春と夏のあいだの午後は、少しだけ気が抜けている。
空は白く、遠くの山の輪郭がやわらいで見える。
命蓮寺の瓦屋根は陽を受けて鈍く光り、風が吹くたびに、軒先の小さな風鈴がちり、と鳴った。
物部布都は、門前の石段にしゃがみこんで、何もない地面をじっと見ていた。
ただ見ているだけである。
土は乾いている。
小さな蟻が、砂粒をひとつ運び、途中で落とし、また拾う。
「何してるのよ」
声が落ちてくる。
見上げれば、赤白の巫女服。
博麗霊夢が立っている。後ろで、黒い帽子がひょいと揺れた。
「燃やす場所探しか?」
箒を肩に担いだ
霧雨魔理沙が笑う。
「燃やさぬ」
即答した。
今日は、その気分ではない。
「へえ」
霊夢はつまらなそうに石段に腰を下ろす。
石は温かい。長く座ると少し熱いくらいだ。
魔理沙は門柱にもたれ、帽子を押さえながら空を見る。雲がゆっくり流れている。
境内の奥から、木魚の音がかすかに響く。
規則正しく、淡々と。
風が吹く。
木立がざわりと揺れ、どこかで雀が一羽飛び立った。
「静かだな」
魔理沙が言う。
「静かだ」
布都も言う。
静かすぎると、逆に落ち着かないことがある。
何か起きそうで、何も起きない時間。
門がきい、と開いた。
寅丸星が顔を出す。
「あら」
少し困ったように微笑む。
「今日は、平和そうですね」
「今日はな」
霊夢が寝転ぶ。
白い袖が石に触れ、ぱたんと広がる。
星の後ろのネズミが言う。
「燃やすなら早めに言ってよ。洗濯物取り込むから」
「燃やさぬと言っておろう」
布都は立ち上がり、境内に入る。
砂利が足の下でしゃり、と鳴る。
庭の中央には、陽の光が落ちていて、そこだけ色が明るい。
縁側には
聖白蓮が座っている。
膝の上に経本。
けれど読んでいるのかどうかは分からない。風がページをゆっくりめくる。
「こんにちは、布都さん」
「こんにちは」
なんとなく、素直に返す。
白蓮の後ろで、
屠自古が壁に背を預け、腕を組んでいた。
「今日は穏やかだね」
「うむ」
穏やかだ。
何もしていないのに、時間だけが進む。
霊夢が縁側に上がる。
星が奥から湯呑を運んでくる。湯気がゆらゆら揺れて、薄く甘い香りが広がった。
「勝手に飲むわよ」
「どうぞ」
湯呑の縁が光る。
魔理沙も上がり込み、箒を横に置いた。木の床がきし、と鳴る。
布都は庭に立ったまま、境内を見渡す。
洗濯物が軒先で揺れている。
遠くで誰かが笑う声。
風鈴がまた鳴る。
燃やす理由が、見当たらない。
それは少しだけ、手持ち無沙汰だった。
「で」
霊夢が湯呑を傾けながら言う。
「今日は何しに来たの」
「……分からぬ」
「分からないで来たの?」
「なんとなくである」
魔理沙が吹き出す。
「お前も暇なんだな」
「暇ではない」
しかし否定しきれぬ。
ただ、足が向いたのだ。
静かな場所に。
燃やさなくていい場所に。
白蓮が柔らかく笑う。
「何も起こらない日も、大事ですよ」
「そうか」
「ええ」
屠自古が小さく頷く。
「火がなくても、あんたは消えないでしょ」
「当然だ」
布都は庭の中央に座り込む。
土は少し温い。
空はまだ高い。
時間が、ゆっくり落ちてくる。
誰も戦わない。
誰も怒らない。
ただ、いる。
そのことが、妙に不思議で、少しだけ心地よい。
本日も未燃。
だが。
午後の陽は、ちゃんと暖かい。
それで、十分な気もするのであった。
間開いちゃってすみません。居酒屋の枝豆です。
いつの間にか命蓮寺に入り浸っちゃう布都ちゃんっていいですよね。
一応これで最終回の予定なんですが、書いていて思ったより楽しかったので
連載にしたいなーという気持ちもありまして。迷っている所存です。
もし続き見たいかもなーって人がいたら、是非感想など頂けるともしかしたら続くかもしれません。もうね、フトチャンカワイイヤッターでもいいのでお願いします。
とりあえず最終回ということで、まだまだ稚拙な文章ですが、ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
では、またどこかで。