俺の周りが変な奴ばっかなんだけど?   作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍

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第六話「騒がしい台所」

 

 

「ベーコンお代わり!」

「こちらもだ。次は指一本分厚めに頼む」

 

 なぜこんなことになっているのだろうか。

 ジュージューと肉が焼け、時折油の跳ねる音を聞きながら、思わず首を傾げてしまう。

 

 ゼンヅがこの開拓村にやってきてから早三日。そろそろ燻煙のえぐみもとれた頃、ということで俺は何故かベーコンをしこたま焼かされている。いや別に、焼くのは良いんだけどな?

 

「テメェらどんだけ食うつもりだよ加減しろバカ!」

 

 既にベーコンは五つめの塊に差し掛かっている。

 確かにアストがバカみたいに突撃猪(グレートボア)を獲ってきちまったから、そりゃもうバカみたいな量のベーコンはある。だとしても、だ。

 

「ベーコンは保存食なんだよ! 冬に魔物が寝ちまって、肉が食えなくなった時のためのものなの! 今バカスカ食ってどーすんだ!」

 

 アストとゼンヅ(二人)の前に置いた皿にそれぞれベーコンを乗せてやりながら睨みつける。

 このペースで消費を続けようものなら、このすぐ後にやってくる冬のことを思うと恐ろしい。開拓村では他の村と違って家畜を育てたりはしていないのだから、寒くなってから肉が食べたくなってももう遅いのである。

 

「えっ、魔物って冬眠するの?」

「魔物とは魔素に適応しただけの生物の総称だ。故に当然冬眠もする」

 

 きょとんと目を丸くするアストに、間髪入れずにゼンヅが解説した。……俺としちゃあ、勇者になるようなやつが魔物についてよく知らねーってのも、ちょっと変な感じなんだけど。

 

「へ〜! だから雪山だと全然生き物の気配がなかったんだね! テキトーに殺気投げたのに反応なくてなんでだろって思ってたんだ」

 

 あはは、とアストが笑う。

 そこに関しては十中八九魔物たちが眠りについていたことが原因かとは思うが、アストの威圧感のことを考えると、殺気にビビって逃げられた可能性も充分ありそうなんだよなあ。そこらの雑魚はそもそもアストには近づけねーだろうし。

 

「貴様、貴様貴様貴様ッ! アレはやはり()()()()()()か!」

 

 何考えてるのかわからない顔のまま味わうように、しかしかなりの速さでベーコンを口に運んでいたゼンヅが、急に火がついたようにキレ出した。

 勢いの凄さに思わず俺の肩が揺れたのは、多分二人ともにバレている。

 

「私は気持ちよく眠りについていたんだ。だというのに貴様の雑な殺気で、クソ、見に行ってみれば勇者(観測の邪魔)だというし、」

「おまけに僕に負けちゃうし?」

 

 にやりと煽るアスト。ゼンヅから振り撒かれた殺気の余波だけで俺なんかは歯の根が一瞬合わなくなってたりするのに、この余裕である。見習いたくね〜〜。

 

俺の家(ここ)で喧嘩すんなよ」

 

 念の為、一言声はかけておく。

 それでどうなるわけでもないだろうが。

 

「ふん、喧嘩などしない」

「そうそう。喧嘩なんてできないよ、僕たち手加減が下手なんだから」

 

 と、思ったのだけれど、存外素直に二人は矛を収めることにしたようだった。二人の視線が皿に釘付けなあたり、無言で追加したベーコンが決め手の可能性もある。

 

「でも、そっかぁ。ベーコンを今食べ過ぎたら、もしかしたら食べたい時に困るかもなんだね?」

 

 ふぅん、とアストが頷く。行儀悪く机に肘をついて、俺に向けてにこりと笑った。

 

「じゃあベーコンばっかり食べたらダメだね。次は牛にしよう。ハンバーグは作れる?」

「はん……?」

 

 アストは納得したような顔で、全く納得のできないことを宣った。牛にしようって何? 多分家畜の話だよな? お前この村の中充分見て回ってんだからいねーってことわかって言ってるよな? あとはんばーぐって何?!

 

「貴様の言葉の文脈から察するに、そのハンバーグとやらは肉料理だな? しかし、ベーコン、ハンバーグ……言葉の関連性が読めんな」

「あは、ハンバーグは地名が由来だよ。ベーコンはぁ……どうだったかな、部位の名前が由来とかだったような?」

 

 またなんか俺を置いて二人で話している。いやそれも気になるのかも知んねーけどさあ!

 

「言っとくけど! 作り方わかんねーもんは作れねーんだからな!」

 

 四つの目玉が愉快そうに俺を映した。

 

⭐︎

 

 というかなぜゼンヅは俺の家に居着いてるんだ。卵を割りながら、思わず口からため息が漏れる。

 

「なぜ? アストは私もベーコンを食べてもいいと言った。貴様も同意しただろう」

 

 後ろから俺の作業を覗き込んでいたゼンヅが言う。お返事ありがとうなんですけど俺が口に出してからにしてくんねーかな。

 

「いや、それは聞いてたし俺が焼くのは良いんだけど、だからって俺ん家に居着く必要はねーだろって話。近くの空き家紹介したろ?」

 

 そして家を紹介するにあたって、王都から戻ってきていたナンセルにゼンヅのことを報告し、たいそう疲れた様子で頭を抱えられたことも記憶に新しい。ごめんて。

 

「近く? 貴様はこの家だけ特別村にある他の家より離れた位置にある、という事実を都合よく忘れているな? 私にわざわざ移動という労力を割かせるつもりか?」

 

 ゼンヅはイライラと眉を顰めている。ごめんて。

 ……つーか一瞬流しかけたけど割と凄いこと言ってるよなこいつ。移動の労力すら割くのは嫌ってこと? どこのお貴族のご令嬢サマだよ……。

 

「まあ、いいけど。でも俺元々一人で暮らしてたし、使ってない部屋を取り敢えずで準備はしたけどよ、過ごし難くねーか? なんもねーし」

「ふん、貴様の気遣いは不足ない。そもそも私は元山暮らしだぞ。ここは楽園のようだ」

 

 素晴らしい食事も出てくるし、と続けてニヤリと笑う。アストもそうなんだけど、こいつら偶にめちゃくちゃ治安の悪い笑い方するのなんなの?

 

「あ、アストといえば、」

 

 今ここにいない子供のことを思う。

 

「あいつ、ナンセルに呼び出されてたけどさ、何の話するんだろうな?」

 

 にこにこと面白がるような笑みを浮かべていたアストは、ナンセルに呼ばれて現在管理人の屋敷へと足を運んでいる。はじめの夜にナンセルへ報告した時の両者の態度を見るに、相性は良くなさそうなんだけどなあ。主にナンセルにとって。

 ボウルに割り入れた卵を崩して、村で育てている穀物の(バクム)粉とふくらし粉と混ぜ合わせていく。一度沸かしてから冷ました水を少しずつ入れながら、()()にならないように。

 

「何の話、など。貴様は本当に戯けたことを言う」

 

 呆れ声が後ろから刺さる。

 

「っせーな。悪かったな頭悪くて!」

 

 俺がつい反射で吠えると、ゼンヅは「いや、」と存外柔らかい声で言った。

 

「何にでも疑問を持つことは、貴様の美徳の一つだろう。考えなしの愚か者よりは余程良い。例えその内容が戯けたことであってもな」

 

 褒めてんだか貶されてんだかわかんねーな? とは思うものの、おそらく褒めているつもりなんだろう。こいつにとっては。

 

「ハイハイ。そう言うなら、ゼンヅが思う“話”ってのが何なのかも教えろよな」

 

 風味付けのために、ほんの少し生地に蜂蜜を混ぜる。自分一人だと中々使う機会がなくて持て余していたのに、最近はちょこちょこ使うこともあってそろそろ瓶の中身も底をつきそうだ。本格的に冬が来る前に村には行商人が訪れるはずだから、再購入を検討しておこう。

 

「貴様の話ぶりから察するに、管理人の男・ナンセルとやらは王国から遣わされた役人、という立場だな。この開拓村の管轄はディーン王国。つまり管理人はディーン王国の、優秀だが辺境の村に送れる程度の木っ端貴族ということになる」

 

 言い方ァ。

 実際そこら辺の情報は俺がナンセルに聞いたのと大差ないから合ってるんだけど、言い方とか言葉選びってもんがあるだろ。

 俺のじとりとした視線に気づかないはずもないのに少しの反応もなく、ゼンヅは淡々と続ける。

 

「魔王討伐のために勇者を立てたのは隣国のグラム王国だが、当然その情報はディーン王国にも伝わっている」

「グラム?」

 

 生地を混ぜる手を止め、思わずゼンヅの方を振り返……ろうとしたら後ろではなくてすぐ横にいた。音もなく移動するなよこちとら料理中だぞ危ねーな!

 

「そうだ、大国グラム。彼の国は勇者(アスト)の手によって上層部がめちゃくちゃになっていてな。国家間で人相描きの注意喚起が出回っている。おおよそ管理人はそこに勘づき、王都(自分の上司)に判断を仰ぎにいったのでは?」

 

 ゼンヅは腕を組んだ状態で俺の手元を覗き込みながら話を続けている。スゲー興味津々なのに、なんでこんなに態度だけ偉そうなんだろこいつ。

 つーかアストも何やってんだあいつ。グラムって本当に、ディーン(うち)の五倍くらいある……らしい国だぞ。やりそうかどうかで考えたら、まあ、すごく。

 

「やりそ〜」

「やりそう、というかやったんだ。アレは」

 

 じゃあお尋ね者じゃん。あ、だからか?

 

「そうだ、つまり今管理人はアストと政治的なやり取りをしているのだろう。人が奴に対してできることなどないが」

 

 セイジテキナヤリトリ。厄介ごとの気配にげ、と舌を出す。上同士の難しい話は嫌いだ。頭が痛くなるし。でも、やっとナンセルが俺を場に呼びつけず、アストにだけ声をかけたのかはわかった。

 

「俺には荷が重い……ナンセルの判断は正しいな」

「それもあるだろうが、管理人は単に貴様を関与させたくなかった、とも考えられる」

「うん?」

 

 よく意味が飲み込めなくて、横にいるゼンヅに視線を向けた。

 手元では完成した生地をよけて、次の準備を進める。ルルミというきのみの殻を指先で砕いて、中の果肉を集めていく。

 バキッ、バキッ、という殻の割れる軽快な音の中、ゼンヅは呆れた顔でため息を吐いた。

 

「アストは人に制御できる生き物ではない。だがロウ、貴様は違うだろう。貴様には情があり、立場があり、それは(しがらみ)だ」

 

 アストって、ゼンヅから見てもそんな感じなんだな。人には制御できない子供。じゃあ何なら、あいつを制御できるんだろう。

 ルルミの果肉を浅鍋で炒りながら考える。焦げ付かないようにヘラで時折混ぜながら、香ばしい匂いを目安にする。

 

「アストと管理人との間で交わされるやり取りが必ずしも穏当なものであるとは限らない。貴様がその場にいれば、何かしらの選択を迫られることになるだろうな」

 

 浅鍋を火から下ろして、ルルミを清潔な布に出した。炒ったあとのルルミが飛び散らないように注意して布の端を閉じて、果肉を麺棒で叩き砕いていく。

 

「随分、丁寧に説明してくれるんだな?」

「私は元々親切さが売りだ」

 

 ぜってー嘘じゃん。

 砕いたルルミを蜂蜜の瓶に入れて、果肉と蜜を絡めていく。混ざったところで小皿に移し替えて、混ぜるのに使ったスプーンをゼンヅに押し付けた。

 

「……人が皆、これほど素直であればな。いやそれはそれでつまらんか」

「うるせーな」

 

 単純で悪かったな。でも渡されたスプーンに残ったルルミの蜂蜜和えに何の疑問も挟まずに食っちゃうお前も中々素直だよ。

 ルルミを炒った時に出た果肉の油が残る浅鍋に、お玉で掬った生地を流し込んでいく。

 

 独特の甘い香りが、台所に充満する。流し込んだ生地はぷつぷつと気泡を弾けさせ、匂いに少し香ばしさが混じった。

 

 隣からの熱視線を感じながらも、ヘラを使って生地をひっくり返す。現れた穴狐(きつね)色にごくりと唾を飲み込む音が聞こえて、小さく吹き出してしまった。

 裏面も同じだけ火を通して、用意しておいた皿に移す。すかさず伸びてきた手に静止をかけて、二枚目へ。

 

「で、ルルミの蜂蜜和え(これ)を乗せれば……」

 

 蜂蜜の黄金を纏ったルルミが、暖かな生地の上で美しく煌めく。立ち昇る湯気すら甘く、優しい。

 

「貴様は、本当に…………良い仕事をする」

 

 どこか恍惚とした表情を浮かべるゼンヅを、ニヤける頬を無理やり押さえ込んで敢えて気取った仕草で促す。

 

「お褒めの言葉はお召しになった後でどーぞ?」

 

 席につかせて、ゼンヅの目の前に皿を置く。

 素早く、しかし優雅な動きで、ゼンヅが()()にナイフを入れた。さっくりと切り分けて、口に運ぶ。

 と、バタン! と大きな音が聞こえた。

 続いてバタバタとこちらへ向かう忙しない足音。

 

「ねぇねぇねぇ! 管理人さんから卵もらったって聞いたよ! ロウさんおやつ作って! 作って作って……ええええ?!?!?!」

 

 賑やかな子供だ。

 怒涛の勢いで盛り上がって、それからやっと目に入ったらしい光景に非難の声を上げている。

 

「それパンケーキ?! なんでゼンヅさんが食べてるの?!」

「とても素晴らしい」

「わかってるよ! よく考えれば匂いでわかるよ!」

 

 へえ、このおやつパンケーキって言うんだ。

 

「知らなくても作れるならハンバーグも作ってよぉ!」

 

 はんばーぐは存在を知らないので作る作らない以前の問題なのである。

 

「つーか、食べ物があるところでバタバタすんな」

「ねぇロウさん! 僕の分は? 僕のパンケーキは〜??」

 

 聞いちゃいねー。

 だが、と喚く丸い頭を見下ろした。

 ここ最近で見慣れた姿と変わらない様子だ。話し合いはきっと大事にはならなかったのだろう、と少し安堵した。

 

「夕飯もちゃんと食えよな」

 

 途端に華やぐ表情に小さく息を吐いて、俺は再び浅鍋に向き直り、生地の入ったボウルを手に取った。

 

 ……あと何回焼いたら満足してくれっかな、コレ。

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