俺の周りが変な奴ばっかなんだけど? 作:ヤバい奴らがわちゃついてるの好き好き侍
大切なのは、何故・どのようにしてそれが行われるのか。
理由なき現象に意味はなく、
過程なき結果に価値はない。
私はただ、それを知りたいだけ。
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朝起きると、吐く息が白い。
冬は家の中も外も空気が冷たく、布団から出るのが苦痛だと感じる。もう少し空気に湿り気が混じれば、そろそろ雪が降るだろう。温もりからなんとか這い出して身支度を整え、いつものように村の周りを見て回った。寒さのあまり表面の凍った共用の井戸も、薄氷を割って使えるようにしておく。例年このくらい寒くなってくると魔物たちもすっかり冬眠に入り、村の方へ来ることはないのだが、それでも習慣と万が一を考えて見回りを止めることはない。
家に帰り、玄関でかじかんだ指先に息を吹きかけていると、ひょっこりと黒みがかった紫頭がこちらを覗いた。
「今朝も見回りに行ったのか」
「おー、まあ魔物はいなかったけどな」
ゼンヅがこの時間帯に起きているのは珍しい。大体もっと太陽が高くなってからアストと共に起き出してくるのに。
「だろうな」と素っ気なく返事をよこしたゼンヅは、不機嫌そうに眉を寄せた。
「貴様、何故この前買った
棘ついた声色で指摘され、肩が揺れる。色の褪せた
ぐだぐだ考えつつ答えあぐねていると、ゼンヅが深くため息をついた。
「戯けが。貴様、私やアストに渡してきた防寒着の事を忘れたのか? セーターにマフラーに、おまけにいつの間にか帽子に手袋まで編みよって。どれだけの睡眠時間を削った? そこまでして新しい物を私たちに着せようとしているくせに? ふざけているのか?」
淡々と詰められる。めちゃくちゃイライラしてるのに怒鳴ってないのが逆に凄いよな、と若干現実逃避していると、ギロリと睨まれた。ごめんて。
「いや、でもそれはほら、お前らがそもそも防寒着持ってねーから……」
「うるさい」
「ハイ」
一応試みた弁明はぴしゃりと両断されたので、両手を挙げて降参する他ない。だってゼンヅのやつ、今も怒りながら俺の渡した防寒着着込んでるんだもん。俺が悪かったよ。
ゼンヅを玄関から暖炉のある部屋に移動させて火を入れた。ついでに水瓶に張った氷も割って、湯を沸かしておく。セウの根を擦り下ろしたものと湯をマグに注いで混ぜて、ゼンヅに渡す。唇が紫に変色しつつあったゼンヅも、多分これで少しは温まるだろう。
ザッと家事を終わらせて、すっかり暖かくなった部屋に戻る。ゼンヅは暖炉の前で読書に勤しんでおり、どうやら俺がバタバタしている間に一度二階にある自室へと戻っていたらしい。と、ゼンヅの傍に俺が渡したのとも買ったのとも違う毛糸の塊があることに気がついた。
「……ゼンヅお前、最近ずっと本読んでるよな。それ面白い?」
ナンセルから借りてきた甲斐があるよ、と声をかけると、俺の姿を目に止めたゼンヅは自身の傍の塊を指さしてふん、と鼻を鳴らした。
「回りくどい。聞きたいことがあるなら適宜聞くよう言ったはずだが?」
なんでバレてんだよ。
ぐぬぬ、と唸りつつ「ソレ、何」と訊ねる。
「これは、」
ゼンヅが本を置いて毛糸の塊を手に取り、広げて見せてくる。
「貴様に贈るために編んでいたセーター擬きだ」
は、と小さく息を呑んだ。
俺に贈るために、編んでいた? わざわざ?
じっと、毛糸の塊から目が逸らせず、声が震えないよう注意して口を開いた。
「擬き?」
「そうだ。貴様が作ったのがセーターなら、これはセーターとは言えまい。編み目はガタガタな上に前と後ろで何故か大きさが違う」
それでも確かに
「ちゃんと型紙使わねーから、ズレんだよ」
「貴様は使っていなかった」
よく見ると毛糸の色にも見覚えがある。
「そりゃ俺は慣れてるから、ある程度は出来んの。つーか初めてならほら、マフラーとか簡単なのから練習すりゃ良かっただろ」
動揺を悟られたくなくて、口がどうでもいい事を言う。多分俺の努力は無駄なんだけど、それでも取り繕わないと、何かがダメになる気がしたので。
「マフラーはアストの担当だ。きっと奴の出来だって私のものと変わりないだろう。残念だが今年の冬はこれで満足しろ…………と、言おうと思っていたのだが、」
ゼンヅがなんだか妙な表情を浮かべた。笑っているような、困っているような。
「どうやら杞憂のようだ。そこまで喜ばれるなら、黙って作っていた甲斐がある」
「うう……」
ついに呻き声が漏れた。
アストとゼンヅが、俺に? どうして? 嬉しい。でもわざわざ、こんな事やらせるなら買っておけば、でも嬉しい。
混乱する頭の中を落ち着かせるように深く息を吐いて、いつの間にか足元に落ちていた視線を前に戻す。
嬉しい、うれしいけど、この気持ちをなんて伝えたら良いんだろう。
「思うままに」
ゼンヅに促されて、へらりと笑う。
「うれしい」
よく出来ました、という顔でゼンヅが首を縦に一度振る。
歪なセーターを受け取ってぽかぽかした気持ちで、俺はふと思った事を口に出した。
「これアストは知ってんのか?」
ゼンヅがぴたりと固まる。珍しく、本当に珍しく、ゼンヅの頬を汗が伝う。
え? 俺に内緒でアストとやってたのに、アストに黙って俺にバラしたのか? ……それってアストのやつ、物凄く拗ねるのでは……。
じーっとゼンヅを見ていると、やや気まずそうに目が逸らされた。しょうがねーなあ。
「アストの機嫌は、俺が取ってやるよ」
⭐︎
起き抜けから既にアストは拗ねていた。
いつもなら跳ねるような声で「おっはよ〜」と挨拶をしながら階段を降りてくるのに、今日は「おはよう、随分と早いんだね」とぶすくれた声を出した。
じろりとゼンヅを睨め付けるあたり、俺とゼンヅの朝のやり取りの大まかなところは既にアストにバレていると考えて良いだろう。
「おはよう、アスト。今日の朝はなんだと思う?」
だが、それならそれでこちらにも考えがある。ゼンヅ曰く下手したら一週間くらい引きずるくらいには拗ねる、というので、もう素直に懐柔の策に出ることにした。……いやしかし、本当にそこまで拗ねるか? 本当に?
俺の言葉を聞いて少し考えるように眉を寄せたアストは、何かに気がついたのか、次第に目を丸くさせた。黒くてまんまるな目が、キラリと光る。
「え、ホントに?」
興奮で頬を赤らめたアストを席につかせて、鍋の中からあるものを取り出し、皿に移す。湯気を纏ったそれをアストの前に置いてやると、アストの顔はもういつも通りに戻っていた。
「ハンバーグ!!」
明るい声が、跳ねるように響く。というか実際席から立ち上がってぴょんと跳ねている。埃が立つからやめんかコラ。
「え、ええ〜?! なんでぇ? だってロウさん行商人さんに道具持ってきてもらえるように頼んでたでしょ? だからそれまではお預けなんだと思ってたのに〜!」
すっごいバレてんなあ。
先日村を訪れた行商人のおっさんに、肉を挽くための道具を頼んだのは事実である。道具が来た頃、ハンバーグとやらを作ってみようと思っていたのも。
「アスト、肉はな、人力でも挽けるんだ。一応な」
道具を使った方が簡単な上に食感が均一な挽き肉が出来上がるから、労力と結果が見合わない。だから普通は道具を使う、らしい。これはいつかの職場で聞いた受け売りだけど。
「ゼンヅの協力もある。……俺一人じゃ前にお前が話してた作り方を覚えてられなかったからな。曖昧なところは色々試し試しやってっから、お前が本当に食いたかったハンバーグと同じかは、わかんねーけど、」
「いいの! これがいいよ! わあ〜ハンバーグ、ありがとうロウさん!」
話しながらなんだか言い訳をしているみたいになってしまった俺の言葉を遮って、アストがにっこりと笑う。喜んでもらえて、機嫌も良くなったなら、良かった。
「あとちなみに、肉を挽く作業にはゼンヅも参加させた」
「あっ、だからゼンヅさんさっきから机でぐったりしてるんだ……」
ゼンヅはアストが起きてきてから、というかそのずっと前から腕を押さえて机に突っ伏している。わかるよ、肉を挽くのって慣れないと結構しんどいんだよな。そもそもゼンヅは見た目が貧弱だし。
「んふふ、ゼンヅさんもありがとう。これで手打ちにしてあげるね」
何かボソッと呟くと、アストは「ちょっと待ってて!」と言って、パタパタ二階へと駆け上がっていった。
なんだなんだと驚いているうちに、またパタパタという音を立ててアストが戻ってきた。
「僕からもプレゼント〜! 初・編み物! 初・マフラーだよ!」
ジャジャーン、と口で言って、アストが後ろ手に隠していたそれを俺の目の前で広げた。
「おお……! …………おお?」
編み目は均一で、形に歪みもない。とはいえ。
「流石にこれを巻けるほど俺の首短くねーんだけど」
「えへ、編んでる途中で飽きちゃった」
じゃあ初・マフラーではねーじゃん。渡されたマフラー擬きは大体鍋敷きくらいの大きさで、肩にかけることもままならない長さだ。でもアスト曰く、
「ふふふ、喜んでくれてありがとう」
考えていると、アストがそんな事を言う。まだなんも言ってねーけど?
「口元がゆるんでるよ」
つん、と自分の口元を突いてアストが笑う。咄嗟にマフラー擬きで顔を隠してしまって、これではアストの指摘を肯定しているのと変わらない。まあ別に? 嬉しいですけど?!
「この長さじゃ流石にマフラーとしては使えねーからさ、端の処理して……続きを編んでもいいか?」
そうすれば、身体の大きな俺でもアストからの贈り物を使うことができるだろう。
「やった、いいよ〜!」
アストから許可をもらって、編み物の準備を始める。アストに用意した席の斜め向かいに腰掛けて、やつにも着席を促す。
「ハンバーグが冷めるから、早く食え」
別に冷めたら温め直してはやるけど、そんなこと分かってるだろうアストは素直に返事して食事を始めた。
嬉しそうに、楽しそうにハンバーグを頬張るアストを横目に収めつつ、手元でマフラーを伸ばしていく。淡々と、淀みない手つきで。
不意に、うつ伏せで呻いていたゼンヅが口を開いた。
「私の朝食は……?」
ごめんて。
明日も投稿あります