俺の周りが変な奴ばっかなんだけど? 作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍
村に行商人が来た。
このおっさんは去年や一昨年もそうだったのだが、本格的な夏や冬の手前で訪れるので、俺としても
「一応目録の共有はされてっけどよ、お前らも見てみるか?」
ナンセルから渡された目録の書いてある板を、二人の前でひらりと振る。
そういや、アストとゼンヅって文字読めんのかな? いくら頭が回ったり心を読んできたりめちゃくちゃ強かったりしても、実態は子供と魔族だ。つーかこの村でも文字なんて読めるやつの方が少ないし……かく言う俺は読めたり読めなかったり。よく使う文面とかはすんなり読めるけど、小難しい言い回しは苦手だし、あと書くのも苦手。
「うーん、目録かぁ。僕はいいかな。でも面白そうなのがあったら教えてね!」
「私は見るぞ」
この反応はどちらだろうか。読めても読めなくても同じ反応しそうなんだよなこいつら……。
結局、ゼンヅと二人でしばらく目録を眺めていたら、放置されたアストが仲間外れ云々と騒いで目録を見るどころではなくなってしまった。
「クソ……私はゆっくりと目録を確認したかったんだ。それを貴様、」
「もう! ぐちぐち言わなくっても良いじゃん。ゼンヅさんもどうせ中身覚えたでしょ?」
「そういう問題ではない」
何やら喧嘩している風な二人のやり取りから目を逸らして、手元の板だったものを見る。すっかりバラバラになってしまった目録の残骸に、思わずため息が出た。……ナンセルから預かったのは予備というか、写しだから、この事でナンセルが困ることはないだろうが、まあ俺は後で怒られるんだろうな……監督責任……。
「お前ら、個人的にほしいモンがあれば一応声かけろよ」
気を取り直して二人に声をかける。
村全体に必要な物があれば、事前にナンセルが管理人として行商人と交渉を済ませている。なので、俺たちが買うべきなのはこの冬を越すために自分たちに必要な物だけだ。
アストとゼンヅは「はーい」「了解した」とそれぞれお行儀良く返事をして、行商人が店開きをしている村の広場へと寒空の下向かっていった。
⭐︎
行商人はこの冬も王都から様々な商品を持ってきたらしい。広場には簡易的なテントが張られ、屋根の中と外に商品たちが山積みにされている。
保存の効く食料品に王都でブームの雑貨、最近出回っている便利な道具に、
「ね、これどう? どうかな?」
売り物である冬用の厚手の
「おー、似合う似合う」
薄灰色に白で模様の引かれた
「気に入ったならそれ買うか。他は何が良い? お前もゼンヅも、旅してたって割に荷物がないんだから、もう何枚か冬服は必要だぜ」
褒められてご満悦、という表情のアストにそう声をかけて山に積まれてる冬服の中からテキトーにセーターを取り出して体に当ててやると、途端にむっと唇を尖らせる。
アストはくるりと回って俺から距離を取り、べ、と舌を出した。
「セーターはもうすぐ新しいの貰うからいらないもーん」
「な、」
言葉が詰まった。
これ俺が編んでるセーターのことだよな? なんでバレてんだよ。アストが見てるところで作業なんざしてねーし、毛糸だって隠してた。
でもまあ、バレるだろう、とも思う。いくら俺が隠したくても、こいつが見つけようと思えば。
じんわりと耳が熱を持つのが自分でもわかる。ニンマリと微笑むアストが恨めしい。
「それよりほら、ロウさんも新しい
「強要すんな」
渡された
「じゃあ、
ふと、一着の
「おい、ゼンヅどこにいる──」
大きさを見ようと着せる当人を探すと、どうやらこちらから少し離れたところ、テントの奥で行商人のおっさんに詰め寄っていた。
「商人のくせに本の在庫はない? どころか仕入れはしていないだと? なんたる怠慢だこの戯け」
「あの、いやねぇ、お客さん……ええと、」
ああ、ゼンヅのやつ本が読みたかったのか。それが本は売り物になくてイラついている、と。まあ村に本読むようなやついねーから、そりゃ行商人のおっさんだって仕入れてこねーよ。
「人間如きが……」
「ヒィッ」
「待て待て待て!」
苛立ち混じりに気配に殺気を乗せ始めたゼンヅを羽交締めにして行商人のおっさんから引き剥がす。ここでおっさん以外の人間には殺気が向かないように、どうやら指向性を持たせているらしいところはめちゃくちゃ器用なんだけどそれ以上にコラ!
「悪りーなおっさん、こいつ朝からイライラしててよ。向こうで落ち着かせとくわ」
何やら言いたげなゼンヅを無視して、行商人のおっさんに一声かけておく。殺気を気のせいとでも思うことにしたのか、おっさんには苦笑いで見送られた。ゼンヅをテントから離れたところで放して一息つく。
多少は誤魔化しが効く範囲で良かった。こんなくだらない事でこの村にくる行商人の数が減ったなんてナンセルに知られたら、怒られるなんてものでは済まないだろう。外気は冷たいのに
「あのなあ、一々殺気なんて出すな。駄々にしては可愛くねーぞ」
「は? 何が悪い。殺していないし攻撃もしていない」
それはもうやったら終わりなんですけど? なんつーか、生活をしていても偶にこう、ズレてんだよな。ゼンヅにしろアストにしろ、やって欲しくない事とやっちゃいけない事あたりのラインが独特っつーか。
「ま、本なら大抵の村にはそうそうねーよ。でもナンセルが住んでる管理人の屋敷の方にはいくらかあるはずだから、今度借りておいてやる。それでとりあえずは良しとしろ」
「……ふん」
ゼンヅを宥めながら、先ほど見つけた深緑の
俺が三着持って行商人のところへ向かおうとすると、ゼンヅが後ろから「ロウ、」と声をかけてきた。
何か他に欲しいものでも見つけたか、アストが暴れでもしたか、と思って振り返ると、ゼンヅは珍しいほど真剣な面持ちをしていた。驚いて、思わず息を飲む。なんだ、何を言いたいんだ?
「私は可愛いが?」
うるせーよ!!
⭐︎
家の中には、濃厚な気配が満ちていた。
「わぁい、今日の晩ご飯はチーズフォンデュなんだね?」
チーズフォンデュらしい。
と、いうのは置いておいて、三人で囲む机の上には一つの大鍋がある。鍋の中にはアストが
それぞれの手元にはロキャの根やポトンの実などの野菜やパンを一口大に切ったものを皿に取り分けてあり、各自それらを真ん中の鍋のチーズへ、アスト曰く
「ねぇ、ロウさんいいの?」
「あ? 何が?」
にっこりとお手本のような笑顔を浮かべたアストは、そっと自分の隣を指差した。アストの斜め隣にはゼンヅが座っている。
「ゼンヅさん、さっきからロウさんのお皿から具材を持っていっちゃってるよ」
「とても素晴らしい」
「待てコラァ!!!!」
見ると俺の皿からほとんどの具材が消えており、ゼンヅは頬を膨らませてもぐもぐと咀嚼を続けている。
おかしい、さっきまでは確かにあったのにアストの発言に気を取られた一瞬で持っていかれただと……?!
「戦場では気を抜かぬよう努めろ」
「ここ俺ん家ですけど?!」
ゼンヅがいけしゃあしゃあと宣う。口の中の物を全て飲み込んでから喋るあたり上品振ってはいるが、人の食事の強奪というとんでもねー行儀の悪さを披露した後じゃ台無しだ。つーか勝手に人の住んでる家を戦場扱いすんな。
「ダメだよゼンヅさん。ご飯を食べる前に、ちゃんと“いただきます”しなくっちゃ」
ケラケラ笑って、アストが胸の前で手を合わせる。そういや食事の前にいつもやってるけど、
「ふむ、食前の祈りの言葉か何かだな。ディーンやグラムでは見ない風習だ。人間が信仰しているカトラとは別の神への信仰がベースか?」
もぐもぐと食事の合間にゼンヅが言葉を発する。
……頭はやっぱりいいんだよな、こいつ。こんなに腹ペコなのになあ。なんだかバカらしくなって、諦めて自分の皿をそちらに寄せてやる。元々足りないだろうとは思って下処理済みの具材は避けて他にもあるわけで、俺の分はそこから持ってくればいいだけだしな。
あと
「んふふ、想像に任せちゃお。……あ、これおいし〜い!」
意味深な発言だけ残して、一口大に切られたパンを口に運んだアストは目を輝かせる。「ね、ロウさんもっと切って! ね、ね!」とねだられるなら、朝からパン種を仕込んだ甲斐があるというものだ。
「まず自分の皿を空にしたらな。お代わりはそれから」
まあ? どうしてもと言うなら、先に追加用のパンを出して少しくらい俺の皿に避けてもいいけども?
「私の皿は既に空だが?」
「だから今現在進行形で追加してやってんだろーが!」
ゼンヅが謎にいい表情で俺の方へ皿を突き出す。そもそも自分の皿の具材を食べ切って無言で俺の皿から取って、その上お代わりってどんだけ食う気なんだよ?!
食べ残しがないことと食べる姿が上品なことくらいしか現状良いところがないわけだが、まあ多めに用意しておいて良かったと言うべきなんだろう。チーズが気に入ったのかもしれない。
「ね、バクム粉はともかくとしてさ、」
ぱくり、とパンを口に運んだアストが話し始めた。
「ここって野菜とかたくさん育ててたよね。あっちは売らないの? それともアレも国に納める分なのかな?」
「おー……」
ゼンヅの皿に具材を追加しては即座に空にされ、追加しては空にされ……もうこれ追加用の具材が乗った皿ごと渡した方が早いな……となりつつぼんやりと相槌を打つ。
村の収入源が主に魔物の皮や骨、牙なんかであることを理解した上での発言だということは、流石の俺にももうわかる。だからこそ
だが、それだけ鋭くてもやはり子供だ。世界のことをあまり知らない。
「あのな、
「!」
ニヤッと口角を上げて見せる。
“魔素は人間にとって毒である”。魔素の塊である魔の森もまた、人間にとっては害のあるものに他ならず、この開拓村の存在意義もそこにある。つまり、人の住めない土地へ如何にして領地を広げるか。だからこの村に来るような物好きはほとんどが貧民上がりか、継ぐべき畑を持たない農家の三男坊あたりになる。
アストは虚をつかれたように目を瞬かせて、それから満面の笑みを浮かべた。
「思わなーい!」
楽しそうでなにより。
我関せずで食事を続けるゼンヅに倣って、俺もポトンの実をチーズに潜らせる。柔らかく伸びる白い糸を切って口に運ぶと、あたたかくて、程よく塩味が効いた優しい味がした。