俺の周りが変な奴ばっかなんだけど?   作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍

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第四話「匂いにつられて、」

 

 

 突撃猪(グレートボア)の肉の塊を塩漬けにした日から五日後。そろそろ味が馴染んだ頃合いだろうから、燻製の作業に入ることにする。

 燻製する時には適当な大きさの箱、つまり今回は割と大きめのものをいくつか用意しておく。肉が地面につかないように串か何かに刺して地面に突き立て、近くに木屑を置いて火をつけ、箱をかぶせておくだけで準備は完了だ。この時箱の大きさに気を付けておかないと、普通に箱が燃えて燻製どころではなくなるので注意が必要である。……ちなみに俺は最初の冬に何回かやらかしている。

 あとはしばらく、例えば朝から作業を始めたなら太陽が真上に上がるくらい燻しておけば塩漬け燻製肉(ベーコン)とやらの完成である。

 

 燻製中は余程のことがなければすることもないので、喚くアストのために食事を用意したり、村の連中の監視をしたり、畑仕事を手伝ってやったりして過ごしていた。

 アストは「僕、ベーコンのこと見守ってる!」とかなんとかほざいていたのに、早々に飽きたのか村の男どもに絡みに行っていた。あいつ馴染むの早くねーか? いや、馴染む、というにはアストに対してどうにも村の連中は恐々とした反応だが……アストも特段親交を深めた相手がいるわけでもないようだし。雑に絡んでは放り出している、という感じだろうか。わがままな子供らしい、のかも。

 

 太陽もだいぶ高くなってきたので、燻製の様子を確認しにいく。量が量だから匂いがきついだろうと思って、村の離れにある家の前で作業してたんだが、向かう道すがらすでにかなり匂いが強まっている。燻製終わってもしばらく家の方に匂いこびりついてそうなのがなんか嫌だな。

 そんなことを考えながら、家の前までたどり着く。と、そこにはたくさんの箱と煙──

 

「えっ、誰??」

 

 ──と、それを齧り付きで熱心に、なんなら睨む勢いで見つめている一人の男がいた。

 

「なんだ貴様、私に何か用か」

 

 神経質そうな声が嫌そうに話しかけてきた。

 いやいやいや、何か用か、じゃねーんだよ俺の住んでる家の前なんだよここは! あとお前がじっとり眺めてる箱も俺が用意したやつ!

 

「……ッ」

 

 そう主張してやろうと男の顔を見て、思わず息を呑んだ。

 

「ほう? この匂いの箱は貴様の所有物か、素晴らしい」

 

 黒と見間違うほどの濃い紫の髪の毛に、血の色の目。鋭い目つきが検分するように俺を見ている。

 

「中身は塩漬けにされた突撃猪(グレートボア)の肉で、燻製中か。ふむ、ますますもって素晴らしい。しかし貴様程度の人間だけではこれほどの量を集めることは不可能だろう。協力者がいるな?」

 

 背丈はそれほど高くない。拳一つ分くらいは俺より低くて、身体の厚みだって、そうあるわけじゃない。

 なのに、その男から浴びせられる威圧感で言葉が発せられない。自然に初対面の相手を舐め腐ったような発言しやがってとか、協力者がいたとしてテメェになんの関係があんだよとか、言いたい事は色々あるはずなのに、喉が詰まった。

 この感じには覚えがある。つい最近にも同じようなことがあった。

 

「ロウさぁん! そろそろベーコンできた?!」

 

 アストだ。

 そう、アストに似ている。この男は。

 背後からぴょんと現れた子供は、何やら顔を顰めている男を見てにんまりと笑った。

 

「あれぇ、()()()さん。どうしたの、こんなところで。僕のこと、追いかけてきちゃった?」

「戯けたことを。私はこの燻製の良い匂いに釣られてやってきただけだが?」

 

 男の名前はゼンヅといい、双方の口ぶりからしてアストの知り合いであるらしい。匂いに釣られてやってきた、ってのはこの男基準だと戯けてないんだろうか。

 

「おかしなことを言う。貴様の仕事ぶりは誇るべきものだ。涎が出るほどの良い匂いだろう」

「ゼンヅさん、ロウさんは()()()()ないよ。顔に書いてあるくらいわかりやすくはあるけど」

 

 褒められている……ぽい、か?

 それはそれとして。

 

「お前ら二人揃って俺の思考を読むな!」

 

 俺そんなにわかりやすいか? そんなことなくない? 昔は表情がなくて気持ち悪いって言われたことあるくらいなんだぞ俺は。

 

「あーもう、アスト、お前の知り合いならお前でなんとかしろよな」

 

 主張を続けるにしてもバカらしくて、思わずため息が口から漏れてしまう。仲の良さげな二人は放置して、煙の後始末を始めた。出た灰は箒で集めて焼き物の壺にまとめておく。ベーコンは木の串から外して、今度はくるくると細い糸に結びつけていく。

 作業をしているとふと二人が静かなのに気がついて顔を上げた。

 

「うわ、」

 

 こちらの手元を凝視してくる四つの目玉があって、肩が揺れる。別にビビったわけではねーけど。

 

「やはり手際が良いな。貴様は職人か何かなのか? しかし手には剣だこがある……狩人……ではないな、弓は使えなくもないがあまり常用しているようには見えない。ここは人間にとって開拓地だったな、であれば用心棒か。役に立つとは思えんが」

 

 目の端に常にベーコンを映したまま、きょろきょろと俺を検分しながら男・ゼンヅが言葉を並べた。

 黙ってたと思ったら急に怒涛の勢いで喋るじゃんこいつ……。しかも結論は合ってるけどめちゃくちゃ失礼だし。

 

「アスト、なんとかしろって言ったよな。こいつ何?」

「了承はしてませーん! 僕は僕のベーコンの方が大事だもん」

 

 ぺろっと舌を出していけしゃあしゃあと言ってのけるアストをジロリと睨むと、ゼンヅはベーコンから目を離さないまま「なに?」と呟いた。

 

「どういうことだ、貴様のベーコン? この燻製肉のことか? それが全て貴様のものだと?」

 

 アストは両方の手ではさみの形を作って笑顔でもってゼンヅの疑問を肯定する。

 

「そうだよ! 僕が獲ってきた突撃猪(グレートボア)でロウさんが作ってくれた僕のベーコンだよ!」

 

 「いいでしょ、羨ましいでしょ」とアストがゼンヅの周りをぐるりと回りながら無邪気に自慢した。……いや無邪気かなアレ。明確に煽ってるかも。

 

「そうだな、貴様の息の根を止めたらいくらか私のものになるか?」

「ゼンヅさんにそれができるかなぁ?」

 

 やっぱ煽ってるわコレ。二人してバチバチに煽ってるわ。俺の家の前だぞ!

 

「あのさぁ、話が長くなりそうなら中入れよ」

 

 吊るしたベーコン、重ねた箱、灰を入れた壺を抱えて、物騒なじゃれ合いを始める二人に声をかける。

 アストによく似たアストの知り合いだ。どうせこいつも俺が勝てないくらいめちゃくちゃ強いんだろう。それは結構なことだが、目を離した隙にそこらを更地に変えられては敵わない。

 足で扉を押さえて、中に入るよう二人を促した。

 

 四つの目玉は仲良くぱちくりと瞬いて、何とも言えない微妙な表情で顔を見合わせていた。

 

「……アスト、彼はいつも()()なのか?」

()()()かは知らないけどね。面白い人でしょ?」

 

 なんか失礼なことを言われている気がするが、俺がともかくさっさと荷物を家の中に運び入れようと扉の内側に引っ込むと、二人も続いて扉を潜ったようだった。

 

⭐︎

 

「ところでゼンヅさん、本当に僕を追いかけてきたの?」

 

 リビングにある木製の机に肘をついて、アストが早速口を開いた。ベーコンや道具を片付けながら俺の耳がぴくりと動く。

 アストは、なんとなく同居が続いてこそいるが、その実正体不明の少年である。それを追いかけて来た存在がいるのであれば、そいつはアストについて何かしらの情報を持っている可能性が高い。そもそも二人とも知り合いらしいしな。

 しかし、冷たい声がばっさりと切り捨てる。

 

「戯けたことを、と言ったはずだが」

「ええ? だってそんなに食いしん坊キャラだっけ」

 

 だよな、と思う。

 追いかけて来たってのが本当に理由ではなくて、さっき言ってたベーコンの匂いに釣られてってのが本気で言ってるならだいぶ腹ペコキャラじゃねぇ?

 肩透かしを食らったような気持ちになりながら、ベーコンを保存庫に運び入れる。天井にフックかけて吊るしていった方が風通しが良くなって保存にはいいよな、多分。

 

 俺がリビングを離れた後も、二人の会話が何やら続いているらしいことはぼそぼそと漏れ聞こえる音から察せられた。

 

「ふん、どこかの誰かが余剰魔力の供給源をめちゃくちゃにしてくれたからな。おかげで私程強大な生き物は体を保つのに必要な莫大なエネルギーを別で供給せねばならん、というだけの話だ」

 

 フックは去年までにいくつかつけていたものがあるのでそれを利用して、多分それだけじゃ足りなさそうなので追加で五つくらい取り付けておく。

 

「そっかぁ、ごめん、ね?」

 

 一つ一つ、ベーコンを吊るしていく。なんか肉でカーテン作ってるみたいになってきちゃったな……。

 

「口先だけで謝罪をされても心に響かんな。そんなことより、何故貴様程の存在が、あの時凡夫と衆愚なぞの言うことを素直に聞いたりしていたのか、そちらの方がよほど興味を惹かれる」

 

 あんまり地面に近いところに肉があるのもなんとなく気分が悪いので、フックに括っておいたのとは反対側の端も別のフックに括りつけていく。これで保存状況もだいたい同じくらいになると思う。……多分、そのはずだ。

 

「あの時はぁ、遊び相手がいれば楽しいと思ったんだもん。すぐ壊れちゃったからそこは僕の目論見外れって感じ」

 

 つーか、昔ベッドの下に隠しておいたパンが腐ってたことがあってから、地面付近に食べ物があるのは嫌なんだよな。

 

「そうか。……貴様はまだ、()()()があるのか?」

 

 だってまだアレそんな日付経ってなかったんだぜ? 多分なんか、引き出しの中とか、そういうのとは条件が違うんだと思うんだよな。勿体ねーから検証したくはないけど。

 

「それを知ってどうするの? ゼンヅさんに何が出来るの?」

 

 後地面近くって虫とかネズミとか出てくるよな? 俺じゃないけど一回村のやつが備蓄をやられてた気がする。

 

「無駄に私を挑発しようとするな。それで、どうなんだ」

 

 ベーコンを吊るした後は物置の隅に箱と壺を寄せて置いておく。この壺に関しては何故か特定の行商人が引き取ってくれるので、灰が出ても貯めとくだけでいいのは楽でいいよな。何に使ってるかはなんか怖いので聞きたくねーけど。

 

「さて、ね。まだわかんないよ、ずっとね」

 

 と、アストの呟きを最後に二人の間に沈黙が落ちる。内容はあんま聞かないようにしてたからわからんが、黙ってるってことは話終わった? それとも議論が煮詰まったか?

 保存庫から顔だけ出してアストに声をかけてみる。

 

「おい、アスト。茶とかいるか?」

 

 四つの目玉がギョロリと俺の方を見て、またしても顔を見合わせる。

 ゼンヅとやらが首を傾げ、アストが肩をすくめた。どうやら二人の間では仕草だけで意思の疎通が問題なく取れているようだが、それはそれとして喋れよ、って感じだ。

 

「リクエストがねーなら、適当に選んで持ってくけど?」

 

 ともかく話し合いが終わっているにせよ、膠着しているにせよ、喋ればいくらか喉は渇くだろう。淹れたお茶が無駄になることはないはずだ。

 そう思って保存庫のお茶がある棚を物色していると、リビングから声が二つ。

 

「ロウさぁん、僕棚の左上にしまってある柑橘の香りのやつがいい〜!」

「ふむ、では私はその二つ下の段にあるダーリトンのセカンドフラッシュをいただこう」

 

 なんでアストにだってお茶の在庫を教えてないのに何があるかわかんだよとか、こっちを見に来たわけでもないのに位置まで把握してんのはなんなんだとか、ゼンヅとやらは的確に在庫の中で一番高えやつ選びやがってとか、俺の頭の中を様々な文句が埋め尽くした。

 その上で、これだけは主張しておかねばなるまい。

 

「バラバラに注文出していいとは言ってねーだろ!!!!」






一挙四話掲載、お付き合いいただきありがとうございました。
第五話は2/28の夕方頃には投稿予定です。
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