俺の周りが変な奴ばっかなんだけど?   作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍

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第三話「家が狭くなった」

 

 

 

 翌朝いつも通り日が昇る頃に起きて、村の周りを見て回った。残念ながら魔物はかかっていなかった。実に平和である。

 

 見回りを終えて家に帰るとまだアストはリビングで寝ていたので叩き起こす。むにゃむにゃ言いながら毛布の山から這いずり出てくる姿はどこにでもいる子供そのものだ。

 ここは開拓村だし、誰も住んでいない家ならまだいくつかある。だからアストが起きたら「お前別の家に行けよ」って言ってやろうと、朝起きた時からずっと思っていた。

 

「わぁい、朝ごはんだ〜」

 

 思っていたのだけれど、アストが瞳を煌めかせて朝食を頬張る姿を見ていたら、まだ伝えなくてもいいかも、とも思えてきた。

 まあ別に、わざわざ声をかける必要はないだろう。出て行きたくなれば自分から言い出すはずだ。その日が明日か明後日か、それはわかんねーけど。

 

 アストは基本的にちょこまかと俺の周りを彷徨くことが多かったが、気がつくと視界の外に抜け出していることも同じくらい多かった。

 管理人から一応監視しとけって言われてる都合上問題なんだが、見てたところでなぁ。例えば今この場でアストが本性を表して開拓村の全員を惨殺し出したとして、それは俺に止められるものではないし。本当に見ていることしか出来そうにねーけど、いいんだろうか。

 アストは俺が目を離した隙に村の連中とも交流を図っていたのか、畑仕事や繕い物なんかに参加させて貰ったりしていた。畑仕事は早々に腰をやってしまったのかすぐ木陰でダウンしてたけど、繕い物の方は中々楽しそうにやっていた。

 

「見て見て! これねぇ、ロウさんと僕!」

 

 嬉しそうな顔でぐいぐい見せてきたのは俺が頼んでいたシャツで。

 これは以前肩の部分がほつれてしまってダメになり、自分で直すには立て込んでいた為女連中に頼んだものだ。中々返ってこないからほとんど存在を忘れかけていたが、まさかこんなところで出会うとは……。

 

「よく出来てる……出来てるけどなんで背中にデケェ刺繍入れた?!」

 

 アスト曰く「ロウさん()(アスト)」の模様。笑った顔が二つ並んでいる刺繍だ。事前に聞いた話だとアストは裁縫はほとんどしたことがないのだという。その割に上手なのはそうなんだが、なんで急に刺繍した?? っていうかやってもいいけどせめて肩の部分も直してくれ。ほつれがそのままじゃなかったら自分のシャツって気づいたかは怪しいけど。

 

「んふふ〜刺繍って面白いねぇ」

「いやまあ、いいけどよ。楽しそうだから……」

 

 アストから刺繍を受け取って短くため息をつく。ちなみに肩のほつれは直す前に飽きたそうだ。これ最初から自分で直した方が早かったやつだな? しかも刺繍の主張が強すぎてもう直しても外じゃ着れねえ。

 

「ところでロウさん、」

「あ?」

「ロウさんロウさんロウさん!」

「なんだよ連呼すんな!」

 

 自由な振る舞いは子供のそれだ。鬱陶しさよりも好ましさを感じるのは、何故なんだろう。

 アストは期待に目を輝かせて俺を見た。

 

「今日のお昼ご飯は?!」

 

 そう言われて、腑に落ちた。

 考えればすぐにわかることだ。この少年が、実際に拳を交えるまでもなく理解できる強さを持った子供が、わざわざ俺に懐いたような態度を見せる理由。

 

「残念だったな。普段は朝夕の二食なんだよ。昨日のは偶々突撃猪(グレートボア)が来たから昼があっただけ」

 

 アストは俺の発言にわかりやすく「ショックを受けました」という顔をした。

 

「う、うそぉ、お昼……お昼ないの……?」

「ねぇよ」

 

 バッサリ切り捨てるとアストはややよろめいた後、キリッとした顔で俺を見上げた。

 

「じゃあ僕が獲ってくる! 獲ってきたらお昼作ってくれるんだよね?! ロウさんがご飯作ってくれるんだよね?!」

 

 ハイハイ、と雑に流す。

 余程俺に会う前飢えていたのか……その割に昨晩目にしたアストの体はそこらにいる少年のそれと変わらないような気がしたけれど、食事、というものに何やら執着があるようだ。

 飢えが辛いのはその通りなので気持ちは分からんでもないんだが……二食も食えてれば充分じゃねーか? ダメか? これが噂に効く育ち盛りとやらなのか?

 

 ともかく、「絶対だよ〜!」と言い残してアストは瞬く間に魔の森へと消えていった。監視、とは……。

 

⭐︎

 

 ドカン、ドカン、と森の方から衝撃音が鳴り響いている。十中八九アストのやつだ。一応確認だけして、それからすぐに森に引き返した。あいつについて行ったら命がいくつあっても足りなさそうだった。

 怯える村の連中にこちらへの害はおそらくないことを伝えた後、家で調理作業に取り掛かることにした。どうせアストは突撃猪(グレートボア)しか獲ってこないだろうし。野菜も食わそう。

 村で育てている野菜の中からいくつか選んで煮込み料理を作ることにする。

 ロキャの根を一口大に切り分けていく。これは生でも食えるが、味にクセがあるのが難点だよな。だが色が赤く鮮やかだし、火が通ると甘みがあって美味い。水と一緒に鍋に入れて沸かすに合わせてゆっくり火を通すと食べやすくなる、そうだ。

 ジャベジの葉はちぎって、筋の部分を薄くスライスしていく。筋はそのままにすれば歯応えがあるんだけど、俺はくたくたになったやつが好きなので。

 ニオニンの実はなぁ、甘くて美味いんだけど、切ってると涙が出てくるのが面倒だ。でも美味いからくし切りにしてこちらも鍋の中へ。

 最後にはポトンの実で、これも一口大に切っていく。気をつけないといけないのが、ポトンの実には毒があるということだ。だから決して生で食べてはいけないのだそうだ。俺は知らなかった時に齧ったことがあるが、確かにしばらく腹痛に襲われて大変な目にあった。確実に火が通るように確認しながらことこと鍋で煮ていく。

 

 浮かんでくるアクをたまに掬いながら、森の音に耳を傾ける。……まだドカンドカンいってんだけど。何? あいつ何しに行ったの?

 後一応、突撃猪(グレートボア)討伐の適正人数は三人以上からだ。だからといってアストのことは全く心配にはならない。なんなら森の方が心配だ。突撃猪(グレートボア)の生息域より奥に入り込んでめちゃくちゃにしてないといいんだがなあ。

 

⭐︎

 

「ただいま〜! ご飯ご飯ご飯っ!」

「うるせえ」

 

 三十分もしないうちにアストは戻ってきた。つーかただいまって何だよ。バタバタと駆け込んでくる様子といい、家に入って早速料理中の俺の背中にぶつかって主張してくるところといい、自由に振る舞いすぎだろこいつ。遠慮とか知らなさそう。

 

「で? 早かったな。何も獲れずに逃げ戻ってきたかよ?」

 

 そうではないと分かっていながら、敢えて煽るように言う。アストはニヤリと口角を上げて、俺の腕をぐいぐい引っ張った。

 

「見ればわかるんじゃない? 中に運べなくてさぁ、外来て!」

「はいはい」

 

 火を落として、腕を引かれるままに外に出る。……こいつ力は結構強いんだよなあ。体力はなさそうなのに。ひょろいし。

 

「……おい」

「うん!」

 

 家を出てすぐのところに()()()()()()突撃猪(グレートボア)を見てアストに声をかけると良い笑顔が返ってくる。いや「うん」じゃなくて。

 

「テメェ何体獲ってきてんだボケ!!」

「ええ? 十体くらいかな?」

「加減しろバカ!」

 

 もうちょっといるかもだけど、と笑うアストの頭を軽く小突いて声を荒上げる。今から飯として食うぞって時に到底食い切れない量を獲ってくるやつがあるか。お前が獲ってきた突撃猪(グレートボア)だけじゃなくて煮物……汁物? もあるんだぞこっちには!

 

「大丈夫だよぉ、食べれるもん」

 

 アストはそう言うが、こいつの食欲はあまり信用できない。昨日の昼の突撃猪(グレートボア)の時は一頭をみんなで分けたのをほぼ腹に収めてなお次を要求していたのに、夜はスープ一杯で満足して、朝は肉団子二つで満腹そうにしていた。なんというか、食欲にムラがある。大量に獲ってきて、調理して、それで食べきれないなんてのは論外だろう。

 

「まあ、村の連中にも最悪回せば何とかなる……か?」

 

 ならないかも。突撃猪(グレートボア)は結構デカい。成獣は脚一本でアストの半分くらいの大きさがある。それをこいつ、十体以上て。どうやって運んだんだよとか、本気で食えるつもりでいるのか? お前の体重より量あるけど? とか、言いたいことはあったが、言う前にアストが不満げに口を開いた。

 

「なんで村の人たちにあげるの? 僕が獲ってきたのに……」

「テメェも今日は色々遊ばしてもらってただろうが何かしら還元しろ」

 

 なお昨日の昼に関しては俺の分(と、分け前を俺に調理してもらうしかない哀れな野郎ども)から出しているのでそこは不問にしておく。

 

「まあ……ちょっとくらいなら良いけどぉ、」

「だいたい、テメェ肉だけ食えると思うなよな。野菜も食え」

 

 勝手に作っておいて何だが。

 アストはパッと嬉しそうな顔をした。

 

「ポトフだね?!」

「あ? ぽとふ?」

「あれ? 違った? 野菜のスープだよね? ハーブっぽい匂いとかするし……いや僕も細かい定義は知らないけど」

 

 二人揃って首を傾げてしまう。

 俺が作ってたやつってポトフっていうのか? ぶっちゃけ俺は料理の名前ってよく知らないんだよな。人が食ってるの見ていいなと思って作ってみてるだけだし……。

 つーかこいつよくあの飛び込んできて俺を引っ張って外に出て、の一連の流れの中で鍋の中身までわかるよな。怖っ。

 

「じゃあまあ、それで……そのポトフ? とやらがあるから、お前も野菜は食えよな」

「うん! 僕ポトフ好きだよ〜嬉しいなぁ」

 

 意外と乗り気で安心した。よく考えれば昨日の汁物の時もお代わりしてたくらいだし、野菜が嫌いってわけでもねーのかも? 肉の方が好きなだけで。

 

 さて、山になった突撃猪(グレートボア)は村の男連中に手伝わせて、なんとか解体作業を終わらせる。駄賃として肉をいくらか持たせても、かなりの量が残った。アストはやはりブーブー文句を言っているが、そこは満足しろよ、と言いたい。これ残った分だけでも普通に食ったら一週間あっても食い切れない量だぞ。まあ一週間あったら肉は腐るが。

 

「とりあえず、食う分だけ避けとけよな。残りは燻製にするから」

「燻製に?」

「そぉ、塩漬けにして干して燻製にすんの。保存食だよ。じゃねーと腐っちまうんだから」

 

 とはいえ量がなぁ、アストが今日のうちにめちゃくちゃ食ってもなぁ、一度にこんな大量に作ったことねーわ。燻製用の木屑ってまだ残ってたかな、去年使い切ってねーよな? 俺、保存食は冬前しか作んねーからなあ。

 

「べ、ベーコン……?!」

 

 ぼんやり思考を続けていると、アストが何やら呟いて震えていた。なんだ、寒いのか?

 

「べ?」

「ベーコン! ベーコン作れるんだね、ロウさん!」

 

 また俺の知らない名前が出てきた。塩漬けの燻製肉ってベーコンって名前なの?

 

「お前が思ってるやつと俺が言ってるのが同じかは知らねーけどな」

「いや! 多分合ってる! はず!」

 

 名前があるとわかりやすいからいいけど、アストが嬉しそう過ぎてちょっと怖い。何でそんなに興奮してるんだこいつは。

 

「なんか喜んでるとこ水を差すようでアレだが、燻製までに何日か肉を干す必要があんだからな。すぐには出せねーぞ」

 

 一応釘は刺しておく。こんなしょうもないことで落胆されてはつまらないし。

 

「オッケーオッケー! 今日はポトフだもーん」

 

 きゃらきゃらとアストが楽しげに笑う。よく笑う子供だ。平和で何よりだと思う。

 

 ……結局アストは昼にほとんど野菜の汁物(ポトフ)しか口にしなかった。空の鍋と残された肉の塊を見ながら思わずにはいられない。

 

「あいつは何がしてぇんだよ?!?!?!」

 

 怒りのままに肉の塊にフォークを突き立て、小さな穴を開けていく。塩漬け燻製肉(ベーコン)を作る時にはこの作業はほぼ必須だ。アストのやつも始めは珍しそうに参加していたのだが、途中で「飽きちゃった!」と勝手に離脱してしまった。しょうがないので一人で淡々と作業を進める。まあ、あいついてもぐだぐだ喋ってばっかで全然手は動いてなかったから元々戦力にはなってなかったし、さして問題ないか。

 穴を開け切った頃にはだいぶ握力が失われていたが、残った気力でもって肉の塊たちに塩を擦り込んでいく。香草も一緒に擦り込んで、一通り作業を終えれば、あとは干すだけだ。

 風通しのいい冷所を選んで肉を並べていくと、なんだかいつになく家の中が狭くなったような気がする。

 

「気がするっつーか、物理的に本当に狭くはなってんだけどな?」

 

 今までこの家で過ごしててこんなに圧迫感を覚えたことねーよ!

 

「発想を変えようよ、圧迫感じゃなくて、寒々しい部屋に温かみが出たと考えようよ!」

 

 姿を消していたはずのアストがしれっと戻ってきてそんなことを抜かす。人様の家に対してなんて言い様だよこいつ。

 

「てか、だから俺の思考と会話すんなっての!」

「だってロウさんわかりやすいんだもーん」

 

 言われたことねーよ、んなこと! 今までこんなに怒鳴ってたこともないし、なんだか一人でいる時より疲れる。疲れるけど、悪い感じのしない疲労だ。なんて言うんだろうな、こういうの。

 きっとこいつが居着いている限りは、こんな日が続くのかもしれない。いつ急に終わるにしろ、それはそれで悪くもないのかな、なんて思い始めている。……俺ちょっとチョロいか?

 

「あーあ、家が狭い」

 

 隣でにやにや笑う子供の方を決して見ないようにして、口だけでぼやいた。






第四話は22:30頃更新予定です
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