたと言うことですね?」

 

 ナンセルが極寒の目で俺を見た。実力を知るような〜ってとこは実際とは違うが、だいたい誤魔化したところバレてんなあコレ。アストが不法侵入してきてることとか、勝手に滞在させたこととか。頭のいい奴って少しの情報から答えに辿り着くから嫌だぜ。

 冷や汗をかきながらから笑いで誤魔化していると、ナンセルは呆れたように短くため息を吐いた。

 

「まあ、もうこの際そこはいいです。ロウさんのことですから、監視はしていたんでしょうし……」

 

 許されたかもしれない。

 ほ、と胸を撫で下ろしていると、ナンセルの視線が俺の後ろの棚へとズレた。

 

「……胡椒、かなり使いましたね」

 

 私の時は惜しむようにケチっていたのに、と強い視線が語っている。以前またこいつに何故か料理を振る舞う機会があって、その時の料理は小竜(レッサードラゴン)のテールステーキだったのだけれど、胡椒をほんのちょびっとだけかけて食べた。でもそれはその時が胡椒初体験だったからなんだけど。なんで俺はナンセルに睨まれてんだろうなあ。無駄遣いしやがってってことか? まあ確かに小瓶に半分くらい残っていたところから一気に三分の一まで量を減らしていたらそう思われても仕方がねぇのかも。

 

「はぁい、胡椒のスープ美味しかったよ。管理人さん」

 

 返答に困っていたら、アストがぴょんと跳ねて言った。言葉以上の意味はないはずなのに、何故だか煽るような言い方だったのはどうしてなんだろうか。

 

「……ロウさん、この少年は」

 

 改めてアストの姿を視界収めたナンセルはまた少し動揺を揺り戻していた。多分、ナンセルにもわかるんだろう。アストの威圧感というか、存在感の強さが。村人たちにはほぼ勘付かれてなかったあたり、ある程度戦いの心得がある人間にしかわからねぇ感覚なのかな。

 

「私は、この開拓村の管理人としての私は、この少年の滞在や彼の行動について口出しする権限を持ちません」

 

 責任の所在、権限の行使、原因理由、そんな感じの言葉が大好きなナンセルにしては珍しい発言だった。敗北宣言と言ってもいいかも。うねる黒髪を耳にかけて、ナンセルはそれでもキッと俺に睨んだ。

 

「個人としての私の意見はまた別であることはお忘れなきよう」

「はい、すんません……」

 

 ナンセルに怒られた時はさっさと謝っておくに限る。そうでないと、こっちが原因を忘れた頃にまで延々と言ってくる上、一度こちらを許したようなフェイントまで入れてくるので対処に困る。忘れる俺も悪いけどナンセルも性格悪いだろコレ。

 

「ともかく、隠し立てしなかったことだけは褒めて差し上げます」

 

 全く褒めてはいない声色だったが、表情だけは既にいつもの爽やかで温和そうな笑顔を取り戻しているあたりが、胡散臭いナンセルらしかった。

 言ってから、ナンセルはちっとも見苦しくない優雅な仕草で、しかし素早く身支度を整え出した。外套を身に纏い、手持ちの衣装ケースを持って家から出て行こうとする。

 

「おい、そんな急いで管理人の家行かなくてもいいだろ。いつもは無駄にのんびりしていくクセによ」

 

 管理人の家は、まあそもそもがナンセルがこの開拓村で過ごす為に存在する屋敷なわけだが、村外れにある俺の家からは少し距離がある。ナンセルは態々そこからこの家に出向いて報告を聞いていくのだ。……よくよく考えたらこれ俺がナンセルのところに行くべきなんじゃねーのか? わからん。気がついたら押しかけられてた記憶しかない……。

 ともかく、普段はもっと遅くまでうちにいるのに、珍しいこともあるものだ。アスト(知らない人)がいると落ち着かないとかそんな可愛げはないだろうに。いや無かったはずの可愛げが生えてくるくらいアストの威圧感が勝った可能性は充分あるけど。

 

「いえ、少し……一週間ほどここを離れます。王都の方に、用事が出来まして」

 

 雑に絡んだ自覚はあったのに、ナンセルは俺の目をしっかりと見てそう答えた。……こういうところがあるから、面倒で胡散臭い男だと思っていても憎めないし、嫌えない。ずるいよなあ。

 

「一週間か、早馬で飛ばすのか」

 

 この開拓村から王都まではだいたい馬で四日程かかる。勿論日の出ている間に進んで、夜は野宿なり近隣の村や街で休んだりしながら、というのが前提の行程である。それを往復と実際に向こうで用事を済ませることを含めて一週間で戻ってくる、と言うのだから、馬を乗り換え乗り換え道を行くのだろう。こんな夜更けから。

 お役人様っていうのも大変だよな、と同情してしまう。

 

「じゃあさ、お前これ持っていけよ」

 

 今にも扉から出ていきそうなナンセルを呼び止めて、一つの包みを押し付ける。

 

「これは……?」

 

 不思議そうな顔のナンセルとは裏腹に、鼻をヒクヒクと動かしたアストは少し不機嫌そうな声を出した。

 

「食べ物の匂いがする……」

「野生の獣かテメェは」

 

 アストの言う通り、包の中身は食べ物……というか、今日採れた突撃猪(グレートボア)で作った肉団子である。肉を細かく刻んで練って、食感のアクセントに根菜を少し混ぜて、丸めて蒸し焼きにしている。拳より一回りくらいの大きさが二つ、木製の容器に入れてある。一応脂が垂れないように肉団子の下にはここらでよく食べる穀物で焼いたパンを敷いてあるし、粗熱は冷ましているし、夜食に丁度いいんじゃないだろうか。

 そう伝えると、ナンセルはなんとも言えない顔をして、それから優雅に軽く会釈して今度こそ家を出て行った。

 

「ロウさぁん、僕の分は〜?? 僕の肉団子は〜??」

 

 アストが恨めしげな声を出す。多分こいつはさっき、その肉団子入りのスープを晩飯に食わせてやったのを記憶から消去してやがる。食わせ甲斐があるのかないのかはっきりしてくれ。

 

「違うよロウさん。僕が言いたいのは、そのパンに肉団子を乗せたちょっぴりスパイシーなやつを食べてないってことだよ。スープは美味しかったって」

「褒めてくれてありがとよ、俺の思考と会話をするな」

 

 それだと言葉がいらなくなっちゃうだろうが。あとなんで作ってるところ見せてないのに全部バレてんだよ。

 

「いいんだよアレは明日の朝飯だから」

「え、ええ〜っ、最高の朝ごはんってこと??」

 

 途端にアストからワクワクとした雰囲気が伝わってくる。やっぱり食わせ甲斐はあるかも。

 朝になればパン生地の方に少し肉汁が染み込んでいるだろうから、湯を沸かすついでに温め直せば美味しくなるはずだ。多分。

 

「絶対美味しいって! ねぇ〜はやく朝にして! 朝!」

 

 だから俺の思考と会話すんなっての。

 

「わけわかんねーこと言ってないで、朝になって欲しいなら早よ寝ろ」

「え〜ヤダヤダ! まだ眠くないもん!」

 

 ジタバタとアストが駄々を捏ねる。……というか俺はなんでこいつに懐かれ……いや文句を言われて? いるんだろうか。拾い物とは思ったが、普通に管理人預かりになると思ってたのに置いて行かれた上、雰囲気で監視を任されちまったし。

 

「おら、いいから就寝準備しろ。寝ようとしないなら寝れるもんも寝れねぇんだよ」

 

 小鍋で湯を沸かしながらアストに声をかける。アストのやつ、俺が移動するとちょこまか付いては来るんだけど、それで何をするでもなく近くでぶーぶー言ってるだけなのはなんなんだろう。

 でもまあ、いいか。なんでも。

 考えて答えの出ない問いは、忘れるか諦めた方が早い。人生ってそういうもんだよな。

 

 湯をマグに注いで、前に貰ってほんの少しだけ残っていた蜂蜜をその中に溶かしてやる。

 ふんわりと甘い匂いがしたのを確認して、マグをアストに突き出した。

 

「飲め」

 

 差し出したものを「わぁい」と嬉しそうにアストは受け取る。こういうところはまだ不明点の多いこいつの中で唯一現段階で見える可愛げだな、と思う。

 

「優しいねぇ」

 

 マグに口をつけたアストが、ふくふくと笑ってあどけない顔でそう言う。

 

「ああ、いい蜂蜜らしいぞ」

 

 王都の方でも人気のある養蜂場で採れた蜂蜜なのだという。基本使う当てもない給金の使い道として以前行商人から購入したが、自分なりに良い買い物をしたと自画自賛してしまった。

 

「そっちじゃないですけどぉ」

 

 なんとなく不服そうな顔をして見せて、でも暖かさに癒されているのか表情を保たせられないでいるアストの後ろに回って、沸かした湯の残りで作った濡れタオルでやつの髪の毛を拭いていく。

 今は夜が長くて肌寒い時期だから、身体の汚れを落とす時は温かい布で拭った方が気持ちがいい。本当は湯船とか、そういうのがあるとより温まるんだと思うが、あれは貴族とか大商人とか、金を溜め込んだ奴らのところにしかないものだから。一般人にはこの程度が限界である。……いや管理人の家には風呂あるかもしんないけど……どうなんだ? 水はどこから持ってくるんだって話だよな。近くの川から引いてくるのは現実的じゃないし、村の井戸はそんなんに使ったらすぐ枯れちまうだろうし。

 

 ぼんやりと考えながら、手だけは絶えず動かしていく。埃に塗れていた頭は晴天に浮かぶ雲のように白くなり、顔もぐいぐいと拭えばこちらも埃や泥汚れが付いていたようで、随分と顔色が良くなった。

 

「体は自分で拭けよ」

 

 ぽい、と新しい濡れタオルをアストに投げて渡す。汚れたタオルをジャバジャバと洗って、それで自分の体も拭いていく。寒くても汗はかいているらしいから、これをするのとしないのとでは全然翌日の気分が違うんだよな。村の独り身の男どもは何もせずに寝ているらしく、前日の汚れを次の日に持ち越しているところをよく見かける。……だから独り身なんじゃねぇの? いやそもそもこんな開拓村に来ている時点で女との出会いはないだろうし、家庭を作る気は無いのかも知んねーけど。村の女たちは全員誰かしらの嫁だし。

 

 投げたタオルは難なくキャッチしたクセに、アストはなんとも形容し難い顔をしていた。

 

「ロウさんってやっぱりなんか、……ええ?」

 

 首を捻りながら渋々体を拭くアストを無視して、やつの服を取り払い上から大きなシャツを被せる。俺のシャツだからやっぱりちょっとデカいな。背も厚みも全然違うし。

 

 家の奥から毛布を集めてきて、リビングに寝床を拵えていく。シーツとかいう上等なものはねぇから、これで文句言ってきたら殴ろう。殴り返されたら多分俺勝てねぇけど。

 

「早よ寝ろ」

 

 頭がくるだろう部分に布を重ねたクッションもどきを敷いて、付近に脱いだ服を畳んで置いておく。

 

 じゃあな、と言い捨てて自室のベッドへ向かう俺の背中に、やわやわとした声がかかる。

 

「おやすみなさぁい」

 

 なんだかんだ眠れそうでよかった。後ろ手を振って部屋に戻る。

 木枠に薄い布を被せただけの簡素なベッドに横になって、目を瞑った。今日はいろんなことがあったから、多分俺もすぐに眠れるだろう。家の中を静寂が包む。

 

 

 

 ……あれ、もしかしてコレ同居する流れか?






第三話は17:30頃更新予定です
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