俺の周りが変な奴ばっかなんだけど? 作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍
二人の前にそれぞれご所望のお茶を出してやる。まあうちにティーカップなんて上等なものはないから、お茶を淹れたのはマグにだけどな。雰囲気はないが言いっこなしだろう。
アストは受け取ってすぐ一口飲み、熱かったのか息を吹きかけて冷ましている。ゼンヅとやらはまず香りを楽しむように目を閉じてマグに鼻を近づけ、それからマグをゆっくりと傾けていた。
「ありがと〜! ロウさんも座れば?」
ご満悦の表情でアストが隣を指差す。ゼンヅとやらは我関せずの顔で、味わうようにゆっくりとダーリトンのセカンドフラッシュを飲んでいる。
いや、ここ俺の家な? 座れば、じゃねーんだよ。椅子もアストとその客人で使ってて三脚目はないし。どこに座れって? 宙?
とりあえず適当に倉庫から木箱を持ってきて部屋の角、つまり二人の様子が一度に確認できる位置におき、そこに座ることにした。
「んで? 席に着けってことは俺にもなんか話があんのかよ?」
俺の問いかけに、アストは「ええ?」と首を傾げた。
「ロウさんの方が僕たちに聞きたいことがあるんじゃないの?」
あっけらかんとした顔で、そんなことを言う。
そうかもな。聞きたいことは山ほどあるかも。手始めに聞きたいのは勿論コレだ。
「まだそこのお客人の紹介をされてないんだが、してくんねーの?」
アストは一瞬虚をつかれたように目を丸くして、それからニンマリと笑った。
「いいね! ロウさん、こちらゼンヅさん。ちょっと前に僕が偉い人に頼まれてゴタゴタやってた時に、それを邪魔にしに来てた魔族の人だよ」
アストの紹介を受けてゼンヅが会釈をした。お茶に夢中に見えてもちゃんと話は聞いてるんだな。
「そっかよろしく。俺はロウ。にしてもアスト、お前も偉い人に頼まれ事とかされたら受けるんだ」
当たり障りなく返したら、じっとりとした視線を二箇所から向けられた。
「なんだよ?」
「ロウさん、そこなの? 本当に気になるのはそこ? っていうかそれはそれで僕に失礼!」
むん! とアストが憤慨して見せる。ゼンヅもわかりやすく「呆れました」という表情だ。
いやでも、どう考えてもアストが人からの頼まれ事を素直に完遂するイメージがなくて……。まあ俺たちの付き合いも短いからそんなもんなのかな? あと気になることなあ。
アストからの紹介を思い返す。
「ゴタゴタやってて……ゴタゴタって何だよとか、邪魔しに来た魔族………………魔族?!?!?!?!」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「改めて、紹介に預かった魔族のゼンヅだ。よろしくする気は然程ないが、貴様の仕事ぶりには敬意を払おう。物の良さを損なわない丁寧な仕事に感謝する」
「あ、ハイ」
魔族……魔族って
「どうやらアストは貴様に何一つ説明をしていないようだ。こいつらしい、不誠実さだな。だから私が説明をしてやる。平伏して感謝してもいい」
「しねーけど?」
つらつらとなんか言っている。突然悪口を言われたアストはべっと舌を出して抗議しているが気にした風もない。つーかゼンヅって放っておくともしかして一人でもベラベラ喋りまくってるタイプなのか? 説明はまあ、聞きたいからいいけど。あと平伏はしない。
「ふん、ではまずどこから話したものか」
「はじめからにしてくれよ、中途半端なところから話されてもわかんねえ」
よろしい、とゼンヅはひとつ頷いた。
「ではこの世界の成り立ちからだが、まず二つの大きな力が衝突し、そこから発生した衝撃によって二つは分たれ──」
「はじめからすぎるだろ!!」
いやはじめから過ぎるのか? はじめがわかんねーから知らんけど。
「そういうんじゃなくてさ、アストとあんたの関わりの話が聞きてーかな」
「注文の多い男だな」
そうか?? 本当にそうか??
ゼンヅは面倒くさそうにため息を吐いてやれやれと頭を振っている。アストはというと困惑する俺をニタニタ笑ってみているだけだ。
「貴様の要望を聞いてやるとして、私とアストの関わりについてだったな。まず前提として、二年前に魔王が討伐されたことは知っているな?」
「ああ」
というか、勇者とやらが魔王を倒したことにより、開拓村の話が進んだとか何とかって話を、前に聞いた気がする。だから俺がこの開拓村に来た時には既に魔王は討伐されていたことになるわけだ。
「そしてその魔王を倒したのがアストだ」
「……えっ」
一瞬、思考が止まる。
「そして私は奴が旅をする途中で、」
「なあ、それってアストが勇者ってことか?」
勿論アストが強いだろうことは初めて遭遇した時からずっと感じていたが、まさか勇者とは。だってこんな、子供なのに?
ゼンヅが何か言いかけていたところを遮るようになってしまったが、先にこの疑問を解消したい。
「そうだ。人間にわかりやすく言うなら勇者で相違ない。……旅の途中で奴が私の寝ぐらの、」
「つーか勇者ってなんだ? 子供でもなれるもんなの? 魔王も何してたのかよくわかんねーし」
勇者って、魔王を討伐した後王国で祭り上げられてるって聞いてた気がするんだけどな。本当にアストのことなのか? こいつ今ここにいてスゲー暇そうに爪いじってんだけど? お前の話をしてるのにお前が飽きてんじゃねーよ。
魔王ってなんで魔王なんて呼ばれてんの? 魔族との関係は? なんで倒されなきゃいけなかったんだ?
俺は物をよく知らないから、話を聞いてるだけで芋蔓式に聞きたいことが出てきてしまう。ナンセルなんかは俺の
「貴様は茶々を入れないと人の話もまともに聞けないクチか?」
次は何を質問しようか考えながら答えを待っていたら、ゼンヅが苛ついたように眉間を押さえて吐き捨てた。元々深い眉間の皺がすごいことになっている。
俺は別に、茶々を入れたつもりはなかったけれど。でも確かに、自分が話しているところに横からあれやこれやと口を挟まれるのは茶々と言っても過言ではないかも。それに話の腰を折られたら良い気分でないだろう。
「……悪かった。これからは黙るから続けてくれ」
そう言って肩をすくめた。
ゼンヅは俺を鋭い視線で貫かんとするように睨みつけ、かと思えばふっと表情を緩めて薄く微笑んだ。
「いや、構わない。貴様はどうやら熱心な生徒であるらしい。今後も適宜不明点があれば質問するように」
どんな心境の変化があるのかは知らねーけど。苛ついてないならとりあえずは良しとしよう。
「あは、ゼンヅさんがにこにこしてる〜! めっずらしいんじゃない? 気に入った?」
先程までつまらなさそうに爪や髪の毛を弄っていたアストがニンマリと笑う。あからさまな揶揄いを態度から見てとったのか、ゼンヅは表情を無に戻して舌打ちをした。
「うるさい。貴様の発言は茶々と見なすので黙っているように」
「あはは、やっだよ〜だ」
きゃらりと笑うアストと眉間の皺を深くするゼンヅの反応は対象的で、相性はあまり良く無さそうに見える。だが会話をやめない、という時点で二人はそう仲が悪いこともないのだろうとも考えられる。もしくは、相性の悪さを覆すほどの何か強い一点で結びついているか、だ。それが何かはわからないけど。
ゼンヅは一口お茶を含み、仕切り直すように「さて、」と話し始めた。
「勇者とは何か、だったな。勇者とは勇気のある者──ということではなく、近年ではおおよそ
ちら、とアストを見る。
のほほんとマグを傾けていたが、俺の視線に気がついたのかアストはにっこりと微笑んで片手を振った。威圧感と存在感を抜きにすれば、見た目は本当にそこらにいそうな子供だ。
アストは微笑んだままマグを逆さまにした。中身が溢れる……と思いきや何も垂れてこない。どうやら一杯飲みきっていたらしい。それから俺の方に黙ってマグを差し出す。
「なので、貴様が先程言っていた“子供でも勇者たり得るか”という疑問への答えはこうだ。つまり、子供だろうがなんだろうが、魔王さえ倒せばその者は勇者である、と」
本当に?? こんな、お代わりの要求も口で言えないのに? 茶々入れんなって言われたからって無言で「ん!」ってマグを突き出してくるくらい子供なのに? つーかこっちの方が余程茶々だろ。
案の定話しながらも苛ついているゼンヅに断って、アストのマグと、それからやはり既に無くなっていたゼンヅのマグにもそれぞれお茶のお代わりを淹れた。
「そして魔王とは何か。魔王とは、世界を滅ぼさんとする……わかりやすくいえば悪意だ」
「悪意……」
ぼんやりと口から呟きが漏れる。
ゼンヅは律儀にこくりと頷いて話を続けた。
「そうだ。それを持つ者、さらには実行するだけの力を兼ね備えた者が魔王と呼ばれる。魔王が討伐されるのは、そうしなければ世界が滅びるからだ」
にこにことお代わりのお茶を飲み始めた子供は、そんな悪意を打ち滅ぼしたのだと、つまりはそういうことなのか。
アストが強いことなんて
「これで貴様の質問にはとりあえず答えた。あとはなんだ、魔王と魔族の関係あたりの話は……聞きたそうだな、よろしい」
いやそりゃ聞きたいけどな? なんで毎度俺の顔を見るだけで答えを聞かねーんだよコイツ。おそらく言葉以外の俺の反応から何かしら読み取ってるんだとは思うが、その上で一応俺の答えは聞けよ。これはアストもだけど!
「──簡単に言ってしまえば、魔王と魔族に関連性はない」
え、とまたしても間抜けな声が俺の口から漏れる。俺を見たゼンヅが何か言う前に、自分から質問を投げかけた。
「じゃあ、なんで名称がこんなに類似してるんだよ? つーか俺、街にいた時に“魔王が魔族を率いていた”とかって噂を聞いたことがあんだけど」
俺の疑問を聞いて、ゼンヅは「ふむ、」と顎に手を当てた。
「そう……そこは誤解を生みやすい点だといえる」
考えをまとめるように一瞬言葉を切ったあと、ゼンヅはまた口を開いた。
「魔族とは、生物が魔素に侵された上で人格を獲得した存在だ。魔素は人間にとって毒だったな」
確認するように尋ねられて、頷いて返す。
魔素が人間にとって毒である、というのは知らないものがいないほどの常識だ。摂取したが最後九割以上が死に至るほどの猛毒。だからこそ、魔素を主に内臓に溜め込んだ魔物を解体する時は、その可食部を見極める必要がある。なんならそこが難し過ぎて食料としては見込めない魔物は多い。
「当然全ての生き物にとってもそれは同じだが、ごく稀にそれを
さらりと告げられた言葉に目が丸くなる。
人間以外の生き物にとっても毒になるのは知らなかった。そしてそれを克服できる存在があるということも。つーか、もう、じゃあ魔素って何?
叩きつけられる説明に、頭が痛くなってくる。そろそろ俺の容量の限界が近い気がしてきた。
「名称が類似している件については、そもそも人間が名前をつけたものしか世界には存在しないという問題がある。つまり人間たちの認識においては、という話だが」
ええと、人が認識したものの識別のためにつけらるのが名前だから、ということだろうか。確かに知らないものに名前はつけられないよな。
「魔族は大きな力を持つので、他の生き物より魔王になりやすい。弱者では
えっと、つまり、魔族は魔王に従ってるわけではないってこと……かな?
「さて、そろそろ貴様の理解力を超えつつあるように思うので本題に戻ろう」
「助かる……」
ややぐったりしつつもなんとかゼンヅに返答する。俺のなぜなにって全部答えが返ってくるとこんなに疲れるんだ……初めて知った……。
「私は魔王に興味があった。奴がどのようにこの世界を滅ぼすのか、という点においてな。だからそれを阻む者がどんな相手なのかも確認しに行ったことがある」
そんなことある? 世界が滅ぶかどうか、じゃなくて、
変だ。やっぱりスゲー変だこいつ。
そう思いながらもツッコミを入れる脳の余裕がない俺をよそに、ゼンヅは話を続けた。
「そしてそこでアストに遭遇して、まあこんなやつだからな、一悶着あり、そして」
「僕が勝ったんだよね〜!!」
両の手ではさみの形を作ったアストが意気揚々と話に割り込んできた。結局茶々を入れられたゼンヅのアストを見る目が恐ろしい。視線で人とか殺せそう。
「つまり、そういう関係だ」
忌々しげにゼンヅが吐き捨てる。
本題短えな。
「こいつの邪魔立てにより、世界がどう滅びるかを見届けるという私の目的は阻まれた」
「それで、こいつを恨んでる?」
机にのびのびとダラけるアストを指して聞いてみる。
そんな感じはしねーけど、しねーと思ってたけど、一応。ここでコトを起こすんじゃねーぞって言うくらいの権利はあると思うし。多分。
「いや、恨みはない。気に食わない戯けだとは思うが。まあ、滅びなかったからこそ今日ベーコンに出会ったわけだしな」
最終的に食欲が勝ってんの?!?! じゃあ本当に腹ペコキャラなんだ……見た目は大人しそうなのにこいつずっと変だな……。
アストは机とほぼ一体化したまま腹を抱えて笑っている。
「あは、ふふふ、やっぱゼンヅさん変な人〜!!」
同感だけどお前が言うな。
「と、いうわけだ。説明したぞ。平伏しろ、ベーコンを出せ」
「僕も僕も! ベーコン食べたーい!」
偉そうな言い回しのゼンヅに続けて、アストが机をバンバン叩きながら主張した。自分だけのもの、と先程まで喧嘩……煽り合い? していたのはなんだったのか、どうやら分け合う形になることはもういいらしい。
空になった二人のマグを立ち上がって回収する。台所に向かうついでに二人に告げた。
「ベーコンなら今日は食えねーぞ」
燻製後のベーコンは煙のえぐみが強いため、それを抜くまで食べられない。そしてえぐみを抜くのには三日以上かかるのである。
そんなわけで、たっぷり一分後二人の非難の声が俺の家に響くことになったわけである。可哀想に……。
以降はストック分まで基本隔日更新になります。